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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


第3音楽室の幽霊
●オープニング【0】
 冬美原の東部――高台の森の中に『エミリア学院』という初等部から大学部まで一貫教育のお嬢さま学校がある。この辺り一帯を『妖精たちが戯れし森』などと呼ぶ者も数多い。
「そのエミリア学院での噂なんだけどね」
 天川高校『情報研究会』会長の鏡綾女はそう切り出した。
 何でもそこの第3音楽室に幽霊が出るという噂なのだそうだ。
「音楽室に幽霊ってよくある話でしょう? ほら、ピアノが突然鳴り出したりとかー」
 あのー、それはどちらかと言えば、学園7不思議の方ではないかと思うんですがー……。
「とりあえず、こんな話もあるってこと。それでね……」
 綾女はこの話題をさらっと流したが、聞いていた方にしてみれば、何故だか分からないが引っかかる物を感じた。
 そもそも、何故にその第3音楽室で幽霊が出るなどという噂が出たのだろうか?
 何もなければそんな噂などすぐに消えてしまいそうなのだが……さて、どういうことか。

●賭け【3B】
 放課後――授業を終えて帰る少女たちの流れとは逆方向に、2人の少女が校舎の中を歩いていた。
「んっと、どこがええやろな」
 少女の1人、南宮寺天音はきょろきょろと何かを探していた。この辺りにはクラブ活動の部室が並んでいる。
「うさぎさん〜……」
 天音の隣を歩いていた少女、海堂有紀がじっと天音の目を見た。責めるような視線だ。
「有紀はん、ゆーたやろ。賭けに勝った方の言う通りにするて」
 小さく溜息を吐く天音。有紀は無言で唇を尖らせた。少々ご機嫌ななめのようである。
 2人の居るここはエミリア学院。噂で聞き付けた、第3音楽室の幽霊について調査をするためにやってきたのだ。もっとも天音と有紀とで見解は違うのだが。
 そもそもの発端は、有紀が拾ってきた捨てうさぎを、天音が居候がこれ以上増えては困ると、保健所へ送ろうとしたことだった。
 飼う飼わないで言い争いになった2人。そこに今回の噂だ。これについても意見が分かれ、ならばとばかりに賭けをすることになった。もちろん賞品はうさぎを飼う飼わないだ。
 有紀は幽霊は居ると信じていた。しかし天音は違った。噂はガセであると頭から決め込んでいたのだ。
「よう考えてみ。『見た』ではなく『あれはどうなった』かなんて噂としては不健全や」
 有紀に講釈をたれる天音。確かに一理はある。有紀は無言でふるふると首を横に振った。
 2人はやがて『新聞部』と書かれた扉の前に来ていた。ここなら校内の噂に関して詳しいかもしれない。情報を得るべく、2人は新聞部の部室へ入った。
「失礼しまーす」
「失礼します〜」
 扉を開けて中へ入った2人に、部員たちの視線が集まった。
「あのー、うちら受験の下見で来たんやけど、色々と教えてもらえませんやろか?」
 受験の下見というもっともらしい理由を出す天音。すると部員たちは椅子を勧めてくれ、お茶の用意を始めた。効果ありのようだ。
 それから2人はしばし大学部のことや、エミリア学院自体の話を聞いていた。そして頃合を見て、有紀が尋ねた。
「そういえば、先程耳にしたんですけど〜……」
 第3音楽室の幽霊の噂を切り出す有紀。途端に部員たちの口が重くなった。
「そ……そういう噂もあるわね」
「そうね、でも噂だし……」
 どうにも歯切れの悪い部員たちの言葉。
「幽霊目撃した人居らへんの?」
「目撃した人は居ないんじゃないかしら。怖くて誰も近付かないし、第一私たちも近付きたくないもの……」
 天音の質問に部員の1人が答えた。
「ほな、幽霊の姿は確認されてへんゆーことやの?」
「そうなると思うけど……」
 その言葉を聞いて、天音はちらりと有紀を見た。だが、言葉には続きがあった。
「……あの教室、ああいうことがあったし」
「ああいうことって何ですか〜?」
「去年の今頃、あの教室から高等部の娘が転落したの。事故か自殺かも分からなくって……」
 今度は有紀がちらりと天音を見る番だった。幽霊の存在する下地はある。けれど姿は目撃されていない。ゆえにまだ結論は出ない。
「……意図的に噂を流してそうな娘とか居らへん?」
 天音が部員たちに尋ねた。
「さあ、どうかしら。噂が流れたのは新学期に入ってからだし……そんなことするメリットってないと思うわよ」
「その亡くなった娘の親友とか知らへんの?」
「親友……あっ、確か去年その時、亡くなった娘へのお別れメッセージもらいに行ったわ」
 先輩らしい部員が思い出したように言った。
「髪の長い娘よ。名前は確か二谷……二谷音子だったかしら。『自殺するはずがない』って何度も言ってたから覚えてるの」

●噂を流した理由【5G】
「あー、もう。すっかり話し込んでもうた……」
 天音は有紀の手を引っ張って、第3音楽室のある校舎へ向かっていた。
 新聞部で色々と話を聞いている間に、校舎の外はすっかり暗くなっていた。お菓子を色々と出してくれたりして、居心地がよかったのもその原因だったろうか。
「でも有紀はん、だいたい分かったやろ? 噂だけしかないってことは、きっとその亡くなった娘の友だちが噂を流したんやって」
 ニンマリと微笑む天音。
「まだ分からないですよ〜」
 有紀が拗ねたように言った。
「たぶん、事件の真相を知ろうってとこちゃうかな。何にせよ、後は問題の音楽室を調べて終わりや。どうやら賭けはうちの勝ちに終わりそうやね」
「む〜……」
 唇を尖らせる有紀。そんなことを話しながら第3音楽室のある校舎へ入った2人だったが、入ってすぐに上の階から少女の悲鳴が聞こえてきた。
「な……何や、今の悲鳴?」
 天音は驚き階段を見上げた。有紀が天音の腕にぎゅっとしがみつく。
「大丈夫やから有紀はん。うちが化けの皮はいで、正体暴いたる……!」
 天音は有紀と共に階段を昇っていった。

●待っていたのは【6A】
 志神みかねと北一玲璃の2人は隠れていた教室を飛び出すと、すぐに悲鳴の聞こえた第3音楽室へ駆け込んだ。
「あっ……」
「えっ……?」
 中の光景を見て、みかねと玲璃は入口に立ち尽くした。中に入っていけるような雰囲気ではなかったからだ。
 そのうち、悲鳴を聞き付けた者たちが第3音楽室へやってきた。最初にやってきたのは倉実一樹、次いで宮小路皇騎、続いて養老南、最後に南宮寺天音と海堂有紀という順番だった。後からやってきた5人も、入口前に立ち尽くすみかねと玲璃に阻まれて中には入れなかった。いや、阻まれていなかったとしても中に入るには少し躊躇したことだろう。
「いやっ、来ないでっ! 来ないでっ、どこかへ行ってよっ、私のせいじゃないっ!!」
 中では茶髪ポニーテールの少女が、必死に目の前の何かを振り払いながら逃げ惑っていた。だがしかし、入口前に居る7人には何も見えないし、何も感じなかった。
 視線をずらすと、左手の窓が開いていた。そしてそのそばに、腰元まである長く綺麗な髪の小柄な少女が立っていた。
「二谷音子……」
 皇騎が少女をフルネームで呼んだ。皇騎のつぶやきが聞こえたのか、音子が7人を見てくすっと微笑みを向けた。それは小悪魔っぽい笑みだった。
「いつの間に居たのかな……?」
「居なかったよね……?」
 ひそひそと話し合うみかねと玲璃。第3音楽室手前の教室で様子を窺っていたが、音子の姿は見かけなかった。2人が様子を窺う前からここに居たのだろうか。
 その間も少女は見えない何かから逃げ惑っていた。
「何で今になって……こんな! あなたが勝手に落ちたんじゃない……私はあなたの手を払い除けただけよっ! 万引きくらい見逃してくれてもいいじゃないっ、皆やってることじゃないのっ……!!」
 少女は大きく頭を振りながら叫んだ。
「私は悪くないっ! あなたが警察に行こうだなんて言うから……その手を払い除けただけよっ!! 勝手に落ちたくせに……!!!」
「どういうこと……?」
 事情が飲み込めない一樹がぽつりとつぶやいた。事情が飲み込めないのは他の者も同様である。が、ただ1人天音だけは違った。
「そーか、そーゆーことやね……」
 目の前の光景に納得するように大きく頷いた。
「お聞きになりましたかしら? 今の彼女の言葉」
 音子が7人に対して話しかけてきた。
「しっかり聞いたで。それと、この言葉を引き出すために幽霊の噂を流したことも分かったわ。……せやろ?」
 音子を指差し、天音がニヤリと笑った。
「ご名答ですわ。幽霊の噂はあたしが流したんですの」
「どうしてそんなことを……」
 みかねが音子に尋ねる。それに答えたのは皇騎だった。
「去年の今日、この日に起きた転落事故か」
「そうですわ、先生。あたしはその真実が知りたかった、ただそれだけですわ。だから今日、彼女をここに呼び出したんですの。何故かああしてますけれど」
 未だに何かから逃れようとしている少女の姿を見て、くすくすと笑う音子。少女は少しずつ窓際へ近付いていた。
「……理由知ってるんじゃないのかニャ?」
 音子をじっと見つめ、南が言った。音子は何も答えない。
「何にせよ有紀はん、賭けはうちの勝ちやね」
 天音は自分に抱きついている有紀にそう言った。有紀は噂が嘘だったことにショックを受け、半分気絶していた。天音の話が聞こえているかは分からない。
「……っ! 急に寒く……」
 一樹の身体がぶるっと震える。何かを感じたのか、皇騎が第3音楽室の奥に視線を向けた。
「何か居る……!」
 身構える皇騎。同時に第3音楽室の奥に白いもやが集まってきて、次第に人の姿へと変わってゆく。やがて、もやは少女の姿に変わった。この場に居る全員が、それ――幽霊を目撃していた。
「ひいぃぃぃぃっ!! いやっ、いやっ、いやぁぁぁっ!!」
 少女は幽霊から逃げるように後退りをしてゆく。少女の身体が窓にぶつかり、バランスを崩して――。
「危ないっ!!」
 思わずみかねは叫んでいた。少女のポケットから何かがこぼれ落ちる。少女はゆっくりと、スロー映像のように窓の外へ消えていった。外からは枝木に引っかかったような音が聞こえてきた。
 窓に殺到する7人。一樹の持っていた鈴の音が第3音楽室に響いた。するとどうしたことか、幽霊は怯えた表情を浮かべ姿をかき消した。
 窓の下、校舎の3階まである大きさの木のそばに少女が倒れていた。そして黒髪長髪の青年、卯月智哉が少女に声をかけていた。

●てんやわんや【7】
 夜のエミリア学院に、救急車とパトカーがやってきていた。もちろんそれだけではなく、学院長や理事長等の車もあったが。
 転落した少女は担架で運ばれ、救急車へ乗せられた。救急隊員の話では、生命に別状はないだろうとのことだった。詳しくは検査しないといけないだろうが。
「あたしと去年亡くなった娘はお友だちでしたの。だから、自殺するような娘ではないということは、あたしがよく知っていましたわ」
 二谷音子がその場に居た8人に対して話し出した。
「何かのはずみで転落したに違いない……そう思っていたあたしが真実を知ったのは、この春でしたわ。長らく彼女に貸していたたくさんの本を、彼女のご両親から返していただいた時でしたの」
「何があったの?」
 北一玲璃が音子に尋ねた。
「本の中に、彼女の日記が紛れ込んでいたんですわ。そこにはこう書かれていましたの。『万引きする所を見てしまった。辛いけれど、明日私は彼女に警察に行くよう言おうと思う。ちゃんと話せば分かってくれるはず』……彼女の亡くなる前日の日記ですわ。もちろん先程の彼女の名前も書いてありましたわ」
「それで真実を知るために、あんな噂流した訳やろ。うちらはそれにまんまと踊らされたって訳やね」
 南宮寺天音が溜息混じりに肩を竦めた。
「噂も使いよう……か」
 宮小路皇騎がぼそっとつぶやいた。
「まさか他の学校にまで広まっていたとは思いませんでしたけれど……噂の効果はありましたわ。こうして証人も多く得られましたものね」
 音子はくすくすと笑った。
「あの幽霊は……?」
 志神みかねが尋ねた。
「彼女の幽霊だと思いますわ。面影がありましたもの……」
 それを聞いて、海堂有紀がじっと天音を見つめた。
「……分かっとるよ、うちの負けや」
 天音の言葉に、有紀はぎゅっと天音に抱きついた。嬉しそうな表情だった。
「これ……どこまで書いていいの?」
 倉実一樹は頭を抱えていた。実際の事件が絡んでいて、ホラーではないようでホラーでもあって……非常に判断に苦しむ結末になってしまっていた。
「……よく分からないな……」
 卯月智哉はまだいまいち今回の事情が飲み込めていないようだった。
「刑事さんが呼んでるニャ」
 刑事から事情聴取を受けていた養老南が、音子を呼んだ。この場に居る全員には事情聴取という仕事が待っていた。向こうのパトカーの前には、冬美原警察捜査課の田辺良明警部補の姿があった。
「それでは全てお話ししてきますわ。皆様、またいずれ。ではごきげんよう……」
 音子は笑顔を見せると、深々と頭を下げた。そして皆に背を向けてパトカーの方へ歩いていった。

【第3音楽室の幽霊 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
               / 男 / 20前後? / 古木の精 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0597 / 海堂・有紀(かいどう・ゆき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0598 / 養老・南(ようろう・なん)
             / 男 / 12、3? / 高校生/男娼 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0702 / 北一・玲璃(きたいち・れいり)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全19場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は、整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、『第3音楽室の幽霊』をお届けします。今回のお話は、ある意味冬美原の今後を決める内容でしたので、じっくり時間を取らせていただきました。
・今回のお話は読んでいただければ分かりますが、噂にまつわるお話でした。噂は使い方によってどうにでもなります。例えば今回の音子のように誰かを罠にかけたり……と。噂は上手く利用してくださいね。
・海堂有紀さん、5度目のご参加ありがとうございます。いつのまにやらバストアップ進化してますね……驚きました。幽霊が居ると信じていた甲斐がありましたね、賭けは有紀さんの勝ちです。うさぎ、飼えますよ。可愛がってくださいね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。