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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


ポータブル・デビル

------<オープニング>--------------------------------------

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現在、若者の間で「携帯電話にとりつく鬼」という噂が広まっている。
私の独自の調査によると、鬼にとりつかれると以上のような症状が出る。
1. 携帯の不具合(雑音が入りやすくなる、メールの配信時間が狂うなど)
2. 不運に見舞われる。怪我、落とし物、盗みにあうなど。この時期に、呪いのメールなどが届くようになる。
大抵この段階までで携帯を解約する者が多い。一度とりつくと、携帯会社を変えない限り鬼はついて回ると言われている。
 噂では、呪いのメールの次には呪いの電話が「友達などの番号表示」でかかってくるようになる。呪いの電話を一定回数取ると呪い殺される。

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 東京都日野市豊田――
 一台の車が、街道沿いを走っていた。
 JR中央線「豊田」駅から程近い。右手は土手になっており、その下は二輪の教習所だ。
 右手に、大きな建物が建っていた。
 2メートルばかりもある塀が、建物をぐるりと囲んでいる。入り口の両脇には警備員の詰めているボックスが付けられていた。駐車場も塀の中にあるらしく、車が一台そこに入っていく。
「Fエレクトロニクスの日野工場ね」
 助手席で煙草を吸っていた草間がそう呟く。
 荒祇天禪はハンドルを切り、角を曲がった。
「FFRファスナーの携帯電話も作っているという話だ。全携帯会社に本体を提供しているが、この日野工場はFFR向けがメインだそうだ」
「はあ」
 草間は灰皿を引き出し、煙草をもみ消した。
「それで、これからどうしようっていうんですか」

 携帯に取り憑く鬼の噂は、前々から知ってはいた。だが、具体的な情報が天禪の元に上がってきたのは今朝である。
 どうせ根も葉もないうわさ話、いいところで都市伝説だろうと思っていたこの「携帯鬼」だが、どうやら実際に死人が出ているらしいのだ。
 携帯鬼の噂が流れ始めた一年半前からこちら、頭部のない変死体が20体あまりも見つかっているという。そして、天禪のグループ会社の一つでも被害者が出たのだ。それでようやく、天禪お抱えの諜報部が報告書にしてきたというわけだ。
 彼らの対応の遅さを責めることは容易い。しかし、彼らは彼らで「根も葉もない噂であれば耳に入れる必要はない」と思っていたのだろう。何しろ携帯「鬼」である。
 不用意に耳に入れれば不興を買うと邪推したのも無理はない。
 鬼が取り憑くと、携帯に不具合が起きる。これが初期症状だ。それを放置しておくと、今度は奇妙なメールが届くようになる。発信者やタイトルの部分に、「呪」「死」「恨」などの文字が並んだメール。
 このメールが届く頃、甲高い何かの笑い声が聞こえてくる謎の電話がかかってくる。
 呪いのメールと電話が一定回数を越えると、携帯電話にとりついていた鬼が具現化し、持ち主の頭を食ってしまうというのが噂の内容だ。
 死者の名前を告げられなければ、下らぬ噂話だと鼻で笑い飛ばしていただろう。
 だが、実際に人は死んだのだ。
 頭部を食いちぎられて。
 その頭は、現在も見つかっていない。鬼が実在するのならば、その胃の中だということになる。
 気になるのは、この携帯鬼が「取り憑かない」携帯電話があるということだ。報告によればFFRファスナー――急成長中の携帯会社である。FFRの携帯には鬼が憑かないと、若者の間では乗り換えるものが多いという。
 よもやそれだけではないだろうが、FFRがここ一年で急激に伸びたという事の一端を、携帯鬼の噂が担っていると思えなくもない。
 天禪は報告書に目を通し終えると、社を出た。午後の仕事は秘書に任せてある。
 草間興信所へ行き、所長を車に押し込んで――
 はるばる多摩、日野までやってきたというわけであった。

「お前は携帯鬼についてどれほどまで掴んでいる?」
「噂程度ですね」
 草間はふわぁと欠伸を漏らした。
「仕事が来なけりゃ、情報は集めませんよ」
 そんな金銭的余裕はございません、と草間は茶化す。
「ただ、面白い噂を一つ」
「なんだ」
「昔、FFRの携帯電話もしっかり鬼に取り憑かれてたってコトです。ところが、半年ほど前から――丁度、『FFRは大丈夫』って噂が出始めた頃から、それがなくなった」
「ふむ」
 天禪は顎をひねる。
「黒幕はどこなんでしょうね」
 草間はにやっと笑った。
「お前の情報もバカに出来んな。よし、ついてこい」
 天禪は車を停め、ドアを開けた。
 
×

 広々とした道が縦横に伸びていた。
 あちこちに、銀色の細いパイプが張り巡らされている。中には何が通っているのか、道を跨ぎ建物の壁を走りしている。
「生臭いな」
 天禪は唸る。
 草間が鼻をうごめかせた。
「油っぽい臭いと金属臭が」
「違う。それではない」
 あたりの空気が淀んでいた。
 生臭いというより、獣臭い。野の獣の臭いが満ちている。
 羽音が聞こた。
 天禪は空を仰ぐ。
 大きな烏が舞い降りてきた。
「うわ、なんだこれ」
「八咫烏だ」
 ばさりと羽を振るわせ、八咫烏がカァと啼いた。
 草間をジッと見つめる。
 バサッと羽を広げて威嚇した。
「おいおい」
「遊ぶな」
 ぽんぽんと八咫烏の背中を叩き、天禪が諫める。
――土蜘蛛を紛れさせておきました。
 天禪の肩の上にとまり、八咫烏が囁く。
――東の角に、プレハブ小屋があります。そこに、鳥居が
「鳥居?」
――小さなものですが、プレハブの中に三本。屋上に金属製のものと稲荷が一つ。
「案内しろ」
 八咫烏が羽ばたき、左手の方へ飛び去る。
「鳥居と稲荷があるそうだ」
 天禪が顎をしゃくる。
 草間が「はぁ」と頷いた。
 

 プレハブの回りには、獣の臭気が充満していた。
 小さなプレハブである。工場自体が広大なためか、人気が全く感じられない。
 土曜と言うこともあって、勤務している人間が少ないのかも知れなかった。
 青いトタンの屋根と壁で出来ている。その入り口の前に、木製の鳥居があった。
 真新しい。すくなくとも、この工場が出来たときから建っているというわけではなさそうだった。
 草間が入り口に手を掛ける。
「鍵は掛かっていないようですな」
 天禪を振り返る。
 開いた。
 
「何をしている」

 甲高い男の声が響いたのはその時であった。

 真っ白い着物を着た男だった。狩衣と水干の中間のような、袖の長い上着に白い袴、足元は足袋という出で立ちだ。
 長い髪は暖かな茶色で、肩のあたりで一つに結んでいる。赤い紐に、銀色の鈴を通してあった。
 目元にぐるりと赤い化粧を施している。唇も、古風な朱色に塗られている。しかし、整った容貌は明らかに男性のものだった。
 浮いている。
 赤い鳥居の上に、ふわふわと浮いていた。

×

「我を奉った場所にずけずけと入ろうとするとは、不届きな奴め」
 しゃらりと鈴が鳴る。
 八咫烏が舞い降りてきた。
「お前か。先ほどからこそこそと」
 男が腕を伸ばす。八咫烏は羽ばたき、それをかわそうとして――
「グゲッ!」
 悲鳴を上げ、落下した。
 アスファルトの上に落ち、もがく。
 天禪が八咫烏を拾い上げた。
 ひんやりとした感触が手の甲に触れる。
 しゃらん。鈴が鳴る。
 アスファルトの上が、一瞬で灰色に染まった。
 
「何だ!?」
 草間が呻く。
 アスファルトの上に、粘土色をした小さな異形がいた。
 それも、地面を埋め尽くすほど大量に、である。
 ネズミほどから子犬ほどの犬が、草間に殺到した。
 冷たい掌が草間の身体を叩き、尖ったかぎ爪が肉をえぐる。
 草間は暴れた。
 やせ細った手足に、尖ったかぎ爪が生えている。口はくわっと耳まで裂け、頭部には角が二本。腹部だけがぽっこりと盛り上がっている。
「粗悪な」
 天禪が呟き、草間の襟首を掴む。
「これが、携帯鬼とやらの正体か?」
 どんっ。
 アスファルトを踏みならした。
「ギィィッ!?」
 小鬼どもが悲鳴を上げる。
 崩れた。
 灰色の砂になる。
 風に吹かれ、消えた。
「ほ」
 男が袖で口元を覆う。
 天禪は足下に残った砂をザッと蹴った。
「粘土細工の粗悪な使い魔だ。鬼の姿を模しているにすぎん」
 草間の襟首から手を離す。
 八咫烏が舞い上がった。
「なかなかやるようじゃ」
 男が囁く。
 天禪が一歩踏み出す。
 結界があった。
 鳥居を中心に、円形に結界が張られている。
「鳥居はお前を奉るのか。なるほど」
 生臭い獣の臭い。鳥居。屋上の稲荷。
「狐だな」
「ほほ」
 男が笑う。
「お前はここで何の悪巧みをしている」
「なにもしておらぬぞ」
 男は鳥居の上で足を組んだ。
「携帯に小鬼を憑けて遊んでいただけよ。ほほ。鬼は人を食ろうて我の元へ戻ってくる。面白いぞ、我はこうして座しているだけで精気がつく。人とは便利なものじゃ」
「ほう。それが何故こんなところにいる」
「我に願ったのよ、ここの者らがな。我はここから出るからくりには小鬼が憑かぬようにしておるだけじゃ。月に一度な」
 男が立ち上がる。
「邪魔をするでない。人間よ」
 男がぎらりと瞳を光らせる。
 生臭い気が吹き付ける。さしもの草間にも感じられたのか、うぇっと呻いて咳き込んだ。
「死ぬがよい」
 男が跳躍した。
 灰色の壁が二人の前に立ち塞がる。
 巨大な鬼の模造品が、仁王立ちしていた。
 
×

「つまらん話だ」
 天禪は静かに呟いた。
「鬼鬼と言われてみれば、こんな泥人形とはな」
 ザッと足下の砂を蹴る。
 一歩踏み出すと同時に、鬼の腹部に手を伸ばす。
 掌で打った。
 ざざあっと鬼が砕ける。砂になる。
 砂をかぶって八咫烏が慌てふためく。草間は顔を背けた。
「げほっげほっ、ちょ、社長。ここに無能な一般民間人がいるんですから、もうちょっとお手柔らかに」
「何が無能だ。冗談はよせ」
 草間はばさばさと髪と上着を払う。
 獣の臭気が消えている。
 八咫烏がクエェと啼いた。
――逃げましたぞ
「土蜘蛛が追っているな」
――はっ
 天禪はくるりと踵を返した。
「追う」
 つまらぬ噂で鬼の名を汚したことを、身をもって償わせなければならないだろう。
 金色の瞳が、鈍く光を放った。
 
 地に潜り、どこまでも目標物を追ってゆけるのが土蜘蛛だ。探索ならば八咫烏の方が一枚上手だが、追跡では土蜘蛛の方が有利である。
 ラジオのチューナーを操作する。
「新宿ですな」
 不機嫌な小鬼の声が響いた。
「やれやれ。逆戻りか」
 天禪はアクセルを踏み込みながら呟く。
 横で、草間が八咫烏を押さえ込んでいた。ばさばさされるのが嫌なようだ。
「新しい情報です。どうやら、携帯鬼のことを嗅ぎ回っていた記者がいるようですな」
――そちらも、新宿に。
 八咫烏が付け加える。
「そちらに行ったのか」
「あの、社長」
 草間が八咫烏の首根っこを捕まえ、ぼそりと呟いた。
「さっきから独り言ばっかりで、意味が全然分からないんですがね」
「説明するほどの内容でもない」
「さいですか」
 草間が八咫烏のくちばしを突いた。
 
×

 車を駐車場に入れ、東口の前をゆく。
 八咫烏ははるか上空を飛んでいる。
 スタジオALTAビル前は相変わらずの混雑だった。七月上旬の土曜の午後だ。もう半月もすれば、この倍は混み合うようになる。
 ライオン広場を通り抜ける。
 生臭い臭いが強くなる。
 いる。
 天禪はぼきりと指の骨を鳴らした。
「一つ、痛い目を見て貰わねばならんな」
 悲鳴が響き渡ったのは、その時だった。
 強烈な臭気が辺り一帯を襲う。
 人々の肩に、鬼がいた。
 
「目くらましを解いたな」
 天禪は唸った。
 殆どの者の鞄や上着の中から、鬼が出てきている。鋭い牙をがちがちと鳴らし、近くにいる人間に手当たり次第に噛みついている。
「うわあっ」
 目にかぎ爪を突っ込まれ、男性が呻いていた。
「まさか、これほど広がっていたとはな」
 近寄ってきた鬼を掌で弾き飛ばし、天禪が唸る。
 雷鳴が轟いた。
 誰かが、狐を攻撃している。
「急ぐぞ」
「ちょっと、すいませんが」
 草間は上着を脱ぎ、飛びついてきた鬼をばさばさと払い除けた。
「事務所にバイトが一人でいるもんで、見てきたいんだが」
「そうか」
 草間に飛びかかろうとした猫ほどの大きさの鬼を叩き潰す。
「どこまで広がっているかわからんが、その方がよさそうだ」
「社長は」
「追う」
 短く答えた。
 
×

 どっしりとした門が見えた。
 タイムズスクエア前の通りである。
 臭気は、そこで消えていた。
 新宿駅東口からここまでの道は、全て灰色の泥人形で埋め尽くされていた。何人かは奮戦していたが、人形どもは時間を追うに連れて凶暴になるらしい。地に伏している者も何人か見えた。
 道のあちこちに、砕けた砂のかけらが飛び散っている。新宿全体が灰色に染まっていると、八咫烏が報告する。
 門の向こうには神社が見えた。狐が逃げ込むには似合いの場所――かもしれない。
 門の前には扇形のバリケードが築かれている。
 堅固な結界が築かれている。先ほど戦闘していた誰かを誘い込んだのかも知れなかった。
「主様」
 低い声が響く。
 バリケードの手前から、太い毛むくじゃらの脚が伸びてくる。
 丸々とした腹部はどす黒く、やはり剛毛が生えている。黒く丸い瞳が、頭部に七つほどついていた。
 全長二メートルほどの大蜘蛛である。
 土蜘蛛であった。
「この中に、人間が二人入ってゆきました」
「入る隙はあるか」
「作れます」
 土蜘蛛がどすんと動く。
 尻から伸びた糸が、門の向こうへと消えている。
「閉じる前に差し込んでおきました」
「よくやった」
 天禪は蜘蛛に近づく。
 蜘蛛がぐいっと尻を揺する。
 門の向こうが黒く歪む。
 天禪はバリケードを乗り越え、その歪みの中に飛び込んだ。
 
×

 視界が黒く染まった。
 見事な玉砂利敷きの地面に着地し、天禪はぐるりと周囲を見回した。
 空が黒かった。
 赤黒い空が天を覆っている。
 視線の向こうに、一定間隔を置いて連なる無数の赤い鳥居が見えた。
 その連なる鳥居の上に、狐がいた。
 手前に、赤毛の青年がいる。狐にやられたのか、片目を押さえて膝を突いていた。
「そのカメラも不愉快だのう」
 くくっと狐が笑う。赤毛の青年の後ろにいる大男を指さしていた。
 大男の手には、古びた一眼レフが握られている。
 狐が尖った爪で大男を指さした。
「壊してくれようぞ」
 男達の回りの玉砂利が浮かび上がった。
「つまらぬことばかりするな、野狐」

 狐火に囲まれたまま、男二人が振り返る。
 カメラを抱えた方が、天禪の名を呟いた。

「ほ、ほ、ほ」
 狐が笑った。袖で口元を押さえている。
「気づかなんだ。おぬし、鬼なのか。
 鬼遊びをしていたら、本物の鬼が来おったわ」
 狐の回りに、ボウッと青白い炎が浮かぶ。
 くるくると狐を囲むように回り出した。
 天禪は不機嫌に目を細める。
 生臭い臭気が吹き付けてくる。
「今頃気づいたか」
 低く呟いた。
「野良狐程度では、気づかなくとも仕方がないか」
「我を愚弄すると許さんぞ。野良鬼めが」
 ケーン、と高い遠吠えが響く。
 男の姿が溶ける。着物が、ばさばさと鳥居の下に落ちた。
 黄金色の狐が、鳥居の上で吼えた。
「我は百本の鳥居を立てし大狐ぞ。鬼ごときに遅れなど取らぬ」
「バカが」
 天禪は不敵に笑った。
「あんな泥人形を鬼と呼ぶお前などが、鬼に勝てるか」
 ケーン!
 狐が吼えた。
「こちらも数を増やさせて貰おうか」
 鳥居の中から、粘土色の波が押し寄せてくる。
 あふれ出た粘土色のものは、たちまち天禪を囲んだ。
 例の泥人形だ。
 それも、ネズミほどの小さな鬼だ。
 玉砂利を埋め尽くす。
 粘土色に染まった大地が脈打つ。
 鬼が跳躍した。
 雪崩のように、天禪に降り注いだ。
 
 鬼の手が、天禪を切り裂こうと伸びる。
 だが、その爪は薄皮一枚傷つけることも出来ず、惨めに服を引っ掻くだけだ。
「泥人形など」
 天禪は腕を振るう。人形どもが吹き飛ぶ。
「何万来ようと無意味よ!」
 吼えた。
 腕だけを原型に戻す。
 振るった。
 悲鳴を上げる暇もなく、泥人形が崩れる。溶けてゆく。
「ふん」
 玉砂利を埋め尽くす人形どもは、全て泥へと戻った。
「ほ、ほ……」
 狐が鳥居から飛び降りる。
 尾が扇形に開いている。狐火の数が増えている。
 その瞳には、微かなおびえがあった。
「契約は、破棄じゃ」
 高い声が微かに震えている。
 狐が、鳥居の林の中に飛び込んだ。
「逃さん」
 固形化した気が巨大な掌になり、狐を追う。
 鳥居が壊れてゆく。見えない拳に握りつぶされるかのように、無惨にへし折れていく。
 その鳥居の列を、狐が猛スピードで走り抜けてゆく。
 一つ一つが防御の壁の役割をしているのだ。
 最後の一つに、狐が飛び込んだ。
 消える。
「ふん」
 天禪が吐き捨てた。
 広々とした玉砂利の大地に、ひびだらけの鳥居が一本、ぽつんと残っていた。

×

 結界から抜けると、眩しい日差しが目を打った。
 土蜘蛛の背中に八咫烏が留まっている。
 泥人形の姿は残らず消えていた。
「つまらん」
 天禪は呟く。
 八咫烏が肩に舞い降りた。
「荒祇天禪氏ですね?」
 大男が声を掛けてくる。
「いかにも、そうだが」
「お写真一枚頂いてもよろしいですかね」
 男は名刺を差し出す。
 フリーライター 北城透
 とあった。
「アトラスの特集号に載せさせて頂いてもいいでしょうか」
「ダメだ」
 天禪は首を振る。
 名刺を返した。
「それから、携帯鬼という単語は使わないでくれ。気にいらん」
 くるりと踵を返す。
 タイムズスクエア前に、黒い車が止まっている。

――そうそう。虎の娘から言づてが
 車に乗り込む直前、八咫烏が啼いた。
――「一臣は順調に成長中。だがお前にはやらぬ」だそうで。
 天禪は肩をすくめた。
「捨てられたか」
――いえ。

 まだ大事に持っているようです。
 
 運転席に滑り込み、天禪はハンドルを軽く叩いた。
「はやく一人前になれ」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0599 / 黒月・焔 / 男性 / 27 / バーのマスター
 0284 / 荒祇・天禪 / 男性 / 980 / 会社会長
 
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■         ライター通信          ■
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 大変時間が掛かってしまいました。
 ポータブル・デビルをお届け致します。
 書き直すこと3度余りという力作?ですので、楽しんで頂けたならば光栄です。
 今回は大きく三つに舞台が分かれていますので、他の方の分も読んで頂くと、この新宿携帯鬼騒動の全貌が明らかになります。

 荒祇さま
 今回、社長は裏を発見(?)する担当にさせていただいたのですが、ネタが小さかったので始終不完全燃焼気味でした…。
 黒月焔さん編も読んで頂くと、第三者から見た「余裕しゃくしゃくな」天禪氏が見れると思います。
 なお、今回は「人との間に」「人との間で」の華嬢から連絡が来ました。虎の子が戻ってくるかもしれません。ということで、次回以降、楓一臣君大人バージョンを召還することが可能になりました。お使いになる場合はプレイングにその旨お書き下さいませ。
 ご意見、ご感想などありましたら、テラコン・メールでどうぞ。お待ちしております。