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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


現代の吸血鬼

  渋谷で変死体が発見される事件が続発しているという。
  その死体は服装から十代後半から二十代前半の女性のものであるとされているが、彼女らの死体自体は明らかに干からびていたため80歳以上の老婆にしか見えなかったという。彼女らはどうやら、血、もしくは精気を吸い尽くされて殺されたらしい。
  この件に関して警察ではそのような件を否定しているが、発見者の一人がネットのBBSで発表したため、噂はネットの中で広がった。
  それは、真実を知る者によって、『現代の吸血鬼』と名づけられた。

「そいつに、あたしの妹が殺されたの」
 少女が、風野想貴に言った。
「そいつらが何者かは判らない。本当に吸血鬼なのか、違うのか。でも、あたしは、そいつを倒して、妹の仇を取りたいんだ」
「…キミの気持ちは判る。でも、危険すぎる」
 想貴は少女を諭そうとした。
「…だって!」
 しかし、彼女は聞かない。肉親が失われたことが、それほどまでにショックだったらしい。
 その気持ちは判る。しかし、彼女が奴らの前に立ったところで、何になるのだろうか。被害が増えるだけだ。
「…恨みも哀しみも、生きていなきゃできない。君は俺を憎むだろう。でも、生きていてくれるならそれで良い。君に仇は討たせない。俺が、君の妹の仇はとってあげるから。…少しの間、眠っていてくれ」
 すると、少女は何故か意識が遠のくのを感じ、気絶した。

「私にも、何かできることがあると思うの」
 危険だ、と反対する兄たちの目を見据えて、七森沙耶は言った。
 その瞳は、真剣そのものだ。
「被害者は、みんな、私と同じぐらいの女の子だわ。それに、誰かが何とかしなきゃ、被害は増えるばかりよ。…それは、わかってるだろうけど…。私は大丈夫。なんとか、するから」
「しかし…相手は吸血鬼というじゃないか…」
「大丈夫よ。犠牲者が増える前に、何とかしたいの」
 沙耶は兄たちの反対を押し切って、この奇怪な事件を解決するために動き始めた。

「吸血鬼…背徳の堕落者…神に見放されし者…」
 ロゼ・クロイツは、手に入れた僅かな情報を頼りに、渋谷の街を歩いていた。
 時期的に外れた長い漆黒の外套を纏いつつも、自分はシスターであることを明かしていた。これが、吸血鬼の気を引けばいいが。
「…だが、神は捨てておかぬぞ。神罰の化身である私が、屠る」
 ロゼは、口の右端を吊り上げた。

 想貴は、渋谷にあるインターネットカフェにいた。
 このような場所を使用できる現代は便利なものだ。
 自分のいた未来は、まるで地獄絵図のような魔界で、現代人の思い描く楽園などはなかった。
 むしろ、未来人である自分から見れば、この現代こそが、楽園のように見えるのに。
「…現代の吸血鬼、で検索すれば何か掴めるかな」
 その時、効率の良い手段が、彼の脳裏に思いついた。
『吸血鬼なんているわけないじゃ〜ん。そんなの只の都市伝説だよ、と・し・で・ん・せ・つ。下らないことこの上ないよ。もし吸血鬼が実在するなら、もっとでかいニュースになってんだろーが。只の強盗殺人事件なんかに、どこの誰だかは知らないけれど尾ひれでもつけただけだろーに』
 このような書き込みを、掲示板に書き込んだ。
 これで、『吸血鬼』自身がこの挑発に乗ってくれればありがたいことこの上ないが。
 そう思って、彼はカフェを出た。
「そういえば…この街で例の事件は起きてるんだよな」
 若者の街である渋谷。若い女性の血を狙う吸血鬼が忍び込むには、ちょうどいい場所かもしれない。
 ふと、彼の目に、一人の少女が目に入った。それは、沙耶だった。
(あんな女の子が一人でいたら、危ないじゃないか)
「君」
 びくっ、と沙耶は肩を振るわせた。
「あの…何か?」
「まさか、例の強盗殺人事件については知ってるんだろう?それなのにその現場付近で、女の子一人でうろつくなんて危険だ。犯人は、君のような女の子を狙ってるんだから」
 世間体もあってか、『現代の吸血鬼』事件については、強盗殺人事件ということで報道されていた。
 そこそこに大きく取り上げられてはいたが、真実を告げない報道に意味などないのに、と想貴は思っていた。
「あの…もしかして、あなたも、『現代の吸血鬼』について調べているんですか?」
 確信はなかったが、沙耶は、直感でそう思った。
「え?」
 想貴はきょとん、とした表情になった。
「もしかして、キミも…?」
「ええ」
 完全に面食らう想貴。
 こんな女の子に、吸血鬼と戦うほどの力があるわけがない(まあ、特殊能力を持ってるのなら外見などは関係ないが。それでも、心細いだろう)。
「危険なのに…」
「…私と同じぐらいの女の子が犠牲になっていると聞いて、いても立ってもいられなくて…」
 彼女には、彼女なりの信念がある。
 それを、無理に捻じ曲げることはできない。そのような権利は、想貴にはない。誰にもない。
「……じゃあ、一つ、頼めるかな?」
「?」

 沙耶が想貴に頼まれたのは、囮だった。
『何かあったら、すぐに携帯を鳴らせ』
(大丈夫…だよね。…ううっ、今更怖くなってきた…)
 きょろきょろと、周りを見渡す沙耶。
 ふと、少し先に、美しい銀髪を持つ女性がいた。
(うわ、綺麗…)
 少し、その銀色の髪に見惚れる沙耶。

「…来る」
 ロゼは待った甲斐があった、とばかりに、口を歪めた。
 近くに少女がいるが…まあ奴らを倒してしまえば問題はない。
(来い。神の名の元に浄化してやる)

『血…血をくれ』
 何人もの男が、ロゼと沙耶に近付いてきた。
「…愚かな魔性の者よ!神の名の元に浄化してくれる!」
 ロゼの体から銀の矢と短剣が放たれる!
「きゃあっ!」
 その時、沙耶の携帯が鳴った。
『どうした!?』
「な、何だかよく判らないんですが、吸血鬼らしき男性が出てきて、銀色の髪の女の人が…!」
『判った、すぐ行く!』
 ロゼは吸血鬼たちと格闘していた。
「まさか、複数いたとはな」
 聖水シリンダーを取り出し、吸血鬼にかける。神の加護を受けた聖なる水をかけられた吸血鬼は苦しみ始める。
「やめてください!いくらなんでも、殺すなんて!」
「これしか、方法がない」
 叫ぶ沙耶に、ロゼは淡々とした口調で答えた。
「大丈夫か!」
 そこに、想貴が現れた。
「こいつらが、吸血鬼…」
 被害者と同じ年代の、男性たちだ。
「理性を完全に失っている。倒すしか方法はない」
「…そんな」
「しょうがないだろう。彼らは言わば、生きた屍だ。殺してやるのが、救いなんだ…」
 そう言って、彼は沙耶を下がらせた。そして、短剣を取り出す。
「心身の痛覚排除の後に残るのは、死に等しい虚無のみ。聖も魔もなく無に還れ。これが、本当の死だ」
 短剣が『虚無』を纏う。虚無の刃は、全てを切り裂く。
「…」
 呆然とする沙耶。彼女が思っていた解決方法とは、全く違う結末になろうとしていた。
 彼女は、平和的に話し合いで解決できると思ったのに。
 そこには、死体すらなかった。
「怪我はないか」
 沙耶は、落ち込んだままだ。
「仕方ないんだよ。話し合いで解決できるような事件じゃなかったし、彼らは何人もの人を殺してきた。これが、罪に対する、罰だ。…これでもう、誰も傷つかなくて済む…だから」
「そうとは言い切れないぞ」
 そう言ったのは、ロゼだった。
「彼らは、若い吸血鬼だ。おそらくは、彼らを吸血鬼にした『親』がいる。その親を倒さねば、このような事件はまた起こるだろう」
「…」
 どうやら、今回の事件は解決しても、根本的な問題は解決されぬままであったらしい。
 …彼らを吸血鬼にした、『親』を倒すまでは。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0230/七森沙耶/女/17/高校生
0423/ロゼ・クロイツ/女/2/元・悪魔払い師の助手
0711/風野想貴/男/17/未来から来た少年
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■         ライター通信          ■
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どうも、初めまして今日和。蒼華珠璃と申します。
今回は、一つの話に結末が二種類ありまして。PCが予定数を上回ってしまったので、今回はこういう形にしてみましたです、はい。
興味があったら、もう一つの話も読んでみてください。
今回は、本当に真面目な話でしたなあ(笑)。蒼華の作風とはかけ離れてる作品なので、ちょっと完成度に不安が。
まあ、そんな訳で。今回の話が気に入ったなら、そのうちまた、蒼華の書いた話に参加してみてください。