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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


第3音楽室の幽霊
●オープニング【0】
 冬美原の東部――高台の森の中に『エミリア学院』という初等部から大学部まで一貫教育のお嬢さま学校がある。この辺り一帯を『妖精たちが戯れし森』などと呼ぶ者も数多い。
「そのエミリア学院での噂なんだけどね」
 天川高校『情報研究会』会長の鏡綾女はそう切り出した。
 何でもそこの第3音楽室に幽霊が出るという噂なのだそうだ。
「音楽室に幽霊ってよくある話でしょう? ほら、ピアノが突然鳴り出したりとかー」
 あのー、それはどちらかと言えば、学園7不思議の方ではないかと思うんですがー……。
「とりあえず、こんな話もあるってこと。それでね……」
 綾女はこの話題をさらっと流したが、聞いていた方にしてみれば、何故だか分からないが引っかかる物を感じた。
 そもそも、何故にその第3音楽室で幽霊が出るなどという噂が出たのだろうか?
 何もなければそんな噂などすぐに消えてしまいそうなのだが……さて、どういうことか。

●秘密の花園【2B】
 昼下がり――森の中を歩く銀髪の少年の姿があった。その表情はどこかにやけていた。嬉しさが抑え切れないといった感じだろうか。
(ニヘヘへ、この時を待っていたのさね。エミリア学院、乙女の聖域ニョ〜)
 少年、養老南はそんなことを考えていた。このまままっすぐ歩いてゆけば、そのエミリア学院がある。
 エミリア学院での幽霊の噂を聞き付けた南は、チャンスとばかりに調査に乗り出すことにした。もっとも噂の調査ではなく、エミリア学院に通う乙女たちの調査が主目的なのだが。
(ウ〜ン、ベリ〜テ〜スト。萌え萌えニャ、何だか力が溢れてくるニャ)
 エミリア学院では何が待ち受けているのか、それを思うだけでご飯3杯はいける、そんな勢いのある南であった。
(この際お化けのことなんて興味半分。ボクは船出するニャ、大人への階段の第一歩ニョ〜)
 くすくすと笑う南。どこへ船出する気なのか非常に気になるが、それはさておき。南は幽霊が怖くなかった。何故なら自分自身が幽霊よりも怖い存在であるだろうから。少々の相手では怖くも何ともない。
 やがてエミリア学院の正門が見えてきた。一旦木陰に隠れた南は、小学生くらいの子供に変身して再び姿を現した。この姿の方が進入に都合がいいと判断してのことだ。
 そのまま正門をくぐってゆく南。当然女性警備員に呼び止められた。
「あら、ちょっとそこのボク。何か御用かしら?」
 目線を合わせて南に話しかけてくる女性警備員。南が口を開こうとしたその時、別の青年が正門をくぐろうとした。
 それに気付いた女性警備員はすぐに青年に近付いていった。その隙を見逃すような南ではない。女性警備員が青年を相手にしている間に、一目散に敷地内へ走り去ってしまった。
(ナイスタイミングニョ)
 南はそのまま中庭へ向かった。ちょうど授業が終わったのだろう、大勢の少女たちが鞄を手に校舎から出てくる所だった。
(汚れを知らぬ乙女たちでいっぱいニョ〜。ボクの魅力でメロメロにしちゃって、色々なシチュエーションを楽しむニャ、ニヘヘ〜)
 そんなことを考えながら少女たちを物色する南。ふと1人の少女と目が合った。腰元まである長く綺麗な髪の少女だ。
「あら……どこから来たんですの?」
 少女が南に近付いてきた。小柄であるが、制服の下に隠れている身体はなかなか発育がよさそうだ。
(まずはこの娘に決めたニャ!)
 南は少女の青い瞳をじっと見つめた。まずは魔性の瞳で少女を魅了してしまおうというのだ。それからゆっくり色々としてしまおうという算段だったのだが――。
(……おかしいニョ?)
 一向に少女の様子が変わらない。
「おいたはいけませんわ」
 少女はくすっと微笑んだ。そして、妖しく光る少女の瞳。
「!」
 南は慌てて少女の視線を遮った。
「……何者?」
 何の顔から笑みが消えていた。妙な芸当を使ってくることから考えても、ただの女生徒ではなさそうだ。
「普通の女生徒ですわ。そうそう、ここでは行動に気を付けた方がよろしいですわよ。下手に騒ぎを起こしたくはないですわよね? では、ごきげんよう」
 少女は南にそう言い残すと、すっとその場から離れた。
(妙な娘ニャ……)
 南は神妙な顔で少女の後姿を見つめていた。それから、口直しとばかりに保健室を探し始めた。

●お楽しみの後で【5E】
「……じゃ、また今度来るニャ」
 部屋の中に居る女性たちに微笑みを投げ、南は部屋を後にした。頭上にはこうプレートがかかっている――『保健室』と。
(ニヘヘ……楽しかったニャ。やっぱり微妙に違うようですニョ〜)
 校舎の外は日が暮れて暗くなっていた。この時間まで南は、噂を含めた『色々な』情報を保健室で複数人から調査していた。方法については語る必要もないだろう。
 ガラス窓に南の顔が写った。南は頬についていたキスマークをぐいと拭った。今回の発見は、小学生の姿だと意外ともてるらしいということか。
(けど、例の噂、かなり広まっているようですニョ。でも誰も目撃してないのが不思議なのさね)
 南が聞き込んだ話では、第3音楽室に幽霊が出るという噂は知らない人間を探す方が難しいらしい。しかし目撃者も目撃談もない。別件で分かったのは、去年そこから転落して亡くなった高等部の少女が居たことくらいか。
「音楽室行ってみるニャ」
 南は第3音楽室のある校舎へ向かった。第3音楽室は5階にあるのだ。
(どっからでもかかってこぉ〜い。幽霊でも素敵だったら……ニヘ)
 想像して妖し気な笑みを浮かべる南。そして第3音楽室のある校舎へ入り2階へ昇った時、上の階から少女の悲鳴が聞こえてきた――。

●待っていたのは【6A】
 志神みかねと北一玲璃の2人は隠れていた教室を飛び出すと、すぐに悲鳴の聞こえた第3音楽室へ駆け込んだ。
「あっ……」
「えっ……?」
 中の光景を見て、みかねと玲璃は入口に立ち尽くした。中に入っていけるような雰囲気ではなかったからだ。
 そのうち、悲鳴を聞き付けた者たちが第3音楽室へやってきた。最初にやってきたのは倉実一樹、次いで宮小路皇騎、続いて養老南、最後に南宮寺天音と海堂有紀という順番だった。後からやってきた5人も、入口前に立ち尽くすみかねと玲璃に阻まれて中には入れなかった。いや、阻まれていなかったとしても中に入るには少し躊躇したことだろう。
「いやっ、来ないでっ! 来ないでっ、どこかへ行ってよっ、私のせいじゃないっ!!」
 中では茶髪ポニーテールの少女が、必死に目の前の何かを振り払いながら逃げ惑っていた。だがしかし、入口前に居る7人には何も見えないし、何も感じなかった。
 視線をずらすと、左手の窓が開いていた。そしてそのそばに、腰元まである長く綺麗な髪の小柄な少女が立っていた。
「二谷音子……」
 皇騎が少女をフルネームで呼んだ。皇騎のつぶやきが聞こえたのか、音子が7人を見てくすっと微笑みを向けた。それは小悪魔っぽい笑みだった。
「いつの間に居たのかな……?」
「居なかったよね……?」
 ひそひそと話し合うみかねと玲璃。第3音楽室手前の教室で様子を窺っていたが、音子の姿は見かけなかった。2人が様子を窺う前からここに居たのだろうか。
 その間も少女は見えない何かから逃げ惑っていた。
「何で今になって……こんな! あなたが勝手に落ちたんじゃない……私はあなたの手を払い除けただけよっ! 万引きくらい見逃してくれてもいいじゃないっ、皆やってることじゃないのっ……!!」
 少女は大きく頭を振りながら叫んだ。
「私は悪くないっ! あなたが警察に行こうだなんて言うから……その手を払い除けただけよっ!! 勝手に落ちたくせに……!!!」
「どういうこと……?」
 事情が飲み込めない一樹がぽつりとつぶやいた。事情が飲み込めないのは他の者も同様である。が、ただ1人天音だけは違った。
「そーか、そーゆーことやね……」
 目の前の光景に納得するように大きく頷いた。
「お聞きになりましたかしら? 今の彼女の言葉」
 音子が7人に対して話しかけてきた。
「しっかり聞いたで。それと、この言葉を引き出すために幽霊の噂を流したことも分かったわ。……せやろ?」
 音子を指差し、天音がニヤリと笑った。
「ご名答ですわ。幽霊の噂はあたしが流したんですの」
「どうしてそんなことを……」
 みかねが音子に尋ねる。それに答えたのは皇騎だった。
「去年の今日、この日に起きた転落事故か」
「そうですわ、先生。あたしはその真実が知りたかった、ただそれだけですわ。だから今日、彼女をここに呼び出したんですの。何故かああしてますけれど」
 未だに何かから逃れようとしている少女の姿を見て、くすくすと笑う音子。少女は少しずつ窓際へ近付いていた。
「……理由知ってるんじゃないのかニャ?」
 音子をじっと見つめ、南が言った。音子は何も答えない。
「何にせよ有紀はん、賭けはうちの勝ちやね」
 天音は自分に抱きついている有紀にそう言った。有紀は噂が嘘だったことにショックを受け、半分気絶していた。天音の話が聞こえているかは分からない。
「……っ! 急に寒く……」
 一樹の身体がぶるっと震える。何かを感じたのか、皇騎が第3音楽室の奥に視線を向けた。
「何か居る……!」
 身構える皇騎。同時に第3音楽室の奥に白いもやが集まってきて、次第に人の姿へと変わってゆく。やがて、もやは少女の姿に変わった。この場に居る全員が、それ――幽霊を目撃していた。
「ひいぃぃぃぃっ!! いやっ、いやっ、いやぁぁぁっ!!」
 少女は幽霊から逃げるように後退りをしてゆく。少女の身体が窓にぶつかり、バランスを崩して――。
「危ないっ!!」
 思わずみかねは叫んでいた。少女のポケットから何かがこぼれ落ちる。少女はゆっくりと、スロー映像のように窓の外へ消えていった。外からは枝木に引っかかったような音が聞こえてきた。
 窓に殺到する7人。一樹の持っていた鈴の音が第3音楽室に響いた。するとどうしたことか、幽霊は怯えた表情を浮かべ姿をかき消した。
 窓の下、校舎の3階まである大きさの木のそばに少女が倒れていた。そして黒髪長髪の青年、卯月智哉が少女に声をかけていた。

●てんやわんや【7】
 夜のエミリア学院に、救急車とパトカーがやってきていた。もちろんそれだけではなく、学院長や理事長等の車もあったが。
 転落した少女は担架で運ばれ、救急車へ乗せられた。救急隊員の話では、生命に別状はないだろうとのことだった。詳しくは検査しないといけないだろうが。
「あたしと去年亡くなった娘はお友だちでしたの。だから、自殺するような娘ではないということは、あたしがよく知っていましたわ」
 二谷音子がその場に居た8人に対して話し出した。
「何かのはずみで転落したに違いない……そう思っていたあたしが真実を知ったのは、この春でしたわ。長らく彼女に貸していたたくさんの本を、彼女のご両親から返していただいた時でしたの」
「何があったの?」
 北一玲璃が音子に尋ねた。
「本の中に、彼女の日記が紛れ込んでいたんですわ。そこにはこう書かれていましたの。『万引きする所を見てしまった。辛いけれど、明日私は彼女に警察に行くよう言おうと思う。ちゃんと話せば分かってくれるはず』……彼女の亡くなる前日の日記ですわ。もちろん先程の彼女の名前も書いてありましたわ」
「それで真実を知るために、あんな噂流した訳やろ。うちらはそれにまんまと踊らされたって訳やね」
 南宮寺天音が溜息混じりに肩を竦めた。
「噂も使いよう……か」
 宮小路皇騎がぼそっとつぶやいた。
「まさか他の学校にまで広まっていたとは思いませんでしたけれど……噂の効果はありましたわ。こうして証人も多く得られましたものね」
 音子はくすくすと笑った。
「あの幽霊は……?」
 志神みかねが尋ねた。
「彼女の幽霊だと思いますわ。面影がありましたもの……」
 それを聞いて、海堂有紀がじっと天音を見つめた。
「……分かっとるよ、うちの負けや」
 天音の言葉に、有紀はぎゅっと天音に抱きついた。嬉しそうな表情だった。
「これ……どこまで書いていいの?」
 倉実一樹は頭を抱えていた。実際の事件が絡んでいて、ホラーではないようでホラーでもあって……非常に判断に苦しむ結末になってしまっていた。
「……よく分からないな……」
 卯月智哉はまだいまいち今回の事情が飲み込めていないようだった。
「刑事さんが呼んでるニャ」
 刑事から事情聴取を受けていた養老南が、音子を呼んだ。この場に居る全員には事情聴取という仕事が待っていた。向こうのパトカーの前には、冬美原警察捜査課の田辺良明警部補の姿があった。
「それでは全てお話ししてきますわ。皆様、またいずれ。ではごきげんよう……」
 音子は笑顔を見せると、深々と頭を下げた。そして皆に背を向けてパトカーの方へ歩いていった。

【第3音楽室の幽霊 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
               / 男 / 20前後? / 古木の精 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0597 / 海堂・有紀(かいどう・ゆき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 12、3? / 高校生/男娼 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0702 / 北一・玲璃(きたいち・れいり)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全19場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は、整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、『第3音楽室の幽霊』をお届けします。今回のお話は、ある意味冬美原の今後を決める内容でしたので、じっくり時間を取らせていただきました。
・今回のお話は読んでいただければ分かりますが、噂にまつわるお話でした。噂は使い方によってどうにでもなります。例えば今回の音子のように誰かを罠にかけたり……と。噂は上手く利用してくださいね。
・養老南さん、5度目のご参加ありがとうございます。小学生に変身したのはよかったかも。今回も色々とやっていたようですが……音子は何故か魅了できなかったようですねえ? 全身図見させていただきました。正直、高原驚きました……南さんらしいと思いましたが。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。