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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


電脳羊は機械の夢を見るか?

▼発端――CD-R
その日、瀬名雫は珍しく暗い顔をしていた。
このゴーストネットOFFで、ネットサーフィン中に意識がなくなり、病院に運ばれた人が出たからだ。
その数は1人ではなく、なんと5人もである。
「このCD−Rが原因なのかなぁ…」
訝しげにつぶやく雫の手には、青色のケースに納められたCD−R。
なんでも『新作オンラインゲームの体験版』ということで、道で配られていたらしい。
共通点といえば、意識をなくした5人全員が、この体験版をプレイしていたということだけである。
「これが街頭で配られてたってことは、もっとたくさんの人が倒れてるかもしれないよね?」
雫の言うとおり、これは早急に原因を突き止める必要があるだろう。
「なんかね、これをもらってきた常連さんが言ってたんだけど、すっごい怪しかったんだって!」
『怪しい』とは、これを配っていた男の服装である。
真っ黒のスーツにサングラス――とてもキャンペーンでゲームソフトを配っているようには見えなかったという。
しかも近くには、スモークガラスの高級車が停まっていたらしい。
「誰が乗ってたんだろうね?人前には姿を現せないような人なのかな?」
例えば犯罪組織とかね、と雫は笑った。
犯罪組織といえば、しばらく前にホームレスを誘拐して人体実験をしたり、新しい麻薬を流通させた組織があったことを思い出させる。
「体験版をやってみるのが、手っ取り早いと思うんだけど・・・」
そう言って、こちらを見上げる雫。
たしかに、それしか方法はなさそうだ。
パソコンの前に座り、CD−Rを挿入する――

【ようこそ。電脳世界での冒険を楽しみましょう】

メッセージとともに、画面に極彩色が浮かび上がった。
異国の音楽のような不思議なBGMを聴いていると、徐々に意識がフェードアウトしていく。
「ねぇ、きちんと原因をつきとめて、帰ってきてよ――?」

最後に、雫の声が聞こえた気がした。

▼潜入――GOHST TOWN
「……み。おい、志神…大丈夫か?」
軽く肩を揺すぶられて、志神みかね(しがみ・―)は、うっすらと目を開けた。
「榎真…さん?」
心配そうに顔をのぞき込んでいるのは、直弘榎真(なおひろ・かざね)。
2学年上の、先輩にあたる少年だ。
「ちょっと心配したよ…気がついたら、おまえが横で倒れてたから」
ホッとしたように、榎真が笑う。
「ごめんなさい、さっそく足手まといになっちゃって…」
みかねは体を起こすと、ペコリと頭を下げた。
腰まで届く黒髪が揺れ、光の加減によって緑に見える瞳が、少しだけ潤む。
「なっ、志神…!?」
その様子にぎょっとして、榎真は慌てて立ち上がった。
「全然、大丈夫だって!っていうか、まだ何も始まってないし…」
「は、はい…」
おそるおそる、みかねが辺りを見回すと、そこは見たこともない街だった。
どうやら、これがCD−Rの中――オンラインゲームの世界らしい。

話は、数十分前にさかのぼる。
「…どうしたんだ、瀬名?」
インターネットをしに、みかねと共にゴーストネットOFFにやってきた榎真は、敏感に雫の異変を感じ取った。
「榎真くん、みかねちゃん…いらっしゃい」
雫はニコリと微笑むが、いつもの花のような愛らしさに影が落ちている。
『……?』
榎真とみかねは顔を見合わせ、首を傾げた。
そして雫から事情を聞きだし、再び顔を見合わせる。
「あー…志神。悪いけど、時間かかりそうだから、先に帰ってもいいよ」
「え?」
しばらく腕を組んで考えていた榎真は、件(くだん)のCD−Rに手を伸ばした。
「ちょっと俺、これやっていくから。危ないかもだから、志神は待ってたほうがいい」
「いいの、榎真くん?」
雫の問いに、榎真は力強くうなずく。
それを見て、みかねもあらてて身を乗りだした。
「わ、私も行きます!いくら榎真さんでも、一人じゃ危ないし…」
「怖くない?みかねちゃん、こういうの苦手だよね?」
いたわるような雫の言葉に、ピクリと小さく体を震わせるみかね。
「すごく怖いです…でもっ」
――榎真さんと一緒なら、頑張れるから。

「すごいな、これ…まるで本物の街だ」
みかねの手をしっかりと握りながら、榎真はゲームの世界を歩いていた。
お互いに照れくさいのか、ふたりは目線を合わせない。
「ごめんなさい、やっぱりついてこなかったほうが…」
「そんなことないって」
赤面しつつも榎真は、言い含めるようにゆっくりと答える。
「俺なんて頼りにならないかもしれないけど。大丈夫だから、とにかく行ってみよう」
いざとなれば、みかねひとりぐらいを護る力ならある。
なぜならば、彼は天狗の能力を持つ『妖』だから、だ。
街の中には、人の姿はほとんどない。
「どうも、ゲームっぽくないな…」
明らかに、何らかの目的のために作られた空間という、きな臭いニオイがプンプンする。
「榎真さん、あそこに人がいますよ」
みかねが指さしたところに、スーツの上に白衣をまとった女性が立っていた。
服装が、ゲームの世界とは合っていない気もするが、それを言ったら榎真もみかねも、高校の制服姿である。
「あの、ちょっと聞きたいんですけど」
榎真が声をかけると、女性は薄くルージュをひいた口を、笑みの形にする。
「何かしら?」
「この街から出るには、どうしたらいいんですか?」
榎真の発言に、みかねがこっそりと訊いた。
「街から出ちゃうんですか?」
「いや、ログオフして現実世界に戻る方法を探しておかないと」
「――この街は」
ふたりの会話を遮るように、女性が声を発した。
「向こうの闘技場にいる怪物の支配下にあるの。だから、そいつを倒さないと出られないわ」
怪物――きっとボスのことだろう。
ふたりは女性に礼を言って、闘技場をめざした。
やがて古代ローマの闘技場――コロッセオに出る。
そこには彼らのほかに、4人の青年たちと、獅子の体に蠍の尻尾、蝙蝠の翼を持ち、人間の老人の顔をしている、醜悪な怪物がいた。
「いやっ…」
みかねが榎真の後ろに隠れるように、身を縮めた。
そのとき榎真は、怪物の前にいる青年に気がつく。
「先輩!?来てたんだ」
声をかけるが、青年はフイと視線をそらしてしまった。
そして怪物――マンティコアが、榎真らに気がつき、ニィと笑みを浮かべた。

▼遭遇――BOSS
架空の存在であるはずの合成獣(キメラ)を目の前に、彼らは身動きがとれずにいた。
黒月焔(くろつき・ほむら)、大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)、直弘榎真(なおひろ・かざね)、志神みかね(しがみ・みかね)、今野篤旗(いまの・あつき)、砂山優姫(さやま・ゆうき)――いずれも、ゴーストネットOFFからやってきた、精鋭たちである。
『改メテ、ヨウコソ我ガ世界ヘ』
マンティコアは、まるで我が孫を迎えるように親しげな笑みを浮かべた。
『ニンゲントハ、ゲニ愚カナモノダナ…後カラ後カラ、喰ワレニヤッテクル』
「人間を喰うやて!?」
その発言に、篤旗が、まなじりをつり上げた。
反対に落ち着き払って、不敵な笑みを浮かべるのは焔だ。
「そういうこった。とっととコイツを倒すのが、最良の策みたいだぜ」
「この怪物を…倒す…」
みかねが、榎真の学ランの裾を掴んで、ゴクリとのどを鳴らした。
榎真は、ポコンとみかねの頭を軽く小突いて、
「大丈夫だって。俺も、ほかの人たちもいるし…ゲームだと思って、この状況を楽しむぐらいの気持ちでいろよ」
「は、はい…」
『オ前タチノ精神ハ、コレマデノ物ヨリモ美味ソウダ』
目を細めて、マンティコアは一同を見渡した。
そして、優姫のところで視線を止める。
『決メタ。マズハオ前ヲ喰ウトスルカノゥ』
背中の蝙蝠の翼で羽ばたいたマンティコアは、優姫めがけて急降下を始めた。
「危ないっ」
一斉に散る6人――いや、篤旗だけは優姫のそばを離れない。
「優姫ちゃんっ!!」
篤旗は、マンティコアに目標を定めて、能力を行使した。
彼の能力は、対象物の温度を自由自在に操れるというものだ。
だが、しかし。
「――駄目や、効かへん!」
ここはあくまでもネットゲームの世界。
デジタル・データ化された対象物には、温度など存在しない。
「私はいいから…離れて下さい、篤旗さん!」
同様に、自らが得意とする超能力を行使しようと試みた優姫も、失敗に終わる。
自分をかばおうとする篤旗を止めるので、精一杯だった。
「いやや!そないなこと、でけへん!」
いつもはクールな優姫が、妹たちといるときは楽しそうに笑っているのを見て以来、ずっと気になっていた。
――いつかは僕と居るときにも、あんな風に笑ってくれるやろか。
そんなことを考えることもある。
「篤旗さ…」
マンティコアの爪が、優姫の前に立ちはだかる篤旗をとらえようとした、その時。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」
雄叫びをあげて、隆之介がマンティコアに飛びかかった。
不意をつかれバランスを崩すマンティコアに、続けざまに回し蹴りを放つ。
『ヌゥ、貴様ッ…』
「おい、あんた…奴はどこに行った!?」
追っていた仇――決して許すことのできない存在。
まだ、この近くにいるはずなのに。
『ナンノ話ヲシテイル?記憶ガ混乱シタカ』
フォフォフォ、とマンティコアはのどを鳴らした。
「大上先輩、危ないから離れててくれっ」
榎真が、自らの持つ『天狗』の能力、雷鍾を放つため、力を腰だめにしながら隆之介に呼びかける。
だが、悪友であるはずの隆之介は、ピクリとも反応しなかった。
まるで、榎真のことなど知らないとでも言うように。
『ウルサイ小僧メ、ソレナラオ前カラ喰ッテクレルワ』
フワリと舞い上がったマンティコアは、今度は榎真めがけて疾駆する。
それを見たみかねは、悲鳴をあげた。
「ダメっ、榎真さんっ……!」
その声に反応するかのように、周りに転がっていた瓦礫が、一斉にマンティコアに降り注ぐ。
『ナンダ!?』
「榎真さんをいじめると、許さないんだから…!」
極限状態に達すると、念動力が発現する。それがみかねの能力だった。
そして、その瓦礫を踏みわけ、それまで沈黙を守っていた焔がマンティコアに近寄った。
「そろそろ俺の出番だな」
『随分ト余裕ガアルデハナイカ、人間ヨ』
「まぁな。自分の周りを見てみやがれ、マンティコア」
『ム――』
マンティコアの周囲には、いつの間にか、聖水で魔法陣がしかれている。
「ここはお前の世界なんだろうが、逆に俺が支配してやるよ」
ニヤリ、と焔は笑った。
完全に、こちらが優勢だ。
『フ…』
マンティコアは鼻を鳴らし、それから再び全員を見回した。
『ワカッタ…今回ハ我ガ敗北ヲ認メヨウ…ダガ、我ラノ野望ハ決シテ潰エルコトハナイ』
言うと同時に、マンティコアの姿がかき消えていく。
「待て…俺は早く奴を倒して、姫君を迎えに行かなくちゃならないんだ」
隆之介の腕は、虚しく宙を掻く。

――そして彼らの姿も、順々にかき消えていった。

▼離脱――EXIT
目を覚ますと、雫がホッと胸をなで下ろすのが見えた。
「あっ、お帰り!よかったぁ、無事で…」
榎真は、みかねがちゃんと戻ってきたのを確かめ、ようやく安堵の息を吐く。
篤旗も同様に、優姫の無事を確認する。
「おい、こっちの兄ちゃんはまだ目を覚まさないぜ」
焔が、隣のパソコンの前でぐったりしている隆之介を指さした。
その言葉に、榎真が心配そうな視線を向ける。
「大丈夫かな、先輩…向こうでも、いつもと様子が違ったし」
「う……ん……」
その会話が耳に届いたのか、小さくうめきながら、ようやく隆之介が意識を取り戻した。
「うあ…ごめん、雫ちゃん…なんかボーッとしてて、向こうでのこと全然覚えてねー…」
「ううん、無事に帰ってきてくれただけで十分だよ。とりあえず、もうゲーム自体が消滅しちゃったから、これ以上被害者は出ないし」
雫の言うとおり、このゲームにはもうアクセスできない。
先程試してみたが、ゲーム自体が消えてなくなってしまったようだった。
「でも結局、謎はたくさん残ってしまいましたね…」
うつむく優姫。
誰が何の目的で、そしてマンティコアとは何なのか。
「今まで意識不明になっていた人たちも、大丈夫なんでしょうか…?」
みかねも不安そうに言う。
全員が表情を曇らせる中、電話のベルが鳴った。電話を取る雫の表情が、パッと明るくなる。
「意識、回復したんですか?」
どうやら、病院に運ばれた人が、全員意識を取り戻したらしい。
それを聞いて、やっと6人の顔に笑みが宿った。

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■      登場人物(この物語に登場した人物の一覧)      ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0231/直弘榎真(なおひろ・かざね)/男/17歳/日本古来からの天狗】
【0249/志神みかね(しがみ・―)/女/15歳/学生】
【0365/大上隆之介(おおかみ・りゅうのすけ)/男/300歳/大学生】
【0495/砂山優姫(さやま・ゆうき)/女/17歳/高校生】
【0527/今野篤旗(いまの・あつき)/男/18歳/大学生】
【0599/黒月焔(くろつき・ほむら)/男/27歳/バーのマスター】

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■               ライター通信               ■
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たいへんお待たせいたしました!
『電脳羊は機械の夢を見るか?』のお届けです。
タイトル関係ないやん、というツッコミは置いておくとして(苦笑)、みなさまご参加どうもありがとうございました。
今回の事件、敵に目的などを問いただす、というプレイングをかけて下さる方がいらっしゃらなかったため、だいぶ謎が残ってしまった感じです。
念のため補足しておきますと、『敵』は雫の話にも出てきていた犯罪組織でした。
その組織が、人体実験の一環として、ゲームを利用し精神体を集めていたわけです。
ゲームとは名ばかり、CD−Rを使って潜った先は『電脳世界』。
精神の影響をモロに受けるため、ゲームと聞いて街をイメージした人は街、なにもイメージしなかった人は無空間にたどり着いた、というわけです。
結果的に、マンティコアを撃退できたため、組織の実験は失敗し、人々の精神体は戻ってきました。
これもひとえに皆さんの奮闘のおかげです。
ご苦労様でした。

▼直弘榎真さま+志神みかねさま
おふたりとも、ご参加どうもありがとうございました!
小さなカップルの描写、とても楽しませていただききました。
本当はもっともっと書きたい場面も、プレイングしていただいていたんですが、私の力量が及ばず、もうしわけないです…。
もしまた機会がありましたら、ぜひ照れ照れなふたり(笑)を書かせていただきたいと思います。
なにかあれば(感想でもお叱りでも)お気軽に、テラコンよりお願いしますね。
プレイングはおふたりとも、文章に直しやすい形式で書いていただけていますので、この調子で頑張って下さい。
それではまた、別の依頼でお会いできることを祈って――。