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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


散らない桜

  福島県二本松市にある霞ヶ城址に、決して散ることのない桜があるという。
  そしてその木には、一つの伝説があった。
  『戊辰戦争の時、桜の木の下で、二本松藩の、ある少年兵が新政府軍の兵士に撃ち殺され、その桜の木に少年の霊が宿った』
  100年以上散らない桜。確かに、志半ばにして死んだ少年の魂が宿っていてもおかしくない。
  これはいいネタになりそうだ、ということで、アトラス編集部が取材に向かうことになった。

 それに同行する酔っ払い予備軍…もとい妖艶な女性二人組が。
「散らない桜…ということは、秋には紅葉とともに、冬には雪とともに桜を楽しみつつお酒が飲めるってことね〜」
「取り付いている対象を消去すると同時に散ってしまう、というよくあるパターンのような気もするけど…まあいいわ。季節はずれの花見なんてなかなか出来るものでもないわけだし。」
 堺真と、九条東。
 どういうわけか、彼女らもこの取材に同行している。
 編集者たちは勿論、編集長に、彼女らの同行する理由を聞いたのだが、編集長は黙って遠い目をして明後日の方角を見ていたという。
 二人とも、すでに日本酒・ビールは常備済。
 ちょっと心配気味の編集者たちを他所に盛り上がっていた。
「大丈夫なんですか、この人たち…」
「…しょうがないだろう」
「ウチの編集部に、どんなコネを持っているのでしょうか…」
「おつまみは〜、柿の種にスルメにビーフジャーキーに〜♪」
「セラミは持ってる?」
「お〜♪あるよん♪」
 さてはて、どうなることやら。

 郡山駅で東北新幹線から東北本線に乗り換えてしばらくして。
『二本松〜、二本松〜』
 どうやら目的地の二本松に着いたらしい。
「おお〜何だか、いかにも田舎の城下町ってかんじだねえ、東」
 城をイメージして作ったらしい駅の前から出て、真が言う。
「ところで、例の桜っていうのはどこにあるの?」
「城跡ですね」
「城の跡っつっても広いじゃない。歩くのは面倒なんだけど」
「そのぐらい我慢してください」
 きっぱりと言う編集者。流石にタクシーは使いたくないらしい。
 田舎のタクシーは、都会に比べると競争が活発化していないから高そうだ、という偏見でもあるのだろう。
 実際、初乗り料金とかない気が。

 霞ヶ城址は、最短ルートで行くとかなり急な坂を登らなければならない。
「え〜この坂登るの〜?」
「他のルートはかなり遠回りになるらしいですから。他も全部坂だし」
 霞ヶ城は、江戸時代の城にしては珍しく山城だったのだろう。
 さらに二人は地図を見せてもらったのだが、これまた入り組んでいる。
「こんなところによく住めたものね。田舎で坂多くて入り組んでいて、不便じゃないの」
 しかし、こういう街に住んでいる人は大概、慣れているので、不便とか感じなくなるのである。住めば都という言葉と同じ理屈だ。
「おー、城が見えてきた」
 奥州十一万石の城下町のシンボル・霞ヶ城である。
 余談だが、この二本松藩を治めていた藩主が丹羽氏だったため、二本松では節分の豆まきで「鬼は外」とは言わずに「鬼外」と言う。
「じゃ、桜探し開始ね」

 城址は、思ったより広かった。
「結構思ったより大きな城ね」
「この辺じゃ一番強い殿様だったらしいわよ、編集者さんたちの話によると」
「ふーん」
 ふと、周りを見た。桜の花などは見当たらない。
「まさか、ガセネタだったんじゃないでしょうね」
 そう言った東の目に、一人の少年が映った。
 外見は中学生くらいだ。着物を着て、腰には刀を差している。明らかに、現代の少年ではない。
「あれが、桜と同化した少年なんじゃないの?」
「追いかけよう!桜があるかも!」
 無論、酒とつまみも忘れていない。

 追いかけて、かなり奥のほうまで入っていくと、二人はあるものを見つけた。
「あ…」
 それは、紛れもなく、桜。桜の花だった。
「綺麗…」
「こういう季節に見ると、新鮮ね」
『ありがとう』
 少年が、言った。
『この桜が、綺麗だ、って言ってもらうのが、俺の生きがいだから。…まあ、死んでるんだけどね』
「やっぱり、キミがこの桜を咲かせていたのね」
 散ることのない桜の木を見上げ、東が言った。
「でも、どうして?成仏とか、する気なかったの?…もしかして、未練が…」
『…俺は、14歳で死んだけど、未練はなかったよ。確かに、やりたいこととかいっぱいあったけど、俺は、自分と藩の正義を貫いて死んだんだ。新政府軍に屈しなかったのが、俺の最大の誇りだ。…だけど、一つだけ…この街を、見守りたいという願いがあった。だから、この木から、街を見守ることにしたんだ』
「…」
 若くして、いや、幼くして死んだと言っても過言ではない少年の決意は、とても固いものだったに違いない。
 …勝てば官軍、負ければ賊軍という言葉があるが、誰が彼を悪と呼べるのだろうか。
『桜、見に来たんだろ。折角だし、取って置きのすごいの見せてやるよ』
 次の瞬間、周りの桜まで咲き始めた。それはどんどん広がり…最終的には、霞ヶ城址の全ての桜が咲いた。
「すごーい!」
『まあ、この技で花を咲かしても、俺の桜以外は数日で散ってしまうんだけどな』
「それにしたって凄いよ!」
「これで、街中の人が季節はずれの花見に来そうね」
 ニュースで取り上げられそうなくらいだが、この桜の木について気付く者は、少ないだろう。

 普通は決して誰も気付かない場所に、その桜は、今日も綺麗な花を咲かせて、城下町を見守っているのです。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0727/堺真/女/23/フリーター
0731/九条東/女/24/派遣OL兼ギャンブラー
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■         ライター通信          ■
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どうも初めまして蒼華珠璃です。今回のノベル、如何だったでしょうか。
地元ネタです。すいません。これにもちゃんと理由があって…蒼華本人は、東京に行ったことなど10回もないし、関西なんか一回しか行った事がないので、リアリティを出すには東北六県、しかも福島県内、さらに二本松市が一番適しているのです…はい。くどいようですが、地元にこんな桜ありません。
結構雑学知識も織り交ぜてみました。何の役にも立たないことこの上なさそうですが。
実はこのシナリオ、もう一つパターンがあったのですが、それは山口県か鹿児島県出身者がいないと使えなかったネタなのです。だからもう、完全にお蔵入り確定(笑)。
ではでは、今回はこの辺で。また、お会いいたしましょう。