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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


【月光蝶・前編】
◆編集部一景
真剣な面持ちで提出された企画書に目を通している碇。
そしてその横で蛇に睨まれてもいないのに硬直した蛙のように緊張に固まっている三下。
月刊アトラス編集部のいつもの風景。

「三下。あなた、編集者になって何年になるんだっけ?」
碇は書類から目を離し、天女のような微笑で三下に問う。
「は、はいカレコレ・・・年になります!」
三下はなぜか怪しい兵隊のように敬礼付きで返答する。
「そう、もうそんなになるのねぇ・・・」
そう言って、何か懐かしむように優しく微笑みながら企画書をシュレッダーへと放り込んだ。
「あぁーーっ!」
「ウルサイ!文句言うなら、もう少しまともな企画考えてからにしろっ!」
碇に一蹴されて、三下はすごすごと退散するのであった。
これもまた月刊アトラス編集部のいつもの風景。

「あの・・・三下さん・・・?」
編集部を出たところで、可憐な美少女が1人、三下に声をかけてきた。
「如何でしたか?」
少女が訊ねているのは先ほどの企画の是非のようだ。
「うーん、まぁ、そのねぇ・・・僕の企画書の書き方が拙かったのかなぁ・・・」
三下は困ったように頭を書く。
「お願いです、三下さん!どうか、月光蝶の行方を探してください!」
少女は涙を流しながら頭を下げた。
「行方不明の姉の唯一の手がかりなんです・・・」
「でも、こういうのは探偵とか雇った方がいいんじゃないかなぁ・・・」
「いいえ、月のない夜にだけ月光の輝きをはなって飛ぶ蝶なんて、誰も相手にはしてくれませんでした。もう、ここが最後なんです!お願いします・・・」
そう言って、少女のつぶらな瞳は再び涙をこぼす。

少女の名前は三上 今日子。三上の遠い親戚筋にあたる少女だった。
1年前から行方不明の姉・明日香を探す手がかりを求めて三上を頼ってきたのだった。
不思議な夜に飛ぶ月光蝶・・・
その蝶が目撃される時、必ず姉の明日香に似た女性も目撃されていた。

「お願いします。どうか、手がかりになる月光蝶を探してください・・・」
「う・・・」
「お願いします!」
「・・・わ、分かったよ。俺の部下に探させるよ!」
「あ、ありがとうございます!三下さん!」

少女の瞳に思わず、部下などと言ってしまった三下が、編集部であらゆる人間に土下座してお願いして回る光景が見られたのはこのすぐ後のことであった。

◆部下?下僕?
「おねがいしますぅ〜っ!!」
「うわっ!」
編集部のドアをくぐるなり、飛びついてきた半泣きの男に来生 千万来は思わず声をあげた。
「な、なんですか?」
予期もしなかった歓迎?にドキドキしながらも、来生は出来るだけ冷静を装って泣き付いてきた三下に声をかける。
「チョウチョをチョウチョを探してくださいっ!」
来生は読者として編集部に見学に来ただけのはずだったのに、何故入るなりチョウチョを連発する怪しげな男に土下座されなければならないのだろうかとしばし思案する。
「あーぁ、三下クンってば・・・」
後ろから女性が声をかけて来た。
近くのビルに編集部を持つ怪奇雑誌のルポライター・大塚 忍だった。アトラスへはルポのネタ集めに時々顔を出す。三下とはその辺で顔見知りの様子だ。
「お客様にそんなコトしてると、碇女史に鉄拳食らうわよ。」
そう言ってネコの子を持ち上げるように三下の衿をつかんでひょいと立たせる。
「あ、大塚さ〜んっ!」
つかまれた子猫の魔の手は大塚の豊かな胸元を狙ったが、なれた手つきでその手を払いのけた。
「うわ〜んっ!大塚さんもお願いします〜っ!チョウチョ探してくださーいっ!」
再び床に放り出された三下が駄々をこねるように廊下で大の字のまま泣き始めた。
「恐るべし・・・アトラス名物・三下 忠雄・・・」
泣く子?にはかなわず二人は三下の話を聞くことになってしまった。

◆姉・明日香
三下の犠牲者?となった「三下曰く『部下』」のメンバーは5名。
みな、別件でアトラスを訪れた者ばかりだったが、明日香の話には強く興味を引かれたようだ。
「お姉さんが行方不明になられたときのことを教えてもらえますか?」
アトラス編集部の会議室の一角に陣取ったメンバーの1人、斎 悠也が静かにたずねる。
「はい。今からちょうど1年前のことです。姉は仕事の都合で東京で一人暮らしをしていたのですが、一通の葉書を最後に連絡が途絶えてしまい・・・東京の姉の部屋を訪ねた時そこにはもう姉の姿はありませんでした・・・。」
「お姉さんのお仕事は?」
「OLです。霞ヶ関の商社に勤めておりました。」
「明日香さんの写真とかはありませんか?」
今度は、先ほどから黙って話を聞いていた陰陽師の久我 直親がたずねる。
「出来れば新しいものであれば助かるのだが・・・」
「あります。これです・・・」
今日子は手元のカバンの中からサービス版の写真を数枚取り出した。
どの写真でも歳の頃24〜5歳くらいの美人が微笑んでいる。
「あまりお姉さんと似てらっしゃらないんですね・・・」
写真を手にとって見ていた宮小路 皇騎が疑問を素直に口にする。
写真を見た誰もがそう思っていた。
色白で黒髪を綺麗に肩の高さで切り揃えている今日子は和風な美少女。年齢も聞けば16だと言う。
一方、姉の明日香は栗色の髪にゆったりとしたウエーブをかけ、色白は同じだが目鼻の造りもどこか洋風で艶やかな感じのする美人だった。
「失踪前に何かおかしな行動は?商社勤めと言っていたが、会社の方とかは?」
「姉は仕事に夢中で・・・休みもほとんど取らずに働いていたようなんですけど、その仕事を退職していたんです。実家の方へは何の連絡もなく・・・会社の方にうかがった話では、退職したのは失踪の直前だったようです。」
「無断欠勤とかじゃなかったんですね?」
細かいことをメモにとりながら大塚が質問する。
「ええ、姉は退職後に行方が知れなくなったようなんです・・・」
今日子は悲しげに目を伏せる。
身の回りを片付け、何も語らず居なくなった姉。
「姉を探してください。どこかできっと困っているんだと思います・・・」
そう言って思わず涙ぐむ。
隣りに座っていた宮小路がそっと彼女にハンカチを差し出す。
「それで・・・お姉さんの・・・その月光蝶の話はいつ頃から?」
彼女が少し落ち着くのを待って来生が質問を再開する。
「姉が居なくなってすぐです。姉のことを心配して姉の元を訪ねたお友達の方が見たそうです。」
明日香のマンションのすぐ側にある神社の境内の側を通ったときに見かけたのだと言う。
月のない夜、街灯もまばらなその近所を走り抜けるように通りかかったとき、その蝶は優雅に現れた。
「淡い月色の大きな蝶が神社の境内の方へ飛んでいったそうです。なんて不思議な・・・そう思ってその蝶の飛んで行く先を見ると、そこに姉によく似た女性が立っていて・・・お友達が声をかけようとしたら、かき消すように消えてしまったのだそうです・・・」
今日子もその出来事に不吉な影を感じるのだろう。
言葉を詰まらせながら話し終わると、再び大粒の涙を浮かべる。
「目撃される場所はいつもその神社の近辺で・・・月がない夜・・・新月とか雨の降って月の見えない夜なのです・・・。」
行方不明の姉、姉に似た人物と共に現れる月のない暗闇に飛ぶ蝶・・・
「とりあえず、現場に行って見たほうが良さそうね。」
大塚はメモをまとめると、そう言って立ち上がる。
その言葉に一同も同意し、とりあえず現場へと向かうこととなった。

◆闇夜に飛ぶ蝶
本人の都合で実家の方へ戻らなければならないという今日子と別れ、久我・大塚・来生・斎の4人はそれぞれ現場へと向かった。
宮小路は月光蝶についてもっと詳しい情報をインターネットで探すために1人編集部に残った。

時刻はもう夜の10時を回っている。
都合のよいことに雨雲が厚く月の姿はその影に見えないようだ。
重苦しい空を見上げながら久我が呟いた。
「条件は整っているな。」
「そうね・・・」
大塚も同意する。
彼女はその場に立って静かに霊視を続けている。
遠く広く・・・見えざるものの姿を己の脳裏に焼き付ける気配を探りつづける。
その時・・・
「あっ!あれは・・・!」
斎が持ってきたデジカメを借りて辺りを撮りまくっていた来生が一方を指差して皆を呼んだ。
「月光蝶!」
斎が来生からデジカメを受け取り、構える。
その先には淡い月色の光を身に纏った美しい蝶がゆっくりと姿を見せている。
普通の蝶より少し大きいだろうか、小鳥ほどの大きさの蝶は光の尾を引きながら4人の頭上を通り抜ける。
「綺麗・・・」
来生は光の尾を引いて滑るように飛んで行く蝶を呆然と見上げて呟いた。
「追おう。」
斎はひとしきりその美しい姿をカメラにおさめると、すぐに蝶の行方を追いかけ始めた。
来生もその言葉に我に返り、斎の後に続いて蝶を追う。

蝶はゆっくりと追跡者を追い払うことなく神社の境内の中へと入ってゆく。
斎と来生はその後を追って高い石段の階段を駆け上がる。
蝶の後を追っているとまるで蝶に導かれているかのようだ。
(俺の蝶と同じものなのかも知れない・・・)
使役の術として符を蝶に変え操る術を持つ斎はふと思った。
斎は蝶を追いながらジャケットの胸ポケットから数枚の符を取り出して呪を唱えると息を吹きかけた。
小さな符は斎の指先から小さな蝶となって飛び立つ。
「あの蝶を追え。」
小さな使役たちにそう命じると、斎の蝶は滑るように前方の蝶の元へと飛ぶ。
しかし、その場で捕らえてしまっては蝶を追った意味がないので、その蝶を逃がさないように蝶の周りを囲むと、共に月光蝶の目指すものを目指した。
「どこまで行くんだろう・・・」
柔道部に所属する来生はさすがにタフで、石段を駆け上がっても大して息も切らさず、ペースもそのままでついてくる。
「目的地は近いみたいだ。ほら・・・」
特殊な出生の斎は息一つ乱さず足を止めた。
蝶はお社の横を通り過ぎるとお社のちょうど裏の雑木林の中へと入り込んでいたが、少し開けた場所で動きを止めた。
「沼・・・」
暗闇に大きく口を開いているのは、暗々とした水を湛えた沼だった。
蝶はその上を旋回している。
ここが目的地なのだと、追跡者に知らせるように。
「捕らえろ。」
斎は使役たちにそう命じると、使役の蝶たちはくるっと月光蝶を取り囲んだ。
しかし、使役の蝶たちは月光蝶を取り押さえることは出来ずに、その姿を失ってしまった。
ひらひらと符だけが水面に落ちる。
「あ・・・」
蝶が消えた後、雲の切れ間から差し込んだ月光に1人の女性の姿が浮かび上がった。
しかし、その姿は写真で見た三下 明日香によく似ていたが、妹の今日子のようだった。
浮かび上がった女性は斎と来生に向かって頭を下げると、静かにその姿を消した。

◆死の影
「この沼の中に三下 明日香の遺体があるんだな。」
遅れて斎達の後を追ってきた久我が苦々しく言った。
大塚も青い顔で水面を見つめている。
蝶が現れたとき、その姿を霊視で捕らえた二人は、深くその姿を追いかけた。
その蝶が向かう先には深々とした沼があり、その底に1人の女性が沈められているのが見えた。
「蝶が教えていたのは明日香さんの遺体がある場所だったのね。」
「なんてことを・・・」
来生が搾り出すような声で言った。
「いったい誰が・・・」
久我は首を振った。
「わからない。彼女の声を聞くことが出来ないんだ・・・彼女は力ある者の呪詛で死してもなお秘密を漏らさぬようにこの沼の底に囚われている・・・俺たちが見つけなければ遺体も発見されなかっただろう・・・」
「呪詛・・・」
斎は沼の底を凝視する。
彼の目にも1人の女性が囚われているのが見える。
死の瞬間の苦しみのまま繋ぎ止められた明日香が。
「そんなひどいこと・・・許せない・・・」
来生が言った言葉は誰の胸にも浮かんだ言葉だった。

◆呪詛の束縛
後日、メンバーの通報によって三下 明日香の遺体は引き上げられた。
白骨化した遺体の所見から死亡したのは失踪直後とみられた。

しかし、遺体が引き上げられ、遺族の手によって荼毘にふされても彼女が救われたわけではない。

呪詛による呪縛は、いまだこの沼の底に彼女をつなぎとめたまま、永遠の苦しみを彼女に課している。
彼女を苦しみから救う手立ては唯一つ。
彼女を殺した人物を探し出し呪詛を解くしか術はないのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0743 / 来生・千万来 / 男 / 18 / 高校生
0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌ルポライター
0790 / 司・幽屍 / 男 / 50 / 幽霊
0164 / 斎・悠也 / 男 / 21 / 大学生(バイトでホスト)
0095 / 久我・直親 / 男 / 27 / 陰陽師
0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生

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■         ライター通信          ■
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今日は、今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
明日香の死はちょっと予想されてた展開かもしれませんが、如何でしたでしょうか?
斎クンはデジカメでとった写真を持っていますが、これは普通に心霊写真のようなものと思ってください。きちんと月光蝶の姿は映ってデータになっております。
この後の行動も自由ですので、疑問を解き明かせるよう頑張って下さい。
とりあえず、前編の参加お疲れ様でした。
またお会いしましょう。