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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


現代の吸血鬼

  渋谷で変死体が発見される事件が続発しているという。
  その死体は服装から十代後半から二十代前半の女性のものであるとされているが、彼女らの死体自体は明らかに干からびていたため80歳以上の老婆にしか見えなかったという。彼女らはどうやら、血、もしくは精気を吸い尽くされて殺されたらしい。
  この件に関して警察ではそのような件を否定しているが、発見者の一人がネットのBBSで発表したため、噂はネットの中で広がった。
  それは、真実を知る者によって、『現代の吸血鬼』と名づけられた。

 当麻鈴は、インターネットカフェにいた。
 普段はパソコンは使わない彼女だが、今回の件はどうやらインターネットで調べるのが、一番効率が良いと思われるからだ。
 『現代の吸血鬼』に関しての噂は、インターネットから広まった。ならば、そこから調べるのがセオリーというやつだろう。
「吸血鬼という存在は、放っておくと沢山の人間が殺されてしまいますからねえ。早期に解決しないと、被害は広がる一方です」
 幸いなことに、奴らのターゲットは、自分の外見年齢と同じぐらいの女性だ。
 自分がこの辺をうろついていれば、きっと奴らは自分たちからやってくる。
 そうなれば、鴨が葱を背負ってやって来たと同じだ。そいつらを、自分の力で退治すればいい。

 インターネットの掲示板に、ある書き込みを見て、七森恭一は絶叫した。
「被害者が、十代後半から二十代前半の女性!?沙耶が射程範囲じゃねえか!」
 そう。この『現代の吸血鬼』事件の被害者の共通点に、彼の溺愛する妹が当てはまっていた。
「被害者が女性ってことは、犯人は男か?吸血鬼ってことは…外人かな。いやいや外見で判断できるなら警察はいらねえよな。奴ら変身できるって話聞いたことあるような気もするし…」
 思考を巡らせるが、考えているだけでは結論が出ないのが、世の常である。
 ましてや、吸血鬼などは、世界の常識からしてみればそれから外れているのだから、いかに考えようとも結論はでない。
 ならば、どうするのか。
 そのような時は諦めるか、行動あるのみである。
 恭一はバイクに乗り、渋谷へと向かった。

「この辺が、事件のあった場所よねえ…」
 のほほん、としながら、鈴は歩いていた。
「まあ、簡単に引っ掛かってくれたら苦労しないんだけど」
 そして、きょろきょろと周りを見て、またしても歩き始めた。

 恭一はバイクをゆっくり走らせていた。
「…出ねえな。まあターゲットは若い女性なんだから、男の俺を襲う訳はないか」
 ふと、少し前に、和服の女性が見える。何故か唐傘を持っている。
 しかし、このような事件が起きているのに、何故彼女は一人歩きなどをしているのだろうか。危険だろうに。
 まさか、事件について知らないのだろうか。まさか。吸血鬼の仕業、などとは報道されてないが、一応『女性を狙った強盗殺人事件』ということで報道はされているのだ。マスコミも大々的に取り上げているこの事件を知らないわけはないだろう。
 もしかしたら、彼女も、この事件を解決しようとしているのか?しかし、危険だ。彼女も被害者になりかねない…。
「そこのあんた。女の一人歩きは危ねえからさっさと帰ったほうがいいんじゃないか?」
 その声に反応して、女性は振り向いた。それは、鈴だった。
「あなたこそ。現時点では男性は襲われてませんが、世の中に絶対というものはありませんよ」
 彼女はにっこり笑い、そう言った。
「…あんた。普通の人間じゃ、ないのか」
「ええ」
 恭一の問いに、鈴はあっさり答えた。
「あなたも、普通の人じゃないのでしょう?まあ、私よりは普通の人間に近いのでしょうが」
 自分とさして変わらない年代の女性(外見上は)なのに、鈴にはどこか老成した、何か、があった。
 まあ、それもそのはずで、彼女は彼の10倍以上も生きているのだから。
 どこか和やかな雰囲気だったが、第三者の気配を感じ、二人は会話をやめた。
 いや、第三者という言い方は正しくないのかもしれない。
 気配は、複数だった。
「…奴らか?」
「おそらくは」
 二人を、数人の男が取り囲む。
 彼らの瞳には、光は宿っておらず、あるのは漆黒の闇のみであった。
 おそらくは、正気を失ってしまっているのだろう。
「…彼らもまた、被害者なのかもしれませんね」
 そう。これは推測の域を出ないが、吸血鬼は、敢えて獲物の血を吸い尽くさないで、その獲物を吸血鬼化させることがあるという。
 そのような吸血鬼には、稀に出る例を除いて、知性はない。
 彼らは、“Living Dead”…すなわち生きた死体なのだ。
 彼らを救う術はただ一つ。倒し、浄化すること。
「でも、同情してる場合じゃねえ。…こっちも命懸かってるしな!」
 恭一の電撃が、何人かの吸血鬼の体を焦がす。
 嫌な臭いが、鼻を突くが、そんなことを気にしている場合ではないことは、二人とも理解していた。
「…全く…無理矢理若い方を老人にしてもよいことは一つもありませんよ」
 そう言って鈴は唐傘を開いた。同時に、光が吸血鬼たちの目を眩ませる。
「人生という経験を得て、初めてその人の深みというものが出るのですから」
 次の瞬間、鼓膜を破るほどの轟音が響いた。
 恭一が、最大威力の電撃を放ったのだ。
「ふう…あまり強くありませんでしたね」
「なあ、思ったんだけど」
「?」
「こいつらを吸血鬼にした親を倒さないと、本当の意味での解決は訪れないんじゃないか?」
「そうですね」
 やはり鈴は、のほほん、と言った。
「じゃあ、今回、俺たちのやったこと、意味ないじゃねえか!」
「確かに、考え方によってはそうかもしれませんが、とりあえず今回の件については解決したので、良しとしませんか?また事件があったら、その時はその時で、また解決すればいいじゃないですか。違いますか?」
「〜」
 なんとなく、この女には敵わないな、と、恭一は心の中で呟いた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0319/当麻鈴/女/364/骨董屋
0463/七森恭一/男/23/会社員
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■         ライター通信          ■
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どうも、初めまして今日和。蒼華珠璃と申します。
今回は、一つの話に結末が二種類ありまして。PCが予定数を上回ってしまったので、今回はこういう形にしてみましたです、はい。
興味があったら、もう一つの話も読んでみてください。
今回は、本当に真面目な話でしたなあ(笑)。蒼華の作風とはかけ離れてる作品なので、ちょっと完成度に不安が。
まあ、そんな訳で。今回の話が気に入ったなら、そのうちまた、蒼華の書いた話に参加してみてください。