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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


紅水鏡

◆オープニング◆
「というわけで、今回頼みたいのは、これだ」
暑い中、わざわざ来たというのにソファに座るやいなや、
そう切り出された。まあ、いつものことか、と思いながら聞く。

「この鏡。依頼人が置いてったんだが」
そう言って、机の上に布にくるまれた、直径30cmほどの丸いものを置く。
布を取り去って、中を見ようとすると、止められた。
「ここで開けるのはやめてくれ。俺は死にたくない」

死にたくないって・・・。そんな危険な物なのか?
「何だかわからんが、その鏡の近くにいた人間が、片っ端から
行方不明になって帰ってきてないらしい。それで、最後に行方不明に
なった人間の家族が、布で包んで持ってきたんだ」

その包みを、こちらにそうっと押しやりながら草間は言った。
「と言う訳で、後は頼む。行方不明になった人間を見つけてくれ。
それが無理でも、これ以上犠牲が出ないように、ということだ。
気をつけてな」

・・・断れなかった。いくら何でも、こんな危険な仕事は嫌だ、と
言ったが、草間は聞いてくれず、結局いつものように受けてしまった。
ため息をつきながら、空を見上げた。厭味な程、蒼かった。


◆黒の迷宮◆
全く、草間にも困ったものだ、と思いながら、興信所の近くの公園に
向かった。ベンチに座って、どうするか考えようと思ったのだ。草間の
話を聞いている限りでは、あまり安全とは言えないようだったし。
というより、かなり危険な依頼だという気がしていた。
公園では、何人かの子供達が遊んでいた。のどかだ。空いているベンチに
座って、一息つく。
「ふぅ。どうしよっかなぁ・・・」
鏡の記憶を見れば、全ては一瞬にして分かるのだが。いくら何でも、
いきなり記憶を見るのは危険な気もして、ためらっていた。
「まぁ、鏡を見ててどっかに行ったんなら、鏡の中に吸い込まれたか、
鏡に心を奪われて自分でどっか行ったか、よね」
子供たちの遊ぶ声や、道路を走る車の音、風にざわめく木々の音を
聞きながら、ひとりごちる。

いつものように、誰かに面倒なことを任せてしまいたかったが、
危険そうなこの依頼に、黙って手伝おうという人間は、さすがにいない
だろうと思われた。
「・・・やっぱり、少しは情報集めないと無理、かな」
何の情報もないのでは、うまくのせて手伝わせることもできない。
そう考えて、仕方なく、鏡の記憶を見ることにした。
こんな面倒な依頼を押し付けてきた草間を、少し呪いながら。

何が原因で行方不明になっているか分からないので、鏡に巻いてある
布は外さないことにした。ひざの上に置いた鏡の布の上から、
そっと両手で触れる。
周囲の音を意識的にシャットアウトしながら、鏡に集中する。
しばらくそうしていると、少しずつ見えてくる。だが、まだ断片的な
映像がぐるぐるまわっているだけだ。一つだけを見るために、さらに
気を高めていく。今までに行方不明になったと思われる、多くの人たちが
見える。年齢も性別も、全てがまちまちだった。その中で、自分と年の近い
少女を見つけたので、その少女の映像に神経を集中させる。

少女は、随分昔の人のようだった。服装から見て、江戸時代あたりだろう。
紅をさしているところのようだ。
と、突然。その少女に向かって、紅い光が向かっていった。鏡の記憶なので、
もちろんこの映像の視点は鏡のものだ。ならば、この光は、鏡から出たもの
なのだろう。光で視界が真っ赤になる。目が眩んで何も見えない・・・。
少しして、光が消えた時、少女はいなかった。

「やっぱり、か」
少し疲労を感じながら呟く。予想通り、今までの行方不明者達は、鏡の中に
吸い込まれたようだ。
厄介だなぁ、と思いながら、手伝ってくれそうな人間にあたるため、
一度家に戻ることにした。白虎も必要になるかもしれない、そう思いながら。

「・・・ということで、七時にうちに来て下さいね」
家に戻って、手伝ってもらえそうな人間に電話で呼び出しをかけた。
だが、ほとんどが忙しい、と言って断ってきた。本当は怖いんじゃないか、と
思ったが、次は手伝って下さいね、と可愛く頼んでおいた。断らなかったのは、
以前ちょっとしたことで知り合いになった、大和だけだった。最も、彼が
断るはずはないのだが。知り合ったきっかけとなった事件で、あたしに恩が
あったし、一目ぼれしたようなのだ。そんなあたしからの頼みとあれば、断れる
はずもない。
指定した七時まで、まだ少し時間があるので、テレビを見ながらくつろぐ。
いつものように、タバコに火をつけ、ゆっくりと過ごす。こういうのを
嵐の前の静けさとでも言うのだろう、とぼんやり思いながら。

七時十分程前。大和がやってきた。
顔は悪くないのだが、少し軽そうな印象を与える。髪は栗色に染められていて、
左耳にだけ小さな銀色のピアスをつけている。大抵Tシャツにジーンズだった。
身長は180ほどあるので、背の低いあたしと比べると、かなり差があった。
会話するとき、たまに首が痛くなる。

「ヒナタさん、僕を呼んでくれてありがとう。頑張って役に立つからね!!」
何やら、やる気十分なようである。あさっての方を向きながら、ガッツポーズを
決めている。
「うん、お願いします。頼りにしてますから」
語尾にハートでもつきそうな言い方をすると、嬉しそうに首を縦にぶんぶんと
振り、いくらでも頼ってくれ、といわんばかりにうなずく。

何が起こるか、詳しくは分からない以上、さすがに家の中で鏡の包みを解く
勇気はないので、近所の神社に行くことにした。神社なら、少々何かあっても
大丈夫だろう、と思ったのだ。鳥居のすぐ後ろにある石段に座り、白虎を
脇に置く。大和はあたしの前に立ったままだ。
「さてと。開けますよ。いいですか?」
「もちろん。どんと来い!!」
よく判らないが、やたらと自信満々で大和が言う。時々馬鹿じゃないかと思うが、
面白いので突っ込まない。
「じゃあ・・・」
言って、ゆっくりと包みを開けていく。
全て布を取り去ると、紅い色が見えた。鏡のふちの部分が、
紅く塗られているのだ。ふちには鳳凰が彫られており、その細工は
見事だった。他は、普通の鏡と何ら変わりはないように見えた。
「綺麗な鏡だね」
大和が中腰になって、鏡のふちに触れながら言う。
「ええ。これでいわくつきじゃなきゃ・・・」
「この鏡を見てると、吸い込まれるの?」
「そうみたいです。あたしが見た記憶では、そう見えました」
「そっか・・・。じゃあ、同時に覗き込んだほうがいいのかな」
「その方がいいと思います。あたしがせーの、って言ったら一緒に見ましょう」
「うん」
頷きながらも、少し声が震えている気がした。・・・怖がってるのかな。
「怖いんですか?」
「そ、そんなことないよ。武者震いさ」
ベタなかわし方だ、と思ったが、何も言わないことにした。
脇に置いてあった白虎を握りしめ、一度深呼吸をした。
「じゃあ、いきます。せーのっ」

二人で鏡を覗き込む。鏡には、二人の顔が映っている。周囲が暗いので、
あまりはっきりとは見えない。大和は、鏡の中のあたしを見てるみたいだ。
「やっぱりヒナタさんは可愛いなぁ」
緊張感にかける男だ・・・。さっきまで震えていたくせに。
すぐには何も起こらなかったが、しばらくそうやって鏡を覗き込んでいると、
鏡のふちの鳳凰が紅く光り始めた。そこから、光が広がっていき、やがて、
鏡のふち全体が紅く光っている。淡く、美しい光だ、と思った。
「ヒナタさん・・・周りが」
大和に言われて、周囲を見渡すと、色がなかった。全てがモノクロになっている。
色があるのは、自分達と鏡だけだ。紅い光が際立っている。周囲からは音も消えている
ようだった。何も聞こえない。風の音すらも。もしかしたら、時間が止まっている
のかもしれない。第三者がそばにいたのに、その目の前で忽然と姿を消した者がいた、
と草間が言っていたのを思い出しながら考える。
再び鏡に目を向けると、ふちの部分だけでなく、鏡面も光り始めていた。
「あたしが見た記憶ではここからしか光ってなかったんですよね。やっぱり、
鏡の記憶だからふちのところは見えなかったんでしょうね」
「そうかもね」
と、光は急激に明るさを増していき、何も見えなくなっていく。
「ひ、ヒナタさん!!」
大和が叫んでいる。あたしのことを心配しているのか、怖がっているのか。
もしかしたら、両方かな、と思いながら、白虎を握る手に力を込める。
もう、光で目が眩み、何も見えない。あまりの眩しさに、目を開けていることも
できなかった。ただ、白虎を握り締め、目をつぶりながら光が消えるのを待つ。

と、まぶたを閉じていても眩しさを感じていたのが、急に消えた。
光が消えたのか、と思い、そっと目を開ける。先ほどまで、明るすぎる
ところにいたので、すぐにはよく見えなかった。目が慣れてくるに
従って、周囲の様子が分かり始める。
さっきまでは真っ赤だったのが、今度は真っ黒になっている。だが、
自分も大和もはっきりと見えている。暗いのではないようだ。ただ、
周りには何もない。大和を見ると、まだ目をつぶっている。歯まで
くいしばっていて、表情だけ見ると、痛みを耐えているかのようだ。
「大和さん、もう目を開けても大丈夫ですよ。光は消えてます」
あたしがそう言うと、やっと目を開けた。
「あ、ほんとだ」
大和も、しばらくは目がよく見えていないようだったが、すぐに周囲の
様子に気づいたようだ。
「ヒナタさん、これは・・・」
「別に暗いわけではないみたいですが・・・。何もないんでしょうね」
言いながら、適当な方向に歩き出す。
「ヒナタさん、危ないですよ。迂闊に動かないほうが・・・・」
大和が後ろから声をかけてくるが、無視した。じっとしていても、
どうしようもないのだ。
「ヒナタさん!!」
あたしが言うことを聞かずに、どんどん歩いていくので、不安になったのか、
大和が走り寄ってくる。あたしを追い越して、止まろうとする寸前・・・。

ごつんっ!!!

鈍い音がした。大和が、何かにぶつかったようだ。
「く・・・ぅ・・・」
頭を押さえながら座り込んでしまった。かなりの勢いでぶつかったらしい。
「大丈夫・・・ですか?」
「だ、大丈夫です・・・。多分」
あまり大丈夫なようには見えないが、本人がそう言っているので大丈夫
なのだろう。
「そ、それにしても、ヒナタさんがぶつからなくて良かった」
まだ座ったまま頭を押さえているが、あたしの心配をしてくれている。
基本的にはいい人なのだ。少し変だが。
「はい。大和さんのおかげです」
「良かった。ヒナタさんの騎士(ナイト)だからね、僕は。役に立てて
光栄だ」
騎士というものは、そういう役の立ち方はしないと思うのだが、
微笑んで受け流しておいた。

ゆっくりと、前に手を出しながら、大和がぶつかった辺りに近寄る。
すると、手が何かに触れた。壁のようだ。全てが黒かった。
何もないように見えて、実は、壁や床も存在しているのだろう。下を
見ると、何もないように見えるが、確かに足には床の感触がある。

「ヒナタさん、ここ、すごく変だよ」
まだ痛そうに手で頭をさすっているが、何とか立ち上がった大和が言う。
「ええ。でも、壁があるということは、どこかに出口があるのかも。
迷路だって、ずっと片手を壁につけながら歩けば必ず出られるそう
ですし、そうやって歩いていけば、そのうち出口が見つかるかも
しれません」
そう、出口があれば、だが。もしも、ここがただの箱のような部屋なら、
出口などは存在しないだろう。あったとしても、それは天井の方だ。
手を上に上げて背伸びをしてみたが、何も触れるものはない。白虎の
柄を上にして持ち上げてみたが、何も触れる気配がない。天井は、
かなり上の方にあるようだ。
「ヒナタさん、何してるの?」
突然白虎を逆さにして、上に突き出したので、大和が不思議そうに
訊いてきた。不安にさせるのは良くないと判断したので、別に、と
ごまかしておいた。
もしも、ここの出口が天井にしかなければ、出られないな。そう思ったが、
大和には何も言わないことにした。口に出したら、それが本当になって
しまうような気もした。

とにかく、あたしの提案どおり、二人で右手で壁を触りながら歩くことにした。
もし、ドアがあれば、継ぎ目で分かるだろう。スタート地点が分かるように、
鏡を包んでいた布を置いてきた。鏡を覗き込んでいる時から、ずっと
持っていたのだ。

しばらくそうやって歩いていると、ここがどうなっているのか、少し
分かってきた。歩いていると、何度か角らしきところにあたったので、
普通の部屋ではないようだった。迷路になっている。これは時間がかかり
そうだ、と少しうんざりしたが、他に方法も思いつかない。
「ヒナタさん。誰かいる」
もう何度目になるか分からない角を曲がったところで、
騎士だから、とよく判らないことを言って先に立って歩いていた大和が
立ち止まり、そっと囁くように言う。
大和の陰に隠れながら、そっと前の様子を窺う。

そこには、幼い子供がいた。五歳くらいだろうか。白い着物姿だ。
髪は長く、顔は下を向いているので、よく見えない。紅い帯が
浮いている。
「子供・・・ですね」
大和につられて、囁くように言う。何だか、声を聞かれてはまずいような
雰囲気が漂っているせいかもしれない。
「普通じゃない・・・。あの子の手、よく見て」
大和に言われ、幼女の手の辺りを見る。両手とも、力なく垂れている感じで、
着物の袖に隠れている。そのため、手自体はよく見えなかったが、
そこから縄が垂れているのが見えた。恐らく、彼女の手首に巻かれているのだろう。
縄の端は、よく見えない。
「誰かに捕まってる・・・んでしょうか」
「どうだろう。こんなところにいるんだから、普通の子じゃないと
思うけど・・・」
確かにそうである。ここは、鏡の中なのだ。
「もう少し近づいてみましょう」
そう言って、大和を促す。こくりとうなづいて、大和がゆっくりと
歩き始める。

幼女のいるところまで、あと数歩、というところまで行くと、大和は
立ち止まった。幼女は動かない。あたし達に気づいているのかさえ、分からない。
幼女は、あたし達が歩いている道の真ん中あたりに立っている。手のところ
から垂れている縄は、両側の壁に埋まっている。
大和の横に回って、幼女の様子を窺う。ずっと下を向いている。
生きているのか心配になる。だが、物凄く声をかけづらい。
顔が見えないせいもあるのかもしれないが、その姿の異様さの方が
大きい。
顔を見ようと、しゃがんだ瞬間。

幼女が顔を上げた。
しゃがんだあたしと、目線が同じくらいになっている。
生気のない顔だ・・・。目にも、力がない。焦点も合っていない。
まるで、日本人形のような顔だった。
幼女と目が合ったまま、視線を逸らせないでいたあたしに、
幼女が語りかけてきた。
「助けて」
あたしは、彼女が縄を解いて欲しいのだと思い、白虎で縄を
切ろうとした。しかし、それを見た幼女は、大声であたしを止めたのだ。
「だめ!!」
その声に驚いて、振り下ろしかけた白虎を止める。
「それは、切っちゃいけないの」
助けて、と言ったのに、縄を切ってはいけないとは、どういうことなのだろうか。
大和と顔を見合わせる。
「でも、切らないと助けられないよ。助けて欲しいんでしょ?」
大和が、優しく語り掛ける。
「助けるのは、私を斬るの」
その言葉に、あたしも大和も凍りついた。

彼女の話では、彼女はもう死んでいて、ずっとここにいるのだと言う。
この鏡は、彼女の母親の物だったそうで、死んでからも母親の面影を求めて
鏡にいついてしまったそうだ。最初は、それだけだったが、いつしか
現実世界を左右反対に映した世界だったのが、少しずつ色を失っていき、
ついには今のような状態になったのだという。そして、気づいたら自分は
ここに縄でつながれていたらしい。身動きが取れなくなり、彼女は
焦った。誰かに助けを求めようと、必死に母親を呼んだという。すると、
母親が現れたそうだ。縄につながれている彼女を見て、母親は
死に別れたわが子と再会できたのを喜ぶと同時に、縄をほどいたらしい。
自由になった彼女を連れて、母親はここを彷徨ったのだそうだ。出口を
求めて。二人で元の世界に帰ることができれば、彼女が死ぬ前と
変わらない生活ができる、と思ったのだろう。だが。いつまでたっても
出口は見つからなかった。彼女自身は既に死んでいたので平気だったが、
母親は生きた人間だった。やがて、衰弱して立つこともできなくなり、
やがて死んでいったそうだ・・・。死ぬ時に、母親は、助けられなくて
ごめんね、病気になった時も助けてあげられなくて、死なせてしまったのに、
と彼女にあやまりながら死んでいったらしい。
母親が死んでしばらくは、彼女は母親の死体から離れなかったようだ。
だが、ある時、突然母親の死体は消え、自分はまたもとのように
縄でつながれていたという。
もちろん、彼女はまた助けを求める。今度は父親に。だが、父親も
母親と同じように死んでいき、彼女は縄につながれた。
それからも、何人もの人々がここに迷い込んできたという。
そして、その全てが死んでいった。やがて彼女は、縄を
とかないように、頼むようになったという。だが、ここを
訪れる者達は、いつも縄をとき、死んでいった。彼女自身も
何度も縄につながれた。

この悲しい繰り返しを終わらせるには、自分が死ぬしかない、と
思うようになったという。見た目は幼くても、中身はずっと
年をとっている。さすがに、考えることは、筋が通っている気もした。
彼女はこの鏡に捕らわれ、逃げることができない。だが、彼女が
この鏡の中にいる限り、人を呼び寄せてしまうのだ。

「でも・・・。だからって殺したりできないよ。ねぇ、ヒナタさん」
大和が困ったように言う。
確かにそうだ。あたしだって、こんな子供を斬りたくなどない。
何か、他の方法はないのか・・・。必死に考える。だが、何の考えも
浮かんで来ない。この鏡を割ってしまえれば、解決するかもしれない、と
思ったが、あたし達はその鏡の中にいる。割ることはできない。

「ここから出たことある人はいないの?」
大和が幼女に尋ねる。
「いる。何人か・・・。その人達は、縄をほどかなかったの」
「どうやって出たのかな?」
「私が、出したの」
彼女の意志で、ここから出させることもできるようだ。考えてみれば、
元々彼女が呼び寄せたようなものなのだ。彼女の意志でなら、
ここから出すこともできるだろう。鏡に捕らわれている、彼女自身を
除いては。

だが、ここから出られるのなら、話は簡単だ。
「ねぇ、ここからあたし達を出してくれないかな?」
「だめ、あなたは私を殺せる。だから、出せない」
「大丈夫、ちゃんと助けてあげるから」
少し考えるようにしていたが、やがて、うなづいた。
「約束してくれるなら、出してあげる」
「ええ、約束する」
「ヒナタさん、どうするつもりなの?」
大和が不安そうに訊いてくる。
「この鏡を割ります。この壁や床は、全部鏡の作り出したものみたい
ですから。その壁につながれている彼女を助けるには、きっと
鏡を割るしかないと思うんです」
「なるほど・・・」
今までにここを出たというその数人の人間達は、この鏡を恐れて
割ることもできなかったのだろう。だが、何が原因で、この鏡が
人を吸うのか分かった今、この鏡を割るのが最善の策だろう。

鏡を割れば、彼女を捕らえている力も消えるはずだ。そうすれば、
彼女も眠れるだろう。


うん、割って。そしたら、出れるかもしれない・・・。
今から外に出すから、お願いね」

彼女が言い終わるか終わらないかのうちに、あたし達は神社に
戻っていた。
「・・・戻ってる」
大和が呆然とした様子で呟いた。
足元を見ると、鏡が鏡面を上にして転がっている。

パキ・・・

あたしは、白虎の柄の部分で、鏡面を突いた。あまり力は入れていないが、
それでも、鏡を割るには十分な力だった。

ひび割れた鏡から、白い霧のようなものが出てきた。
その霧は、あたし達の周りを一回転した後、空へと昇って行った。
「今の、あの子かな・・・」
「多分、そうです」

二人で空をあおぎながら、しばし幼女の安らかな眠りを祈った。
あたしは、彼女の声を聞いた気がした。
ありがとう、と。

空には、数え切れない程の星が瞬いていた。
彼女は、星になれただろうか。ふと、そんなことを思った。


                        −終−

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【宮沢ヒナタ/女/17/学生】
NPC
【大和(やまと)/男/年齢不詳/自称ヒナタの騎士】
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■         ライター通信          ■
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初めまして。れいなと申します。今回は、依頼を
受けてくださって、ありがとうございました。実は、今回が
初めてのお仕事だったのですが、いかがでしたでしょうか。
お一人ずつに、それぞれのノベルを、と考えているので、
こんな形になりましたが、お気に召しましたでしょうか。

行方不明になった人達は帰って来ませんでしたが、一応
ハッピーエンドです。PCが薙刀の名人のようだったので、
もっと戦闘とかあった方が良かったかな、とも思いましたが、
こんな感じで落ち着きました。

何分にも、初めてのお仕事ということで、不安なこと
だらけのですが、少しでも気に入っていただけたなら、幸いです。

では、またお会いできることを祈りつつ。