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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


落武者の魂五百まで!?
〜 1日目朝・草間興信所 〜

「お願いします。なんとかして宗十郎を止めて下さい!」
そう言って、依頼人の青年は深々と頭を下げた。

彼の名は笠原利明。
この春、草間興信所にほど近いアパートの一室に兄の和之と一緒に越してきた、どこにでもいそうな大学生だ。
そう、兄と、そして落武者の亡霊と一緒に住んでいる、という点を除けば。

宗十郎というのは、その同居人(霊?)の落武者の名前である。
利明によると、宗十郎は二人が今の部屋に越してきた日の晩に突然現れ、「自分はかつてあなた方のご先祖様に仕えていた者だが、最後の主命を果たせなかったのが心残りでこの世に留まっている。ここであなた方に出会えたのも何かの縁、どうかあなた方に仕えさせていただきたい」と言いだし、それ以降そのまま居着いている、ということらしい。
もちろん、二人も最初のうちは戸惑ったが、宗十郎が特に騒ぎを起こすようなこともなく、また二人の方も次第に宗十郎の存在に慣れ始めたため、これまで特に問題らしい問題が起こったことはなかった。

ところが、一週間ほど前に、ある事件が起こった。
深夜、バイトからの帰り道で、和之が数人のガラの悪い連中に襲われたのだ。
幸い近くにいた人が携帯で一一〇番通報をしてくれたらしく、和之は骨を何本か折った程度で済んだ。
しかし、これを聞きつけた宗十郎が「我が殿にかような狼藉を働いた輩を生かしておくわけにはいかぬ」と憤り、和之を襲った連中の首をはねて入院中の和之の所へ持っていく、と言いだしてしまったのだった。

「なんにしても、首をはねるというのは穏やかじゃないな」
利明の話を聞いて、矢塚朱姫(やつか・あけひ)は考え込むように言った。
首をはねるという方法自体には賛成しかねるが、宗十郎の気持ちもよくわかる。
だから、なんとかして宗十郎も依頼者も納得する形で解決してやりたい。
それが、朱姫の偽らざる気持ちだった。

「そうですね。もしそんなことになったら、大騒ぎになってしまいます」
朱姫の言葉に真っ先に同調したのは葛城雪姫(かつらぎ・ゆき)だった。
朱姫が宗十郎に強く共感していたのと同じように、雪姫は依頼主の利明に奇妙な親近感を覚えていた。
それというのも、彼女には何度も危ないところを紅の鎧を纏った武者の霊に救われた記憶があるからである。
話を聞く限り、詳細な点ではだいぶ違っているかも知れないが、同じように「武者の霊に守られている」という点で、非常によく似た境遇と言っていいだろう。
そのことが、彼女を「放ってはおけない」という気持ちにさせていた。

「何とかして、宗十郎さんを止めなくっちゃ」
朱姫と雪姫の言葉を受けて、滝沢百合子(たきざわ・ゆりこ)は力強くそう言った。
二人の場合とは異なり、彼女が抱いた最初の感情は宗十郎に対する興味だった。
小さい頃から剣道をやっていた彼女は、「本物の侍の剣技」というものに対して強い興味を抱いていたのである。
その「本物の侍の剣技」を見られるまたとない機会が、今自分の目の前にある。
そう考えると、彼女の胸は躍った。
そして、それと同時に「まずはこの事態を何とかしなければ」という思いも自然と強くなっていくのだった。

と、その時。
三人とは少し離れたところで何事か考えていた水野想司(みずの・そうじ)が、突然その場に立ち上がった。
「いいこと思いついた。笠原さん、今回の件は僕に任せてよっ☆」
そう言うが早いか、彼はまさに「目にも止まらぬ」という形容が相応しいような速さで興信所の外へと飛び出していった。

思いついたらすぐ行動。彼のその類い希なる行動力は確かに賞賛すべきものではある。
しかしながら、その行動力の向けられる方向が彼の「世間一般の常識とは地球と蠍座のアンタレスほどもかけ離れた『常識』」によって決定されるとなれば、これはもう端から見れば単なる暴走でしかあり得ない。
そしてその例に漏れず、今回も想司の考えは最初の一歩から完全に間違っていた。

『なんとかして宗十郎を止めて下さい』。依頼主は確かにそう言った。
では、何故宗十郎が犯人グループの首をはねるのを止めなければならないのか?
「人を殺してはいけないから」という答えを出すことは、一般的な常識を持つ人間にとってはさほど難しいことではないだろう。

だが、想司の答えは違っていた。
「一発で首をはねてしまっては一瞬しか苦しまないから」。
それが彼の『常識』の出した答えだった。
さらに彼は、そこから「依頼主は『一撃で殺したりせずに、急所を外して何度も攻撃を加え、存分に苦しめてから殺すこと』を求めている」と言う方向へ推理を進め、しまいには「そんな楽しい事なら、僕が抜け掛けしてしまおう」という、とんでもない結論へと到達してしまっていたのである。

興信所に残っているメンバーの中で、薄々ながらも想司の「暴走」に気づいていたのは、彼の友人でもある百合子のみだった。
「ひょっとしたら、仕事、増えちゃったかも」
不吉な予感がした百合子が小さくため息をつくと、想司のことを何も知らない雪姫が怪訝な顔でこう尋ねた。
「あの、何か問題でもあるんでしょうか?」
「あ、うん、ちょっとね」
ただでさえ大変な事件なのに、これ以上余計な心配をかけてはならない。
そう考えて、百合子は一度言葉を濁すと、少し考えてからこう言った。
「私、想司くんを追いかけてみる」
純粋な足の速さで言えば、百合子が想司に追いつくことは不可能に近い。
だが、幸いなことに、想司は思いつきで飛び出しては行ったものの、犯人の顔はおろか、犯人が誰であるかも知らない。
それならば、彼を捕まえるチャンスはいくらでもあるはずだった。

百合子が出ていってしまうと、朱姫は「やれやれ」といった様子で小さくため息をついてから、雪姫の方に向き直った。
「さて、私はまずは犯人が誰かを調べようと思うが、雪姫はどうする?」
「私は、とにかく一度その宗十郎さんに会ってみようと思います。ひょっとしたら、なんとか説得できるかも知れませんから」
雪姫がそう答えると、朱姫は軽く頷いた。
「わかった。それじゃ、そっちはよろしく頼む」
「はい。朱姫さんも、お気をつけて」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 1日目昼・病院 〜

「失礼します」
そう言って、朱姫は病室のドアを開けた。
犯人の手がかりを得るべく和之のバイト先の仲間や現場近くの人たちに聞き込みを行った朱姫だったが、あまり有力な手がかりは得られず、やむなく最後の手段として和之本人に事情を話して犯人について尋ねることにしたのだった。

少し待ってみたが、返事は全くない。
朱姫はもしかしたら眠っているのかも知れないと思ったが、例え眠っていたとしても一刻を争う事態である以上は起きてもらうしかないと考え、意を決して和之がいるはずの一番奥のベッドの方へと向かった。

朱姫の心配に反して、和之は眠っていなかった。
だがその代わり、彼は絵を描くのに熱中していて、朱姫には気づいていないようだった。
「笠原和之さん、ですね?」
確認の意味も込めて朱姫がそう尋ねると、和之はようやく彼女に気づいたらしく、スケッチブックを置くと不思議そうな顔で彼女を見つめた。
「ええ、確かに私が笠原ですが、何かご用ですか?」





「なるほど、宗十郎がそんなことを」
朱姫が事情を説明すると、和之は困ったように呟いた。
「確かに、彼の性格からすればやりかねませんね」
「何とかして、ことが起こる前に犯人の身柄を確保したいんです。何でもいいですから、和之さんの覚えていることを教えてください」
改めてそう頼む朱姫。
和之は少しの間考えると、真剣な顔でこう尋ねた。
「一つだけ聞かせて下さい。あなたは、この事件をどのような形で解決しようと思っているんですか?」
「まだ、具体的なことは決まっていません。けれど、何とかして利明さんも、宗十郎さんも、そしてあなたも納得できるようにしたいと思っています」
迷うことなく、朱姫はそう答えた。
和之はそんな朱姫の目をじっと見つめて、そして安心したように微笑んだ。
「わかりました。そういうことなら、全面的に協力しますよ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 1日目夕・「公園」 〜

朱姫がその場所にたどり着いた頃には、すでに辺りはかなり暗くなっていた。

和之から聞いた話では、犯人は全部で四人。
いずれも二十歳そこそこの若い男で、よく「公園」――公園と言うことになってはいるが、ほとんど誰にも利用されてはいない空き地――にたむろしているということだった。

「公園」に入ると、その四人はすぐに見つかった。
もっとも、髪の赤いヤツが一人、青いヤツが一人、金髪が二人などという信号機のような集団では、多少周囲が暗くともすぐに見つからない方がどうかしているかも知れないが。
「おい、お前達」
朱姫がそう声をかけると、四人全員が一斉に彼女の方を振り向き、一瞬驚いたような表情を浮かべた。
そんな様子には全く構うことなく、朱姫は言葉を続ける。
「お前達が傷つけた者の縁の者がお前たちに復讐しようとしている。死にたくなければ来い」
それを聞くと、四人は顔を見合わせて何やら二言三言交わすと、苦笑いを浮かべながら立ち上がった。
「はぁ? どういうことだよそりゃ。ねぇちゃんがオレ達のことを守ってくれるとでも言うのかよ?」
赤い頭の男がもっともと言えばもっともな反応を示す。
「まあ、そういう言い方もできなくはないな」
朱姫がそう答えると、今度は青い頭の男が呆れたように言った。
「おいおい、冗談だろ!? オレ達でも殺されるかも知れないような相手から、アンタがどうやってオレ達を守ってくれるってぇんだ?」
「相手は恐らくお前達が何を言っても聞く耳は持たないだろう。だが、おとなしくついてくれば、あるいは止められるかも知れない」
別に嘘をつく必要もないと考え、正直に答える朱姫。
しかし今度は先ほどの赤い髪が再び疑問を呈した。
「ちょっと待てよ。それじゃねぇちゃんもそいつの知り合いなんじゃねぇの? なんの理由があってオレ達を守ろうとすんだよ?」
「別にお前達を守ろうとしているわけじゃない。ただ知り合いに罪を犯させたくないだけだ」
その朱姫の言葉を聞くと、どうやらリーダー格であるらしい赤い髪は残りの三人の方を向いて尋ねた。
「だってよ。どうする?」
しかし、残りの三人は答えず、ただにやついた笑みを浮かべているだけだった。
それを見て、赤い髪は朱姫の方に向き直った。
「最後に、もう一つだけ質問いいか?」
「何だ?」
「そんな話聞いてよ、はいそうですかとオレ達がついていくと本気で思ってたのか?」
赤い髪のこの言葉は、実質的には交渉の決裂を意味していた。
しかし、朱姫としても事態が急を要する以上、ここでおとなしく引き下がるわけには行かない。
「そうは思っていないが、こちらとしてはそうしてもらわないと困るんだ。それに、お前達だって死にたくはないだろう」
朱姫はそう食い下がってみたが、その言葉はなんの効果も現さなかった。
「ンなの、オレたちの知ったことかよ。それより、ちょっとつきあってくんねぇ? オレらさぁ、今とっても暇してんだよ」
「そうそう、やることもなければ、遊ぶ金もねぇしな」
ことここに至っては、これ以上の話し合いは完全に不可能である。
それどころか、このままここに居続ければ自身の安全すら脅かされかねない。
そう考えた朱姫は、直ちに自分のとるべき行動をとった。
すなわち、「三十六計逃げるに如かず」である。

幸いなことに、四人組が追ってくる気配はなかった。

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〜 2日目夜・「公園」 〜

「おい」
朱姫が再び「公園」に行くと、四人組はやはり昨日と同じ場所にいた。
「なんだ、昨日のねえちゃんか。まだ何か用か?」
バカにしたように赤い髪の男が言う。
しかし朱姫は表情一つ変えずに、淡々と続けた。
「お前達は忠告を無視した。皆もうそこまで来ている。こうなったらもう私にも止められない」
その言葉で、四人組に微かに動揺の色が浮かぶ。
「へ、へっ。 誰が来ようと、返り討ちにしてやるよ!」
あくまで強気の姿勢を崩さずに後ろの金髪の片方がそう言ったが、動揺の色は隠し切れていない。
(これで、第一段階は成功だな)
そう思いながら、朱姫はくるりと四人組に背中を向けた。

昼のうちに、朱姫達は利明のアパートにて「作戦会議」を済ませていた。
犯人達の集まっている「公園」はそれなりに広く、「公園」の中央付近であれば多少何かやっても目撃者が出る恐れはゼロに近い。
彼らがそこをたまり場にしている理由が、今回ばかりはこちらに有利に働く形となった。
だが、問題は「彼らをいかにしてその中央付近に誘い出すか」と言うことであった。
「最初に相手に顔を知られている朱姫が誘い出す」というのが当初の計画だったが、それだけではうまくいくかどうかわからない。
何か、もう一段階、確実性のある「誘い込み方」、もしくは「追い込み方」が必要だった。
「『追い込む』と言うことなら、想司くんが適任なんじゃないかな」
最初にそう言い出したのは百合子である。
彼のことをよく知らない雪姫と利明は反対したが、百合子が想司の類い希なる体術について説明し、実際に想司がそれを証明してみせると、途端に利明が目を輝かせてこう言いだしたのだった。
「想司くんにお願いすることに異存はありません。ただ、せっかくですからもう一工夫してみましょうか」

その「一工夫」の結果、想司は忍者の格好をして近くの屋根の上に潜んでいた。
背中にはやや短めの刀が、そして手には三つの手裏剣が握られている。
これらの小道具は、いずれも利明が用意したものだった。
実は彼は大学では映画部に所属しており、ちょうど以前に時代劇を撮ったことがあったので、その時に使った小道具をいくつか持ち出してきたのである。
もちろん装束の方はそのままではサイズが合わないため、大急ぎである程度寸法を直してあった。
手元にある道具で、それも大急ぎで行った作業だったため、あまり明るい場所ではやや違和感があったかも知れないが、夜中というのが幸いして、それほどの違和感は感じられなかった。

「私の言いたいことはそれだけだ。もう会うこともないだろう」
それだけ言って立ち去ろうとする朱姫を、四人組があわてて追いかけようとする。
そのタイミングを見計らって、想司は四人組の足下に手裏剣を投げた。
「な、何だっ!?」
四人組が突如足下に飛んできた「何か」に気づいて、一斉にその飛んできた方を見上げる。
その瞬間を逃さず、想司は屋根を蹴って隣の屋根へと飛び移った。
「満月をバックに跳躍する忍者のシルエットがくっきり見えるように」と、映画部の利明がこの時間の月の位置まで計算して出した跳躍位置と着地位置の通りに、である。
想司の体術をもってすれば、これくらいは造作もないことだった。
「な、に、忍者ぁ!?」
予定通り、想司のシルエットを見た金髪の一人が驚いたような声を上げる。
「ば、バカ野郎! 今の時代に忍者なんかがいるワケねぇだろ!!」
すぐに赤い髪がその金髪を怒鳴りつけたが、その声も心なしか震えているようだった。
その動揺から立ち直る隙を与えず、想司はもう一度大きく跳ぶと、今度は四人組の目の前に着地した。
「や、やっぱり忍者だぁ!!」
驚く四人に向かって、想司は無言で背中の刀を引き抜いた。
もちろん、この刀も本物ではない。
しかし、見た目的にはかなり本物に近く作られており、触られない限りはバレる心配はなかったし、この状況で彼らに刀に向かってくる勇気があるとも思えなかった。
「お命、頂戴するっ!」
事前に指導を受けたとおり、可能な限り低い声でそう言うと、想司は刀を振りかぶって四人組の方に向かっていった。
「ち、ちきしょうっ!」
金髪の一人がヤケを起こして向かってきたが、想司はその攻撃をかわしながら逆に鳩尾に裏拳をたたき込み、一発で気絶させた。
「う、うわああああっ!!」
恐慌をきたした残りの三人が、「公園」の中央の方に向かって逃げていく。
(はい、第二段階は完了、っと♪)
想司はそうほくそ笑みながら、少しの間追いつかない程度に三人を追いかけ、当たらない程度に刀を振り回した。

三人組が「公園」の中央付近まで来たとき、突如青い髪の男が立ち止まった。
「お、おい、どうしたんだよ!?」
動揺しきった赤い髪の男の言葉に、彼は脅えたように目の前を指さした。
「ひ、ひ、ひ、人魂……」
言われて、三人は同時に一点を見つめ、そしてそこに人魂が見えるのを確認すると凍り付いたようにその場に立ちつくした。
一つ、また一つと人魂の数は増えていき、やがてそれに加えて地獄のそこから響いてくるようなかすかなうめき声までが聞こえてきた。

「あ、あの、利明さん、これって一体!?」
「公園」の中央からやや離れたところにある木の影に身を潜めていた百合子が、隣にいる利明に小声で尋ねる。
彼らは、作戦の成功を見届けるため、そして鎧武者が現れている間は金縛り状態になってしまう雪姫を万一の事態から守るためにこの場所で待機していた。
「どうやら、宗十郎が何かやらかしたみたいですね」
困ったように答える利明。
本来ならば、ここで宗十郎と雪姫の守護霊の鎧武者が現れ、彼らに警告して作戦完了のはずだったのであり、どうやらこの事態は彼にとっても予想外だったらしい。
すると、今度はそこに慌てた様子の朱姫が駆け寄ってきた。
「お、おい! 何なんだ、あの亡霊の大群は!?」
「ぼ、亡霊の大群?」
百合子が聞き返すと、朱姫はちょうど犯人達が立ちつくしている辺りを指さしてこう答えた。
「ああ、私には普通の人には見えないような霊も見えるんだが、もう二十人近くの亡霊が集まってるぞ!?」
「まさか、そんなことが」
利明は、そう言いかけて言葉を失った。
朱姫が見たと言っていた亡霊達の姿は、今や百合子や利明の目にもはっきりと見えるようになっていたからである。

首のないもの、腕のないもの、脚が片方、あるいは両方ともないもの、内蔵がはみ出しているもの……そういった恐ろしい外見の足軽の亡霊達が、ゆっくりと犯人達ににじり寄っていく。
そのあまりの恐ろしさに、まず青い髪の男が気を失ってその場に倒れた。
「お、おい! ちょっ、し、しっかりしろよっ! おいっ!!」
金髪の男が叫んだが、青い髪が意識を取り戻す様子はない。
そうこうしている間に、宗十郎と、いつの間にか駆けつけていた雪姫の守護霊の鎧武者が、残った赤い髪の男と金髪の男の前に歩み出た。
「我はお主達によって傷を負わされた笠原和之様に仕えし者。殿を傷つけた狼藉者共を成敗すべく、手勢を集めて参った」
静かに、しかし怒りを押し殺しながら、宗十郎が犯人達に語りかける。
「せ、成敗って!?」
完全に腰を抜かして、その場にへたり込む二人。
「左様。戦国のならいに従えば、お主らの命にて償ってもらうことになる」
その言葉に合わせるかのようにして鎧武者が手にした刀を突きつけると、二人は揃って命乞いを始めた。
「ま、待ってくれ! まだ、まだ死にたくねぇよ!!」
その様子を見て、宗十郎はこの連中の覚悟のなさに呆れかえると同時に、こんな連中に和之が傷つけられたのかと思うと、強い憤りを感じずにはいられなかった。
「自分が死ぬ覚悟もなく他人を襲ったと言うのか? 性根の腐った下郎共めが」
宗十郎のその言葉と同時に、周囲に漂っていた殺気が一気に高まる。
宗十郎と同じように、周囲の亡霊達も憤っているのであろう。
このままでは、予定を無視して誰かが犯人達に斬りつけかねない。
そう察したのか、ここで鎧武者が素早く宗十郎を制した。
『宗十郎殿、落ち着かれよ』
その一言で宗十郎は落ち着きを取り戻し、予定通りに自分も赤い髪に刀を突きつけてこう言った。
「我らとしては、今すぐにでもお主らを成敗し、その素っ首を殿のもとへとお届けしたき所なれど、最後の慈悲としてお主らに二日の猶予を与える。二日のうちに、現世の法に従い裁きを受けよ。さもなくば、我らが再びお主達の所へ行き、戦国の法にてお主らに裁きを下す」
「ふ、二日!?」
当初の威勢の良さはどこへやら、すっかり泣きそうな声を出している赤い髪に、宗十郎はだめ押しとばかりにもう一度すごんで見せた。
「どちらの法で裁かれるかはお主らで選ぶがよい。現世の法か、あるいは戦国の法か」
そして、それと同時に二人を包囲していた亡霊達が隊列を変え、包囲を解く。
「行けぇーい!!」
それを見計らって宗十郎が一喝すると、二人は弾かれたように立ち上がり、気絶している青い髪を置き去りにしたまま驚くほどの速さで逃げていった。

利明のもとに、警察から「犯人グループが突然全員自首してきた」という電話が届いたのは、「作戦」決行から半日ほど後のことだった。

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〜 その後 〜

宗十郎の仇討ち騒動から数週間ほど経ったある日のことだった。

「矢塚朱姫さん、ですよね?」
部活を終えて帰る途中、朱姫は誰かに呼び止められた。
彼女が振り返ってみると、そこにはスケッチブックと画材一式が入っていると思われるバッグを手にした和之の姿があった。
「あ、和之さん? 怪我の方はもう大丈夫なんですか?」
「ええ、まだちょっと痛むところもありますが、出歩けるくらいには回復しましたよ」
朱姫の問いにそう答えてから、和之は嬉しそうに話し始めた。
「実は、あなたが訪ねてきた2日後の真夜中に、宗十郎が私の所に来ましてね」
「それで、宗十郎さんは何と?」
「あなた達が協力してくれたおかげで、犯人を無事に懲らしめることが出来た、と」
それを聞いて、朱姫は「よかった」と思った。
何故かはわからないが、本当に強くそう感じたのだ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0664/葛城・雪姫/女性/17/高校生
0057/滝沢・百合子/女性/17/高校生
0550/矢塚・朱姫/女性/17/高校生
0424/水野・想司 /男性/14/吸血鬼ハンター

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■         ライター通信          ■
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皆様どうもはじめまして、撓場秀武と申します。
今回は私の依頼に参加下さいまして誠にありがとうございました。
さて、今回は私自身初めてと言うこともありまして、執筆その他にかなりの時間がかかってしまいました。
一応、それなりに時間をかけただけのものにはなったのではないかとは自負しておりますが、次回からはもう少し早く皆様の元にお届けできるように精進いたします。

・このノベルの構成について
このノベルは「1日目朝」「1日目昼」「1日目夕」「2日目夜」「その後」の5つのパートに分かれています。
このうち「1日目昼」「1日目夕」「その後」については複数パターンがございますので、もしよろしければ他の方の分のノベルにも目を通していただければ幸いです。

・個別通信(矢塚朱姫様)
犯人の側に働きかけるようなプレイングは(想司さんの「暴走」を除くと)朱姫様のもののみでしたので、このように少々独走気味の描写になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
もし何かありましたら、遠慮なくツッコミいただけると幸いです。