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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ヴァンパイア・エクスドリーム

全国で、引きこもりや不登校児となってしまった少年が次々に失踪するという謎の事件が発生している。
彼らは、彼らの「存在」だけを消されたように、ある日忽然と消えてしまうらしい。
この被害は留まるところを知らない。
情報によると、少年達は、同じオンラインゲームソフトをやっていたということが闇情報で明らかになっている。
そのタイトルは、「ヴァンパイア・エクスドリーム」。
この神隠し事件は、このゲームに関係していると思われる。
詳細は不明だが、調査する価値はあるだろう。

「これはオンラインを利用した広域結界の類か…?」
 「ヴァンパイア・エクスドリーム」の事件に関する情報を拾った風野想貴は、少し考え込んだ。
 ふと、以前遭遇した吸血鬼事件について思い出す。あの事件自体は解決したが、事件の大元であろう「親」は退治していない。
 もしかしたら今回の事件には、その「親」が関係しているのではないか。だとしたら、退治しなければならない。
 あの吸血鬼事件で、妹を失った少女。想貴は彼女に、仇討ちを誓った。しかし大元の「親」を倒さねば、真に仇を討ったとは言えぬだろう。
 それに、想貴の命の灯火は、日に日に小さくなっている。このままでは、誓いを果たす前に命の灯火が消えてしまうかもしれない。
 現代の医療技術ならば延命処置も可能だろうが、最悪の可能性のことを考えると、急がざるを得ない。

「ゲーム…チェスやカードではないのか。計り知れないな、この世界は」
 「ヴァンパイア・エクスドリーム」についての情報を耳にし、ロゼ・クロイツは早速裏情報を漁り始めた。このような時、インターネットというものは便利である。
 彼女が見ているのは、ゲーム関連の裏情報のサイトの情報交換BBSである。エミュレイターソフトや裏で販売されているソフトの情報に混じって、「ヴァンパイア・エクスドリーム」に関する情報も少なからずあった。
『「ヴァンパイア・エクスドリーム」は同人ソフトだけど超おもしろいよ』
『フツーのネットワークゲームじゃ、あの面白さは味わえないよ』
『作ったのは、「リリス」というハンドルの女の子らしいけど、もしかしたらどこか大手のゲームメーカーのクリエイターじゃないのか、って話。素人じゃ、あんなゲームは作れないから、そうだとしても納得だね』
 このBBSで確認できたことは、「ゲームはどこかのメーカーが作った物ではなく、個人によって作成されたものであるということ」、「製作者は「リリス」というハンドルの女性で、そのゲームは彼女のホームページでダウンロードできるということ」、「ゲームをプレイしたと思われる者たちは、それに関する書き込みをした後は、一度も書き込みをしていないという、一種の法則」の三つであった。
「リリスというのが例の吸血鬼の「親」である可能性がある。調べる価値はありそうだな」
 ロゼの脳裏にも、やはり、以前の吸血鬼事件があった。
 彼らの「親」について調べたが、やはり大した情報は手に入らなかった。
 この「リリス」という人物が「親」であれば、それこそ鴨が葱を背負ってやってきたようなものだ。
 ロゼはまず、失踪した人物の家族に接触することにした。

「アンパイア…ってことは野球の審判になって遊ぶゲーム…だよなあ。…野球ゲームで失踪?」
 この、征城大悟の素敵なボケを、七森恭一は敢えて突っ込まずに受け流した。
 そして、パソコンでの作業を続ける。
「でも、売り出せば、今までにないアイディアってことで、結構話題になるんじゃないッスか?」
「んな訳ねーだろ!」
 ついに堪忍袋の緒が切れたのか、突っ込む恭一。
 もしこの、彼の部屋にちゃぶ台があったら彼はステテコ+腹巻という姿でひっくり返したところであろうが、残念ながら彼の部屋にはそんなオールドジャパニーズスタイルな代物は置いてなかった。
「え?」
「野球じゃないことは断言する」
 大悟にそれ以上言っても無駄な気がしたのか、恭一はパソコンの方に向き直った。
 まずは「ヴァンパイア・エクスドリーム」のソフトをダウンロードしなければならない。今はダウンロード待ち中である。
 それが終わると、早速恭一はダウンロードしたそれを解凍した。

 想貴もまた、ファイルをダウンロードし、圧縮されたそれを解凍し終えると、早速プレイしてみた。
 どうやら、吸血鬼を退治する単純な構成のホラーRPGらしい。
 一見すると単調でつまらないが、敵のボス役の吸血鬼がそれぞれ個性があったり、他のプレイヤーとの交流がおもしろい、と他のプレイヤーは言っていた。
『おい、あんた。あんたもこのゲームによって引き起こされている失踪事件を調査しているんだろう』
 他のプレイヤーが想貴に、画面上から話し掛けて来た。
 そのプレイヤーは恭一だったのだが、二人はまだ面識がなかったので、互いに「特殊な力」を持っていることには気付かなかった。
『キミも?』
『そう。今回の事件、普通じゃなさそうなのは知っての通りだろうから、ここでは省く。とりあえずダチと二人でこのゲームをやって、それで黒幕?…っつーのかな…まあとにかくそいつが引っ掛からないかな、ってやっているんだ。そううまく行くとは思えねーけど、引っ掛かる可能性がないわけでもないから、とりあえず、な』
『俺も同じ考えだ』
『現時点では一番妥当な手段、だしな』

 ロゼは、被害者の一人の家族と、コンタクトを取ることに成功した。
 そして早速、パソコンを検分させてもらう。
 間違いなく、ゲームのファイルが入っている。ロゼはとりあえず、問題のゲームのプログラムを見ることにした。プログラムの構成に精通している訳ではないが、何かヒントがあることも考えられなくもない。
 しかし、そうしようとした瞬間、プログラムが発動し、女性の顔がディスプレイに映る。
 その女性の顔は、どんどんアップになる。
 そしてついには、その女性は画面から飛び出す!
(…!)
 その女性は、鋭い牙を持っていた。その姿は、伝承に現れる吸血鬼そのものである。
「貴様が、元凶か!」
 女性は、にっ、と笑った。ひどく、不気味な笑みだった。
 そして、ロゼに牙を剥く!

「あれ?画面、変わったッスね」
 恭一のパソコンの画面を覗いて、大悟が言った。
 ディスプレイには、女性の顔がアップになっている。
(しかし…演出にしてもタイミングがあるだろうに。バグか?)
 次の瞬間、女吸血鬼が、ディスプレイから「抜け出る」!
「な!?」
「すごいッスね!パソコンもついにここまで来たんスか!?」
「んな訳ねーだろ!」

 想貴も、画面から現れた吸血鬼に襲われていた。
(まいったな、まさか画面から出てくるとは、思ってもみなかった)
 おそらく、ゲームのプログラムの中には、この女吸血鬼の「実体化プログラム」も含まれていたのだろう。
 あくまで推論だが、このゲームに「ハマった」連中は、オンラインを利用した広域結界に取り込まれたり、あるいは電脳空間にある異世界(実際に異世界が存在するかどうかは不明だが、この場合は存在すると仮定する)に閉じこめられたりしたのではないのだろうか。
 そして、消えた者の行方を追う者は、この吸血鬼を使って始末させたのであろう。
 相手はおそらく、かなりの技術と力と頭脳を兼ね備える存在だろう。
 想貴はそんなことを考えながら、短刀を手に握り、それに虚無を纏わせた。
 …一閃。
 プログラムの吸血鬼は崩れ落ち、そして音もなく消滅した。
(しかし、こいつはあくまで「プログラム」に過ぎない。…本物はおそらく、ネットの迷宮の先に存在する…)
『その通りよ、未来から来た坊や』
 画面を見ると、別の女性が映っている。美しいが、禍々しさを感じさせる。
『そうそう。連れさらった連中は、無事よ。「生きて」はいるわ。ただし、すでに吸血鬼化して、理性は失っているけどね』
「なっ!?」
 想貴はいろいろと聞き出すつもりだったが、その前に画面は消えた。

「いやー、最近のゲームはすごいッスねー。画面上から飛び出してくるなんて」
「だから、んな訳ねーだろ、っつーの!」
 吸血鬼は二人に何度も攻撃してきた。
 見たところ、彼女には理性というものは感じられない。おそらくこの魔物は、ゲームの中に組み込まれていたプログラムの一種に過ぎないのだろう。
 このような技術は現実的ではないが…そもそも現実ほど脆くはかないものはないのだ。そのことは、二人とも承知の真実であった。
 ふと、大悟はラムネのビンに目をやる。喉が乾いたから近くの商店で買ってきたのだ。
 その、既に空になっているビンをたたき割り、中のビー玉を取り出す。
「くらえ!」
 ビー玉を思い切り、指で弾く大悟。彼の「指弾」は百発百中で、それは吸血鬼の頭を撃ち抜く…はずだったが、当たりはしたが大したダメージにはならなかった。
「どけ、大悟!」
 恭一は大悟を下がらせると、吸血鬼に必殺の電撃を御見舞いする。さすがにこれは効いたのか、女魔物は倒れ、やはり音もなく消える。
「くそー、何なんだよ一体…」
 恭一の言葉も、全く以てその通りである。
「ところで、部屋ん中で電撃使って、家電製品は大丈夫ッスか?」
「ぎゃああああああああああっ!しまったああああああああっ!」
 恭一の部屋の家電製品が全滅したのは、もはや言うまでもない。

「神を冒涜する者よ!我が名の元に浄化してくれよう!」
 叫び、ロゼは聖水を吸血鬼に浴びせた。さらに苦しむ吸血鬼に、銀の矢を射る。
 それは、蒸発した。浄化が完了したのである。
 ロゼはパソコンに目をやった。
『クス…クスクス…』
 やはり別の女性が、画面に現れた。
『ご苦労様、エクソシストさん。私の分身「リリム」を倒したことは、まあとりあえず誉めてあげる。でも「リリム」は、私の力の数百分の一程度の力しか持ってないんだけどね』
「何者だ」
『私は、リリス。「悠久の時」を生きる「原初の吸血鬼」よ』
 次の瞬間、画面は消えた。
「…原初の、吸血鬼」
ロゼは、その言葉を噛み締めた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0423/ロゼ・クロイツ/女/2/元・悪魔払い師の助手
0463/七森恭一/男/23/会社員
0662/征城大悟/男/23/長距離トラック運転手
0711/風野想貴/男/17/未来から来た少年
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■         ライター通信          ■
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某有名RPGのオンラインゲーム化にあやかり(?)オンラインゲームネタ。
結構この手のネタ、好きです。
もしかしたら単にインターネットネタが好きなのかもしれませぬ。
そして、まだまだ引っ張る予定でございます(爆)。シリーズ物はとことん続ける気満々なので。
まあ、とにかく今後も気が向いたら参加してくださいませ。
それと、ファンレターには必ずお返事しますので、是非。