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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


夢からさめたら【後編】
●オープニング【0】
 LAST TIME 『夢からさめたら』――。
 ある日、草間が口にした妙な依頼。それは依頼主長尾亮太(ながお・りょうた)の5歳になる入院中の娘、優子(ゆうこ)の話し相手をしてやってほしいという内容だった。
 長尾が海外出張中の間、各々思い思いの手段で優子の相手をしに行った。人懐っこい優子はすぐに皆と打ち解けていたが、病状に関しては何故かよく分からないままだった。
 そして5日目に異変は起こる。病室を訪れた一同が揃って悪夢を見たのだ。そしてうなされる優子を起こした所、優子は打ち解けたはずの一同に対し『誰?』と言い放ったのだ。そんな優子は直後激しい頭痛を訴えた。
 担当医の口から衝撃の事実を聞かされる一同。何と優子の脳がCTスキャン等に写らないのだ。まるで闇に覆われたように。病状から脳腫瘍の疑いもあるが、今のままでは手術もままならないということだった。
 怒りと悲しみに包まれた一同だったが、その中の1人がふと口にした。知り合いが経験した話ではあるが、とある女性が夢魔に憑かれ、精神のみならず肉体をも蝕まれたと。
 優子の場合もそれと同様であれば、夢魔を倒せば助かるのではないだろうか――?

●いざ、夢の中へ【1】
 開かれた窓からは心地よい風が吹き込んでいた。空を見れば青く澄み渡っている。だがしかし、そんな外の様子とは違い、病室の中は重苦しい空気に包まれていた。
「こんなのって、こんなのって許せないよ……!」
 すやすやと寝息を立てている優子の寝顔を見ながら、沙耶が苦し気につぶやいた。今でこそ穏やかな優子の様子だが、その精神および肉体は夢魔によって脅かされていると思うと、悔しくて仕方がなかった。
「ああ、決して許すことはできん。年端も行かない子供の内にしか巣食えぬ邪妖が……」
 慶悟はぎりっと奥歯を噛み締めた。その表情からはかなりきていることが窺えた。いや、慶悟のみならず、この場に居る全員がそうだった。何しろ普段笑顔を絶やさないファルナの顔から笑顔が消え、珍しく真剣な表情でいたのだから。
 あれからすでに3日が経っていた。優子の記憶は翌日こそはまだ多少混乱していたが、昨日今日では記憶を取り戻していたことがまだ明るい材料である。しかしそれも、事態が長引けばどうなるかは分かった物ではない。
「でも、夢魔を倒せば優子ちゃん元気になるんだよねっ! がんばるずぉーっ!」
 千里は元気よく拳を突き上げた。何しろ昨日は優子と『元気になって、お外でみんなでいっぱい遊ぼうね?』と指切りをしたのだ。何としても約束を守らねばならない、千里はそう心に決めていた。
 翔はしきりに時間を気にしていた。何度となく腕時計に目をやっている。
「どうかしたの?」
 気になったシュラインが翔に尋ねた。
「いえ、敵が精神世界の者ですから、うってつけの友人に連絡を取りまして。そろそろだとは思うんですが」
「友人?」
「ええ。シュラインさんも恐らくご存知の人ですよ」
 翔はくすっと微笑んで言った。
「……そろそろ行くか」
 慶悟はそうつぶやき椅子に腰掛けた。それを合図に皆も椅子に腰掛ける。
「大丈夫。夢からさめたら全て終わってるわ……大丈夫だから」
 優子の耳元でささやいてから、最後にシュラインが椅子に腰掛けた。優子にその声が届いているかは分からない。
「ファルファ……」
 ファルナは1人だけ立っていたメイドのファルファに声をかけた。ファルファは無言で頷いた。
 そして――ファルファ以外の6人は夢の世界へと落ちていった。6人を待っているであろう、夢魔へ対する敵意を抱きながら。

●優子を求めて【2A】
 至る所で炎が揺らめいていた。例えるならば炎の木、そして炎の森。その炎が闇を紅く照らしていた。
「あの2つの夢を合わせると、こうなるってことね」
 シュラインが炎の木々を横目に言った。イメージをしっかり持っていたからだろう、以前の悪夢のように身動きできなかったり、足元が沈んでゆくということはなかった。
 紅く照らされた闇の中、優子の姿を求めてあてもなく彷徨う一同。シュラインの耳にも何も聞こえてはこない。ファルナは一言も言葉を発していなかった。
「恐らく夢魔は優子ちゃんのそばに居るはず……まずは夢魔から引き離して、護るべきでしょうね」
 翔が小声で言った。慶悟がそれに頷く。
「盾にせんとも限らんからな」
 幼い娘に憑くような奴である。いざとなればそのくらいのことはしてくるだろう。
「見て、あれっ!」
 不意に何かを見つけ、千里が叫んだ。見ると、そこにはいくつもの触手を持つ異形の者の姿があった。一目で分かる、そいつが夢魔であると。
 夢魔の触手の1つはパジャマ姿の少女に絡み付いていた。少女――優子は苦し気な表情を浮かべている。
「優子ちゃん……!」
 思わず沙耶が口元を押さえた。

●夢魔【3A】
 夢魔のそばには、光る小さな丸い物体がいつくも浮かんでいた。触手の1つがそれをつかみ口へと運んだ。
「ふはは……お主のような幼子の夢は、いつ食しても旨いのぉ。未来という名の夢は何とも甘露じゃ。摘み取る楽しみも含めてのぉ……ふははははぁ……!」
 夢魔のくぐもった声は一同の耳に聞こえていた。
「1つ1つ、じわじわと食してやるからのぉ……お主の夢も記憶も……全て、全てわしの物じゃ……お主が死ぬまでのぉ?」
 夢魔が優子にニヤーッと微笑んだ。顔を背ける優子。触手が優子の身体をさらに強く締め付けた。
「ああっ!」
 苦痛に歪む優子の顔。目には涙が浮かんでいる。
「そうじゃそうじゃ、もっと苦しむがいい。お主の苦しむ顔もわしを喜ばせる、わしの糧となる……ふははははぁ!」
「そこまでだ、夢魔めっ!!」
 千里が大声で叫んだ。
「ぬ、何奴じゃ!」
 はっとして夢魔が一同の方に振り向いた。
「おねーちゃん! おにーちゃん!」
「大丈夫。こんな奴、お姉ちゃんたちがすぐに倒してあげる……だから大丈夫」
 シュラインは優子を励ますように言った。もっともすぐにというのは難しいかもしれないが……。
「ふっ、何を戯言を! ここはわしの領域じゃ……土足で踏み込んで、無事に帰れると思うでないぞ!」
「何を戯けたことを!」
 ふざけたことを言う夢魔に対し、慶悟はそう一喝した。そして両目を閉じ、意識の中に悪夢の払拭と現象のイメージを強く持つ。手の中に呪符が現れた。
「古来より……事象と心は相通ず……怒りの念は『炎』に、誅せし意志は『雷』に、仇討つ覇気は『嵐』に……俺の心を凌駕できるか? 邪妖!」
 慶悟がカッと両目を見開いて、術を行使した。呪符が変化し、炎の輪となり夢魔へと襲いかかる。
「そんな子供騙しが通用すると思うたか!」
 夢魔は余裕綽々で炎の輪をかわした。夢魔の後方へ飛んでゆく炎の輪。だが慶悟はそれを見てニヤリと笑みを浮かべた。まるで狙い通りとでも言うように。

●奪還【4】
「我が手に戻るがいい!」
 慶悟はパチンと指を鳴らした。するとどうだろう、夢魔の後方へ飛んでいった炎の輪が急激に回転を変えて戻ってきたではないか。
「何ぃっ!」
 夢魔が驚愕した。再びかわそうとするが少し遅かった。炎の輪は夢魔の触手を切り裂いた――優子に絡み付いていた触手を。
「ぐわっ!」
 翔はその瞬間を見逃さなかった。念動力で自らの身体を高速で優子の元へ運び、優子の身を確保したのだ。そしてそのまま皆の元へと戻ってくる。
「優子ちゃん!」
 沙耶が優子の身体をぎゅっと抱き締めた。優子も沙耶を抱き締め返す。
「おねーちゃん……!」
「もう怖くないよ。お姉ちゃんが、みんないるからね。大丈夫よ」
 優子の背中をぽんぽんと優しく叩く沙耶。そして夢魔に向き直ると、きっと睨み付けた。
「何で優子ちゃんにこんな酷いことするの? 絶対に、絶対に許さない。優子ちゃんはも渡さないわ……!」
「何をぅっ!? お主らこそ、肝心なことを忘れておるようじゃな……ここは未だ、わしの領域であることをなぁっ!!」
 怒る夢魔の触手が、一斉に一同に襲いかかってきた。沙耶たちにはそのうちの5本がやってきた。目を閉じ、何としても優子をかばおうとする沙耶。その時だ、千里が2人の前に躍り出たのは。
「ハイパー千里アタァァァァック!!」
 いつの間にか作り出していた魔法少女なステッキで触手たちを立て続けに薙ぎ払う千里。
 一方、翔はシュラインをかばいつつ触手たちを回避していた。そして慶悟はというと――。
「陰陽五行の理は、我が内に在りて容を為す。貴様如きに陰陽の真髄が量れるか! 微塵と散れ!」
 そう恫喝し、複数の雷を夢魔に放っていた。夢魔を誅するために。
「甘いわっ! わしの力をお主らに見せてくれるわぁっ!!」
 夢魔の目が妖しく光った。と同時に、慶悟の放った雷と千里の手にしていた魔法少女なステッキが霧散した。
「ああっ!」
 触手を薙ぎ払う途中だった千里は、バランスを崩し転倒した。慶悟が舌打ちをした。
「さーて、1人ずつ血祭りに上げてやろうかのぉっ!! まずはお主からじゃぁっ!」
 夢魔の触手がファルナの身体を縛り上げた。神崎美桜が6人に合流したのはこの時だった。

●怒り、そして反撃の狼煙【5】
「ファルナおねーちゃん!」
 優子が驚きの声を上げた。ファルナは無言でその苦痛に耐えていた。
「迂闊に手を出せないわね……これじゃあ」
 シュラインが唇を噛み締める。ファルナを盾に取られてはどうしようもない。身構えたまま、何とか隙を見つけようとする残りの一同。
「……ほぉ?」
 ファルナを見て、夢魔がニヤーッと妖し気な笑みを浮かべた。
「お主もなかなか旨そうな物を持っておるのぉ……。苦しみはのぉ、苦味があっていいんじゃ……特に肉親に対する苦しみはなぁ」
 それを聞いてファルナの顔色が変わった。
「それから他人への羨みはのぉ……塩味がきいていいんじゃ。お主にはさぞかし羨ましかろう……あの娘が」
 夢魔は触手を通じてファルナの心を読み取っているようだった。
「安心せい……全てわしが喰うてやる。お主の父親への想いもろとものぉっ……ふははははっ!!」
「……です」
 ファルナがぼそっとつぶやいた。
「……優子ちゃんが羨ましいのは本当です……ですが、どんな仕打ちを受けても、私にとっては唯一の……かけがえの無いお父様なんです!」
 夢魔をきっと睨み付けるファルナ。その顔には怒りが浮かびつつあった。
「まだこんなに小さいですのにお母さんを亡くされ、それでもお父さんを慕い一緒に頑張って生きていこうとなされてる優子ちゃんに、こんな仕打ちをなさるなんて……絶対に、絶対に貴方だけは許せません!」
「ほぉ……許せぬとな? ならばどうするんじゃ?」
「ファルファ……カムヒア!!」
 怒りの表情で叫ぶファルナ。すると驚くべきことに、病室に残っていたはずのファルファが姿を現したのだ。いつものメイド姿ではない、複数の火器が目に入る完全武装形態だ。
「小賢しい! 消し去ってくれるわぁっ!」
 再び夢魔の目が妖しく光った。
「……そうはさせません!」
 美桜が力を開放して、夢魔の力を押さえ込もうとした。その目に見えぬ戦いで勝利したのは、美桜とファルナの方だった。ファルファは何ら変わることなく、夢魔の前に立っていた。
「何じゃと! わしの力が効かぬというのか……!」
「ファルファ、モード移行! 手加減いりません!」
「はい、マスター!」
 ファルファの全火器の照準が驚愕している夢魔にセットされた。
「ファイア!!」
 そしてファルナの命令と共に、全火力が一斉に夢魔へと叩き付けられる。ロケットパンチやら、アストラルキャノンやら一切合切関係なしにだ。
「ぐおぉぉぉっ!!」
 さすがに全火力を叩き付けられてはたまったものではない。苦しむ夢魔の触手が緩み、ファルナは地面へと落下した……かと思われたが、翔の念動力によって地面に落下することなく、一同の元まで運ばれてきた。これで再び夢魔の盾はなくなった。
 さあ、反撃の開始だ――。

●叩き潰すのみ【6】
 慶悟が再び複数の雷を放った。今度は霧散することなく全てが夢魔に叩き付けられる。心なしか、先程よりも雷が大きくなったような気がする。
「うがぁっ!」
 苦しみ傷付いた夢魔に反撃の隙を与える間もなく、翔が夢魔に襲いかかった。笑顔のまま、立て続けに正拳突きを3発叩き込む。
「ぐむぅっ!」
 そして翔が離脱すると即座にファルファが火力を叩き込む。なおも優子に襲いかからんとする触手は、千里が再び作り出した魔法少女なステッキで退けてゆく。それら攻撃は着実に、確実に夢魔にダメージを与えていた。
 その陰には、夢魔の力を抑えんとする美桜の力と、イメージを形にするべくしきりに言葉を発しているシュラインの力があった。これらの複合作用によって、夢魔へと与えるダメージは増幅されていた。
 どのくらいの時間が経ったことだろう、繰り返される攻撃にさすがの夢魔も弱っていた。もちろん一同にも疲労の色が見えていたが。
「この娘の心はこの娘の物だ。貴様如き澱みが居座っていい場所ではない」
 慶悟が夢魔にそう告げ、式神を呼び出した。以前昼間に優子と共に召喚した式神だ。それは人形ではあるが、何やら粘土で作ったような感じがする式神だった。
「さあ! 今度は昼間にお前が呼んだ式神の出番だ! ぶっとばせ! お前に巣食う夢魔を……お前の手で!」
 慶悟は優子に強く呼びかけた。いつしか慶悟は気付いていたのだ、今は夢魔の領域ではあっても元々は優子の夢の中、最後に止めを刺せるのは優子自身であろうと。
 しかし沙耶の腕の中にあった優子はふるふると頭を振った。
「できないよぉ……優子そんなことぉ……」
「優子ちゃん……」
 沙耶が心配そうに優子を見守っている。
「優子ちゃん、おねーちゃんと約束したよね。指切りしたよね。元気になって、一緒に遊ぶって。だから……だから、こんなのに負けちゃダメだよっ!」
 千里から激励が飛んだ。
「夢からさめたら、また一緒に遊ぼうね。絵本もいっぱい読んであげる……だから優子ちゃん」
 沙耶も懸命に優子を励ます。しかし、優子は頭を振り続ける。
「優子できないよぉ……怖いよぉ……」
「いい加減にしなさい!」
 突然シュラインから叱責が飛んだ。
「お父さんとの大切な記憶をあんな奴に飲み込まれてしまってもいいのっ? 楽しくて素晴らしい記憶を……お父さんが好きなんでしょう?」
「おとーさん……」
 優子がぽつりとつぶやいた。それと共に、粘土で作った人形のようだった式神が、次第に形を整えてゆく。そして、どこからともなく放たれた一筋の光がその式神を包んだ。
「これはいったい……」
 唐突な出来事に翔が言葉を漏らした。光が消えた後、そこに立っていたのは1人の男性だった。
「おとーさん!!」
 その男性を見て、優子の顔がぱあっと明るくなった。一同はまだ顔を合わせたことがなかったが、この男性が優子の父親である長尾なのだろう。
「今だ、仕掛けろ!」
 慶悟の言葉に、優子が小さく頷いた。長尾の姿をした式神が、慶悟の力添えで夢魔へと襲いかかってゆく。翔とファルファ、そして千里が援護に回った。夢魔の力は美桜が抑え込んでいる。
 1撃、2撃……繰り返される式神の攻撃。夢魔は激しく苦しんでいる。
「「「「「「「止めだ!」」」」」」」
 皆の声が、想いが重なった。式神の最後の一撃が夢魔に叩き付けられ――夢魔の身体は紅く照らされた闇の中に沈んだ。

●脱出【7】
「や……やったぁーっ!!」
 両手を上げて激しく喜ぶ千里。ついに夢魔を倒したのだ、喜ぶのも当然のことだった。
「式神、強かったぞ」
 慶悟は優子に微笑んだ。優子は照れたような恥ずかしそうな表情を浮かべていた。そんな優子の頭を、沙耶がそっと撫でてあげた。
 だが一同がそんな風に安堵できたのはそこまでだった。足元がぐらりと揺れ始めたのだ。それだけではない、闇の地面があちらこちらで崩れ始めていた。
「えっ……!」
 驚きを隠せないシュライン。慌てて地面の崩れないイメージを強く持ち直すが、一向に治まる様子を見せない。
「ふ……ふははははぁ……わし1人では滅びぬわぁっ! こうなれば、お主らも滅びの道連れにしてくれるっ……ふは……ふはははは、ふははははぁっ……!!」
 夢魔の声が辺りに響き渡った。それが夢魔の最後の言葉だった。何故なら、その直後に夢魔の身体は霧散したのだから。
 崩れゆく闇の地面、倒れゆく炎の木々、夢魔の世界は今まさに崩壊しようとしていた。
「私が道を作ります!」
 美桜はそう言うと、力を使って1本の道を作り上げた。現実世界に帰るための道だ。だが、周囲の様子を見ていると長く持つとも思えない。うかうかしている暇はなかった。
 崩れゆく夢魔の世界を横目に駆けてゆく一同。しかし走っても走っても出口らしき場所には一向に辿り着かない。
「夢魔の最後の呪いか!」
 慶悟はぎりと歯ぎしりをした。恐らく夢魔が迷うように呪いをかけたのだろう。
「待ってください、あれを!」
 翔が何か見つけたのか、立ち止まって指差した。そこには暖かな光の球が、一同を誘うように浮かんでいた。
「罠……?」
 訝る翔。だが美桜がそれを否定した。
「いいえ。あの光は……先程の光と同じのようです」
「味方なのだとしたら、あの光についてゆくしかないわね」
 シュラインのその言葉を受けて、一同は光の球の後を追うことに決めた。
 走って走って走り続ける一同。やがて前方に大きな光が見えてきた。次第にその距離は近くなり、ついに一同は光の中へ飛び込んだ。
 その瞬間、一同は光の中に優し気に微笑む女性の姿を見た――。

●現実世界で【8】
 一同が次に気付いた時は、優子の病室だった。そう、夢魔の世界から無事に戻ってきたのだ。
 優子に目をやると、すやすやと眠っている。うなされている様子は見られない。
「優子ちゃん……?」
 沙耶がそっと優子に声をかけた。優子の目がすうっと開き、ゆっくりと上体を起こした。
「優子ちゃん……」
 心配そうな表情を浮かべ、声をかけるシュライン。
「あれ……どうしたの、おねーちゃん、おにーちゃん?」
 きょとんとした表情を浮かべ、優子はそう言い放った。
「優子ちゃん、あたしのこと分かる?」
 ずいと1歩出て、千里は自らの顔を指差した。
「うん、千里おねーちゃんでしょ!」
 優子はにっこりと微笑んで答えた。
「い……やったぁーっ!」
 千里は喜びを身体全体で表現した。残りの皆にも安堵の表情が浮かんでいた。
 夢魔はもう、居ない――。

●退院の日【9A】
「ありがとうございました」
 優子の退院の日、病室には深々と頭を下げる長尾の姿があった。隣には父親の手をしっかりと握っている優子の姿もある。
「いえ、こちらこそ楽しかったですよ。それよりも、優子ちゃんに何ら異常が見つからなくてよかったですね」
 翔はそう言って長尾に微笑んだ。美桜が静かに頷く。夢魔を倒して後、優子には念入りに検査が行われた。脳が写らないということはもうなく、その上喜ばしいことに何ら異常が見つからなかったのだ。つまり原因はやはり夢魔にあった訳だ。
「あのね、あのね、おねーちゃんとおにーちゃんたち、優子の夢の中で悪い奴をやっつけてくれたんだよ!」
 父親に嬉しそうに話しかける優子。長尾はそんな優子の頭を優しく撫でてあげた。それを見て慶悟は目を細めた。
「優子ちゃん、今度は病院以外の場所で会おうね」
「そうそう、遊園地で仲良く遊ぼ♪」
「皆で一緒に遊びに行けたらいいですね」
「うんっ!」
 沙耶と千里と美桜の言葉に、優子は何度も何度も頷いた。
「優子がこんなに元気になって、妻も喜んでいると思います……」
 長尾が懐から写真を1枚取り出した。シュラインがその写真を覗き見た。
「この人って……!」
 シュラインは思わず口元を押さえた。写真の中には、優し気に微笑む女性の姿があった。その顔は、夢魔の世界から脱出する瞬間に見た女性と全く同じだったのだ。
 優子は満面の笑みを浮かべていた。

【夢からさめたら【後編】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0158 / ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう)
              / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 0165 / 月見里・千里(やまなし・ちさと)
                 / 女 / 16 / 女子高校生 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0413 / 神崎・美桜(かんざき・みお)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0416 / 桜井・翔(さくらい・しょう)
   / 男 / 19 / 医大生&時々草間興信所へ手伝いにくる。 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全12場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、後編をお届けします。無事に夢魔を倒すことができ、高原もほっとしています。ちなみに今回のタイトルは、とある曲名が元ネタだったりします。
・今回は精神に作用する能力を持っていたり、精神力を強く持つような行動をしていたり、怒りのパワーを使ったりしているとプラスに判定していました。結果、本文の通りになっています。
・あの光なんですが、実は前編にも登場しています。よかったら読み返してみてくださいね。
・シュライン・エマさん、18度目のご参加ありがとうございます。イメージを言葉にしたのはよかったと思いますよ。金沢依頼の方はもう少しお待ちください。プレイングは手元にありますのでご心配なく。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。