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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


meets girl
<オープニング>

「おい、ババア。遊園地に連れてけよ」
 ピタリ、とキーボードの上で原稿を打ち込んでいた麗香の手が止まる。
 ゆっくり横を向くと、まだ十歳ほどの男の子が嘲笑を浮かべていた。
「そうだよ、オマエだよ。聞こえてんなら返事くらいしろよ、ババア」
「…………」
 黙ったまま男の子を見つめていると、見知らぬ少年を連れた部長が麗香のデスクへとやってくる。
「ここにいたのか。ちょうどいい、碇くんにも紹介しておこう。こちらは取引先の息子さんで、東雲慎太郎くん。そして君の横にいるのが、弟さんの宗太くんだ」
「……部長のお知り合いでしたか。息の根を止めてしまおうか迷っていたのですが、早まらなくて正解でしたね」
「な、なにを言ってるんだ、碇くん?」
「あのね、今このキレイなお姉さんと話をしてたんだよ! 遊園地に連れて行ってくれるんだって!」
 先ほどとは別人のように無邪気な笑顔で、宗太という少年が言う。
 部長のとなりにいる少年が微笑む。
「ああ、それは助かります。ボクはこれからちょっと用事があるので、その間だけでも宗太を預かってくだされば嬉しいのですが」
「だそうだ。任せて良いか、碇くん?」
「あいにく仕事が忙しくて……」
 
 ガンッ!

 麗香の脚に強烈な痛みが走る。
 横を見ると、宗太が薄ら笑いを浮かべていた。彼が他の人間には見えない角度で蹴り飛ばしたらしい。
「え、行ってくれるの? わあ、ありがとう、お姉さん!」
「無理を言ってすみません。少し『天の邪鬼』なところがある弟ですが、よろしくお願いします」
「この年頃の子供なら誰だって天の邪鬼ですよ、なあ碇くん」
「……そうですね、ははは」
 無表情に声だけで笑う麗香に対し、宗太はニコニコと愛想の良い笑顔を浮かべている。
 少年の額には、まるで角のような小さな突起が生えていた。

<in park>

「面倒臭い」
 遊園地に着くなり、華那はきぱっと言い放った。
 豊満な体を大きく胸が空いたロングコートで包み、薄く茶色がかった長い髪はゆるめのウェーブを描いている。切れ長の瞳は、となりに立つ小さな少年を見下ろしていた。
「別にあんたにむかつく訳じゃないのよ。遊園地なんかに行くのが面倒なのよ。まぁ、しょーがないか…遊園地に行きたぁ〜いとか言ってる僕ちゃんだものねぇ〜」
 挑発的な笑みを浮かべる華那に対し、少年――宗太もまた挑戦的な笑みを浮かべる。
「ブツクサ文句言ってんじゃねーよ、ババア。言っとくけど、本当はこっちだってお守りなんか願い下げ……」
 言いかけ、宗太はニヤリと笑う。何か悪巧みを思いついたような悪ガキの笑みだ。
「おい、ババア。仕事なんだろ、黙ってオレの遊園地遊びにつきあえばいいんだよ」
 ババア、ババアと連呼され、華那は宗太と同じ目線になるよう腰を落とす。
 華那はニッコリと優しく笑い、口を開く。
「あのねぇ、宗太くんだったかしら? 最初に言っておくけど」

 パパンッ!

 目にも止まらぬ見事な往復ビンタが、宗太に浴びせられる。
 呆然と目を丸くする宗太の頬を、さらに華那の細い手が鷲づかみにする。
「麗香んトコの取引先の息子だか知らないけど、私にはなぁんにも関係ないのよ?」
 笑顔のまま――いや、さらに妖しげな色を濃くした笑みを浮かべ、華那が言い放つ。
「あんた自身が天の邪鬼なんだか、天の邪鬼がとり憑いてんのかは別段興味もないけど、人間、素直が一番よ?」
「……は、はい。ごめんなさい、お姉さん」
 恐怖に頬を引きつらせ、宗太が頷く。
「よろしい」
 満足した華那は、宗太から手を離す。
 すると宗太は自ら華那と手をつないできた。
「ねえ、お姉さん」
「なによ」
 眉をひそめ、華那は小さな少年を見る。華那と手をつないだ宗太は、先ほどまでとはまるで別人だ。どこにでもいる少年そのものである。
「ボク、お姉さんとたくさん遊びたいな。ねえ、最初にジェットコースターに行こうよ。その次はコーヒーカップにいっしょに乗ろう? あと観覧車にも行きたいな。あ、でもお化け屋敷はやだな。ボク、怖がりだから」
 ぴったりと体をくっつけ目を輝かせる宗太を見下ろし、華那はきっぱりと言う。
「いやよ」
「……え?」
 宗太がきょとんとする。
「さっきも言ったでしょ、面倒くさいって。…と、言う事で、私はお茶してるから乗り物でも乗ってきなさいな。……まさか、1人じゃ恐くて乗れない〜とか言うんじゃないでしょうねぇ?」
 嘲笑を浮かべる華那を、宗太は不思議そうに見上げる。だがすぐに寂しそうな表情を浮かべると、華那の手を引っ張る。
「やだよ、恐いよ。お姉さんといっしょに行きたいよ」
「飽きたら戻ってらっしゃいな。御飯食べさせてあげるから。高い物でも大丈夫よ、お金は持ってるから」
 そっけなく言い、華那は宗太の手をふりほどく。
 宗太は不満そうに頬をふくらまし、拗ねたように舌を出す。
「ふん、いいよ。じゃあ一人で行くもん。お姉さんのイジワル!」
「当然でしょ? イジワルじゃなきゃやってられない仕事してるんだもの」
 笑い返す華那に背を向け、宗太が遊園地の敷地に向かって走っていく。
 宗太が顔をそむける直前、薄い笑みを浮かべたように見えた。

 一時間も経つと、園内は大勢の利用客で埋め尽くされていた。
 そんな流動的な光景を、華那は一軒のオープンカフェから眺めていた。ダージリンの入ったカップを口に含み、息を吐く。
「退屈ねぇ……」
 華那が呟くのを待っていたかのように、遠方で人がざわめく気配がする。
 顔を上げ、声のした方角を見ようとした華那の視界が細長い布の塊を持った男にふさがれる。
「華那! 宗太はどこにいる!」
 沙倉唯為。月刊アトラス編集部で、華那とともに依頼を受けた人物である。宗太についての情報を得るため、慎太郎という人物を追うと言って華那と行動を別にしていたのだ。
「どうしたのよ、そんなに息を切らして。なんか飲んだら?」
「宗太はどこにいると聞いてるんだ!」
 唯為は真剣な口調である。
「あのコなら、一人で遊ばせてるわよ。いっしょになって遊ぶのも面倒だし」
「なっ……!」
 言葉を失う唯為のそばで、通りがかった客が話している会話が聞こえる。
「なあ、お化け屋敷のほうで大瀬の人が倒れてるらしいぜ」
「マジで? 事故か何かか?」
 会話を聞いた華那と唯為が表情を変える。
「まさか……」
「ちっ、遅かったか。行くぞ!」
 舌打ちして走り出した唯為のあとに、華那もついていく。
「いったい何だっていうのよ! あのコが何かしてるってわけ?」
 走りながらの華那の問いに、唯為が吐き捨てるように言う。
「宗太の目的は遊園地じゃない! 本当の狙いは瓜子姫だったんだ!」
「ウリコヒメ?」
 華那は分けがわからず首を傾げた。

<in dark>

 ざわめく野次馬たちの間をすり抜け、唯為と華那がお化け屋敷に飛び込む。
「……!」
 屋敷内に拡がっていた光景に、二人は思わず息を呑む。
 お化けの人形や壁が粉々に破壊され、ところどころに生身の人間が倒れている。命を失っている者まではいないようだが、みな意識を失っているようだ。

 うあああぁあぁあぁあああぁあんっっ!

「くっ!」
「な、なによ、コレ!」
 屋敷内には大音響の泣き声が響き渡っていた。鼓膜どころか、体の内部まで衝撃が伝わってくるような凄まじい音である。
 
 ……ああああぁぁぁん……。
 
 だがやがて音は小さくなっていき、やがてほとんど聞き取れなくなる。
「なんなの? コレもあのコの仕業なわけ?」
「バンシーとシュリーカーのハーフだ。宗太の目的はそいつだったらしい。俺たちは監視役だったってわけだ」
「あら、それじゃあ一人で遊ばせたのって……」
「宗太の思う壺、だな」
 唯為が嘆息する。
 華那は妖しい笑みを浮かべ、壁にぶらさがった切れたロープを掴む。華那が意識を集中すると、霊力を込めたロープが淡い輝きを放つ。
「やってくれるじゃない……私をハメようなんて百年早いってことを、たっぷり体で思い知らせてあげなきゃならないみたいね」
 唯為と華那が屋敷の中央に向かって突き進んでいく。照明も一つ残らず破壊されているため、視界はほぼ暗闇に近い。
 やがて開けた荒れ地にたどり着くと、そこには大口を開けて笑う宗太の姿があった。
「あっははは! ……あれ、今ごろご到着みたいだね、お兄さん、お姉さん」
 振り向いた宗太の両手には、長く伸びた鋭い爪があった。それだけではない、額には明らかな角が生えている。

 バシィィィッッ!

 輝く鞭と化した縄が、宗太を狙って襲いかかる。
 しかし宗太は素早い動きで後方に跳び、攻撃をかわす。
「うわあ、恐い恐い。こんな子供に向かってヒドイなあ。あはは!」
「ちょっとおイタが過ぎるんじゃないかしら、坊や? お仕置きが必要みたいね」
 妖艶な笑みを浮かべる華那のとなりで、唯為が低い声で呟く。
「櫻・唯威の名の元に、汝、緋櫻の戒めを解き放つ……」
 唯為が布を取り払い、日本刀『緋櫻』の刃を抜き放つ。とたんに周囲に異様な霊気が立ちこめ、鈍い光を帯びた刃が闇すらも切り裂くほどの重圧を放つ。
「おい坊主、さっきから見てりゃお前、立派な躾されてんだな。礼儀の何たるかを叩き込んでやらんとなぁ」
 唯為が一瞬にして宗太との間合いを詰め、横一文字に『緋櫻』を振り払う。

 ギイィィィンッッ!

「うわあ!」
 宗太が長く伸びた爪で受け止めようとするが、輝く刃によってあっさりと右手の爪を切断されてしまう。
「おとなしくおネンネしなさい!」
 再び華那の鞭が襲いかかり、左手の爪も残らず叩き折られる。
「うっ!」
 少年の体が弾き飛ばされる。
 華那と唯為がさらに攻撃を浴びせようとするが、宗太が顔色を変えて訴える。
「う、うわ……な、なんだよ! ちょっとバンシーをからかってやっただけじゃんか! そんなに怒ることないだろ、もうしないから許してよ!」
 唯為と華那は顔を見合わせ、すぐにまた宗太を睨みつける。
「天の邪鬼って、本当のこととは逆のことを言うのよね?」
「ということは、また悪戯をするつもりがあるということだな」
 言って、二人は各々の武器を構える。
 宗太が舌打ちし、顔つきを一変させる。無邪気だった子供らしい顔を歪め、両手を持ち上げる。折られた爪が、一瞬でまた鋭く伸びる。
「ちっ、そうかよ。だったらとことん相手してやるぜ。覚悟しろよ」
 憎々しげに言う宗太の体が、徐々に闇に溶け込んでいく。
「消えた?」
「どこに行った!」
 華那と唯為は背中を合わせ、闇に向かって身構える。
 緊張感に身を包み、いつでも反撃ができるように意識を集中させる。
 そして、約一分後。
「ねえ、もしかして……」
 華那の怒りを含んだ問いかけに、背中を合わせた唯為がやはり押し殺した声で答える。
「ああ……逃げられたな……」
 誰もいない闇に向かって構える二人の間に、気まずい沈黙が落ちた。

< epilogue >

「誰かさんが余計なことしてるから、いいようにガキにおちょくられるのよ。そう思わない?」
 出口に向かって遊園地の敷地内を歩きながら、華那が言う。手に持ったソフトクリームを舐めながら喋っているため、たまに声が途切れてしまう。
「誰のことを言ってるのか知らんが、そいつもまさかもう一人がガキから目を離すなんて思わなかったんじゃないか? 緊張感がないというか、やる気がないというか……」
 同じくホットドックを食べながら、華那のとなりを歩く唯為が言う。
「……」
「……」
 肩を並べて歩く二人は、しかし先ほどから決して目を合わせようとはしない。二人の無言の威圧感を感じ取った通行人が、次々と道を空ける。
「……ふふ、そうね。ところでそれって誰のことかしら?」
「さあな。しかしまともな人格をしていない人間だというのは確かだな」
 バキン、と華那の持つソフトクリームのコーンが握りつぶされる。
「でも平然とした顔で凶器を持ち歩いている犯罪者候補よりはマシよね?」
「ははは。どこのどいつのことを言ってるのかまったくもって分からんな」
 ぐちゃり、と唯為の手の中でホットドックが無惨な結末を遂げる。
「ふふふふ……」
「はははは……」
 敷地を歩く二人の顔を見た子供が、なぜか大声で泣き出した。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】(整理番号順)

【0490 / 湖影・華那(こかげ・かな) / 女 / 23 / S○クラブの女王様】
【0733 / 沙倉・唯為(さくら・ゆい) / 男 / 27 / 妖狩り】

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■         ライター通信          ■
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 ある地方では、瓜子姫といれかわった天の邪鬼が瓜子姫の家族を食べてしまうという伝説があります。しかし遠方で縛られた瓜子姫が大声で泣いたためにニセモノだと分かる。
 今回のシナリオのクリア条件は、キャラクターが一人でも瓜子姫の伝説を知っていることでした。しかし…まさかお二人とも宗太から目を離すとは思いもしませんでした(苦笑)。当初は二人のそばを離れようとする宗太とのコメディタッチのストーリーになる予定だったのですが。

 こんにちは、湖影華那さん。今回も岩井シナリオにご参加いただき有り難うございます。
 しかし…宗太を一人で遊ばせるという選択肢にはびっくりさせていただきました。でも華那さんらしいプレイングで思わず笑ってしまいました。ライター的には、宗太とのやり取りよりも、気の強いお二人のキャラクターの仲のほうが気になるとこがあったのですが…(苦笑)。
 人物や能力の描写に関してご希望・感想がありましたら、クリエーターズルームからメールで教えていただけると嬉しいです。
 
 次回もまた、ぜひ東京怪談の舞台でお会いしましょう。