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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


銭湯配置につけ!
●オープニング【0】
「暑くなってきたな」
 他愛のない言葉を発する草間。確かに近頃めっきり暑くなってきたが、草間が気候の話題に興味があるとも思えない。きっとこれは次の話題への誘い水に違いないと警戒していると、案の定草間は本題を切り出してきた。
「どうだ、汗を流してこないか?」
 そう言って草間は大量の入浴券を取り出した。入浴券……って、銭湯のですか?
「真夜中にな、ここ『卯月湯』の湯舟で湯に浸かる物音が聞こえてくるそうだ。その正体を調べてくれとの依頼だ。入浴券は手付けって訳だ」
 苦笑する草間。また変わった手付けもあったもんだ。
「補足しておくとな、火事があるといけないというので真夜中も湯は抜かないそうだ。湯を抜くのは午前中、清掃の時だな。営業時間は午後3時から午前12時まで、つまり9時間だな。物音が聞こえるのは、男女共にらしい。まあ、風呂でも浴びるついでに、調査してきたらどうだ?」
 草間がニヤッと笑った。この表情から察するに、危険性はないだろうと踏んでいるようだ。
「湯上がりにはやはり珈琲牛乳だよな……」
 ……銭湯通なんですか、あんたは?

●時間ですよ【1A】
 夜8時過ぎ――シュライン・エマは『卯月湯』ののれんをくぐっていた。下駄箱を見ると、その半分以上が埋まっている。この時間帯が一番客の多い頃合なのだろう。
(狙い通りだわ)
 普通なら混み合う時間帯を外すものだが、シュラインにはある目的があった。それは噂を拾い上げること。そのためには客の多い時間帯を狙うのが効果的であったからだ。
 シュラインはパンプスを下駄箱に入れると、入浴券をポケットから取り出して女湯へ入った。
「らっしゃい」
 番台から年老いた男の声がした。シュラインは入浴券を番台に置き、何気なく番台に座っている人物を見た。
「え……?」
 目をぱちくりさせるシュライン。番台に座っていたのは、普段より年老いたように見えるが、紛れもなく渡橋十三であったからだ。
「お客さん、初めて見る顔だね?」
 しらじらしくそんなことを言う十三。シュラインは周囲の状況を少し窺ってから、小声で十三に話しかけた。
「……何やってるのよ、こんな所で」
「なーに、怪しい客が来ねぇとも限らねぇからよ。辛ぇ仕事だが、無理言って番台を手伝わせてもらってんだ。ああ、辛ぇ辛ぇ」
 十三はやれやれといった口調で言った。全く辛そうに見えないのは、まあさておき。
「……いいけどね。見ないでよ」
 釘を刺すシュライン。そして番台からは死角となる場所へ移動した。

●夕食ばんざい【2C】
(へへっ……早くから来て探ってた甲斐があるってもんよ。こうして余禄がついてくらぁ)
 『卯月湯』の奥には住居部分がある。十三はそこで遅めの夕食を食べていた。時刻は夜の10時頃だ。
 卓袱台の上には冷麦の入った器と、様々な天ぷらの載った皿、それとサラダが置かれていた。
「すみませんねえ。調べてもらうだけのはずが、つい手伝っていただいて」
 十三の正面に座っていた若い女性が、申し訳なさそうな笑みを浮かべて言った。年の頃なら20歳そこそこのこの女性は、『卯月湯』若旦那の妻であった。『卯月湯』は若旦那夫婦と、3人程のアルバイトによって動いていた。2年前まではこれに先代の主人が加わる形だったそうだ。
「なーに、俺ぁこういうのは好きでよ」
 十三はニヤッと笑ってそう言うと、冷麦をずぞぞぞぞっ……とすすった。
 午前中から『卯月湯』を訪れていた十三は、清掃の手伝いと細々とした雑用を手伝っていた。もちろん調査のためである。昼間に来れば、また違った物が見えてくるかもしれないからだ。
 清掃後、十三は浴場を隅々までチェックした。どこからか動物が入り込んだような形跡もなく、鍵が壊れているということもない。つまり外部からの侵入形跡は見当たらなかった。
「そういや奥さん。その、物音が聞こえるってのは、何時頃ですかねぇ?」
「そうですねえ……たぶん2時頃かしら。最後のお客さんが帰るのが12時半過ぎで、それから片付けをして、私たちが湯舟に入って、アルバイトの子たちを見送って1時半ですから」
 十三の質問に、若旦那の妻が指折り数えて答えた。
(時間に間違いはねぇな)
 十三は予めアルバイトの男女に『普段帰るのは何時だ』という質問をしていた。そこでの答えも若旦那の妻と同様であった。
(アルバイトが帰るのは若旦那たちが見送ってる。家に残ってんのは若旦那夫婦だけ……てこたぁ、内部の輩の可能性も低いってこったな。へっ、餅は餅屋にでも任せっか……)
 十三は大きな海老の天ぷらにガブッとかじりついた。

●男湯にて【4A】
「女湯の方は任せたからな」
 番台越し、草間はシュライン・エマにそう言った。女湯に居るのはシュラインを筆頭に、七森沙耶、志神みかね、ラルラドール・レッドリバー、ベバ・ビューン、そしてファルナ・新宮とそのメイドのファルファの合計7人であった。
 対して男湯に居るのは草間を筆頭に、草間と連れ立ってやってきた九尾桐伯に国光平四郎、それから一足先にやってきていた真名神慶悟と渡橋十三の合わせて5人だ。
「……1日で随分老けたな」
 慶悟と将棋をやっていた十三の顔を見て、草間がぼそっとつぶやいた。普段より年老いた感じがする十三だったが、そのように見える格好をしているだけだ。
「よせやい旦那。冗談は顔だけに……っと、王手飛車取りってな」
 パチンと将棋の駒を置くいい音が響いた。
「む……王がああ逃げて、こうして……」
 将棋盤を睨む慶悟。何度も出たり入ったりを繰り返したのか、腰にタオルを巻いただけの姿である。
「へへっ、煙草1カートンは貰ったな」
「おいおい、仕事を忘れるなよ」
 草間が呆れたように言った。
「心配いらねぇぜ、旦那。どうやら物音がするのは丑三つ時らしいからよ。ほれ、まだ2時間近くあらぁな」
 十三は番台の上にかかっている古びた時計を指差した。時刻は夜の12時を回っていた。
「周囲に仕掛けは施してきましたよ。鈴をつけてますから、その音で位置の特定はできるでしょう」
 一旦外へ出ていた桐伯が戻ってきて、草間にそう報告した。周囲に探知用の糸を張り巡らせ、要所要所に鈴をつけてきたのだ。肉体のある相手であれば糸に引っかかり、鈴が鳴るはずである。
「何か逃げ出した水棲生物とかが入り込んでるかとも思ったんですが」
「あー、そりゃ低い。俺ぁ昼間っから調べてたけどな、外部から侵入した形跡がどうも見当たらねぇんだ。こりゃ、幽霊が入ってんのかもなぁ……っと」
 桐伯の言葉に、十三が突っ込みを入れた。将棋はまだ続いている。
「水気は『陰の気』だ。霊・怪異の類は引かれて当然……ならばこうだ」
 慶悟が手持ちの駒を将棋盤に置いた。
「何を言う、幽霊などのせいではないぞ。何故なら幽霊など存在しないからだ!」
 十三と慶悟の言葉が耳に入り、平四郎が胸を張って言った。そこへ『卯月湯』の若旦那が姿を現した。
「ああ、どうも探偵さん。ご苦労様で」
 若旦那が草間に頭を下げた。
「これで原因が分かればいいんだけどね」
「ふむ、ご主人、気になさるな! 大方夜の風呂が好きな者でもおるのだろう。先程も言いましたが、幽霊など存在しないのですからな!」
 平四郎はぼさぼさの長い髪を掻きながら若旦那に言い放った。
「は、はあ……」
 平四郎に圧倒される若旦那。
「……いや、あるいはこれもプラズマのせいかもしれんな」
 某教授のようなことを言いながら、神妙な顔付きになる平四郎。
「おお、そうだ! プラズマといえば、ここによい物がある。ご主人、これをボイラーに取り付けるといい。なぁに、礼はいらんよ、はっはっは!」
 相手に突っ込む隙を与えず、平四郎はよれよれの白衣の中から取り出した発明品を若旦那に押し付けた。
「は、はあ……ボイラーですか」
 よく分からないままボイラーへ向かう若旦那。
「……狐に摘まれたような顔でしたよ」
 桐伯がぼそっと言った。
「王手!」
 慶悟の声が脱衣所に響き渡った。
「何ぃっ!?」
 形勢逆転、今度は十三が将棋盤を睨む番だった。
「く……こう逃げると角が居やがる……左にゃ銀かよ……」
「流れに逆らわずその身を任せること……陰陽では時にこのようなことも必要だ」
 あれこれ考える十三に対し、静かに言う慶悟。もっともらしく聞こえるが、本当にそうなのかは慶悟本人にしか分からない。
「ああ、そうだ。先程若旦那に話を聞いたんだが、20年前にも似たようなことがあったのを思い出してくれた。先代は笑って『そうか。でも何も心配しなくていいぞ』と言っていたそうだが」
 余裕が生まれたのか、慶悟は皆が来る前に聞き込んでいた情報を草間に話した。
「ふむ、そうか。まあいい……そろそろ仕事するぞー」
 草間が考え込んだままの十三に呼びかけた。
「お……仕事だな。ほれ、終わりだ終わり」
 長椅子から立ち上がる十三。ご丁寧に、将棋盤の駒をぐちゃぐちゃにして――

●風情はプラズマと共に【5A】
「いいですね、銭湯も。広さはもちろん、この富士山の壁画がまた風情となって」
 湯舟に浸かっていた桐伯は、しげしげと壁画を見つめていた。
「さすが老舗銭湯、この湯桶がまた通泣かせでよぉ」
 薬の名前の書かれた洗面器を桐伯に見せる十三。不思議と銭湯にはこういう洗面器が多い。
「旦那、そうだろ?」
「ああ、そうだな……」
 湯舟の中、首をコキコキと鳴らす草間。
「……いい湯だ。営業時間を過ぎたから、ぬるくなる一方かと思ったんだがな」
 草間がしみじみと言った。するとやはり湯舟に入っていた平四郎がこう言い放った。
「我輩の発明、プラズマ式自動急速熱湯発生装置UYK99−Jがさっそく役に立っておるようだ! おお、まだ説明していなかったな。あれをボイラーに取り付ければ、通常の39.27倍の早さで熱湯となるのだよ!」
 得意げな平四郎。その後でメカニズムを説明し始めたが、この場に居る全員の理解の範疇を超えたようなので、ここでは割愛することにしよう。
「熱湯はいいんだが……微妙にビリビリするのはどういう訳だ?」
 慶悟が湯舟に手だけを入れ、湯を掻き混ぜていた。
「電気風呂ではなかったですよね」
 念のために確認する桐伯。もちろん電気風呂ではない。
「ふむ、まだまだ改良の余地があるようだな。我輩がもっとよい物にするから任せておきたまえ!!」
 平四郎はドンッと胸を叩いた。
「いや、できれば今すぐ改良してほしいんだがな……」
 そんな草間のつぶやきも、平四郎の耳には届いていないようである。
「わ〜っ、シュラインお姉ちゃんのお胸、おっきーですぅ☆」
 女湯からラルラドールの無邪気な声が聞こえてきた。
「ほらっ、じっとしてる! 動いちゃ洗えないでしょっ!!」
 続いてシュラインの声が聞こえてきた。
「ぼん、きゅ、どんって、草間お兄ちゃん言ってたの、ほんとだったですー」
「なっ……!」
 再び聞こえてきたラルラドールの声に絶句する草間。十三、慶悟、桐伯の視線が草間に集中していた。
「武彦さん」
 シュラインが草間を呼んだ。草間は黙ったまま何も答えない。
「……後でじっくりお話しましょうか」
 女湯から聞こえてくるシュラインの口調は、極めて事務的であった。それが草間にとっては怖かった。
 頭を抱えた草間の肩を、ニヤニヤと笑っている十三が叩いた。

●半透明の男たち【6A】
 深夜2時、丑三つ時近く。ラルラドールは女湯から男湯へ移動してきていた。
「わー、こっちの壁には富士山です〜」
 壁画をじっと見ているラルラドール。女湯の壁画と見比べているのだろう。
「絵が違うのか。向こうはどんな絵なんだ?」
 慶悟が何気なく尋ねた。
「んっと、こんなポーズのおじちゃんだったですー」
 ラルラドールは女湯の壁画に描かれていた人物と同じポーズを取った。
「写楽ですか」
 桐伯がちらりとラルラドールを見て言った。
「ああ、東洲斎写楽の役者絵だったぜ。普通は三保の松原でも描くはずだがよ」
 日中の清掃時に女湯の壁画を見ていた十三が補足した。
「何でも先代の趣味らしいぜ」
「どういう趣味だ……」
 草間が呆れたようにつぶやいた。と、その時、慶悟と桐伯が脱衣所の方を向いた。
「……来たか」
「ええ。ちょうど鈴の音も聞こえましたしね」
 2人共鋭い視線を脱衣所へ向けていた。すると男湯の扉を、すぅ……っと通り抜けて姿を現した男が居た。その姿は半透明で、向こうの景色がうっすらと見えている。幽霊なのか?
「よし!」
 慶悟が湯舟から飛び出た。が――男の様子がおかしい。にこにこと楽しそうな表情を浮かべながら、脱衣籠に着ている物を脱ぎ捨てているではないか。けれども脱衣籠には何も残っていない。
 男湯の扉からはまた1人、また1人と男たちが姿を現す。脱衣所には半透明な男たちが増えてくる。
「何だこりゃ? 幽霊が律儀に服脱いでやがる」
 呆れる十三。
「何度も我輩が言っておるだろう、幽霊など存在せんのだぞ! あの男たちが半透明に見えるのも、扉を擦り抜けたように見えるのも、全てはプラズマの仕業だ!! まあよい。こんなこともあろうかと、ここにプラズマの発生度合を確かめる機械が……」
 平四郎は自説を唱えてから、腰に巻いたタオルの中から体温計大の機械を取り出した。というか、形状は体温計にしか見えないんですが……。
「……そのうちあの中から、オキシジェンデストロイヤーが出てくるんだ。きっとそうだ……」
「それ、怪獣さんやっつける奴ですー」
 小声で話す草間とラルラドール。やがて半透明な男たちが風呂場へと入ってくる。
「おや、今日は人が大勢居ますな。こんばんは」
 草間たちに律儀に挨拶をしてきたのは、最初に入ってきた半透明な男。草間たちも拍子抜けして、挨拶を返した。
「いやー、やっぱりここの湯はいいですな。あちこち回りましたが、我々にはここの湯がしっとりときますわ。はっはっは!」
 半透明な男は豪快に笑った。
「あんたら何者だ?」
 警戒しつつ、慶悟が半透明な男に尋ねた。
「我々ですか? まあ世間一般では幽霊なんぞと言われとりますか」
 あっけらかんと話す半透明な男。
「幽霊とはいえ、我々は無類の風呂好きでしてな。日本中の銭湯を渡り歩いとるんですわ。で、同じような仲間からこの銭湯の存在を聞きましてな、先日から真夜中にこっそりとお邪魔しているとそういう訳ですわ、わっはっは!!」
「風呂好きの幽霊? 仲間?」
 難しい顔をして考え込む草間。半透明の男たちが湯舟の中に入ってきた。
「おー、今夜もいい湯ですな。ちと今夜は熱めですかな」
「いや、こんなもんでしょう。それよりも今夜は刺激を感じますな……これもまたいい」
 和やかに話している半透明な男たち。敵意だとか恨みだとか、そんな想いは微塵も感じられない。ただ純粋にここの湯を楽しんでいた。
「上がりますか。人に危害を及ぼしているようでもないですしね」
 ふっ、と桐伯が笑った。

●秘密指令・報告会【7A】
 脱衣所に上がってきた一同。ラルラドールが熱心に皆に説明をしていた。
「……お姉ちゃんは、こんな感じの大きさで、とってもやーらかかったですよー☆」
 手で誰かの何かの大きさを表現しているラルラドール。それを聞いて、草間はうんうんと頷いていた。
「よーし、よくやった」
 十三がニヤリと笑ってラルラドールの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「十三おじさん、アイスよろしくですー☆」
「任しとけいっ!」
「草間お兄ちゃん、いちご牛乳よろしくですー☆」
「分かった分かった」
 草間が苦笑してラルラドールの頭を撫でた。しかし……2人して何を密約していたのやら。いや、おおよそ想像はつくのだけれど。
「何だかなあ」
「何ですかねえ」
 慶悟と桐伯は苦笑しつつ、3人の姿を見つめていた。まあ、この2人も聞くことはしっかり聞いているのだが……。
「ふーむ、ここのプラズマの発生度合は通常より高い……」
 先程の機械をじっと見つめている平四郎。1人だけ、別世界に没頭していた。

●怒濤の早飲み大会【7B】
「何にせよ、依頼はほぼ片付いたな」
 草間は冷蔵ケースの中から珈琲牛乳といちご牛乳を取り出して、番台の上に代金を置いた。そしていちご牛乳をラルラドールに手渡した。
「ありがとうですー☆」
 にぱっと笑うラルラドール。
「この調査結果に納得するかどうかは知らんがな」
 草間がそう言って瓶に口をつけようとした時、十三がそれを制止した。
「おっと旦那、単に飲むんじゃ面白くねぇ。どうだ、煙草1カートン賭けて早飲み勝負といかねぇか? な、早飲み武ちゃん」
 十三は冷蔵ケースからフルーツ牛乳を取り出した。草間は十三の挑戦を受けて立つことにした。
「俺も参加させてもらう。さっきの将棋の借りが残ってるからな」
 慶悟も冷蔵ケースからフルーツ牛乳を取り出した。
「湯上がりにはもちろん白でしょう。そして手は腰にが基本です」
 冷蔵ケースから牛乳を取り出す桐伯。同じく勝負に参加するつもりのようだ。
「うむ、我輩も湯上がりは白牛乳だと思うぞ!」
 桐伯が冷蔵ケースの扉を閉める前に、平四郎の手がむんずと牛乳をつかんだ。結局全員参加のようだ。
 その盛り上がり様は女湯にも聞こえていた。
「楽しそうねえ……」
 珈琲牛乳片手にシュラインがつぶやいた。すぐそばでは、ベバがマッサージ機を堪能していた。時折頭を打っているようだが、それはさておき。
 のぼせてへろへろだったみかねもどうにか回復し、長椅子に座って珈琲牛乳をちびちびと飲んでいた。
「ほんと、楽しそう。幽霊さんたちも、男湯も女湯も、皆楽しそう……」
 笑顔で沙耶が言った。手には本日2本目となる珈琲牛乳が握られていた。
「向こうもお仕事終わったんですね〜」
 ファルナがにこにこと言った。ファルファ共々、まだ生まれたままの姿である。そして次の言葉が問題だった。
「そうです、わたくしお仕事の汗を流して差し上げてきますね〜」
 その言葉に、一斉に皆の視線がファルナに集まった。『今何て言ったの?』、そんな視線だ。
「ファルファ、行きますよ〜」
 皆の視線を気にすることなく、ファルナはファルファと共に男湯へ向かってゆく。
「ちょ、ちょっと!」
 シュラインは慌ててファルナたちを追いかけた。バスタオル1枚の姿のままで。
 男湯では早飲み大会が今まさに始まろうとしていた所であった。草間による開始の合図を待つだけだ。
「レディ……ゴー!!」
 皆一斉に瓶に口をつける。そこに――生まれたままの姿である、ファルナとファルファが現れた。口に含んだ珈琲牛乳を激しく吹き出す草間。
 この後のことは、あえて語らなくてもいいだろう……。

【銭湯配置につけ! 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0060 / 渡橋・十三(とばし・じゅうぞう)
           / 男 / 59 / ホームレス(兼情報屋) 】
【 0069 / ベバ・ビューン(べば・びゅーん)
                   / 女 / 子供? / 不明 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0152 / ラルラドール・レッドリバー(らるらどーる・れっどりばー)
                   / 男 / 12 / 暗殺者 】
【 0158 / ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう)
              / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 0230 / 七森・沙耶(ななもり・さや)
                   / 女 / 17 / 高校生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0701 / 国光・平四郎(くにみつ・へいしろう)
     / 男 / 38 / 私立第三須賀杜爾区大学の物理学講師 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全20場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせしました、銭湯でのお話をお届けします。今回は『ほのぼの:5/コメディ:5』でしたから、高原少し弾けさせていただきました。そのため、お届けまでに少々時間がかかってしまいましたが……。
・本文最後の後、何がどうなったかは想像つくのではないかと思います。どういう反応を示すことになったのか、皆さんにお任せします。
・皆さんの好みを調べてみました。結果は珈琲牛乳2、いちご牛乳1、牛乳2、フルーツ牛乳4と、フルーツ牛乳が優勢でしたね。もっとも、どれを飲もうが手は腰にというのが基本のようですが。あ、高原は珈琲牛乳が好きです。
・ともあれ銭湯は広くて気持ちいいです。銭湯によっては早朝から営業していたり、天然の温泉を使っている所もありますしね。旅先でふらりと銭湯に立ち寄ってみるのも楽しいかもしれませんよ。そうですね、本文中の幽霊たちみたいに。
・渡橋十三さん、21度目のご参加ありがとうございます。ことごとく高原のツボを突いてますね。何でああいう湯桶って銭湯に多いんでしょう、ほんと。それはそうと、密偵はしっかり任務を果たしてくれた模様です。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。