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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


白物語「律」
------<オープニング>--------------------------------------
[141]霧の夜に
from:サウス
 水のある場所に、グランドピアノが現れるのだそうです。
 思い出のある曲。またはそれが想起される曲。そんなものを弾くと、霧の中にそれが浮かぶというのが噂です。
 ちょっとロマンチックでおもしろそうでしょう?
 でも私は「ねこふんじゃった」しか弾けないんですよね。
 この話をしてくれたトモダチも人づてに聞いたっていうだけだし。
 誰か他のこの噂知ってる人って居ませんか?実際に弾いてみた人とか、体験談教えて欲しいな♪レスお待ちしてまーす♪

Reply?
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 タプタプと防波堤に凪いだ波が打ち寄せ、壁面にへばりついた烏貝を洗う。
 東京湾に面した、少々地の利に悪い辺鄙な漁港である…夜明けが近いともあって人の気配はないが、それは眠りの静寂ではなく、漁に出た船がまだ戻っていない為だ。
 夜が明ければ、近くに競市のあるこの漁港も俄に活気づく。
 ので、初夏に向かう今のこの季節に、黒いマントの男が埠頭の先に立っていけば警察に通報されるのは請け合い…否、日本人離れした長身に銀の髪と瞳とくれば、不法入国の疑い有りとして海洋保安庁にも連絡が行ってしまうかも知れない。
 けれど、職務質問をされた場合、彼は「海塚要」と日本人としか思えない名を名乗り、年齢を問われれば「999歳」と狙ったようなゾロ目を答え、職業は「魔王」となんのてらいもなく告げるだろう…まともに応対すれば、が前提なのだが。
 無論、当人は国家権力に阿る哀れな下っ端役人と直接に言葉を交わしなどは決してしない為、その際は強制連行されるに違いないだろうが、今はまだ幸いにして濃い霧に覆われ、その姿が人目につく事はない。
「ふ、ふふふふふ…。」
が、霧は不気味な含み笑いまでは隠してくれはしない。
「運命ですら、私の前にひれ伏すのだ!」
ブワサァッ!と大きく空気をはらんで広げられたマント、の向こう…幅的にかなりぎりぎりなカンジでグランドピアノが埠頭を塞いでいた。
 要は地を蹴り、空中で三回転の捻りを加え、採点者が居れば10.0が8割を占めるであろうフォームでピアノを飛び越す(横をすりぬけるだけの足場がないから)。
「ふ…この私自ら奏でようというのだ。光栄に思うがいいぞピアノよ!」
呼びかけられても、どうとも返答の術がないピアノは漆の滑らかな輝きで沈黙を守るしかない。
 演奏の際には邪魔になるマントを後ろに払い除け、要は予め準備してあった楽譜をいそいそと取り出した。
 ファンシーな色調で草原と赤い屋根の煙突からもくもくと煙を吹く表紙の…『みんなでひこう!テーマ音楽(初級編)』。
 内容と表紙とのギャップを、深く考えてはいけない。
 付箋紙で示された頁、『帝国のマーチ-ダースベイダーのテーマ-(映画スター・ウォーズより)』を開き、譜面台に置くと、要は目を瞑り大きく息を吸い込んだ。
「萌えを理解すれば、今度こそ…今度こそあの少年に勝てる!!そして楽曲の演奏は、萌え理解における初歩中の初歩!さあ、轟けマイソウル!明日こそ私の新時代!………いざ!」
リズミカルな曲調に鍵盤に叩き付けた指がうっかりと隣のキーを押してしまうのもご愛敬。
 霧は大きく開けた海原へ、その流れを変え始めた。


 王の地位を示す、黄金の玉座。
 髪と瞳が映えるよう、真紅に統一した礼服が玉座へ真っ直ぐに続く絨毯に紛れないのは、身の丈の倍はあろう闇色のマントが際立たせた為か。
 階段を上りきり、片手で捌いたマントがその重量にも関わらず大きく拡がり、彼が椅子に着いた瞬間に大きな歓声が城の内外に響き渡る…その為に建造した大理石の宮城、魔界の力ある者を自身の力でねじ伏せた彼が絶対的な君臨者としての権威を全域を知らしめた瞬間…魔王の座についた際の式典の風景である。
 世々に到る最強不敗の伝説を打ち立てる様がコマ送りのようにシーン毎、霧は再現してみせる。
「ふわははは!これこそが魔王の真の姿!」
では今の姿は何さ。とツッコミの欲しい所であるが、幸か不幸か聴衆はいない。
 使用する場面より早く曲が終わらないようという配慮からか、テーマ音楽というものは、必ずリピート箇所がある…その1p〜3pの間をこれでもかというほどに要はしつこいまでにリピートし続ける。
 何度も捲られて、紙がいい加減によれ始めた頃−霧は地上へと開いた時空の穴に、魔王自らが赴くシーンを映し出している−本の合間に挟まっていた注文票の為か、違う頁を開いてしまった事にノリノリの要が気付かぬまま、音符を追った曲は一転静かなものへと変わった。


「ええ!?魔王?」
哀れを誘うほどに平和慣れした人間の子供を前に、要は強者の温情を示して見逃した…それも地上を制するまでのごく短い期間の延命にすぎないだろうが…つもりだった。
 が、本来ならば圧倒的な力の差に動けなくなって然るべきその少年は喜悦に瞳を輝かせたのだ。
「ぢゃあ、斬っても突いても死なないんだね☆」
恐怖におかしくなったのかと問う暇さえ与えず、彼は朗らかとさえ言える表情で笑って見せた。
「永遠に闘争の愉悦が楽しめるなんて♪」
その両の手には、ジャックナイフがしかと握られ…思えばこの出会いが、間違いだったのか。
 少年は出会う度に遊び相手を見つけた子供の表情で…そして子供特有の手加減の知らなさで要を殴るわ蹴るわ刺すわ絞めるわ…地下にアジトを構えれば二週間と持たずに破壊されたついでに生き埋めにされ、ならばとビルの最上階を押さえればそこの窓から蹴落とされ…認めたくない想い出を次々と、霧は非情に無情に映し出す…その流れが影響されているのは当然要が奏でる曲。
 日本人ならば、小学生の時分に音楽の授業で習った覚えがあるだろう…その曲調と歌詞の切なさに、幼い胸を痛めた者も少なくはあるまい。
 その曲名は、『ドナドナ』。牧場から売られていく仔牛を歌ったものである。
 だが、屈辱に肩を震わせる彼に、いつもトドメを刺すのは…少年ではない。
「ちょっと、想司くん!知らない人になんてことしてるの!おじさん大丈夫ですか?ああ、泣かない泣かない?よっぽど恐かったんですね?」
傷ついた要に優しく声をかけ…彼をそこまで追い詰めた少年を遠慮なく張り飛ばす少女であった。


 夜明けの気配に霧は地表を滑るようにいずこへともなく消え…、埠頭には一様に健康的な日焼けに小麦色ないかついおじさん達が一塊りになっていた。
「おぅ、どうした兄ちゃん。こんなトコでよ。」
「泣いてちゃ何もわからんだろうが、ん?」
「いや何も言わんでえぇから、一緒に朝メシ食ってけ。そしたら元気も出るからな。」
人情に厚い海の男達に囲まれた要は、断りを入れる間もなく漁業組合の事務所に向かって連れられていく…捕れたばかりの新鮮な魚を饗されて人生についてとくとくと語られてしまうのは想像に堅い。
 少し涙の味のする、人情に触れた朝である…。


[163]私の辞書に不可能の文字はない!
from:魔王
 サウス及びそれに続く愚民共よ、いずれこの世の真の支配者として頂点に君臨する私の選択は一味違うぞ!
 萌えの原点!スターウォーズにおける『帝国のマーチ』だ!荒波の砕ける嵐の海辺で私の手によって奏でられる壮大なる曲は、勇猛に轟く強風に牙を向いて推される事なく(以下924字中略)、かように素晴らしき光景は文字では表現しきれん。遠からず訪れる私の帝国をその眼でしかと確かめるがいい!
 が、ここで温情からの忠告をひとつしておいてやろう…楽譜は、間違えんようにな。

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[164]落丁じゃない?
from:勇者
 その辞書、出版社に言って交換して貰ったら?
 ジョージ・ルーカス程度で萌えを理解した気になってるなんてまだまだだね…文明に衰退があるように萌えもまた時代に応じて変容しているんだよ。それに柔軟に対応出来なければ、理解出来たとはとてもじゃないけど言えないね。ま、所詮魔王なんて勇者が世界を制する為の捨て石だから覚えるだけ無駄だけど♪せいぜい頑張ってね。
ps.今、時代は「指輪物語」だよ☆

Reply?


その後、映画館に駆け込む要の姿があったとかなかったとか…。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0759/海塚・要/男/999歳/魔王】

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■         ライター通信          ■
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今回は普段の依頼だと流しがちになってしまいそうなPCの過去話をメインに持って来てみたかったので、完全個別と相成りました…あぁすっきりした(違)
初依頼ありがとうございます…遠慮なくギャグで攻めさせて頂きましたが、如何でしたでしょうか?
それから北斗、職務に励む警察官の皆様にも、世界のジョージ・ルーカスに他意はありませんので、あしからず(笑)
少しでも楽しんで頂ければ幸甚です。
ご参加ありがとうございました。
それでは、また時が遇う事を願いつつ。