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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


【 Happy Lucky Horoscope. 】
◆依頼者
「あの・・・これなんです・・・」
依頼者の少女がおずおずと差し出した紙を受け取る。
なにやら可愛らしいイラストに文章が書かれている。
「これは占い?」
「そうです。すごく当たるって評判の占いサイトで占ってもらったものなんです。」
よく見ると依頼人の生年月日や名前なども書かれている。
どうやら星占いをプリントアウトしたもののようだ。
しかし、その内容を読むと・・・
「なんだ・・・これは・・・」
思わず絶句する。
内容はひどいものだった。

『今月の貴女は影の星と炎の星の影響を受けています。
ひどい火傷を負うでしょう。気をつけてください。』

「私・・・怖くて・・・」
少女は青くなって本気で怖がっている。
「いや、でもこれは占いだから・・・」
「当たるんです!この占い・・・必ず・・・」
少女が震える手でブラウスの袖をたくし上げる。
そこには痛々しい白い包帯。
「学校の化学の授業の実験の時に。跡が残るだろうってお医者様にも言われました・・・」
「・・・」
上手い言葉が見当たらない。
なんと言ったらいいものか言葉を詰まらせていると、少女がもう一枚の紙を差し出した。
同じく占いのようだ。
「今度は依頼をしなかったのに勝手に今月の占いが来たんです。」
「拝見します。」
プリントアウトされた紙を受け取り、ざっと目を通す。

『今月の貴方は闇の星の影響を受けています。
死に至る呪いを受けるでしょう。気をつけてください。』

「もう、どうしていいかっ・・・助けてください!」
堪えきれずに少女がぼろぼろと涙をこぼす。
「占い・・・占いって思ってたけど、先月、親友のリカが死んだんです!これと同じ占いだったんです!助けて・・・助けてください!」

草間は成す術もなく、泣き崩れる少女に「お引き受けします。」とだけ言葉をかけた。

◆怯え
「とにかく、本当に当たる占いだって聞いて・・・」
少し、落ち着きを取り戻した少女は雨宮隼人の入れた暖かいミルクティーのカップを両手で包むように持ったまま、詳細を話し始めた。
「ウチの学校の生徒の間でも噂になってるわ。確か・・・Happy Lucky Horoscope・・・だったかしら?」
事務所にあるデスクの事務椅子にゆったりと腰掛けた不知火 響が言った。
「はい、そうです。私も学校の友達に聞いて・・・無料だし、面白半分だったんです。」
「それがこんな結果になってしまった・・・と。」
まるで調書でもつけるように、雨宮は少女の言葉の一つ一つをメモに取っている。
「もう少し詳しく聞かせていただけますか?そうですね・・・お辛いでしょうが、亡くなられたお友達のことをお伺いできますか?」
少女は一瞬恐怖が蘇ったのか体を竦ませたが、ゆっくりと話し始める。
「リカは中学のときからの親友で、このサイトのこともリカに聞いたんです。一緒に占いを申し込んで・・・私は火傷、リカは水死って占いの結果が出たんです。そのときはこんなのたかが占いだよって言ってたんですけど・・・翌日、学校の側の多摩川の土手のところでリカの死体が上がって・・・」
親友の死を思い出したのか、少女は再び涙をこぼす。
「大丈夫、あなたは俺が責任を持って守ります。安心してください。」
少女の向かい、雨宮の隣りに座っていた斎 悠也がスッとハンカチを差し出す。その慣れた仕草には優雅さはあっても嫌味は感じない。
「それで、リカさんの死は事故だったの?それとも・・・殺人?」
不知火が途切れた話を紡ぎ直す。
「自殺・・・でした。遺書があったんです。リカ・・・彼氏と上手くいってなくて、ずっと悩んでて・・・」
「それで自殺・・・」
不知火は形良い眉をひそめる。
「本来、占いはその結果を従順に受け止めるためのものではなくて、その結果をどう回避するか考えるためにあるものなのに。本当に悪質だわ。」
悩んで苦しんでいるところに、占いの結果が背中を押したとも考えられる。
「あなたも大丈夫よ。この占いから逃れるために私たちがお手伝いさせていただくわ。」
「ありがとうございます・・・」
不知火の言葉に少女はかすかに涙ぐむ。
さすが保健室の主。少女のこわばった心を見事に解きほぐして見せた。
「しかし、問題はこの占いね。」
「ええ。」
一通りメモを取り終えた雨宮が呟く。
「偶然・・・にしちゃタイミングが合い過ぎていますね。」
その言葉に不知火と斎も頷いた。

◆傷跡
「じゃあ、キズでも見せてもらうかな。ほら、腕出して。」
少女に向けてあっけらかんと言う新条の言葉に、食いついたのは斎だった。
「そんな言い方はないでしょう。あなたは医者としては腕が立つかもしれないが、女性としてはデリカシーに欠ける。」
「何よ。エライ言い分じゃない?ホストなんかしてると女性に対して必要以上にご親切になるようね。」
新条もヒヤリと言い返す。
二人とも言葉に感情的な響きは一切ないのだが、辛らつなことこの上ない。
「あ、あの・・・大丈夫です。私・・・」
二人の空気に居たたまれなくなった少女が、おずおずと声をかけた。
「あ、傷・・・これです。」
そしてゆっくりと包帯を解くと無残に引き攣れた傷跡を差し出した。
「随分、深い火傷ね・・・学校の実験でやってる程度の火力でここまで焼けるものか・・・?」
「私もよくわからないんです。アルコールランプが倒れて・・・あっという間に制服の袖に火がついちゃって。慌てて水をかけたんですけど・・・」
「アルコールランプ程度じゃこんなになるはずはないな。」
新条は傷をまじまじと眺めて言う。
「これは高温のガスバーナーでじっくり焼いたような傷だ。」
「自然な火傷ではない・・・と?」
新条の言葉に斎も推測を問う。
「医者として断言する。」
「そうですか・・・」
斎はその言葉に少女の方を向き直り、そっとその傷ついた腕に触れる。
「女性はこんな傷に囚われていてはいけない。」
そう言うと持っていた符でスッと傷口を撫でた。
「あ!」
少女は思わず驚きの声をあげた。
斎が符で傷を撫でるとまるで卵の殻が剥がれ落ちるように、醜い傷はほろほろと取れてなくなってしまった。
「ありがとうございます!」
にっこりと微笑む少女に、斎も微笑みで返す。
その後ろで面白くなさそうに新条が肩をすくめた。
せっかくの収入をフェミニストに不意にされてしまったのだった。

◆Happy Lucky Horoscope
「占いねぇ・・・いまいち私はそういうの信じてないんだけど。」
ブツブツいいながらキーボードを叩いているのは新条アスカ。
「斎さんの入手した情報では、占いサイトのオーナーはつかめなかったそうです。無料のレンタルスペースを使っていて、メールアドレスなどはでたらめだったそうです。」
雨宮は手にしたデータを眺めながら言う。
斎がどこからかコネを使って入手したデータにはunknown(不明)の文字が躍っている。
「そりゃそうよ。そう簡単にはいかないでしょ。・・・さて、これでアクセスできるわ。」
何やらモニターに向かって作業を続けていた新条が、タンッと音を立てて最後のキーを入力した。
「で、誰が申し込む?」
くるりと椅子を回して後ろに立っている面々に尋ねる。
みな、一瞬顔を見合わせたが、すぐに全員が「自分」と名乗り出た。
「あー、そんなに申し込んでもしょうがない。とりあえず私が申し込む。どうせ誕生日も何もわからないし、でたらめデータでちょうど良いわよ。」
そう言って新条はくるりと椅子を戻した。
タカタカッと名前とでたらめな生年月日を打ち込む。
そしてEnterを押そうとした瞬間。
「待って!押さないでください!呪詛です!」
雨宮が新条の手をキーボードから引き離すように掴んだ。
「本当だわ。」
霊感の強い不知火も気が付く。
「HPとは形だけ。ここに自分の名前と生年月日を入れた瞬間に呪詛の白羽の矢が立つ・・・何なの・・・これは・・・」
無差別殺人ならぬ無差別呪詛。
獣を捕らえる罠のように、ネットという森の中にこっそり仕掛けられた呪詛の罠。
モニターを見つめながら、一同はあまりの悪質さに背筋を凍らせた。

◆悪意
「わかりました。こちらも気をつけます。」
斎はそう言って携帯を切った。
たった今事務所からもたらされた情報を、一緒に少女の護衛に当たっている風野 想貴に伝える。
「無差別呪詛?なんて悪質なんだ・・・」
二人は少女が通う高校の校門前に立っていた。
少女が授業中なので外から様子を見ているのだ。
もちろん何かあったらすぐに飛び込んでゆけるように、スタンバイしている。
「呪詛ということは、呪の気を辿れば主にたどり着かないかな?」
風野がふと思いつく。
「それか、案外そばにいるのかも・・・」
「そうですね・・・」
斎は少し思案するように目を閉じる。
あたりの気配を探っているのだろう、しばらくするとふっと目を開き、校門の向う、通りの影を見つめた。
「誰かいます。」
「!」
斎の言葉に風野も気を張る。
風野の感にも気配がかかる。
黒い・・・淀んだような・・・
ところが、不意に後ろから声がかかる。
「気配は一つじゃなくってよ。お兄さんたち。」
声の主は校門の門柱の上。
ちょこんと座ってこっちをみている。
「もっとも、ヨミの気の方が強いから私に気がつかなくても仕方ないわね。」
声の主はクスクスと笑う。
「キミは・・・」
風野は不意をつかれた所為もあったが、その声の主の意外さに言葉を失っている。
門柱の上に座っているのは少女。
歳は12〜3歳くらいの幼い人形のような少女だった。
「外見には騙されませんよ。」
斎はスッとジャケットのうちポケットから蝶の形をかたどった和紙を取り出し、ふっと軽く息を吹きかけた。
斎に仮初の命を与えられた使役の蝶たちは、すうっと少女の周りを取り囲む。使役の蝶によって結界を作り上げ、少女を動けなくするのが目的だ。
少女は一瞬、煙たがるように眉をひそめると声高に叫んだ。
「スリープウォーカー!これは貴方の仕事じゃないの!」
その声と同時に蝶は再び和紙にと戻り、ひらひらと地面に落ちる。
「そうだね。アリスはこう言うことには向いていないからね。」
「!」
今度は斎が声を失う。
完全に不意をつかれてしまった。
「鬱陶しいのは貴方に任せるわよ。私は向うへ行くわ。」
アリスと呼ばれた少女はぴょんと門柱から飛び降りると風野の横を通り抜けて走り出した。
「あ!」
風野が少女を追って踵を返す。
「こっちは俺が追う!」
斎は無言で答える。
声を出すことも、目線をはずすことも許されない。
しかし飄々と現れたスリープウォーカーと呼ばれた青年は、にやりと笑って斎を見ている。
「僕の相手は、キミ?」
スリープウォーカーは良く見ると不思議な青年だった。
外見は若い。下手をすると斎より若いかもしれない。
しかし、その雰囲気は・・・熟年の重い気迫がある。いや、熟年というよりは熟れ過ぎて腐敗をはじめた果物のような・・・黒く淀んだような重々しい気配だ。
「僕は人が殺せれば誰でもいいんだ。」
禍々しい邪気を隠そうともせずに言う。
悪夢のようなこの男に斎は吐き気を覚えた。

◆殺意
「斎!」
風野と入れ替わりに、息を切らして駆けつけてきたのは雨宮だった。
「間に合ったみたいですね。」
軽くフットワークをつけて立ち止まり息を落ち着ける。
「キミも仲間?」
スリープウォーカーは面倒くさそうにちょっと首をかしげた。
「ダルイなぁ・・・」
「そんなことを言っているのは今のうちだけです。」
雨宮はスッと格闘の構えを取る。
野暮ったさの欠片もない、よく切れる刃物のように鋭い構えだ。
「依頼主には手を出させません。」
斎も再び符を構える。
「見くびってもらっては困る。」
斎に再び仮初の命を与えられた使役の蝶が、今度はスリープウォーカーの目を塞ぐ。
「ハッ!」
視界を奪うのとほぼ同時に雨宮の蹴りが胸を狙って繰り出された。
「ハッ!ヤッ!」
舞のように優雅だが、一部の隙もない鋭い蹴りと手刀がスリープウォカーの急所を的確に狙う!
スリープウォーカーはそれを寸でのところでかわすが、じりじりと後退を強いられる。
「・・・僕は肉体労働は苦手なんだよね。」
かわしつつも、スッスッと印を切り身の回りに纏わりつく蝶を祓った。
「遊びはこのくらいにするよ。」
そう言って、軽い反動をつけて校門の門柱の上に飛び乗った。
「キミたちの依頼人に手を出さなければ見逃してもらえるのかなぁ?」
「なに!?」
のほほんと言いのけるスリープウォーカーに斎と雨宮は呆れる。
「あの女の子・・・身代わりの呪とか呪詛返しとか面倒くさいのがいっぱいくっついてるんだよね。だからさ、彼女に手を出さなかったら見逃してくれる?」
斎と雨宮は完全に毒気を抜かれてしまった。
何と言うか、スリープウォーカーにはそういう毒気を中和してしまうようなやる気のなさみたいなものがあるのだ。
「うん、あの少女はやめてあげる。だから僕らもこれで終わりにしよう。」
「あ、ああ・・・」
斎はその言葉についうっかり返事をしてしまった。
その一瞬が罠だったのだ。
スリープウォーカーはにやりと笑うと、声高に言った。
「あの少女以外の人間で我慢してあげるよ!」

その瞬間

少女の学び舎である校舎のほうから絶叫が響き渡った。
校舎から走り出してくるものも何人かいる。
「何があったんです!」
校門を走り抜けようとした少年の腕を掴み、雨宮が問う。
「お、女の子たちが爆発して・・・!」
「!」
見るとその男子生徒の制服はぐっしょりと濡れている。
そして足元に滴るその液体は・・・血。
「貴様!」
怒りに震えその生徒を突き放して雨宮が振り返ると、もうそこにはスリープウォーカーの姿はなかった。

◆惨劇
依頼人の少女を除く女子生徒全員の命が一瞬にして奪われた。
総勢152名。全員が原形も残さず爆死した。
たった一人の男の呪によって。
まるで内側から何かが破裂したようだった・・・惨劇を目撃してしまった男子生徒はそれだけ言うと恐怖に皆が口をつぐんでしまった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0711 / 風野・想貴 / 男 / 17 / 未来から来た少年
0164 / 斎・悠也 / 男 / 21 / 大学生・バイトでホスト
0116 / 不知火・響 / 女 / 28 / 臨時教師(保健室勤務)
0499 / 新条・アスカ / 女 / 24 / 闇医者
0331 / 雨宮・隼人 / 男 / 29 / 陰陽師

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、初めまして。MITSURUです。
今回は私の依頼をお受けいただき、ありがとうございました。
ちょっと後味の悪い結果となってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
せっかくの外科医としての腕前は、フェミニストの前にお見せすることができませんでしたが、これに懲りずに再トライしてみてください。
謎の少女・アリスと謎の男・スリープウォーカーはきっとこれに懲りず、また何か仕掛けてくるかもしれません。
彼らもまた新条と同じ世界に生きる住人ですから。
どうぞ、また見かけたら接触してやってください。
意外な一面が見れるかも・・・しれませんから。