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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


滝夜叉姫〜復活の階W〜

<オープニング>

「目醒めよ…」
「……」
「目醒めよ…」
「…誰じゃ、わらわを呼ぶのは…」
「目醒めよ…」
「この声はまさか…、父上?」
「目醒めよ…」

「ビルよりもでかい骸骨だぁ!?」
 興信所に主の素っ頓狂な声が鳴り響いた。
「ええ、それがこの頃都心のど真ん中、東京タワーの周辺に出没するらしいんです」
 前々からこの興信所に厄介な依頼を持ち込んでいる男は、したり顔で頷いた。
「今のところ、夜になるといきなり現れるだけで実害は無いんですけど、まぁ、かなり不気味なもので…。非常に皆不安がっているんですよ。これを調査していただきたいんです」
「調査って言ったってどうやって?」
「その骸骨は一体何者なのか?どうして現れるようになったのか?まぁ、色々と調べる事はあると思いますからまずは現物を見てみてください。できればその骸骨を消してもらえれば最高なんですけどね」
 苦々しく顔を顰める草間とは対照的に、依頼主は食えない笑みを浮かべるのだった。

(ライターより)

 難易度 普通

 予定締切時間 6/1 24:00

 死霊シリーズ将門編第四話です。
 今回は普段と赴きを少々異としまして、直接将門と関係はありません。謎の骸骨の調査となります。
 その骸骨ですが、かなり大きいようで、体調100Mを超えるようです。体はどうやら幻影のようで、建物に接触してもすり抜けてしまいます。体事態ぼんやりとぼやけているようなのですが、日が経つごとにはっきり見えるようになってきているようです。それがどんな意味を現すのか・・・。
 一体これが何者なのか、色々と調べてみてください。戦闘は望まない限り起こりません。このシリーズに初参加の方もまったく問題はございませんのでお気軽にご参加ください。
 それでは皆様のご参加を心よりお待ちして居ります。 

<調査…の前に>

 今回の依頼は夜になると東京タワーに出没する巨大な骸骨の調査である。ただし出没するのは夜。昼間待ちつづけても仕方が無い。
 ということで、ひとまず東京タワー見物と洒落込む者たちがいた。
「栖ちゃん、この人形生きているみたいだね〜」
「ああ、紅緒さん、ちゃんと前を見ないと危ないから」
 金髪赤瞳、さらに190cmを越える長身を誇る男が、顔に満面の笑みを浮かべながら栖ちゃんと呼んだ男を見つめる。阿雲紅緒。依頼を受けたというよりは目の前にいるこの男とのデートが目的で参加している。
 一方、微笑を浮かべながらはしゃぐ阿雲を見守るは空木栖。こちらは黒髪に黒瞳と純日本人的な様相をしている。久方ぶりに合えた阿雲との逢瀬を楽しんでいた。
 はしゃぐ阿雲に、甲斐甲斐しく世話を空木のコンビはよく目立った。館内を歩く者たちの視線が彼らに集中するが、彼らは気にする素振りも見せない。二人だけの世界に入っているようだ。
彼らが現在いるのは東京タワー蝋人形館。1970年に日本で最初に開設されたアジアで最大の蝋人形館である。世界の有名人を本物そっくり、まるで生きているような蝋人形として120体以上をありし日の姿そのままに再現している。総て海外から輸入したものでもある。
 ちなみにこの蝋人形館にはもう一組、依頼を受けた者たちが見物に訪れていた。
「藍さん、ここの蝋人形はまるで生きてるみたいに美しいけど、やはり生きている人間には勝てませんね」
「あら、それは誰のことを言っているのかしら?」
 歯に浮くような台詞を語る青年と微笑を浮かべてそれをあしらう女性。見た目には男が彼女の事をナンパしようとしているように見えるが、事実その通りであった。女性至上主義者にして、フェミニストの湖影虎之助にとって、自分の隣を歩く女性は口説かずにはいられない存在である。
 無駄な肉は一片も無く、かといって女性らしい柔らかさは失わない程度のしなやかな肢体に、ターコイズのごとき瞳。顔立ちは中国人風であるが、それもまた異国情緒が溢れていて悪くない。横浜育ちの華僑藍愛玲であった。
「勿論貴女に決まっていますよ。どうです、依頼が終ったら俺と一夜を…」
「はいはい。まずは依頼を片付けてからでしょ。そこの二人もこっちに来て」
 あっさりと自分のアプローチを退けられて、残念そうな表情の湖影を尻目に藍は阿雲と空木を呼んだ
「今回の事件だけど聞いていて分かったわ。アレは歌川国芳画『相馬古内裏』に登場する、滝夜叉姫が妖術で操る大髑髏よ」
「滝夜叉姫ねぇ…。美人かなぁ?美人なら意識を探して話し掛けてみようっと」
 事件の深刻性をまったく気にしていない阿雲の台詞に藍はため息をついた。
「あのねぇ…」
「…あ、美人じゃなくてもやんなきゃいけないんだっけ?仕事だから」
 彼には何を言っても無駄なようである。
「手引きする者なくしてこの様な現象はないだろう。恐らくはその女が張本人だろう…」
「滝夜叉姫が復活してる可能性があるのか…けど完全に実体化してない所を見ると復活しかけている…って方があってそうですよね」
 彼女は空木と湖影の意見に頷く。まったく同感だからである。
「だから滝夜叉姫さえ、もう一度眠りにつかせれば今回の事件は解決だと思うの。それでわたし、ちょっと気にかかることがあるから、外を調べてくるわ」
「あ、じゃあ俺も…」
「一人で大丈夫よ。ボウヤはこっちのお兄さんたちと一緒に骸骨を調べなさい。いい子にしてなさいね」
 湖影の申し出をすげなく拒否し、藍は踵を返し颯爽とその場を立ち去るのだった。
「ボウヤ…」
 ちなみに湖影は21歳。藍は18歳である。

<聞き込み>

 東京タワーに夜な夜な出没するという巨大な骸骨。これに関して調査して欲しいというのが今回がの依頼であったが、依頼人から得られた情報はごくわずか。これだけでは分からないことが沢山ありすぎる。そこで依頼人により詳しく話しを聞くことを選択した者がいた。
 天薙撫子。涼しげな紫陽花の模様の着物を着た彼女は、草間興信所にまだ残っていた依頼人に様々な質問をする。
「その骸骨ですが、どのような地区を中心に徘徊するのでしょうか。何かパターンとかは?」
「パターン、ですか…。東京タワー周辺のどこかに突如現れて、ああ、いつも同じ場所から現れるんでは無くて、色んな場所から姿を現わすんです。それからその巨体を揺るがすようにゆっくりと東京タワーの周りを歩き回ります」
「色んな場所から、ですか…」
 骸骨が徘徊すること自体、何らかしらの儀式ではないかとも考えていたのだが、毎回違う場所から現れるのであれば違うのかもしれない。ただ、何らかしらの意図があって動き回っているのは事実だろう。そうでなくては骸骨が突然現れたことの説明がつかない。
「実際の現物を見てどうでしたか。何か気付いたこととかは」
「そうですね。最初のうちは透明で薄ぼんやりとした姿だったのですが、日が経つにつれて白く、はっきりと見えるようになってきました。後はそうですね…。耳を済ませていると変な音が聞こえます」
「変な音?」
 天薙はピクリと反応した。
「ええ、音というよりは唸り声みたいな感じでおぉぉぉぉぉという人の声が聞こえます。それも複数で何人もが唸っているみたいな…」
 これは新事実である。単なる幻影のような骸骨が唸り声みたいな音を上げているという。これは一体何を表すのか…。
「後、現地の周辺でこの事件と前後して不審な出来事等が近辺で起きていませんか?」
「不振な出来事、ですか…?そうですね、そういえば増上寺の辺りで女の幽霊が見られるようになったそうです。丁度貴女みたいな着物を着た女の幽霊が」
「増上寺で女の幽霊…」
 増上寺とは、東京タワーの間近にある江戸幕府の将軍徳川家の菩提寺である場所。そこに時を同じくして姿を現わすようになったという女の幽霊。これとこの事件とは何か繋がりがあるのであろうか。
 考え込んだ天薙は、前々から気になっていた事を問うた。
「あの、不躾な質問ですが、貴方は一体何者なのですか?このような事件を解決してほしいなんて話を持ち込むなんて…」
「申し訳ないのですが、政府の関係者、としかお答えできないのですよ。それ以上は何も知らないほうがいい」
 無表情でそう告げると、依頼人はすっかり冷め切った茶を喉に流し込むのだった。

<ガシャドクロ>

 日が沈み、東京の街に夜が訪れるとタワーはライトアップされる。光に照らし出され、昼間とはまったく違った顔を見せるタワー。その周りには何百、いや何千、もしかしたら万を超えるかもしれない大勢の人間が詰めかけていた。彼らの目的は東京タワーを見ること、というよりはその近くに現れる巨大な骸骨を見物することにある。
 マスコミも駆けつけているようで、マイクをもったレポーターがカメラを前で話している。空には数機のヘリが飛び交い、さながら巨大な何かのショーがこれから行われる雰囲気である。確かに巨大な骸骨は今のところ幻でしか無いので、実害は無い。民衆にとっては一種のエンターティメントに過ぎないのだろう。
 だが、この事件はそんな生易しいものでは無いことに気がついている者たちもいた。
「巨大な骸骨か…。もしや滝夜叉姫のものか?」
 群集に交じって東京タワーの見上げる少年雨宮薫。彼はその蛾眉を顰め呟いた。
「気になるな。この姫が絡んでいるというなら平将門公は勿論、不人の奴が絡んでいる可能性もあるという事だが…」
 不人。死霊を操り東京を混乱の陥れている謎の男。今回の骸骨もまた彼が関与しているのかもしれない。だが、雨宮にとって気がかりなのは、かの骸骨を操っていると思われる術者の姿が確認された訳ではないことにある。髑髏が術者を探し求めているのか、それとも術者が髑髏を操っているのか。
 しかし悠長に構えている暇は無い。不人を始めとする様々なヒトならざるものたちの手によって、東京に張られた霊的結界の力はかなり弱まっている。これ以上、結界が破壊されることは何としても避けなければならない。さもなければ東京の街には、有象無象の魑魅魍魎の群が入り込み混沌の魔都と化してしまうだろう。
「いつまでもお前の思うがままになるとは思うなよ、不人」
 新たな決意を固める彼の耳に民衆のどよめく声が聞こえてきた。人々が慄き、指差す方向に視線をやれば、何とそこには件の骸骨が出現しているではないか。
 東京タワーの三分の一以上の高さを誇り、その窪んだ眼窩は地べたを這う人間たちを睥睨している。車何十台分にも匹敵する巨大な足でゆっくりと歩き始めたその姿は壮観ですらあった。
「これが…例の骸骨か」
 陰陽師として様々な事件に関わり、この世ならざるものたちと遭遇してきた雨宮にとってもその姿は衝撃的であった。やはりまだ確実には実体化していないようで、歩行する際に手が触れた部分などはスッとすり抜ける。見た目も大分白く骨らしくはなっているがまだ半透明の部分を残している。
「しかしあんな奴にどう対抗しろと言うんだ」
 符や術を用いればある程度はその姿をかき消すこともできるかもしれないが、なにせ巨大なビル並みの巨体の持ち主である。そんなもので問題解決に繋がるがどうか…。
「あれはガシャドクロと呼ばれるものですね。戦場で無念の死をとげた者の魂が集まって、あの様な姿になったのだと言われています」
 突然横合いからかけられた言葉に驚いて振り向くと、そこには中国の道士と呼ばれる、仙術を扱う者たちが纏う道士服を着た少女が立っていた。まだ小学生くらいの小柄な少女である。だが、雨宮を驚かせたのはその様相では無く、自分に気配を感づかせずに近くに近づいたことである。武道を嗜んでいる雨宮は大抵のものの気配ならすぐに気がつく。だが、この少女はまるで気配を感じさせずに自分のすぐ隣まで近づいたのだ。一体何者なのであろうか。
「何者だ、お前は?」
「楊梨花と申します。それ以上はお知りにならないほうがいいでしょう」
 彼女はたおやかに微笑むと、徘徊する骸骨ガシャドクロに視線をやった。
「それよりもあの骸骨、あれは何者かが儀式を行って死霊を集めているように思われます。少し話してみましょう」
「何?」
 怪訝に問う雨宮の前で、楊は何事かを呟き始めた。陰陽などで用いる真言にも似ているが、時折耳慣れない言葉が混じる。何かの呪文であろう。彼女はしばらく歌うように呪文を呟きつづけたが、やがて首を横に振り、ため息をついた。
「駄目ですね、まったく話ができません。何と言うか複数の人間が呻きつづけているようなそんな感じで…」
「呻き声?」
「ええ、嘆き悲しんでいるような声だけがします。幾ら問い掛けてもまともに返事が返ってきません」
「ありゃ、駄目だね。イッちゃっているよ」
 楊の言葉に同意を示したのは、何時の間にか二人の傍に来ていた阿雲であった。後ろには空木を伴っている。
「話にならないな。これでは開放ができない」
 空木は骸骨を構成していると思われる霊たちと語り、それらが望むものを見せてやり開放させてやりたかったが会話が成立しない以上、どうすることもできなかった。それは阿雲にとっても同じことである。
「止めた止めた。いくら努力してもどうしようもないもの。それよりさ、これから僕と付き合わない?」
「……」
 いきなりナンパを開始する阿雲に、楊はどう反応していいのか分からず面食らう。
「紅緒さん…。幾らなんでもその歳では犯罪では?」
「大丈夫大丈夫。彼女、これでも結構生きてるみたいだから。ね?」
 意味深な事を述べる阿雲。だが実質ナンパに変わりは無い。真面目な雨宮は頭痛を覚えて天を仰ぐのだった。
「好きにしてくれ…」

<滝夜叉姫>

 巨大な骸骨は何を目的にしてか徘徊し続ける。100mを越す巨体が緩慢な動作で歩くという、まるで特撮映画の1シーンのような光景に野次馬たちはやんやの喝采を上げる。眼下で繰り広げられる能天気なその行動に、彼女は妖艶な微笑を浮かべた。
「ふふ、お気楽な事。あれが実体化したらどんなトラブルが巻き起こるか分からないというのに」
 人間という生物はいつもそうだ。いかに深刻な事態が起こっていようと、自分たちの身に被害が及ばなければ真剣に考えようとしない。その実その脅威が間近に迫っていようと…。
 東京タワーの上空を吹き抜ける夜風が、彼女の夜よりも暗く艶やかな漆黒の髪を靡かせる。巳主神冴那はその髪を手で抑えながら、ガシャドクロを眺め想う。
(失意無念の想が集って形を為す巨大な怪異…あの骸骨は誰の、どんな想いかしら…。そのあまりに大きな想い…まるであの人に会えぬ私の想いの様…なんて)
 思わぬ類似点を発見して、笑みがこぼれる。
 しかし、思い返してみれば随分と外出をするようになったものだ。今までは自分の経営するペットショップから外出することなどほとんどなかったというのに。じめじめと湿度が増して、梅雨を迎えようとしているこの陽気のせいだけではあるまい。あの男のせいか…。
 そんな思いにかられていると、東京タワーの鉄筋を器用に絡みつきながら一匹の蛇が彼女の元に上がってきた。それに手を差し伸べると、するりと絡みつく。
「ご苦労様。いつもいつもこき使って悪いわね…」
 満足げに頷き、己の僕たる蛇と視線を合わせる。
「そう、やはり元凶はあそこにいるのね…。そして皆もそこに向っている。ならば後は彼らに任せましょう」

 かつて関東を席巻し、東国の天皇と自らを称した平将門。朝廷に支配されない新国家を設立しようとしたが、その志は半ばにて潰える。朝廷軍に敗れるためである。
 そして彼には二人の子が残されていた。一人は平太郎良門、そしてもう一人が滝夜叉姫。彼らは父や一族郎党が滅ぼされた復讐として、蝦蟇の精から妖術を学びその力を持って復讐を行う。そして、彼らもまた朝廷軍に破れ滅び去った。…はずであった。
 東京の南方に位置する増上寺。江戸幕府を開いた徳川将軍家の菩提寺であり、代々の徳川将軍が祭られている由緒正しき寺。
 だが、現在この寺は妖しい霧に覆われ何人も立ち寄ることができなくなっていた。寺の中は亡者の怨嗟で満ち満ちている。霊に対して耐性の無い人間が無闇に足を踏み入れようものなら、たちまちにして亡者の群に取り付かれ発狂死してしまうだろう。
 寺の奥に建てられた将軍家の墓石の前には、二人の男女がいた。一人は古風な内出の小袖をきた女性。髪を高々と結い上げ、妖艶な笑みを浮かべている。もう一人は、梅雨が近づき蒸し暑くなっているというのに、白のトレンチコートを着た男。腰まで届く見事な銀髪と、夜の闇ですら閉ざすことのできないガーネットのごとき紅蓮の双眸が特徴的な彼もまた、酷薄な笑みを墓石に向けている。
「大分力が戻ってきましたね」
「うむ。これもそなたのお陰じゃ。礼を申すぞ不人」
「勿体無きお言葉」
 不人と呼ばれた男は慇懃に頭を下げた。
「この地の結界を乱し父上を開放して差し上げるのも今少しの辛抱じゃな」
「はい。ガシャドクロさえその力を取り戻せば、我らに脅威は無いかと…」
「忌々しや、朝廷の者どもめ。父上が眠りしこの地に都を作り居座るとは。父上のご無念、この滝夜叉が晴らしましょうぞ」
 女、滝夜叉姫の決意を聞いて不人はニヤリとその唇を歪めた。父平将門の呼び声に反応していた滝夜叉姫を回収したのは正解だったようだ。思いのほか事態は上手くいっている。
「やっぱりそう言うことだったのね」
 不意にかけられた声に二人が振り向いてみれば、そこにいるのは藍であった。
 やはり敵の狙いはここであったのだ。自分の読みが当たっていた事に喜びを感じると思うとともに、一人でこんな連中と対峙しなくてはいけないことに脅威も感じていた。二人の放つ禍禍しき気は、その体を闇の色で包み込み、辺りの空気すら変質させているようだ。もう梅雨だというのに肌寒さすら感じる。
「ほう。こんなところまでわざわざお出でになるとは、何者かな?」
「藍愛玲よ。あの大きな髑髏はガシャドクロだと思っていたけどビンゴだったようね。滝夜叉姫もいるようだけど…」
「わらわに何か用か?小娘」
「貴女が復活するのはまだその時ではないわ。貴女はただ将門の声に呼び起こされただけ…」
「お〜い、藍さ〜ん〜!」
 大声で藍の名前を呼ぶのは湖影であった。タワーではすげなく拒絶されたが、やはりフェミニストたる自分が女性一人を危険な場所にやるわけにはいかった。彼女が心配でくっついて来たのである。
「大丈夫ですか!?ってこいつらは?」
「…滝夜叉姫とそれに…」
「不人だ。しかしたった二人で何をしに来たのかな?私たちの邪魔かね?」
 不人は余裕に満ちた態度で二人と対峙する。それもそのはずで、単純な気の強さだけでも不人は二人を圧倒している。尚且つ不人の隣には滝夜叉姫までいる。同時に相手をするのは無茶無謀以外の何ものでもない。藍も勿論そんな愚行を犯すつもりは無かった。
「貴方の本当の狙いはここなんでしょ、不人?」
「いかにも。私が破壊したいのはここの結界だよ。この地は東京の裏鬼門に当たる場所だからね。魑魅魍魎の群を解き放つには、是非とも破壊しておきたい場所なのだよ」
かつて東京が江戸と呼ばれし頃、徳川家康の知恵袋とされた天海大僧正は、この地に風水や言霊を用いた強力な霊的結界を敷いた。例えば江戸に存在した各不動尊を奉る寺に、五色の名を関することで仏法の加護を与えた。鬼門と呼ばれる邪霊や鬼が侵入してくる道には日光東照宮や、浅草寺などの寺や神社の力により鬼門封じを行い、そして南の裏鬼門とされる場所にはこの増上寺をおいたのだ。
 この他にも様々な布石を用意することにより、江戸の町は悪しきモノの侵入から守られてきたのだ。だが、今やこれらの結界は不人が属する謎の組織「会社」によって破壊され始めている。既に一部の結界はその機能を失っている。
「ガシャドクロのお陰でこの地の結界を崩す事はスムーズに進んだ。そしてガシャドクロを構築するに必要な怨霊たちも十分に集まった。愚かな人間たちは、あれを単なるショーの一環としか扱わないだろうが、あれが実体化した時の破壊力は想像を絶するよ。ふふふ」
「それがお前の考えということか」
 彼の横合いからかけられた言葉は、この場にいる誰の声でもなかった。辺りを見回してみると、深い霧がスッと引き、青年と彼に伴われた高校生くらいの少女が姿を現した。都築亮一と神崎美桜であった。二人を見て、不人は面白そうに目を細めた。
「ほう、誰かと思えばいつぞや私の邪魔をしてくれた少女ではないか。よくここを嗅ぎつけたね」
「不人さん、それにそちらにいる滝夜叉姫さん。私たちは争いにきたわけではありません」
 神埼は、ともすれば不安で逃げ出してしまいたい自分を必死に励まして二人に声をかけた。自分のしている事は本当に正しい事なのか分からない。不人や滝夜叉姫の全てを理解しようとするのは自分の傲慢かもしれない。しかし、戦闘は避けたかった。闘いは悲しみと憎しみしか生まない。そして闘いを避けるには、無理を承知で歩み寄らなければならない。
 自分の思いを兄代わりの都築は理解してくれた。そしてその思いを助けてくれるという。彼女は持ち前の精神感応能力を持って不人の位置を割り出し、この場へと赴いた。そして今対峙している。
「貴方達の望んでいることを教えて下さい」
「望んでいること?そんな事を聞いてどうするね?」
「まずはお互いを理解することが重要だと思うからです。それで闘いが避けられるなら…」
「ならば逆に問おう。娘よ。我が望みを聞いたとしてわらわを手助けするか?」
 突然の滝夜叉姫の問いに、神崎は面食らいすぐには返答できなかった。滝夜叉姫はそんな彼女の顔を見つめながら言葉を続ける。
「わらわの望みは朝廷を滅ぼすこと。父上がお眠りになるこの地、今は東京と申すらしいが、ここを席巻する憎らしき者どもの末裔を抹消し、父上の元で理想郷を作り上げる。その手助けができるか?」
「そんな…」
 あまりの望みに神崎が言葉を失うと、都築が彼女の後を引き継いで前に出た。
「それは無茶です。それに貴女の父や貴女自身を滅ぼした者はもういません。その子孫に復讐をしたからといって…」
「意味はある。父上の悲願が達成するというな。それに朝廷からこの国の解放をする。その事にも繋がる以上、わらわは手を引くつもりは無い。それでもわらわに手を貸せるか?」
 この場に居合わせた四人が総て言葉を失うと、我が意を得たりとばかりに不人が哄笑を上げながら告げる。
「これで分かっただろう。私たちには明確な意思と理想がある。そしてそれに君たちが協力できないというのであれば私たちは敵となるしかない。交渉は決裂だ。さて、どうするかね?」
 不人と滝夜叉姫の決意は堅い。かといって二人の意思に従えばこの東京、いや日本がとんでもない事態に巻き込まれる事になる。それを阻止するためにはやはり戦うしかないのか。四人の胸にそのような考えが芽生えた、その時。
 ズガァァァァァン!
 激しい雷が四人の前に落ちた。大地が割れ石畳が砕け散る。明らかに牽制と思える攻撃であるが不人も滝夜叉姫も特に呪を紡いだ形跡は無い。むしろ二人とも怪訝な顔をして、この攻撃が誰が行ったものなのか不思議に思っているようである。
「不人の邪魔をしないで・・・!」
 頭上からかけられた声に、その場に居合わせた者全員が見上げてみると、中空にはなんと箒に乗った少女がいるではないか。さながら絵本に出てくる魔女のようなシチュエーションで、眼下の者たちを見下ろすのは氷無月亜衣。どうやら彼女が雷撃を落としたようである。
「私、決めたの。私は不人の傍にいたいの。だから不人の邪魔をする人は私の敵…!」
 悲痛な決意を秘めた声を上げる氷無月。幾度も不人と対峙し、その度に彼に惹かれる自分。今までは敵だからとその想いを抑えてきたが、もうそれも限界である。やはり自分は不人が好きなのだ。好きでたまらない。だから彼のために戦いたい。それがこの東京を滅ぼすことになったとしても…。
「あっはっはっは。こいつは傑作だね。どうやら私たちの協力者まで現れたようだよ。形勢は俄然こちらの有利だね。ちなみにガシャドクロはもう実体化できるレベルに達している。これが何を示すのか分かるね?」
 不人の言葉に四人は愕然とした。彼の言葉が意味する事、それすなわちいつでもガシャドクロは東京タワー周辺を破壊できるということである。遠目に見える巨大な骸骨は未だタワー周辺を徘徊している。あれが実体化したらどんな惨劇が繰り広げられるか分からない。彼らの顔を見て、不人は満足げに頷いた。
「結構。分かっているようだね。今回の目的は別に無差別破壊ではないからね。用事は済んだし、このまま引かせてくれなら撤退するがどうかね?」
「さっさと消えなさいよ」
 藍は不機嫌そうに言葉を吐き捨てた。屈辱的だが、仕方ない。確かに不人の言うとおり現状は向こうの方が圧倒的に有利である。それに例え今ここで戦闘を行ったとしても恐らく勝てはしないだろう。無謀な闘いはするべきではない。
「というわけです。では…」
「うむ、父上の元に参るか」
「まぁ、まだ時間があります。ひとまずは会社へ」
「よかろう。好きにするがよい」
 二人は呪を紡ぐと忽然と姿を消した。どうやら転移の法でこの場から離脱したらしい。氷無月もそれを見届け、いずこかの空へと飛び去る。術師のいなくなったガシャドクロもまた、徐々に薄くなり、最後には霞となり消え去った。
 だが、増上寺に立ち込めた霧が晴れることは無かった。亡者の怨嗟が立ち込めるこの場所は、最早結界としての役割を果たせなくなっていたのだ。
 ひとまずガシャドクロはその日から現れなくなったことで、無事依頼人より謝礼金は支払われた。だが、上機嫌な草間は他所に、依頼を受けた者たちの胸から不安が無くなることは無かった。
 事件はまだ何一つ解決していないのだから…。 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0622/都築・亮一/男/24/退魔師
    (つづき・りょういち)
0413/神崎・美桜/女/17/高校生
    (かんざき・みお)
0376/巳主神・冴那/女/600/ペットショップオーナー
    (みすがみ・さえな)
0368/氷無月・亜衣/女/17/魔女(高校生)
    (ひなづき・あい)
0689/湖影・虎之助/男/21/大学生(副業にモデル)
    (こかげ・とらのすけ)
0328/天薙・撫子/女/18/大学生(巫女)
    (あまなぎ・なでしこ)
0655/阿雲・紅緒/男/729/自称謎の人
    (あぐも・べにお)
0723/空木・栖/男/999/小説家
    (うつぎ・せい)
0716/藍・愛玲/女/18/大学生(専攻は建築学)
    (らん・あいりん)
0586/楊・梨花/女/135/仙女
    (やん・りーふぁ)
0112/雨宮・薫/男/18/陰陽師。普段は学生(高校生)
    (あまみや・かおる)

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■         ライター通信          ■
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 お待たせいたしました。
 滝夜叉姫〜復活の階W〜をお届けいたします。
 今回は珍しく、激しい戦闘無しで終了しました。ほとんどの方が説得、もしくは話し合いを選ばれた結果です。
 ガシャドクロが消えたので、依頼自体は成功です。
 おめでとうございます。
 東京を巡る闘いはいよいよ佳境にさしかかってまいりました。これから東京はどうなるのか?それは皆様のプレイングにかかっております。これからの作品にご期待ください。
 この作品に対するご意見、ご要望、ご感想、ご不満等ございましたらお気軽に私信を頂戴できればと思います。なるだけお客様のお声は作品に反映させていただきたいと思います。
 それでは、また別の依頼でお目にかかれることを祈って…。