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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


白物語「律」
------<オープニング>--------------------------------------
[141]霧の夜に
from:サウス
 水のある場所に、グランドピアノが現れるのだそうです。
 思い出のある曲。またはそれが想起される曲。そんなものを弾くと、霧の中にそれが浮かぶというのが噂です。
 ちょっとロマンチックでおもしろそうでしょう?
 でも私は「ねこふんじゃった」しか弾けないんですよね。
 この話をしてくれたトモダチも人づてに聞いたっていうだけだし。
 誰か他のこの噂知ってる人って居ませんか?実際に弾いてみた人とか、体験談教えて欲しいな♪レスお待ちしてまーす♪

Reply?
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「ライティア。」
霧の深い夜。
 さくら動物病院への帰路を辿るライティア・エンレイは、半蛇の女悪魔・ネイテが、制止の響きを名を呼ぶ声に込めるのに足を止めた。
「どうしたんだい?」
ネイテの布に覆われた眼に青い眼差しを向ける。
 手術を終えたばかりの患畜の為、今夜は義父と交代で不寝番だ…夜食にする、多分今年最後の中華まんの入ったコンビニの袋を下げたライティアの姿は、霧に白衣の輪郭をぼかす。
「あんな所にピアノがあるわ?」
ネイテの鋭い先端を持つ爪の示す先、何かの冗談めいてグランドピアノが鎮座在していた。
 場所は、児童公園。
 車避けには何故か石造りの魚が口を上向けに立ち泳ぎに置かれ、滑り台は蛸で砂場は鮃、バネ仕掛けに前後左右に揺れる遊具は河豚とマンボウ。
 独特のこだわりを感じさせる統一感だ。
 その海産物の真ん中に重厚なグランドピアノの存在は、違和感以外の何物でもない。
 これまた波打ち際の岩場を模したらしいふじつぼや蟹のペイントされた水飲み場から、蛇口の栓が甘いのだろう、ピト…ン、と定期的に水の滴る音がする。
「コレ、お昼休みに読んだピアノの話よね?」
「みたいだね。タイムリー…と感心していいのかな?」
歩を進めるライティアが作り出す空気の流れに濃密な霧は動き、街の灯りに黒く光る漆の外殻をはっきりとさせた。
 ライティアは荷物を左手に持ち替えると、公園内に足を踏み入れる。
「………弾くの?」
「害もなさそうだからね、面白そうだろう?」
 調べに乗せて、思い出を見せるというピアノ。
 …そんなモノの力を借りずとも、ネイテの光を映さぬ眼は、鮮烈なまでの過去の情景を焼き付けたままだ。


 鳥が舞う。
 地上では、もう絶えた鳥だ。
 鮮やかな翼で硝子の天蓋の下を囀り飛び交う下、彼女の主の指先から生み出される複雑な旋律は、歌う為に創られた彼等のそれを凌駕して高く…光を奏でる。
「ライティア様、なんという曲ですか?」
床につけた素足に、磨かれた硝子の感触が冷たい。
 ピアノの鍵盤の上で踊る手を止めない主の背後から、椅子の背越しに抱きしめるように腕を回す。
「ん?適当。」
2オクターブ分、余さず指を走らせ、高低を合わせた力強い和音で多少強引に即興の曲を締める。
 もう少し聞いていたかったから、少し残念だった。
「ネイテが迎えに来たという事は、そろそろ時間か。」
「方々をこれ以上乾涸らびさせない内に行った方がよろしいかと。」
「やれやれ。重鎮のお守りも大変だ。」
ライティアは老人めいたぼやきで肩を叩いてみせる…若さにそぐわぬ政治力と辣腕で魔界の創世からの老練に比肩せんばかりの勢いを持つ彼の心中は、最も長く側近くに居るネイテにも計り知れない。
 真っ直ぐに上向いた青玉の瞳にネイテの血の色の瞳が映り込む。
「面倒だな、ネイテの翼で飛んでいこうか。」
思いを破ったのは悪戯を思いついた少年の笑顔。
「恐れながら。私はまだ撃墜されたくはありません。」
 瞳に笑みを湛えたまま、ライティアの手がネイテの項に触れ、そのまま肩胛骨までするりと撫で下りる。
「魔界で一番キレイな皮翼を持つボクの使い魔を、まだ知らない衛兵が居ると思えないから。だから、さ。」
おねだりの口調に負けたふりをして、ネイテは小さく息吐いた。
「今度だけですよ。」
背でたたまれた皮翼…天鵞絨よりも滑らかなそれを一度限界まで広げるように、ネイテはライティアの前にしたグランドピアノまでを覆う。
 この主を抱くに、両の腕だけでは足りない。
 己が作り出した影の下、主と自分の視線が紫紺に交わる瞬間だけは、ライティアは彼女の物だった。


 それから程なく。
 ライティアは罪に問われた。幾人もの権力者が、己が座を奪われる事を怖れたが故の謀略だという事は明白だった。
 怖れる者以上に味方も居た。彼が「否」と言いさえすれば、覆されるはずだったが、ライティアは捕縛に抵抗もせず、魔力を封じる鏡の間で沈黙を守り続けた。
 被告不在のまま、裁判は彼に『永久凍結』の審を下す…それでも、友人知己の尽力の末の決だ…五体を切断し、それぞれを氷柱に封じる、容易に死ねぬ魔族にとって消滅以外では最悪の禁固刑だ。
 一度、刑を受けさえすればすぐに出してやれる。
 ライティアに与する力持つ人々はそう告げ、早まった真似はするなと厳命した…が、ネイテにはどうしても耐えられなかった。
 彼が、たとえ一瞬たりとも誇りを失う姿を晒すのが。
 …単身、魔界で最強の封印とも言える鏡の間の呪力を破って彼を連れ出し、人間界へと逃れた。
 それによってライティアは記憶と魔力の大半を失って幼児の姿に変じ、自分は片翼と両足と眼を失い、損なった身を補うに到らぬまま…。
 ライティアは20という歳月をかけ、元の姿を得ている…だが、魔族としての記憶は未だ戻らず魔力もかつての片鱗程度だ。
 が、或いは。
 記憶を取り戻す事によって、それらも戻りはしないかと…このピアノがその記憶をもたらせば、かつての力を取り戻す事も可能ではないかと。
 鍵盤を一音ずつ、ライティアが探るように順に押して行く。
 やがてこれと思う音に行き合ったのか、右手だけがたどたどしく主旋律を奏で始める。
 応じて、霧の色が変わった。
 単調な調べにぼんやりと流動するその天が淡くそして徐々に色濃く…ピンクに染まり始める。
「ライティア…なんて曲?」
「ん、『さくら』。義父さんがよく歌ってくれたんだけど…コレはダメかな、桜から始まるより先の記憶が見えたらなぁと思ったんだけど。」
ライティアの言に、桜吹雪を蹴散らしながら、足下を真新しいランドセルを背負った小学生の一群が走り抜ける。
 その中に、青い瞳の少年の姿があった。


 兎角、子供というものは毛色の変わった存在を見つけるのに目敏い。
 入学式後の初登校日の放課後、ライティアは3人の高学年に囲まれていた。
「なんだよその目の色ー。外人かよお前ー。」
やーい、ガイジンガイジンー。ボス格の少年の幼稚な台詞に取り巻きの二人が囃したてる。
 自分たちは3人、ましてや獲物は新一年生。からかって遊ぶに丁度いいと思ったようだが、俯いたライティアは涙を堪えているのではなく、あまりの幼稚さ加減にげんなりしていたこうせた新入生だった。
 こういった輩に説いて理解出来るような親切な論理展開は会得出来ていない…入学前に義父から伝授された教えを今実践に移すべき、とライティアは両手を握り合わせ、顔を上げた。
 が。
「小さい子をいじめるなーッ!」
と、語尾の震えた声の闖入者が間に割って入った…というか、相手に飛びかかっていっていた。
 突然の出来事にライティアが呆然としてる間に、乱入してきた少年…ボス格の少年より一回りは小さい。
 子供のケンカは体格にゆる優劣が大きい。が体当たりで先手を得た少年は辛くも勝利を治め、いじめッ子達を追い散らしてくれた。
「だいじょうぶ?」
乾いた砂と、降りかかる桜の花弁とにまみれた少年はすり傷の出来た頬を擦ってライティアに問いかけてきた…いや、それはまずこちらが聞きたい。
 思いつつも、ライティアはちゃんと躾られたお子さんだったので、変声前の綺麗なソプラノで、小さく「ありがとうございました。」と頭を下げ、印象的な青い瞳で真っ直ぐに少年を見つめて微笑んだ。
「えーとお礼にうかがいたいので、名まえ、おしえて下さい。」
お世話になったら方には特に、礼を欠かしてはいけない…義父の教えに忠実に、菓子折を持って伺うつもりでいる出来すぎた6歳児に、少年はぶんぶんと首を横に振った後、がくがくと縦に振るという謎の行動に出た。
「お、お礼より…大きくなったらボクのおヨメさんになって下さい!」
 音楽室からだろうか。つっかえ気味の『さくら』が聞こえる。
いいかい、ライティア。
学校に行くようになったら君より身体の大きい子が沢山いるからね、もしそんな子に苛められそうになったらこうするんだよ…。
 両手を強く組み。
 下から大きく上に向かって振り上げる。
 顎の下、肉の薄い急所を強打する…力の少ない子供だから危険の少ない…力の強い場合はかなり危ないので、よい子は絶対に真似しないように。
 線の細い養い子を心配しての教えは、元正義の味方、現勘違い求婚者に向かって炸裂した。


 『さくら』に変わってネイテの笑い声が霧を揺るがしていた。
「あ、あの後…、ライ、ティアってばハサミで自分の髪切って……ッ。」
女の子に間違えられたのが余程にショックだったのか、帰宅したライティアは肩口で揃えられていた髪をばっさりと切り落とし…すぎた。
 その後2ヶ月ほど、髪が伸びるまでの間、彼は坊主頭で小学校に通っていたのだ。
「せっかく忘れてたのになぁ。」
息も絶え絶えなネイテに、ライティアは拗ねたようにガサリと大きくビニール袋を鳴らしてみせた。
「ネイテ、いつまでも笑ってるとピザまんあげないよ。」
「ゴメンなさい、でも…く、苦しくってッ…。」
 ネイテは呆れたように差し出されたライティアの指を掴んだ。
 鏡の間の結界を破る寸前、差し出した手を掴んでくれたライティアの姿…それがネイテがその眼で見たの最期の風景だ。
 誇りを護るに怖じない…それは、今も変わらぬ姿。
「さぁ、帰ろうか。義父さんが待ちくたびれる。」
言い、児童公園を抜けるライティアとネイテのその背後から、一陣の風が桜の花弁を吹き付け…ピアノは霧の流れに霞んで消えた。

[151]Re:霧の夜に
from:動物のお医者さん [Mail][URL]
 昨夜11時頃、噂のピアノに遭遇したよ。
 突然のことで楽譜もなかったから、とりあえず『さくら』を弾いてみたんだけど上手じゃなかったせいかな、思ったのと違う風景が見えて…まぁ、懐かしかったけどね。
 場所は都市計画のURLに載ってるのでそちらを参考に…近所の子供には「海鮮公園」って有名なトコロだから、見たらすぐに分かると思うよ。
 サウスさんも、遭遇できるといいね。

Reply?

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0476/ライティア・エンレイ/男/25歳/悪魔召喚士】

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■         ライター通信          ■
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今回は普段の依頼だと流しがちになってしまいそうなPCの過去話をメインに持って来てみたかったので、完全個別と相成りました…あぁすっきりした(違)
ネイテ嬢の独白部分が多くなってしまいましたが…如何でしたでしょうか?かなりアレンジさせて頂いてしまい…イメージと違っていないといいのですが(汗)
ちなみに作中の児童公園は北斗の近所の公園をモデルにしておりますので、都内にそんな奇天烈な場所はないかと(笑)
ご参加ありがとうございました。
それでは、また時が遇う事を願いつつ。