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DeadEnd Train
------<オープニング>--------------------------------------
深夜、三時。
踏み切りが動き出す。警報の音はしない。静かに遮断機がおり、赤いランプが一定のリズムで明滅する。
重たい音を立て、列車が踏み切りに近づいてくる。
ほんのりと青白い光を放っている。オレンジ色の車体は薄汚れ、雨の後を走りぬけてきたようだ。
電車が、踏切を通り過ぎる。突風が吹いた。
この時間、この線路の上を走る予定の電車などはない。そしてここは高田馬場。
シルバーにグリーンのラインが入った山手線の車両しか、この上を走る筈はないのだ。
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山手線の線路上を、幽霊電車が走っているという噂がある。この幽霊電車が走るようになってから、山手線の車内で「眼に見えない痴漢」にあうという被害も続出している。
今回の任務は幽霊列車の破壊である。
(以下略)
草間興信所 草間
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全てのドアが一斉に閉じられた。
がたんと振動が足に伝わる。
電車がゆっくりと発車しようとしていた。
学生食堂の格安ラーメンは、値段の割に美味い。
今野篤旗は210円のラーメンをかきこんでいた。
目の前に、レポート用紙が数枚置いてある。食事ついでに、今日の午後提出のレポートの確認をしているのだ。
「よし」
メンマを飲み込み、用紙を纏める。
目の前の席に、同じ学科の友人が座った。
「今野、お前今夜空いてる?」
友人は篤旗と同じラーメンをトレイの上に載せている。ぱちんと割り箸を開いた。
「なにかあるんですか」
篤旗はラーメンを食べる手を休めずに問う。
「幽霊電車、見に行ってみないか? 終電が終わった夜中に、妙な電車が走ってるって噂、あるだろ」
場所は代々木の予定、と友人は言う。
篤旗は手帳を取り出した。
手帳の間に、一枚の紙が挟まれている。
今朝、下宿先のファクシミリに届いていたものだ。上京してすぐ、自分の能力を生かせるのではないかと思って登録した草間興信所からの依頼である。
幽霊電車を、破壊せよ。
依頼書の内容は、山手線に現れる謎の幽霊電車の破壊。ただ情報があまりに漠然としているので、資料の請求をしたところだった。
「この前、夜に鉄道作業員が事故にあったってニュースあったじゃないか。三人が死んだヤツ。あれどうも、幽霊電車に轢かれたらしいんだよなぁ」
「あ、すんません」
篤旗はにこりと笑った。
「予定入ってましたわ。また今度、誘ってやって下さい」
×
電車の内部が変容しようとしていた。
灰色の床が、赤黒く染まる。ぶよぶよと脈打ち、うごめいている。
ベンチ部分も、血の色をした何かに変わっている。金属の部分は骨に似た白いものへ。
一言で言うなら、内臓。
巨大な骨付きの腸の中に迷い込んでしまったというような光景であった。
「なんや気持ち悪いな」
今野篤樹がぼやく。桜井翔は頷いた。
草間興信所で顔合わせをした二人は、夜を待って山手線「高田馬場駅」にやってきたのだ。昼間現れる痴漢は「副産物だろう」という草間の言葉を信じ、電車の破壊に焦点を合わせた。
駅員の姿もなくなった駅に侵入し、ホームに上がり待つこと10分前後。
オレンジ色の古びた車体が、ホームに入り込んできたのである。
中央線の車両色だが、かなり短い。六車両しかなかった。
オレンジの電車は轟音を建ててホームに滑り込み――
翔と篤旗が立っているそばの車両のドアだけが開いた。
車内はがらんとしていて、人気がない。白々とした照明が、車内を照らしていた。
「乗るしかないみたいだね」
翔はそう呟き、車内に足を踏み入れたのだった。
「来る!」
翔が叫ぶ。
ぬるつく床が大きく波打ち、あちこちが盛り上がろうとしている。
大きなこぶのような物が床のそこここに出来る。
弾けた。
血まみれの無数の首が宙に生み出される。
首が一斉に二人を襲った。
篤旗が身体を屈める。首がすぐ肩口をかすめて飛んでゆく。尖った獰猛な牙をがちがちと鳴り合わせ、ぐるりと空中で回転する。
首が燃え上がった。
翔の拳が首を襲う。
脳漿をまき散らし、首は砕けて床に落ちた。
「先頭車両に親玉がいるのかな」
続けざまに襲ってきた首を軽くいなしながら、翔が呟く。
「お約束っちゅうカンジですな」
篤旗が頷く。先ほどから、強烈な熱を先頭車両から感じる。
親玉がそこにいるのは間違いないだろう。
「じゃ、突破しよう」
翔は言い、眼鏡を外した。
×
翔は眉間に意識を集中させる。
首は後から後から床や天井から生まれ、尽きる様子がない。
翔は先頭車両に向けて手を差し伸べた。
重圧が、首たちを襲う。
首と床がひしゃげる。首を生みかけていたこぶがつぶれる。
ばしゃっと水音が響き、車内に血が飛び散った。
「うわ」
篤旗がため息を漏らす。
「急がないと、また被害者が出ますからね」
翔は肩をすくめた。
「行きますよ」
血の海を、走り始めた。
×
先頭車両は、ぬるつく触手が網の目のようにはりめぐらされていた。
その向こうに、下半身がつぶれて一本の蛇のようになった男が立っている。乗務員服を着ていた。
「親玉発見」
篤旗は呟く。
触手の網の向こうで、男が怒りに燃えた瞳をこちらに向けている。
冷気が、あたりを覆った。
触手がたちまち白く凍り付く。
「ちょっと熱いけど、堪忍」
篤旗は翔の肩に手を置く。
熱風が車内を暴れ回った。
「ぎゃあああっ!」
蛇乗務員が暴れる。
触手がじゅうじゅうと音を立て、崩れ落ちた。
「意外と簡単やったね」
篤旗が呟く。
「大仕事はこれから……。さて、六車両もある電車、どう壊そうかな」
翔がゆっくりと首を振る。
のたうち回っている乗務員に近づいた。
焼けこげた乗務員が、翔の足を掴む。
足と腸とが絡まり合い、蛇のようになった脚部が反り返る。
翔を襲った。
翔はその足を容易く掴んでしまう。
「往生際が悪いですよ」
にっこり微笑み、窓の外へ投げ飛ばした。
がたんと車内が揺れる。
電車が減速し始めていた。
×
「動いてるウチに片づけちゃいましょ」
篤旗は窓を蹴破る。
外壁に手を触れた。
内部の壁同様、外壁の部分もぶよぶよとうごめく物に変化している。
「燃えろ」
篤旗は静かに命じた。
車内が灼熱に染まる!
「凍れ!」
焼けた外壁に触れたまま叫ぶ。
一瞬にして、車両が凍り付いた。
篤旗の狙いを察した翔が、窓から身を乗り出す。
身体をひねり、屋根によじ登った。
ばらばらと、車両が崩れ始めている。
翔は先頭車両の前に飛び降りた。
空中で足を振り上げる。
車両が、砕けた。
×
学生食堂で、篤旗は昨日の友人に掴まった。
「勿体なかったな、今野! すっごい霊体験しちゃったぜ、オレら!」
友人は篤旗の肩をがっちりと掴む。
篤旗は仕方なく、彼に連れられて食堂の一角に向かった。
テーブルには、二人の女性と四人の男性が座っている。どうやら、昨日代々木まで幽霊電車見物ツアーに行った者たちらしい。
「新宿の方から、もの凄い数の人魂が飛んでくのを見ちゃったのよ!」
短く髪を切った女性が、興奮気味に言う。
「今野君もくればよかったのに! 絶対もったい無かったよ!」
「はあ」
篤旗は肩をすくめた。
「すんません。幽霊とか苦手なんですわ」
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0527 / 今野・篤旗 / 男性 / 18 / 大学生
0416 / 桜井・翔 / 男性 / 19 / 医大生&時々草間興信所へ手伝いにくる。
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■ ライター通信 ■
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大変時間が掛かってしまいました。「DeadEndTrain」をお送り致します。
今回は募集人数が多かったので、二人一組で出番を半々くらいに分けるという書き方を取ってみました。
全編に渡り戦闘シーンになりましたが、いかがでしたでしょうか。
今野篤旗さん
ご参加ありがとうございます。が、温度変化能力というのがいかんせん難しく、四苦八苦しながらという状態になってしまいました。楽しんで頂けたら幸いです。
ご意見ご感想などありましたら、よろしくお願い致します。お待ちしております。
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