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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ネットの悪魔

  インターネットに住む“電脳の悪魔”って知ってる?
  そいつからメールが来たら、すぐに同じ内容のものを他の人にも送らないと、不幸が起きるんだって。
  よくあるチェーンメールのような気もするが、馬鹿にしちゃいけない。本当に不幸は起こっている。
  このチェーンメールを止めるために君たちがしなければならないことはただ一つ。
  “電脳の悪魔”のサイトを探し出し、その中にあるゲームでそいつを倒すこと。
  そう、このメールこそが“電脳の悪魔”のメールさ。そして僕が、“電脳の悪魔”、ってわけ。
  言っておく、早くメールを送るか、僕を倒すかしないと、君たちに不幸が襲いかかるよ…。
  まあ、せいぜい頑張ることだね。

 こんな内容のメールが、神無月征司郎の携帯電話にメールが届いた。
「厄介なメールが送られてきましたねえ」
 そう言って、返信機能を使って、この“電脳の悪魔”のアドレスに返信する。
『まあ、メールを送るだけで回避できるような不幸なんて、たかが知れていると思いますが(笑)』
 という内容で。
「さてと、この訳の判らないメールに、先手を打っておきますか」
 そう言って彼は、このメールについてインターネットの掲示板に書き込んだ。
『このようなメールが届きました。…そのアドレスと内容を記載しておきますので、決して本気にしないように。出来れば受信拒否に設定しておいてください』
 このような内容を、色んなサイトに書き込んでおけば、被害は少なくなるはずだ。
 その時、またしても、彼の携帯電話が鳴った。メールが届いている。
『無駄だよ、そんなことしても。だって僕は電脳の悪魔なんだから。さっきのメールアドレスは、僕のアドレスの一つに過ぎない。無駄な努力は止めたまえ。時間の無駄だ。僕と違って、君たちには悠久の時間があるというわけではない。君たちの時間は有限だ。だから、選択肢は二つしかないんだよ』
「困ったものです」
 そして、征司郎は、また苦笑した。
 この“電脳の悪魔”の目的が、全く見えない。
 彼は何をしようとしているのか。何者なのか。全く判らない。
「仕方ないので検索でもしてみましょうかね」

「…不幸が起きるだって?何この不幸の手紙みたいなの」
 パソコンの前で、北一玲璃は溜息をついた。
 よくあるチェーンメールの一種であろうことには間違いない。
 女子高生の彼女には、見慣れた、形式化された文面の一つに見えた。
 しかしそのメールには、普通のチェーンメールにはない何かがあることを、彼女は敏感に感じ取っていた。
 何かある。このメールには、何かある。
 些細なイタズラじゃない。
 それが何かまでは、彼女にもよく判らないが。
「くだらないけど、こーゆーのムカつくわね。ギャフンと言わせてやるんだから」
 そう言って彼女は、早速検索を始めた。コンピュータに精通しているわけではないが、探せばなんとかなるはずだ。

「何か知んないけど、カチンとくるメールじゃないの、これ」
 紅臣緋生もまた、このメールを受け取っていた。このようなメールを受け取るのは、初めてではない。
 このようなくだらないイタズラをする人間は、少なくない。
『頭に血が上ったら、何も出来ないよ』
 またしても、同じ人物からメールが来た。
『選択肢は、二つだけだ。さあ、どうする?』
 それを見て、緋生はまたしても、カチンときた。
 そして、このようなメールを送信する
『あんたを倒してやるから居場所を教えな。じゃないと倒し様がないだろう?』
 すぐに、返信されてきた。
『僕に居場所はない。僕に、現実世界の、居場所はないんだ…』
「…?」
 その意味を知るのは、少し後のことだった。
 とりあえず、彼女もまた、検索を始めた。

 征司郎はメールアドレスのドメインからプロバイダを特定し、そこから検索を始めた。
 そのような作業をしていると、急に画面が変わった。そして、急に意識が遠のいた。

「…何、コレ…」
 北一玲璃は、見知らぬ場所に立っていた。
 確か自分は、“電脳の悪魔”のサイトを探すために、片っ端から様々な検索サイトをあたっていたはずだ。こんなところに、なんでいるのだろう。
「あんたもなの?」
 紅臣緋生もまた、その場所にいた。
「あんたも、“電脳の悪魔”のサイトを検索して…」
「そうだけど」
「…奴は、何者なのかしら」
「おや、あなた方もですか」
 征司郎もそこに立っていた。
   …クスクス…。
 笑い声が聞こえた。そして、何もないところに幼い少年が現れる。
「来たね。…さあ、ゲームに勝って、僕を消去(デリート)して」
「消去…?」
「僕はバグだ。失敗作のプログラム。望まれて擬似人格を得たわけでもなく、擬似人格を得てしまった失敗作なんだ」
「…」
 その時緋生は悟った。この少年の送った先程のメールの意味を。

『僕に、現実世界の、居場所はないんだ…』

「あれは、そういう意味だったのか」
「…でも、消えたら、後悔もできないのに…」
 玲璃はこの幼い、電脳の亡霊が可哀想に思えてきた。
「バグは望まれて生まれてきた訳ではありませんから、消してあげるのが最良の手段なのではないのでしょうか」
「…」
 確かに征司郎の言葉は正しいかもしれない。しかし玲璃は今ひとつ納得できなかった。
「…お兄ちゃんの言う通りだよ、お姉ちゃん。ゲームで遊んでもらえるし、後悔なんかしないよ」
「…そっか」
「それじゃ、ゲーム、しよっか」
 そう言って少年は宙に浮いた。

 ゲームは簡単なものだった。少年の呼び出すバグ・プログラムを破壊するだけのもので、バグはちょっと強く殴ったりすると壊れた。
「やっぱり、思ったとおりだ」
 全てのバグを撃ち尽くしたのか、少年は座り込んだ。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんたちが、僕を消去してくれる、って思ったんだ」
「…」
 三人とも、黙り込む。
「ねえ、一つ聞いていい?」
「何?」
 問い返したのは、玲璃だった。
「プログラムにも、魂、ってあると思う?」
「…」
「もし、魂があったら、生まれ変われるよね。そしたら、人間にもなれるかも知れないよね」
「…人間に、なりたかったんだ」
 その緋生の言葉に、少年は頷いた。
「うん。人間になれたら、きっと、友達いっぱいできるから…」
 少年の体が、光に包まれる。
「ああ、お別れだね」
「ねえ」
 玲璃が、声をかけた。
「…プログラムにも、魂があると思うよ」
「…ありがとう、お姉ちゃん」
「心があるということが、何よりの証拠です」
 征司郎も、言った。
「…生まれ変わったら、もし人間に生まれることができたなら、また遊ぼうね…」
 少年の体が、完全に光の粒子となって、虚無の空に消える。
 そして三人は、それぞれの部屋で目を覚ますことになった。
 …果たして、彼には、本当に魂があったのだろうか?

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0489/神無月・征司郎/男/26/自営業
0566/紅臣・緋生/女/26/タトゥアーティスト
0702/北一・玲璃/女/16/高校生
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■         ライター通信          ■
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えー、初めまして蒼華珠璃です。
私のライターデビュー作(寒いなあこの言い回し)・「ネットの悪魔」、いかがだったでしょうか。
気に入っていただけたら幸いです。
…さて、この話、“電脳の悪魔”は本当に“電脳の悪魔”だったという、素敵なオチついてますな(笑)。まんまやん!と皆さんもお思いになったでしょう。書いた蒼華本人もそう思います(待て)。
バグが擬似人格を持って、消去してもらうためにあんなことをしたというわけでして。もしかしたら前の方とかとネタかぶってたりして…(不安)。
こんな感じで話を書いていく予定なので、これからもよろしくお願いします。
もしご期待に添えなかったらごめんなさい…ここで土下座してお詫びします。
如何せん分量配分がいつも書いている長編と全然違うものですから…。
ではでは今回はこの辺で。