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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:新たなる武器
------<オープニング>--------------------------------------
 ある日、武彦は郵便ポストに手紙が入れられているのを発見した。
 その差出人は、高野山にいる「服部洋一」なる人物からだった。
「お、ひょっとしてあのことか?」
 武彦は封筒を開け、中の手紙に目を通してみた。
『拝啓 草間武彦殿
 以前に改良を重ねて作ったと言われました「改・結界策」ですが、こちらの方で浄化・改良を行いました。ところが、以前よりも強化されたのは良いのですが、長い時間使い続けると、術者の体力を極端に消耗することが分かったのです。尤も、一人での使用が前提ではありますが、十二分にお気を付け下さいますよう。
 また、使いの者をやりましたので、そろそろ着く頃かと存じます。では失礼致します』……という内容のものだった。
「なにぃ?! 要するにパワーダウンじゃねーか? こんなの使えるのかねぇ」
 武彦は頭を抱えた。
 いざというときに、通常の結界策は十分な武器になるが、悪霊の類ともなると結界策はなまじ通用しない。是非とも改・結界策は必要なものの一つだった。
「高野山ともあろうところが、何をしでかしたんだか……」
 そしてしばらくして。呼び鈴が鳴らされたのだった。

◎都築との再会
「お、客か。高野山の連中かな?」
 武彦は半ば、怒ったような表情で出ることにする。
 自分の武器を強化されたのはいいものの、術者の体力まで減らされる、などといった空恐ろしいゲームにでも出てきそうなものを、平常に使えるわけがないからだ。
 そしてドアを開けてみる。
 するとそこには、サラサラした髪の美青年がこちらを見て、立っていた。
「こんにちは、草間さん。お久しぶりですね」
 武彦は一瞬だが、思考が止まった。そういえば、こんな美青年と親睦があったかと。
 それでもなんとか、思い出そうとする。そうでなければ、相手に失礼だ。
「俺です。都築亮一(つづき・りょういち)です。北海道の件では、お世話になりました」
 ようやく思い出した。そうだ、北海道での仕事でかなり世話になった、高野山の退魔師だ。
「ああ、君は……。あ! 思い出したよ、久しぶりだなぁ。あれ? でも高野山だろ? 下りてきたのかい?」
「ええ……、一応は」
「まあ、こんなところじゃなんだ。相変わらず汚い所だが、入ってくれ」
 武彦は、亮一を招き入れる。資料だなんだと、客の座る場所もないくらいになっていたのを、武彦はほんの何分かで片づけた。とはいえ、テーブルに転がしただけだったが。
「さあ、座ってくれ。居心地が良いとは言い難いだろうけど」
「ええ、失礼します……」
「で? 今日は何の相談なんだ?」
「え? あの、草間さん、高野山からの手紙、もう来てましたよね?」
と、武彦は思い出した。そういえば手紙には、使いの者がそろそろ到着すると書いてあった。
 そのことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
「え、ええ? 亮一くんが使いの者なのか?!」
「そういうことになりますね。よろしくお願いします、草間さん」
「はあ、それならそんなに怒らずに済むな……」
「え? 草間さん、何か?」
「いやぁ、なんでもない」
 まさか美青年相手に、あーだこーだと怒るワケにもいくまい。
 しかも相手は退魔師。式神を使って怒らせる可能性もある。まあ、亮一に限ってそんなことはないと思うが。
「それで早速なんですが、高野山から送られてきた改・結界策を見せてもらえますか」
 亮一は話題を、いよいよ本編へと移してきた。彼としては、やはり気になるらしい。
「ああ、今持ってくる。送られて来てからは、一度も使っちゃいないけどね」
 武彦が奥の部屋に入っている間、亮一は資料の中から、北海道の地図を見つけた。
「懐かしいな……」
 前回の仕事がかの地だっただけに、感慨もひときわなのだろう。
 それからすぐ、武彦が改・結界策を持ってきた。封印されて縄で縛られ、浄化と改良の後が見られるが、一見したところ、目立った変化というのは見られない。
「これですか、曰く付きとなってしまった改・結界策は」
「ああ、そうだ。服部氏の言うことには、長時間の使用は体力の極端な消耗になると書いてあった。これじゃあ、悪霊一匹封印できやしない」
 亮一の問いに、武彦は辟易として応えた。
「あの、草間さん。これ、俺にまず使わせてみせてくれませんか? 俺達の不手際ってことで」
「ああ、いいけど、危険だぞ。十分注意してくれ」
 武彦の了解を経て、亮一は封印と縄をほどいた。すると改・結界策は、取っ手の付いた柔らかい鞭の如くゆらりと垂れ下がった。
「草間さん、あなたの方が使い方をマスターしているようですが、俺なりにやらせてもらいますね」
「ああ、構わない。ただ、気を付けろよ。体力を消耗するっていうからな」
 二人は一旦外へ出る。道路沿いで、亮一は五芒星・六芒星を次々に描いていく。
 しかし、ここで亮一の様子が見る間におかしくなった。肩で息をするほど、疲労が溜まっているようなのだ。
「やめろ、亮一くん! もうそれ以上は無理だ。さあ、中へ!」
 亮一は武彦に抱えられながら、九死に一生を得たという青ざめた顔で、興信所のソファに横になった。
「さすがにあれは使えないな。退魔師の君がこんなになるまで体力消耗が激しいとは、思ってもいなかった。あれはもう一度、高野山に返すよ。しばらくかかるだろうけど、その間は結界策でなんとかなるだろう」
「いえ……、その必要はないです」
「え?」
「俺が、作り直しますから。だから草間さん、もう少し待っていて下さい」
「あ、ああ。分かった。しかし、大丈夫か? まだ顔が青いぞ」
「こんなのはすぐ治ります。それにしてもこれは高野山の不手際です。杜撰な我々を許して下さい」
 それから2時間ほどして。一眠りした亮一は、血色もよくなり、また元の頼れる美青年として復活していた。

◎新生・結界策
 そしてコートから札を数枚取り出して、改・結界策を磨いていく。武彦に出来ることと言えば、コーヒーを淹れてやることくらいしかなかった。
「これじゃ、まだだめだな。あの、草間さん。筆はありますか?」
「ん、筆と硯か? ああ、あるぞ。ほら」
 筆と、黒の墨汁の入った硯を武彦から貸してもらう。それを使って亮一は、空白の札を何枚か取り出して真言と梵字を次々と書き、それでまた改・結界策を磨きに磨いていく。
 時間にして三時間くらいだろうか。気の遠くなるような丹念さで、亮一はようやく仕事を終えた。
「よし、これで大丈夫なはず! 草間さん、試してみますので、外へ」
「あ、ああ。分かった」
 道路沿いでの実験は繰り返された。五芒星・六芒星、そして変則六芒星など、あらゆる形が作られる。
 それでもいつまで経っても、亮一に疲れは感じられていないようだ。というより、改・結界策が淡く青色に光り始めているではないか。
「す、すごい。こりゃあ、改・結界策なんかじゃねぇ。新生・結界策だ」
「ふう。草間さんも試してみて下さい。疲れは微塵も感じませんでしたよ」
「あ、ああ、そうだな」
 新生・結界策は、草間のコントロールにも的確に反応した。五芒星・六芒星など、あらゆる形で呼応した。
「やったな、亮一くん! これで新生・結界策の誕生だ。君のお陰だよ」
「いえ、そんな。高野山での不手際が、あのような杜撰なものを作り出してしまったんです。俺はそのせめてもの償いで、やったまでですから」
「いや、ありがたいよ。これで悪霊退治は、バッチリだ」
「そう言われると、照れますけどね……」
 二人は興信所に戻る。
 そして、亮一はコートから、十枚ほどの札を取り出して、それを武彦に渡した。
「これは俺がいつもつかっている『結護壁』という札を強化したものです。あらゆる攻撃を避ける効果がありますから。もし使う機会があったら、是非感想をきかせてもらいたいんですが……」
「ああ、わかった。でもいいのかい? こんなに貰っちゃって」
「幾らでも作れますからね。問題はありませんよ」
 語らいながら、武彦は『強化版・結護壁』を亮一から受け取った。
「そうか。それなら遠慮なく。それにしても、随分と世話になったね、亮一くん」
「いえ。これも退魔師の仕事の一環ですし。さ、それじゃあ俺はこれでお暇します」
「何のお構いもできなくて悪かったな、亮一くん。こんどはゆっくり遊びにきてくれ」
「ええ、わかりました。それじゃ、失礼します。さようなら」

 こうして亮一のお陰で副作用の治った改・結界策は、新生・結界策として生まれ変わったのだった。
「ふう。一時はどうなることかと思ったぜ」
 そして暫くは使われることのないであろう、新生・結界策を壁の取っ手に引っかける。
 ようやく静寂が訪れた。そして大きな事件がないことを祈りながら、武彦は新聞を読むのだった。

                            FIN

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0622 都築・亮一(つづき・りょういち) 男 24歳 退魔師
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■         ライター通信          ■
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○都築さん、2回目のご登場ありがとうございます。
○今回はちょっと趣向を変えて、小説風に書いてみました。
いかがなモノでしょうか。え? ノベルにしか見えない?
○近頃は小説に没頭しているため、仕事もスローペースです。
ですので、今度いつ受注するかは未定の状態です。
ご了承くださいませ。
○また、いろいろな方と巡り会えることを祈りながら。

              夢 羅 武 市 より