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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


第3音楽室の幽霊
●オープニング【0】
 冬美原の東部――高台の森の中に『エミリア学院』という初等部から大学部まで一貫教育のお嬢さま学校がある。この辺り一帯を『妖精たちが戯れし森』などと呼ぶ者も数多い。
「そのエミリア学院での噂なんだけどね」
 天川高校『情報研究会』会長の鏡綾女はそう切り出した。
 何でもそこの第3音楽室に幽霊が出るという噂なのだそうだ。
「音楽室に幽霊ってよくある話でしょう? ほら、ピアノが突然鳴り出したりとかー」
 あのー、それはどちらかと言えば、学園7不思議の方ではないかと思うんですがー……。
「とりあえず、こんな話もあるってこと。それでね……」
 綾女はこの話題をさらっと流したが、聞いていた方にしてみれば、何故だか分からないが引っかかる物を感じた。
 そもそも、何故にその第3音楽室で幽霊が出るなどという噂が出たのだろうか?
 何もなければそんな噂などすぐに消えてしまいそうなのだが……さて、どういうことか。

●非常勤講師と少女【1】
「先生、お昼一緒に食べませんかー?」
「先生、さっきの所がまだよく分からないんですけど……」
「先生のタイプってどんな娘なんですか?」
 口々に話しかけてくる少女たち。その中心に居た青年、宮小路皇騎は少女たちに少々気押されながらもきちんと応対をしていた。
 今は昼休み、ここはエミリア学院の校舎内だ。大学生である皇騎が何故『先生』と呼ばれているのか、それには次のような事情があった。
 エミリア学院の幽霊の噂の調査に乗り出した皇騎は、実家のコネを利用してコンピュータ関係の特別非常勤講師として潜り込んだのだった。調査のためには現場への出入りの必要があったからだ。
 その行動は、皇騎の通う大学が冬美原情報大学との提携校だったことも幸いし、迅速かつスムーズに事は運んだ。そして3日前からエミリア学院に出入りをしている。
 生徒たちに分かりやすく具体的な授業をするよう心掛けた皇騎は、すぐに生徒たちに親しまれていた。まあ、女生徒ばかりの中にかっこいい年上の美青年が現れたこともその要因だとは思うのだが。
「そういえば、妙な噂を耳にしたけれど。第3音楽室に幽霊が出るという話で……」
 頃合を見て、皇騎は少女たちに尋ねた。すると少女たちは口ごもり、言葉を濁しながらすすっと皇騎から離れていった。
(やれやれ。またこれか)
 皇騎が噂のことを口にすると、少女たちはすぐに居なくなる。この光景が何度も繰り返されていた。
(噂が流れているのは事実のようだが、目撃談や目撃者の話がさっぱり流れてこない……どういうことだ? それにこの反応も妙だ)
 思案顔の皇騎。ネットでも『学校の怪談』系の掲示板を調べていたが、エミリア学院に関わるような話は見られなかった。となると、噂は口コミのみか。
「先生、難しい顔をしてどうなされたんですの?」
 くすくすという笑い声と共に、少女の声が聞こえてきた。見ると窓のそばに、腰元まである長く綺麗な髪の小柄な少女が立っていた。
「ええっと、確か」
 顔には見覚えがあるが名前が出てこない皇騎。さすがにまだ全員の顔と名前は一致していない。
「お忘れですの? 高等部3−Fの二谷音子ですわ☆」
 音子は拗ねたような表情を浮かべた。皇騎はそんな音子に苦笑しつつも謝った。
「まあいいですわ。それより先生、興味がお有りですの? 第3音楽室の幽霊に……」
「気になるからね。昔何かあったのかい?」
「……ええ、ありましたわ。去年のことでしたわ。高等部の娘が、あそこの窓から転落したんですの。ただ夜遅くの出来事だったみたいで、発見されたのは翌日の早朝でしたけれど」
「自殺なのか?」
 皇騎の問いに音子は首を横に振った。
「遺書はなかったそうですわ。事故か自殺か……それとも他殺か。今も真相は闇の中ですわ。ですからこの話題、うちではタブーなんですの」
 タブーとなっているのであれば、先程の少女たちの反応も納得がいく。事件について触れること自体を恐れているのだろう。ましてや噂も流れているのだから。
「そして新年度になって、その音楽室に彼女の幽霊が出るなんて噂が流れ始めましたの。おかげで昼間でも授業がなければ、人が近寄らなくなりましたわよ。そうそう……そろそろ一周忌だと思いますわ。先生、くれぐれも夜の第3音楽室にはお近付きになりませんように」
 くすっと微笑む音子。一瞬皇騎はそんな音子に違和感を感じた。何がどうとは説明できないのだが……。

●この日、この時刻【5D】
「そろそろだな……」
 腕時計で時刻を確認した皇騎は、コンピュータルームを後にして第3音楽室のある校舎へ向かった。第3音楽室は5階にある。
 音子の話を聞いてから、皇騎は去年起きた事件について調べていた。事件は実際に去年起きており、しかも今日がその事件の起きた日だったのだ。
 そしてまもなく、亡くなった少女が転落したと思しき時間。もし幽霊が現れるのだとすればこの時間の可能性がある。皇騎はそれを確かめに行こうとしていた。
 噂の方も並行して調べていたが、やっぱり目撃者や目撃談は出てこなかった。
(第3音楽室では1人亡くなったという事実はある。それが自然と噂の裏付けになり、噂の真偽を確かめようとする者を抑えていた。噂の真偽は確かめられずに今日に至る……恐らくはそんな所だろうか。では誰が噂を流したのか?)
 思案顔の皇騎。何のためにそんな噂を流す必要があったというのか。
(待てよ、高等部?)
 不意に皇騎の脳裏に音子の顔が浮かんだ。音子も高等部の生徒だ。それにこうも言っていた。『くれぐれも夜の第3音楽室にはお近付きになりませんように』と、意味深に――。
「彼女は何かを知っている……!」
 皇騎がその考えに至った時、上の階から少女の悲鳴が聞こえてきた。すでに第3音楽室のある校舎へ入っていたのだ。
 皇騎は階段を駆け昇っていった――。

●待っていたのは【6A】
 志神みかねと北一玲璃の2人は隠れていた教室を飛び出すと、すぐに悲鳴の聞こえた第3音楽室へ駆け込んだ。
「あっ……」
「えっ……?」
 中の光景を見て、みかねと玲璃は入口に立ち尽くした。中に入っていけるような雰囲気ではなかったからだ。
 そのうち、悲鳴を聞き付けた者たちが第3音楽室へやってきた。最初にやってきたのは倉実一樹、次いで宮小路皇騎、続いて養老南、最後に南宮寺天音と海堂有紀という順番だった。後からやってきた5人も、入口前に立ち尽くすみかねと玲璃に阻まれて中には入れなかった。いや、阻まれていなかったとしても中に入るには少し躊躇したことだろう。
「いやっ、来ないでっ! 来ないでっ、どこかへ行ってよっ、私のせいじゃないっ!!」
 中では茶髪ポニーテールの少女が、必死に目の前の何かを振り払いながら逃げ惑っていた。だがしかし、入口前に居る7人には何も見えないし、何も感じなかった。
 視線をずらすと、左手の窓が開いていた。そしてそのそばに、腰元まである長く綺麗な髪の小柄な少女が立っていた。
「二谷音子……」
 皇騎が少女をフルネームで呼んだ。皇騎のつぶやきが聞こえたのか、音子が7人を見てくすっと微笑みを向けた。それは小悪魔っぽい笑みだった。
「いつの間に居たのかな……?」
「居なかったよね……?」
 ひそひそと話し合うみかねと玲璃。第3音楽室手前の教室で様子を窺っていたが、音子の姿は見かけなかった。2人が様子を窺う前からここに居たのだろうか。
 その間も少女は見えない何かから逃げ惑っていた。
「何で今になって……こんな! あなたが勝手に落ちたんじゃない……私はあなたの手を払い除けただけよっ! 万引きくらい見逃してくれてもいいじゃないっ、皆やってることじゃないのっ……!!」
 少女は大きく頭を振りながら叫んだ。
「私は悪くないっ! あなたが警察に行こうだなんて言うから……その手を払い除けただけよっ!! 勝手に落ちたくせに……!!!」
「どういうこと……?」
 事情が飲み込めない一樹がぽつりとつぶやいた。事情が飲み込めないのは他の者も同様である。が、ただ1人天音だけは違った。
「そーか、そーゆーことやね……」
 目の前の光景に納得するように大きく頷いた。
「お聞きになりましたかしら? 今の彼女の言葉」
 音子が7人に対して話しかけてきた。
「しっかり聞いたで。それと、この言葉を引き出すために幽霊の噂を流したことも分かったわ。……せやろ?」
 音子を指差し、天音がニヤリと笑った。
「ご名答ですわ。幽霊の噂はあたしが流したんですの」
「どうしてそんなことを……」
 みかねが音子に尋ねる。それに答えたのは皇騎だった。
「去年の今日、この日に起きた転落事故か」
「そうですわ、先生。あたしはその真実が知りたかった、ただそれだけですわ。だから今日、彼女をここに呼び出したんですの。何故かああしてますけれど」
 未だに何かから逃れようとしている少女の姿を見て、くすくすと笑う音子。少女は少しずつ窓際へ近付いていた。
「……理由知ってるんじゃないのかニャ?」
 音子をじっと見つめ、南が言った。音子は何も答えない。
「何にせよ有紀はん、賭けはうちの勝ちやね」
 天音は自分に抱きついている有紀にそう言った。有紀は噂が嘘だったことにショックを受け、半分気絶していた。天音の話が聞こえているかは分からない。
「……っ! 急に寒く……」
 一樹の身体がぶるっと震える。何かを感じたのか、皇騎が第3音楽室の奥に視線を向けた。
「何か居る……!」
 身構える皇騎。同時に第3音楽室の奥に白いもやが集まってきて、次第に人の姿へと変わってゆく。やがて、もやは少女の姿に変わった。この場に居る全員が、それ――幽霊を目撃していた。
「ひいぃぃぃぃっ!! いやっ、いやっ、いやぁぁぁっ!!」
 少女は幽霊から逃げるように後退りをしてゆく。少女の身体が窓にぶつかり、バランスを崩して――。
「危ないっ!!」
 思わずみかねは叫んでいた。少女のポケットから何かがこぼれ落ちる。少女はゆっくりと、スロー映像のように窓の外へ消えていった。外からは枝木に引っかかったような音が聞こえてきた。
 窓に殺到する7人。一樹の持っていた鈴の音が第3音楽室に響いた。するとどうしたことか、幽霊は怯えた表情を浮かべ姿をかき消した。
 窓の下、校舎の3階まである大きさの木のそばに少女が倒れていた。そして黒髪長髪の青年、卯月智哉が少女に声をかけていた。

●てんやわんや【7】
 夜のエミリア学院に、救急車とパトカーがやってきていた。もちろんそれだけではなく、学院長や理事長等の車もあったが。
 転落した少女は担架で運ばれ、救急車へ乗せられた。救急隊員の話では、生命に別状はないだろうとのことだった。詳しくは検査しないといけないだろうが。
「あたしと去年亡くなった娘はお友だちでしたの。だから、自殺するような娘ではないということは、あたしがよく知っていましたわ」
 二谷音子がその場に居た8人に対して話し出した。
「何かのはずみで転落したに違いない……そう思っていたあたしが真実を知ったのは、この春でしたわ。長らく彼女に貸していたたくさんの本を、彼女のご両親から返していただいた時でしたの」
「何があったの?」
 北一玲璃が音子に尋ねた。
「本の中に、彼女の日記が紛れ込んでいたんですわ。そこにはこう書かれていましたの。『万引きする所を見てしまった。辛いけれど、明日私は彼女に警察に行くよう言おうと思う。ちゃんと話せば分かってくれるはず』……彼女の亡くなる前日の日記ですわ。もちろん先程の彼女の名前も書いてありましたわ」
「それで真実を知るために、あんな噂流した訳やろ。うちらはそれにまんまと踊らされたって訳やね」
 南宮寺天音が溜息混じりに肩を竦めた。
「噂も使いよう……か」
 宮小路皇騎がぼそっとつぶやいた。
「まさか他の学校にまで広まっていたとは思いませんでしたけれど……噂の効果はありましたわ。こうして証人も多く得られましたものね」
 音子はくすくすと笑った。
「あの幽霊は……?」
 志神みかねが尋ねた。
「彼女の幽霊だと思いますわ。面影がありましたもの……」
 それを聞いて、海堂有紀がじっと天音を見つめた。
「……分かっとるよ、うちの負けや」
 天音の言葉に、有紀はぎゅっと天音に抱きついた。嬉しそうな表情だった。
「これ……どこまで書いていいの?」
 倉実一樹は頭を抱えていた。実際の事件が絡んでいて、ホラーではないようでホラーでもあって……非常に判断に苦しむ結末になってしまっていた。
「……よく分からないな……」
 卯月智哉はまだいまいち今回の事情が飲み込めていないようだった。
「刑事さんが呼んでるニャ」
 刑事から事情聴取を受けていた養老南が、音子を呼んだ。この場に居る全員には事情聴取という仕事が待っていた。向こうのパトカーの前には、冬美原警察捜査課の田辺良明警部補の姿があった。
「それでは全てお話ししてきますわ。皆様、またいずれ。ではごきげんよう……」
 音子は笑顔を見せると、深々と頭を下げた。そして皆に背を向けてパトカーの方へ歩いていった。

【第3音楽室の幽霊 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
               / 男 / 20前後? / 古木の精 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0597 / 海堂・有紀(かいどう・ゆき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 12、3? / 高校生/男娼 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0702 / 北一・玲璃(きたいち・れいり)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全19場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は、整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、『第3音楽室の幽霊』をお届けします。今回のお話は、ある意味冬美原の今後を決める内容でしたので、じっくり時間を取らせていただきました。
・今回のお話は読んでいただければ分かりますが、噂にまつわるお話でした。噂は使い方によってどうにでもなります。例えば今回の音子のように誰かを罠にかけたり……と。噂は上手く利用してくださいね。
・宮小路皇騎さん、5度目のご参加ありがとうございます。プレイング、要点を押さえていてよかったと思います。目撃者や目撃談を聞き込もうとしたのもよかったですね。講師の身分はこのまま保証します。講師の身分を利用する場合は、今回お送りするアイテムを使用してくださいね。
・次のアイテムをお送りします。次回以降冬美原でプレイングをかけられる際、臨機応変にアイテムをご使用ください。
【05:エミリア学院身分証(教員用)】
・効果時間:所持中永続
・外見説明:免許証大の大きさの顔写真入りIDカード
・詳細説明:エミリア学院の教員(非常勤講師含む)であることを証明する。胸につけることも可能。当然非売品。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。