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探し物
◆オープニング◆
「あの、探して欲しいんです」
興信所に入ってくるなり、その少女は言った。
「・・・何を？もしくは、誰を？」
草間が訊く。
「・・・仇を」
「こらまた物騒だな。敵討ちかい。駄目だな。人殺しの手伝いに
なっちまう。他を当たってくれ」
「いえ、人じゃないんです。妖怪、なんだと思います」
「妖怪ねぇ・・・。まあ、一応話だけでも聞こう。座って」
少しは興味をそそられたのか、草間が少女にソファに座るように言う。
少女は失礼します、と小声で言いながらすわり、詳しい説明を始めた。
「私の兄が、殺されたんです。その、妖怪に。妖怪かどうかは、
よく判らないんですけど。兄の部屋で悲鳴が聞こえて・・・。
それで、部屋に行ってみたら、白い着物を着た女の人がいて。
兄が、床に倒れてて・・・」
「・・・それで」
そのときのことを思い出しのか、少し涙ぐみそうになっている
少女を気遣いながら、草間が促す。
「その女の人は、私に気づくと・・・。消えてしまいました。
もうすぐ夏なのに、その人のいたところに、雪が」
「・・・雪女か？」
「分かりません。でも。とにかく、その人を探して欲しいんです。
どうして兄を殺したのか知りたくて・・・。その理由次第では、
仇も討ちたい。どうか、手伝って下さい」
言いながら、少女は涙を流していた。仲の良い兄弟だったのかもしれない。
草間は、目の前で泣いている少女に戸惑いながら、その場にいた
者たちに語りかける。
「・・・ってことだ。誰か、手伝ってやってくれ」
◆禁忌◆
少女の依頼を引き受けようという者が、興信所に来ていたメンバーには
いなかったので、草間はメールで他の知り合いに当たった。
｢雪女が出たの？面白そうじゃない♪｣
草間からの依頼メールを読んでいたエンレイの横から、使い魔のネイテが
覗き込みながら言った。
「きっと、この人と雪女は恋をしたのよ。素敵だわ〜」
ネイテは、この事件が恋愛がらみだと思っているらしい。
「どうかな。そうとは限らないと思うけど」
「絶対そうよ。ね、この依頼受けましょ！」
「うん、確かに面白そうではあるしね。受けよう」
「はい、決まり。早速この子のうちに行きましょうよ」
「ま、今日は病院もお休みの日だし、いっか」
エンレイは、普段は獣医として普通に生活しているのである。
今日は、彼の経営しているさくら犬猫病院の休診日だった。
「よし、レッツゴー！」
やたらネイテがはしゃいで言う。恋愛沙汰が好きなので、嬉しい
のかもしれない。
早速、ネイテと共に依頼主の少女の家へ向かう。住宅地の一角に
ある、普通の一軒家だった。メールに書いてあった依頼主の名前と、
表札を見比べて、確認してから呼び鈴を押す。しばらくすると、
少女が出てきた。
「はい。今母はでかけていて・・・」
何かのセールスだと思ったのか、そう言って言葉を濁す。
「今日は。阪本悠美さん？ボクはこういう者なんだけど」
エンレイは言って名刺を差し出した。
「阪本悠美は私ですけど・・・。獣医さんが何の御用でしょうか」
エンレイの名刺を見て、悠美が怪訝そうにしている。
「草間さんから聞いて来たんだ」
「あ、どうぞ中へ。兄の部屋に案内します」
草間の名を聞いて、エンレイの用件が分かったようだ。
「ありがと」
悠美の案内で、彼女の兄の部屋へと通された。
普通の大学生の部屋、という感じだ。男の部屋にしては片付いている。
「じゃあネイテ、頼むよ」
「任せといて。すぐ見つかると思うから」
ネイテに犯人の痕跡を探させている間、エンレイは悠美に
彼女の兄について、色々と尋ねることにしていた。
「さて。キミのお兄さんだけど。趣味は何だったのかな。
スキーとか山登りはする方だった？」
彼を殺したのが、本当に雪女だったとしたら、彼は冬に山に
行っていなければおかしい。ネイテがすぐに何かを見つけてくる
だろうが、確認のためにも、情報は必要だった。
「山登りはしませんでした。でも、スキーは時々お友達と
行ってたみたいです」
「そう。そのお友達から何か聞いてないかな。スキーに
行った先ではぐれたとか、遭難したとか」
「あ、そういえば、はぐれて一晩山の中で過ごしたようなことを
聞きました。お友達ではなくて、兄本人から、ですけど」
「山小屋でもあったのかな？」
「そう聞いてます」
悠美の話を聞く限りでは、やはり彼を殺したのは雪女である
可能性が高いようだ。
「エンレイ、見つけたよ。結構薄まってて大変だったけど」
一通り、悠美に聞くべきことを聞いた頃、ネイテが痕跡を見つけたようだ。
「そう。それじゃキミはここにいてね。ボク達はこれからキミの
お兄さんを殺した人に、話を聞いてくるよ。あ、そうそう。キミは
殺された理由によっては、仇を討ちたいって言ってたけど、どんな理由だったら
敵討ちするの？」
「それは、エンレイさんの判断にお任せします」
「分かった。じゃ、行って来るよ」
そう言って、エンレイはネイテに空間変異能力を持つ、ゲートを
呼び出させた。
「ネイテ、ゲート。頼むよ」
「了解」
ネイテは、少しおどけて敬礼などしている。ゲートは、ただ頭を
少し下げただけだ。
一瞬にして移動するので、目を開けていると酔うことがある。
エンレイは、軽く目を閉じてそなえた。
「いいよ」
一瞬、体が浮くような感覚があって、目を開けると、エンレイは
山の中にいた。木々を揺らす風が心地よい。
少し離れたところに、木陰に隠れるようにして、白い
着物を着た女が立っていた。突然現れたエンレイに、少し驚いている
ようだ。
「あ、エンレイ、きっとあれがそうだよ」
ちゃっかりついてきているネイテが、その女を指差しながら言った。
「そうだね」
言って、女の方へと近づいていく。
｢来ないで下さい｣
女が言った。しかし、エンレイは足を止める気配すらない。
「キミに聞きたいことがあってここまで来たんだ。話くらい
させてよ」
「聞きたいこと・・・」
少し、緊張を解いたようだ。表情から険しさが消えている。
美しい女だった。艶やかな長い黒髪に、白い肌。唇は紅を
引いたように紅かった。だが、顔色はあまりよくない。
元々、冬の種族なのだ。
「そう・・・。妹さんが」
エンレイが、悠美が兄の仇を探していて、殺された理由を
知りたがっている、と伝えると、女は哀しそうに言った。
「そう。だから、ボクが代わりに来たわけ。どうして殺しちゃった
のか教えてよ」
「二人は恋をしてたんでしょ！？」
ネイテが横から口を挟む。
すると、女は、ふっと笑うと、うなずいた。
「マジ！？」
ネイテの予想は外れる、と思い込んでいたので、エンレイが驚いている。
その横で、ネイテが胸を張って喜んでいる。
「私達は、確かに恋をしてしまいました・・・」
女が語った話では、悠美の兄はナイターでスキーをしていたとき、
友人たちとはぐれ、山の中に迷い込んできたという。そして、
山小屋を見つけ、そこで一晩過ごした。女は、彼を殺そうとして
山小屋に入ったのだが、彼が目を覚ましてしまった。
すぐにその場を去ろうとしたが、彼に着物のすそを掴まれてしまい、
去ることができなかった。戸惑う彼女に、彼は言ったそうだ。
君の様に美しい人を初めて見た、名を教えてくれと。
彼女は初めて自分を恐れない人間に会ったのだと言う。
自分を恐れないどころか、美しいと褒めてくれた彼に、名を
伝えたかった。だが、彼女には名などなかった。雪女という名前しか
ないのだ。だから、昔から姿を見られた時に言い続けてきた言葉を
残して去った。他人に話せば殺す、と。
そのまま数ヶ月が過ぎ、彼に会いたい、と思っている自分に気づいた。
だが、今度会う時には彼を殺さなければならない。自分から姿を
見せるときは、彼が他人に自分のことをもらしたときだ。昔から、いると
分かれば人間達に祓われる仲間が多かった。存在を知られる訳には
いかないのだ。それに、かつて人間と恋をして、里に下りていった仲間が
どうなったかも知っている。子供までなしていたのに、結局その
男を殺さねばならなくなったのだ。それ以来、雪女と人間の恋は
禁忌とされていた。それでも、会いたいという思いは消えなかった。
会いたいと思うと同時に、会いたくないと思っていた。会うときは、
殺す時。そんなときが来なければいい、と思っていた。
自分が姿を現さなければ、彼はそのうちに忘れてくれると思っていたのだ。
しかし、彼は友人にもらした。友人は、もちろん信じなかった。
だが、彼女は彼を殺さなければならなくなったのだ。自分だけではなく、
仲間にも危険がある。自分の感情だけで見逃すには、それは大きすぎた。
そして、彼のもとに現れた彼女を見て、彼は喜んだそうだ。
「やっと会えた。君のことが忘れられなくて、何をやっても
手につかなかったんだ。でも、どうやったら会えるか分からなくて。
それで、考えたんだ。君は、他人に話せば殺すと言った。なら、その時には
会えるんじゃないかって」
「そんなことのために話してしまったのですか・・・。私は、貴方を
殺したくなかったのに。私も貴方に惹かれていた」
「そうか、嬉しいな。君のような美人に好かれてたなんて。
本望だよ。殺されてもね」
そして、彼女は彼を殺した。
「心が引き裂かれそうでした。あんなに辛い思いをしたのは
初めてです」
雪女は、涙を流しながら語り終えた。
「じゃあ、痛み分けってとこかな・・・」
「お願いです、私を祓って下さい」
雪女が、すがりつく様にしてエンレイに頼む。
「悪いけど、それはできないな。キミは悪い子じゃないみたいだから」
「そんな・・・。楽になりたいんです。お願いします」
「キミが楽になっちゃ駄目だよ。一応、人を殺してるんだから、
そのくらいの罰は受けてもらわないとね」
「そう・・・ですね。人を殺して、望みどおり楽になるなんて、虫が
良すぎますね・・・」
「そういうこと。じゃ、ボクは妹さんに報告しに戻るから。キミは、
もう人に見つからないようにね」
そう言って、エンレイはまた一瞬にして悠美の家に戻った。
突然現れて、突然消えたエンレイに、雪女は戸惑っていた。
「ただ今」
突然戻ってきたエンレイに、悠美も驚いたようだった。
「お、お帰りなさい。どうでしたか？｣
悠美に、雪女と彼女の兄のことを話すと、悠美も泣いていた。
「兄は、恋をしていたんですね。それも、悲しい恋を」
「うん。まあ、そういうわけだから、敵討ちはしてこなかったけど。
それでよかったかな？」
「はい、ありがとうございました」
礼を言われた後、ケーキと紅茶をご馳走になって変える途中、
ネイテがエンレイに言った。
「あたし、恋愛は好きだけど、こういう哀しいのは嫌だな。
やっぱり、どうせ恋愛するなら、ラブラブ〜なのがいいよね」
「そうだね。ボクも、哀しいのは嫌だな」
もし、あの雪女がまた恋をした時には、幸せになれるように、
と祈りながら帰路を急ぐ二人がいた。
−終−
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【ライティア・エンレイ／男／２５／悪魔召喚士】
NPC
【阪本悠美（さかもとゆみ）／女／１６／学生】
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■ ライター通信 ■
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初めまして。ライターのれいなといいます。今回は、依頼を
受けてくださって、どうもありがとうございました。
まだまだ新米なので、力不足なところが目立つかもしれませんが、
気に入っていただけたら幸いです。
一人一人それぞれにノベルを書かせていただいてますが、
いかがでしたでしょうか。
では、またどこかでお会いできることを祈りつつ。
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