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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:哀しき亡霊
------<オープニング>--------------------------------------
「テレビを見るのが、とても怖いんです」
 依頼人の女性は、すこぶる怯えた表情で声までも震わせながら武彦に告げた。
 テレビを見るのが怖い。これは依頼人が、何らかの病気を抱えているからなのだろうかと、一瞬疑ってしまうほどだった。
「普通のテレビですよね? 何が原因か分かりますか?」
「原因も何も、私には一切関係ありません! なのに、よりによって私の家のテレビに限って……」
 依頼人の女性はパニックになり、いよいよ泣き出してしまった。
 よほど恐ろしい映像なのだろうか。そうとしか考えられない。
「詳しい内容を教えてもらえますか? おおよそで宜しいので」
「……電源を切っても、コンセントからコードを外しても、その画像はテレビに映ったままなんです」
 これには流石の武彦も驚きを隠せない。こんな奇怪な現象は、聞いたこともなかったからだ。
「なるほど、これは実地調査が必要ですね。とにかく、早急にご訪問致しますので」
「何卒、宜しくお願い致します……」
 そして依頼主の女性は、早々に帰っていった。
「どうやら、難儀な調査になりそうだな……。優秀な助手が欲しいところだが……」
 呟く武彦。こういうケースは初めてなので、戸惑うばかりだ。
 そしてしばらくしてから。呼び鈴が鳴らされたのだった。

◎テレビ画像の謎
「あら、どうしたの、草間さん」
 訪れたのは、この草間興信所でアルバイトをしている、シュライン・エマだった。
 武彦も、何度エマの手伝いで世話になっているか分からないほど。それほどエマとは色々な面で持ちつ持たれつの間柄だった。
 ソファにもたれて、先ほどの依頼の件をどうすべきかと考え込んでいた武彦は、景気の悪い顔をしているところをエマに見られ、少し照れた。
「俺、変な顔、してるか?」
「え? うん、ちょっとね。どうしたの? 依頼で困ったことでも」
「そうだな、当たりとでも言っておこうか」
「え〜! 厄介な依頼なの?!」
 武彦は無言で頷く。
 無理もない、依頼主の女性は、それこそパニックになっていて、重要な用件というのを殆ど言っていかなかったのだから。
 なので、依頼主の家のテレビが、どのような状態になっているかも、はっきりしたことは分からず仕舞いだった。そのことをエマにも話す。
「これから調査に行く。エマも来てくれ。俺一人じゃ、どうにもならないと思うしな」
「そうね。あ、結界鞭、持っていってね。霊の可能性がないわけじゃないし」
 結界鞭とは、新生・結界策から改名した、主に悪霊や霊を封印する鞭状の結界策のこと。これがなくては、悪霊や霊を封印することはできない。人間の驕りたかぶりが作った物と称してしまえばそれまでだが、これを使わなければこちらへの被害も甚大なものになる可能性があるのだ。
 いわば武器。身を守るための一つの手段として、使われるものだ。
「依頼主の家は遠いの?」
「いや、そうでもないようだ。とにかく直行しよう。どうなっているのか、すごく気になるしな」
「ええ、そうね」
 武彦とエマは外に出る。愛用の750ccバイクに二人乗りし、エンジンを噴かす。
 そして武彦とエマは、依頼人の女性の家へと向かったのだった。

 住所を見て到着してみると、そこは6棟が一つの賃貸マンションになっているところだった。
 二人はバイクを降りて、言われた号室へと歩みを進める。
「ああ、来て下さったんですね?! ありがとうございます!」
 先ほどの依頼人の女性が、玄関から真っ先に出てきた。場所は一階の手前の部屋だった。
「あの、一体どういうことになっているんですか?」
 エマは口火を切った。それを機に、依頼人の女性はようやく話し出した。
「草間さんには、少ししかお話しませんでしたが……、とにかく私の家のテレビだけが、異常なんです」
「異常とは?」
 エマは続けて質問を繰り返す。
「普通のテレビじゃないんです。男と女がブラウン管に出てきて、口論するんです。そして男が女の話に激情したようになって……。首を絞め始めるんです!」
「それは、毎日のように起こっているんですか?」
「ええ、近頃は毎日のように……。大家さんにも問い合わせたんですが、このマンションは衛星放送もケーブルテレビも付いてませんし、どう考えてもおかしいんです……」
 そこで武彦が質問をした。
「先ほどのはなしでは、その画像は電源を切っても、コンセントを抜いても映っているということですが、本当ですか?」
「ええ、間違いありません。もう、私、気が狂いそうで……」
 なるほど、と武彦もエマも状況は把握できた。後はその画像を目にするだけだ。
「では、拝見させてもらいます。よろしいですか?」
「ええ、どうぞ。貧相な部屋ですが……」
「とんでもない。エマ、行こう」
「ええ」
 依頼主の女性の案内により、その曰く付きのテレビは奥の部屋にあるという。居間にあるテレビとはアンテナは分配機で枝分かれしているが、そのテレビは全く異常がないらしい。
 二人は問題のテレビの前に辿り着いた。
 不思議な光景だった。コンセントも繋いでいない。主電源も完全に切れている状態なのに、依頼主の女性が言うようにまるでビデオに撮ってある画像の如く、男と女が口論している。
 そして女が後ろを向くと、男はいきなり女を叩き、それと同時に首を絞め、殺害するという光景が映し出されていた。しかも、同じ動作が、繰り返して映し出されるのだから、たまったものではない。
「武彦、私、見てられない……」
 エマが弱音を吐いた。流石の武彦も、このリアル過ぎる映像を何度も見て、胸が悪くなる思いだ。
「あの、どうでしょうか……、なにかこの家に祟りでもあるんでしょうか……」
 二人は居間にいる依頼主の女性に問いただされ、返答に困った。現状では、なんとも言えないからだ。
 それでもエマは、ある程度の予測をつけて依頼人に問い返す。
「あの映っていた男の人と女の人、どちらかに見覚えはありませんか?」
「見覚え、ですか? あ、そういえば、男の方が二階に住んでいらっしゃる方に似ています」
「その人の名前は?」
「確か、栗川とか言いました。そうだわ、そういえばそっくり……」
 目星はついたようだ。即、武彦とエマは、二階の栗川の家へとやってくる。
 しかし、栗川は留守のようだ。いくらドアノブを回しても、ベルを鳴らしても出てこない。
 居留守を使っていることもあり得るが、まだ黄昏時には時間がある。仕事に行っているとも考えられた。
 その時だ。
「きゃあ!」
 下の階から悲鳴が聞こえた。依頼主の女性の家だ。二人は階段を飛び降りるようにして、依頼主の女性の家へと戻ってきた。

◎真実
 その光景を見て、武彦とエマは一瞬凍り付いた。
 なんとあのテレビに映っていた画像の様子が、そのまま飛び出てきたかのように居間で惨劇が繰り返されているのだ。
 しかも、今回はループなどない。無声映画のように、淡々と演じられるそれは、まさしく犯行現場そのものだった。
 男と女が口論し、女の隙が空いた直後に頬を強く叩き、挙げ句の果てには女が男に首を絞められる……。これはどうみても、この家にも因縁がありそうでならない。
「大家さんに聞いて見たらどうかしら。これって、栗川だけの問題じゃないと思うわ」
「そうだな。すみません、大家さんはどこに住んでいられるんですか?」
「隣に居ますが。きっと居間の時間なら居ると思います」
「わかりました。エマ、行くぞ」
 ちょうど出掛けに、隣から出てくる大家さんが見えた。エマがそれを引き留める。
「大家さんですね?」
「ああ、そうじゃけど」
「あの、隣の方の家なんですが、以前は誰が住んでいたか分かりますか?」
「その家かね? それじゃったら栗川さんじゃよ。どういうワケか知らなんだが、二階に移りたいと言い出したもんでな。もう半年も前の話になるが。で、なにかあったかね?」
 これで確証は掴めた。
 恐らく栗川は、依頼人が住む前にその家で殺人を犯し、いたたまれなくなって二階へと逃避行したのだろう。
 では、あの画像メッセージは何なのだろうか。
「解せないな、あのメッセージだけは」
「ううん、分かる気がする。きっと殺された女性の怨念がこもっているんだと思うわ。そうじゃなきゃ、
こんなダイイングメッセージ、残しはしないわよ」
「そうか、なるほどな。ということは……」
「死体は、依頼人の家の中にあるはず。一階だから、畳の下とかね……」
 辻褄が合った。あとは栗川を警察に引き渡すだけだ。
「そうですか……、そういえば、この家に来たときから、汚臭がとれないと常々悩んでいたんです」
「警察には届けておきますので。それとこのことは大家さんにも届けておきました。おそらく、成仏できない彼女の霊が、まだ彷徨っていると思うので、この御札をテレビに付けておいて下さい。そして彼女の遺体が発見されたとき、成仏をお祈りしてあげてください」
と、御札を渡す武彦。エマも、御札を手のひらに乗せ、そのまま合掌した。
「もう、テレビでのループ放送は懲り懲りよね」
「ああ、まったくだ」
 二人は謝礼として10万円を貰った後、依頼主の女性の家を後にした。


『死体遺棄殺人、発覚!』
 そういう見出しで、翌日の朝刊の社会面は大きく取り上げていた。
 エマは今日は朝っぱらからいろいろと事務処理をこなし、武彦は新聞に見入っていた。
「やはり、エマの推理は当たったな。栗川が犯行を起こし、女性が殺された。その女性は、もとは栗川の恋人だったそうだ」
「恋愛のもつれ、ってやつかしらね。怖いなぁ」
「さあ、どういう理由かは知らないがね。いずれにしても、俺達が一枚かまなけりゃ、事件は永久に迷宮入りだったさ」
 得意気に言う武彦。まさにその通りだ、武彦達が出てこなければ、この奇妙な事件は収まるところを知らなかっただろう。
 願わくば、依頼人の女性に幸あれというところか。
「コーヒー、入ったわよ」
「おう、サンキュー」
 こうして難題な事件を解決に導いた二人は、エマの淹れたおいしいコーヒーを飲むのだった。

                             FIN
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086 シュライン・エマ 女 26歳 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
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■         ライター通信          ■
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○シュライン・エマさん、2回目のご登場ありがとうございます。
処女作以来ですね。
○今回のこの作品は、実話を元にしています。外国であったことを
こちらでアレンジして、小説にしてみました。いかがでしょうか?
私が書くと、怖くないかもしれませんね……。
○こちらは、スローペースにて仕事をしていますので、次の受注が
いつになるか分かりません。しかしそれに懲りず、またの御出演を
お願いしたいと常々思っております。
○それでは、また色々な方々と出会えることを願いながら。失礼します。

                       夢 羅 武 市 より