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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


ポータブル・デビル

------<オープニング>--------------------------------------

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現在、若者の間で「携帯電話にとりつく鬼」という噂が広まっている。
私の独自の調査によると、鬼にとりつかれると以上のような症状が出る。
1. 携帯の不具合(雑音が入りやすくなる、メールの配信時間が狂うなど)
2. 不運に見舞われる。怪我、落とし物、盗みにあうなど。この時期に、呪いのメールなどが届くようになる。
大抵この段階までで携帯を解約する者が多い。一度とりつくと、携帯会社を変えない限り鬼はついて回ると言われている。
 噂では、呪いのメールの次には呪いの電話が「友達などの番号表示」でかかってくるようになる。呪いの電話を一定回数取ると呪い殺される。

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 新宿駅西口の改札を抜け、湖影龍之助はある場所へ向かっていた。
 上機嫌である。
 学生鞄を肩の上に抱え上げ、少し前屈みですたすたと歩く。制服のシャツから伸びた腕は逞しく、健康的に日焼けしている。
 短く切った髪の間から、汗がぽたりと肩に落ちる。
 真夏であった。
 七月に入ってすぐ、期末試験があったのである。龍之介の学校は生徒がどっと帰ることを避けるためか、学年ごとに試験日が少しずれている。運良く今回の期末考査は、七月上旬――つまり、これから7月半ば過ぎの夏休み開始まではゆったりした自宅待機の日々なのだ。
 最後の試験を終え、教室から飛び出した龍之介はそのまままっすぐ新宿へやってきたのだ。
 西口には大きなビルが立ち並んでいる。小田急ハルクの前を通り過ぎ、新宿エルタワーを横目で見ながら歩道橋の上を歩く。
 巨大な平べったい木のような新宿野村ビルの裏手側に、目的地はある。
 白王社。
 なかなか瀟洒なビルである。五階建ての薄くて長いビルだ。白王社の全ての編集部が入っているから、ここがいわゆる本社ビルというヤツなのだろう。
 慣れた足取りで裏手へ回る。
 灰色の階段が、ビルの背中にへばりつくようにして伸びていた。ここが勝手口。表の入り口は「お客様」専用なのである。
 むき出しの階段を上り、龍之介は目的の階のドアを開ける。
 突き当たりが、アトラス編集部室であった。
 
×

 一直線に編集部室に向かおうとして、龍之介は足を止めた。
 編集部室の手前は給湯室になっている。そこから、ううっううっというすすり泣きが聞こえるのだ。
 このパターンは。
「三下さん」
 龍之介は給湯室の中を覗き込んだ。
 狭い給湯室の隅、冷蔵庫の脇にうずくまっている人影を確認する。グレーのスーツを着込んだ、アトラス編集部の編集員・三下忠雄であった。
「あ、りゅうのひゅけくん、ううっ、ぐすっ。こんにちは」
「こんちわッス。またどーしたんッスか。碇さんに蹴られた? 踏まれた? 殴られた? それとも原稿没ったとか」
「ううう、四つ目、かな」
 冷蔵庫の脇にかけられたタオルでごしごしと顔を拭う。そのタオルが、お手ふきではなく三下の鼻水拭きだということは、龍之介だって知っている。
 以前、キタナイの一言で碇に捨てられていたことも。だから新調したのだろう。
 懲りないヒトなのだ。
 没っても没っても原稿を書く。仕事だから仕方ないのかも知れないが、実際OKが出るまで何度でも同じ原稿を書く。気に入ったネタがあれば、碇編集長に蹴られようが踏まれようが鞭で叩かれようが、シュレッダーにかけられそうになろうが粘る。
 その粘りの原動力は、この給湯室の隅で気が済むまで泣くことにあるのではないだろうかというのは龍之介の予想だ。
「ひどいんだよ。聞いてくれるかい」
「聞くッス」
 龍之介は鞄を冷蔵庫の上に置き、三下の前に座り込む。
 三下は眼鏡を一度外し、そこにたまった涙を拭ってから話し出した。
 その内容とはこうである。
 三下が、「人面犬再来! 悪夢の人面ブーム、再び」という見出しとそのフォントまで考えた自信作を碇に提出しようとしたまさにその時、北城というフリーライターが現れたという。北城は白王社に頻繁に出入りしているライターで、アトラスのようなオカルト記事から、他の階でやっているお悩み相談室の回答者まで手広く仕事をしているらしい。名前の出るような記事こそまだないが、実際の仕事数と収入はバカに出来ないというのは三下の判断だ。
 下の階でやっている占い雑誌とアトラスがタッグを組んでホラー占い・心霊写真特集をやった時からの縁だそうで、なんでもその占い雑誌の人気コーナーの占い師が奥さんだとかいう話だ。
 というのは無関係で。
 以来アトラスにも魔手をのばした北城は、三下の出番をことごとく持っていってしまうらしい。今回もそれだった。三下のすばらしい人面犬特集は碇に目を通して貰うこともなく没となり、今度の特集企画会議には「携帯に取り憑く鬼」――北城が持ち込んだその記事が掲載される予定になってしまったのだという。
「携帯に……ああ。今有名ッスよねえ。オレのクラスメートも、真っ青になって取り替えてたッスよ。二人くらい。なんでもFFRファスナーの携帯電話だと取り憑かないらしいーとか言って」
「うう、ぼくは全然知らないんだけどね、携帯の鬼」
「ええ、それはちょっとまずいかもッス。だって、人がホントに死んでるみたいッスよ?」
「その携帯鬼ってのは、何なんだい」
「ええと、ある日突然、携帯の調子が悪くなって。それで放っておくと、中で鬼が育つらしいんスよ。で、中にいる鬼が、呪いの電話とか呪いのメールとかし始めて、放っておくと鬼はどんどん育って、持ち主をアタマからバクン!」
 と龍之介が大声を上げた瞬間、ピリリッと電子音がした。
「あ、メールだ」
 三下が胸ポケットから携帯電話を取り出す。
「うわ、またこのメールだよ。先週くらいからずっと来ててさあ、気持ち悪いんだよね」
「いたずらメールっスか?」
 どれどれと龍之介が手を伸ばす。
 発信者:怨
 タイトル:怨
 本文:怨
「わーーーーっ! これって、携帯の鬼からの呪いメールっスよ!」
 龍之介は慌ててそれを三下から取り上げた。
「ちょっと前から、一日一通くらいの割合で届くんだよ。気持ち悪いなと」
「気持ち悪いなで済むレベルっスか?」
 龍之介はぽかんとしている三下を軽く睨み、没収した携帯を自分のバッグの中に押し込んだ。
「これは、危ないからオレが預かっておきます」
「あっ!」
 バッと三下が手を伸ばす。
 龍之介の口を塞ぎ、抱きしめるようにして冷蔵庫の隙間に押し込んだ。
「んっ!? ……」
 三下の顔がすぐ前に迫っている。龍之介はじたばたともがいた。
 アトラス編集部室のドアが開かれる音がし、男が二人出てくる。
 一人は鼻も口も大きい、どこか愛嬌のあるなまはげといった風体だ。ぼさぼさの長髪と逞しい身体がさらにそのイメージを助長している。
 後ろから続くのは、派手な赤毛の青年だった。頬に龍の刺青があり、室内だというのにサングラスを掛けている。黒いシャツに黒のパンツで、細身だがこちらもかなり筋肉質の健康的なスタイルをしていた。
「今のが北城だよっ」
「え、どっちがッスか」
「デカい方だよ。もう一人は黒月くんだ。よく心霊スポットで本当に危ないところとかについてきてくれる、アルバイトの人。幽霊用の用心棒みたいな」
「へえ」
 龍之介は三下と共に給湯室から顔を出す。
 男の二人組は何か話しながら、突き当たりのドアを開けて階段を下りていった。
「くそう、悔しいなあっ。ぼくの、ぼくの人面イヌっ」
「三下さん、人面ケンじゃないンすか?」
「え?」
「まあいいッス。ようし、三下さん! 今から仕事、サボっちゃいましょう」
 龍之介は掌を拳でパンッと殴った。
「後を追いかけて、携帯鬼の秘密をオレたちで暴くっスよ。つまんねえ都市伝説だったら、急いで帰ってきて碇さんに報告して、そんで人面犬の特集を押すッス!」

×

 赤毛の青年――黒月と、なまはげ男――北城は、線路下を潜って歌舞伎町の方へ向かうようだった。
 龍之介は三下と共に彼らの後を追う。
「と、ところで龍之介くん。学校は」
「今日から半分夏休みッスよ!」
「へ、へえ。いいなあ学生さんは」
 三下は新宿駅東口の前を通り過ぎたあたりですでにたっぷりと汗をかいている。
 スタジオALTAビル前の人混みをすり抜けて、二人は紀伊国屋へ入っていった。
「鬼の本でも探すんスかねえ」
「そ、そんな必要ないんじゃないかな」
「でも、本屋に」
「ううん……」
 遅れそうになる三下の腕を掴み、龍之介は紀伊国屋に近づく。
 土曜午後の新宿は、人ひとヒトで一杯だった。
「暑いね、龍之介君。ちょっと休まないか」
「三下さんっ! ちゃんと見返す気、あるンすか!?」
 龍之介がそう言って振り返ったとき。
 
 鬼が、現れた。
 
×

「お、鬼だーっ!」
 周囲で絶叫が起きた。
 灰色の鬼が、突然人々の肩や腕やバッグの中に現れたのだ。
 つるりとした油粘土のような肌をしている。臭いもそれにちかく、油臭く鼻につく。
 やせ細って尖った手足には鋭いかぎ爪。腹がぽっこりと膨れており、口は耳まで裂けている。
 頭部には二本の角。
 間違いなく――鬼だ。
「うわああああああ!!!??」
 三下が絶叫する。
 子猫ほどもある鬼が、三下に飛びついたのだ。
 龍之介は手を伸ばし、鬼を掴んで地べたに叩きつける。
 パニックが起き始めていた。
「な、何が起こったンすか!?」
 龍之介は飛びかかってくる鬼を避け、時には三下の身体からたたき落としながら紀伊国屋へ向かう。
 人々は、鬼に噛まれたり引っかかれたりして悲鳴を上げている。
 走っていくのは困難を極めた。
 鬼が龍之介の顔めがけて飛びついてくる。
 龍之介はそれを殴り飛ばした。
 崩れる。
 鬼は足下に落ち、そのまま砂のように崩れてしまった。
「倒せるっスよ!」
「そそそ、そんなコト言われてもッ! 倒せないよ!」
「じゃあオレに任せて欲しいッス」
 龍之介はうんと頷き、三下の腕を引っ張る。
 おぶった。
「なんだか全然わかんないっスけど、多分これが――携帯鬼ッスよ」
 紀伊国屋から、白い服を着た奇妙な男が飛び出してくる。
 後を追うように、赤毛となまはげ――こと黒月と北城が駆けだしてくる。
「とりあえず、あの二人を追跡!」
「ら。ラジャ!」
 龍之介の背中で、三下が答えた。
 
×

 伊勢丹の前を曲がろうとした龍之介の前に、鬼が立ち塞がった。
 大きい。
 両手に小学生二人を掴み、ぶら下げている。
 龍之介は三下をおろした。
「鬼にかじられたりしたらダメっすよ! 食べるのはオレなんだから! 下がってて下さい」
「へ? 食べる?」
「こっちの話ッス!」
 龍之介は拳を強く握る。
 先ほどの感触が正しければ、こいつは――泥人形!
「鬼じゃ、ないっスよ!」
 龍之介の回し蹴りが、鬼の膝に炸裂した。
 砕ける。
「へっへ。身体は大きくても、脆いッスね」
 続けて、反対側の膝も砕く。
 鬼がもんどりうって倒れた。
 鬼の手から、小学生が逃げてゆく。
 鬼が唸った。
「悪い人形は、壊れるッスよ!」
 龍之介は跳躍した。
 鬼の腹の上めがけて降下する。
 灰色の粉がもうもうと上がった。
「ふう、一丁上がりッス!」
「うわ〜〜っ、龍之介くーーーん!」
「わーっ、何ッスか!?」
 三下の声に慌てて振り返る。
 頭に、小さな鬼が群がっていた。
 髪を引っ張られ、眼鏡を奪われ、三下がもがいている。
 龍之介は鬼を掌で叩き潰しながら、三下を抱き起こした。
「先が思いやられるッス」
「うう、ごめん」

×

 タイムズスクウェアへと続く道は、灰色に埋め尽くされていた。
 そこここに鬼が居て、人を襲っているのである。
「あちゃー、見失ったッスよ」
 龍之介は近寄ってくる鬼をばしばし手で叩き潰しながら呟く。
「どうしたら……って、え!?」
 突如、龍之介の頭上が暗くなる。
 上を見上げると、ビルの上に巨大な鬼が立っていた。
 鬼は跳躍し、龍之介達の目の前に着地する。
 あちこちで潰された鬼のかけらが、もうもうと舞い上がった。
「稲荷様の邪魔はさせないんだからっ」
 鬼が――否。
 鬼の頭にちょこんと乗った少女が、高らかにそう宣言した。
「あ、危ないッスよ、そんなところにいると」
 龍之介はひらひらと手招く。
 赤い浴衣のようなものを纏った少女は、鬼の角を両手で掴んでいる。べぇっと舌を出した。
「この鬼はミケのもんだもーん! 危ないのは、そっちなんだから!」

「狐の下僕は化けネコってワケだ」
 
 鬼の背後から、不機嫌な声が聞こえた。
 
×

 鬼の胴体に、一本の光が走った。
「グゥォォオオオォーーン!」
 鬼が絶叫する。
 膝を折った。
「きゃあーっ!」
 少女が転げ落ちる。
 真っ二つに断ち割られた鬼の後ろに、学生服を着た青年が立っていた。
 年の頃なら龍之介と同じ程度。高校生だろう。
 右手には長い数珠を巻き、木刀を構えている。
「化けネコ」
 青年が一歩足を踏み出す。
 風が吹き、灰色のカケラが舞い上がる。
 少女が立ち上がった。
「あっちの神社に結界が張ってある。お前の主人だろ」
「そ、そうだよーっ!」
 少女が震えながらも胸を張る。
 そのおしりから、ひょろりとネコのような尻尾が生えていた。
――ああ、化けネコ。
 龍之介は内心でポンと手を打つ。
「あれは俺には破れねえ。お前、何とか出来るな」
「出来ないよっ! 出来るわけないじゃんっ」
 少女がべろべろと舌を出す。
 青年は腕を組んだ。
「そうだよなあ。こんなによわっちいんじゃ」
「弱くないよ!」
「ならやり合うか」
 フーッと威嚇の声を上げた少女の鼻先に、木刀が突きつけられる。
「弱いものいじめは、カッコ悪いっスよ」
 龍之介はその木刀をよけさせ、少女の前に立った。
「いくら化けネコでも、こんなに小さくて弱いんッスから」
 青年が龍之介を睨んだ。
「そのネコは、今この惨事を起こしてるヤツの下僕だぞ」
「だからって、弱いことには変わらないッス」
 ふんっ、と龍之介は鼻息を吹き出す。
「強いんだったら、そのボスを殴りに行けばいいじゃないッスか」
「生憎だが、それが出来ない」
 
 青年と龍之介の足下で、灰色の砂がうごめいていた。
 砂は次第に固まり、集まってゆく。

「龍之介君!」

 三下の声が響くのと、龍之介と青年が高々と持ち上げられるのが同時だった。
 
 鬼が、復活していた。
 龍之介と青年の足首を掴み、高々と差し上げている。
 鬼の足下に、大きく胸を張った少女が居た。
「庇ってあげたのに」
 ふぅ、と龍之介はため息をつく。
「しょせんは魔物だ」
 青年が吐き捨てる。
「……殺す」
 青年の手元で、数珠がきらりと光った。
 
×

 木刀が閃き、鬼の両腕が断ち切られる。
 青年が宙に舞う。
 龍之介は落下しながら、鬼の頭に飛び移った。
 青年の木刀が、鬼の右肩から左の腰までを袈裟懸けに斬る。
 龍之介の拳が、鬼の頭を砕いた。
 
「ぶええっ!」
 灰色の砂埃にまみれ、龍之介はぺっぺっとつばを吐いた。
「うわっ、口入った! 大丈夫なんスかねえぇ!?」
「ぼくもさっきから結構入ってるけど……」
 駆け寄ってきた三下が、ごほごほと咳き込む。
 土埃が晴れたところには、少女が一人で立ちつくしていた。
 少女が、タイムズスクエアの方を見ている。
 タイムズスクエアの手前に、巨大な神社の門が見える。その門の奥の空間が、黒くねじれているのが見えた。
 引き裂ける。
 突風が道を吹き抜けた。
「稲荷様ぁっ!!」
 少女の悲鳴が響いた。
 
×

 門から出てきたのは、北城と半裸の黒月だった。
 黒月は片面を血に染めている。三下が悲鳴を上げた。
「……なんだ、テメェら」
 道に降り立った黒月が、めざとく龍之介達を発見する。
 つかつかとこちらに近寄ってきた。
「おい三下。まさかオレたちに何かしようってんじゃねえだろうな」
 少女が門に向かって走り出すが、誰も止めなかった。
 黒月が手を伸ばし、三下の襟首を掴み上げる。
「なんでこんなところにいるんだよ」
「暴力ハンターイ! 刺青ハンターイ!」
 龍之介が大声を出し、黒月の手から三下を奪取する。
 黒月の頬から胸、腕にと走る見事な刺青を指さした。
「人の趣味の文句をつけるんじゃねえよ」
「で、でもそれじゃサウナとかは行けないですよ」
「三下」
 余計な一言を言った三下を、黒月はにらみつける。
「何しに来たんだよ」
「ええええ、ええと。援護を、しに……」
「なんの」
 黒月が詰め寄る。
「どうせ、取材の横やりでも入れてささやかな自己満足を得ようとしたんじゃねえのか」
 追いついてきた北城がからからと笑った。
「いいっていいって。貴重な体験出来たんだから、お前もいい文章書けよ」
 ひらひらと手を振る。
――意外と大人ッスね。なまはげなのに!
 龍之介は少しばかり北城という「三下の手柄の邪魔をする男」を見直す。
「おい、ちょっとこっち向け」
 北城がふと三下を指さす。
 三下がびくびくと北城の方を見た。
 パシャッ。
 北城が肩から提げていたカメラで、三下の写真を撮る。
「肩に、もの凄く小さい鬼が憑いてたぜ」
 にやっと笑った。
「あ、やっぱり……そうだったのか……」
 三下は、呆然と呟いた。
 三下の携帯電話は、今龍之介のバッグの中だ。
 
 アトラス編集部脇の給湯室の冷蔵庫の上。そこにおいてある学生鞄の中で
 携帯電話の液晶画面が、ぷつりと暗転した。
 
×

「あああああああああああ!」
 アトラス編集部室のドアを開けたとたん、悲鳴が響き渡った。
「うるさい三下! ええい逆らうならお前の指も細切れにしてやるわ!」
「ややや、やめてください〜〜!」
 碇にがっちり押さえ込まれた三下が、紙切れ一枚を死守しようともがいている。
 しかし、それはあっさりと碇に奪われ――
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ ゴ
 シュレッダーの中に吸い込まれていった。
「ああっぼくの人面犬……さようなら……」
 床に倒れ伏し、三下が呻く。
「あ、龍之介君」
「こんちわッス」
 気づいた三下に、龍之介はひらひらと手を振った。
「特集は」
「携帯鬼で決定よ」
 三下が答える前に碇が返事をよこす。
「こいつ、人面犬のねつ造写真を本物だと誤解して持ってきたのよ。こんなの載せたら雑誌の恥よ恥!」
 ばん、と碇の拳がデスクを叩く。
「まったくもう」

 泣き伏している三下を慰め、龍之介はぽんぽんと肩を叩いた。
「じゃ、碇さん上機嫌だから、今日は定時に上がってオレとご飯食べにいきません?」
「そうだね……そうしようか……」
 ゆらりと立ち上がり、三下はぼそりと呟いた。
「あの写真……ぼくが撮ったのに……」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0788 / 相模・牡丹 / 男性 / 17 / 高校生修法師
 0218 / 湖影・龍之助 / 男性 / 17 / 高校生
 0599 / 黒月・焔 / 男性 / 27 / バーのマスター
 
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■         ライター通信          ■
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 大変時間が掛かってしまいました。
 ポータブル・デビルをお届け致します。
 書き直すこと3度余りという力作?ですので、楽しんで頂けたならば光栄です。
 今回は大きく三つに舞台が分かれていますので、他の方の分も読んで頂くと、この新宿携帯鬼騒動の全貌が明らかになります。

 龍之助さま
 「怪力な一般人」とのことでしたので、力押しで砕ける鬼と少しばかり対戦して頂きましたが、どうでしたでしょうか。
 三下を引っ張り回し、ラストでさりげなくデートに誘ってみました。(三下からの方がよかったですかね)
 ご意見ご感想などあれば、テラコン・メールなどをお使い下さいませ。