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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


【Underground.】
◆メロディ
「へぇ、結構素敵な曲・・・」
雫はうっとりとした余韻を味わいながらヘッドホンをはずした。
透明感のあるゆったりとした、でも何処か物悲しいような曲調は聞くものを魅了する。
「最近人気なんだよね、この人の曲。」
ゴーストネットOFFの常連の1人は雫からポータブルタイプのプレイヤーを受け取るとカバンにしまい込んだ。
「私もほしーい!アーティスト名とアルバムタイトルを教えてよ。」
「あ・・・この人ってアマチュアなんだよ。ネットで公開されてる以外にメディアがないんだ。」
「そうなの?じゃあ、私もダウンする!サイト名を教えて!」
「うーん・・・それが・・・」
常連は言葉を濁す。
「俺も探してるんだけど・・・わかんないんだよ。」
「え?どう言うこと?」

最近人気のネットアーティストの『L』は、まったく正体不明の人物だった。
彼の曲を手に入れるにはネットに点在するフリーのアップロード掲示板を経由するしかなかった。
そこにその曲を手に入れた誰かがアップして、皆がダウンロードする。
そういう手段でLの曲は人々の間に広まって来た。
この局に目をつけた音楽プロデューサーやレコード会社が必死に探したが、Lを見つける事ができなかったので、見つけた人間に賞金を支払うという噂が流れるほどだった。

「へぇ・・・なんだか、曲と一緒で本人もミステリアスなのね。」
雫は不思議と耳に残る曲をもっと聞きたいと思った。
心の中に透明なきらめきのように染み込み、暖かなメッセージのように刻み込まれた曲・・・
そんな曲を作るアーティスト・L・・・
「よし、じゃあ、私が賞品を賭けるわ!」
雫の言葉に店内は騒然となる。
「そうだ、私のBBSでもお願いしてみようっと♪」
そして雫はうきうきと軽いタッチでキーボードを叩いた。

『アーティスト・Lを探してくれた人には、雫のスペシャルプレゼントをあげます☆』

こうして雫のお願いはネットを駆け巡ったのだった。

◆Lolita
「ふぅん、姿無き音楽家・・・Lねぇ・・・」
雫の話を聞きながら、水野 想司は呟いた。
少女のような外見の少年は物憂げに目を伏せている。
その瞳の長いまつげが、そっと瞳に影を落としていた。
「L・・・L・・・」
「なんだかロマンチックよね。こういうのって。」
雫はネットでかき集めたLの曲を聞きながらうっとりとしている。
静かな休日。さわやかな午前の日差し。
素敵な一日が始まるような素敵な予感。
それをさらに際立たせるようなBGM・・・
「よし!わかったぁっ!」
おもむろに想司がパァンッと手を打ちながら立ち上がる。
「ふふふふふ、わかっちゃったよ雫ちゃんっ!」
「み、水野クン!?」
「僕の灰色の頭脳はこの謎を簡単かつ明快に解決してしまったのさ!」
「え?Lの事わかったの!?」
椅子の上に立ち上がり、両手を腰に据えふんぞり返っている想司の奇怪な行動に目を見張りながらも、「謎はとけた!」の言葉に雫の瞳は尊敬の輝きを放つ。
「すごいよっ!これって大ニュースになるよっ!」
「ふふふふふ、こんな問題僕にかかれば簡単さ。」
想司はさらにふんぞり返る。
「ああ、なんて恐ろしい仕掛けだったんだ・・・全てはこの名前「L」に隠された恐ろしい真実なんだよ・・・。」
「お、恐ろしい真実・・・?」
「そうさ、このLという一文字に凝縮された恐ろしい真実。それは・・・」
「それは?」
「それはL=Lolita!L・O・L・I・T・Aっ、つまりロリータ。その属性の皆さんが萌え萌えで動けなくなってしまうほどのロリっ子こそがこの最強の音楽家Lの真実の姿なんだよっ!」
想司は両手のコブシをかたく握り締め、そのオーラは背中に熱く炎を立ち上らせている。
「・・・あ、あの水野クン?
「そうとわかれば、捕獲は簡単っ!早速、疾風の如く準備して、必ずやLをキミの前に連れてくるよっ!!!」
想司はそう言うと脱兎の如く店を飛び出した。
「あ〜・・・どうしよう・・・」
こうなっては誰も止められない・・・
雫は放心状態のまま想司の後ろを見送った。

◆ロリッ子☆捕獲大作戦
「僕の選んだ精鋭の戦士達よっ!今こそ君達の力の限りを尽くし、最強最上のロリッ子を捕獲するのだっ!」
「おおおぉぉ〜っ!」
ここは秋葉原駅前。真昼間の駅前広間にむさい男達の声が響き渡る。
休日に買い物をしようとこの駅を訪れた人々が好奇の目を向けつつも、決して関わってはならないものを見るように、その一角を避けて通り過ぎてゆく。
「採点方式は簡単っ!10点満点で道行くロリーなお嬢さんを採点して最高得点がでたらそれはLということになぁるっ!」
「おおおぉぉ〜っ!」
むさい男達・・・想司が選抜した「ロリッ子☆捕獲精鋭部隊隊員」たちは総勢十名。苦しい選抜を勝ち抜いてきたロリッ子の猛者ばかりだ。
隊員たちは全員「アメリカ横断クイズ風」特設ステージに並んですわり、頭にはもちろん星条旗のプリントがある「ピンポン帽」が乗っている。
「何か質問はあるかぁっ!」
想司は金ラメ蝶ネクタイを輝かして声をはりあげる。
「た、隊長っ!」
隊員の1人がおずおずと手を挙げた。
「なんだっ?隊員9号っ!言ってみろ!」
「じ、自分は隊長がかなり萌え〜な対象でありますっ!」
隊員たちのどよめきが走る。
隊長・・・つまり想司なのだが、小柄で幼さの残るあどけない美貌の少年である想司には少女のような雰囲気が残されていた。これがまた中性的な想司の魅力だったのだが・・・
「失格っっ!!!!ショタは不可っ!」
ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!
想司の寸分の狂いも無いナイフの連打が隊員9号をぶっ飛ばす。
「諸君、腐った林檎は処分した。諸君たちは亡き隊員9号の分も最強最上のロリッ子☆捕獲に力を尽くしてくれたまえ。」
「おおおぉぉ〜っ!」

人々の好奇?の視線を一身に浴びながら、こうして「ロリッ子☆捕獲大作戦」は決行されたのであった。

◆猿も木から落ちる
想司の作戦はすばらしい完成度をもった完璧な作戦だと思われた。
この精鋭部隊の手にかかれば瞬時にして最強最上のロリっ子は捕獲され、瞬く間に作戦は完了の予定だったのだが・・・
「隊長〜・・・」
「なんだ、隊員2号。」
昼間の気だるい日差しと見世物小屋気分満載の視線を浴びながら、ぐったりと想司が答える。
隊員たちも心なしか元気が無い。
「隊長、ロリーな少女が一人も通りません〜・・・」
そうだったのだ。
想司の完璧かつパーフェクトな作戦には決定的かつ致命的な欠点があった。それは・・・

秋葉原にロリッ子はいない。

のであった。
お店の前に立ち並ぶちょっぴりエッチなスタイルの立て看板ロリロリ美少女は沢山いても、血の通う生身のロリッ子は存在しないのである。
「む〜・・・意外なところに落とし穴があったか・・・」
想司は腕組みをして考え込む。
「隊長〜、立て看板か抱き枕のロリッ子じゃ駄目ですか〜?」
隊員4号があどけない笑顔に白いパンツがちらりと眩しい某美少女ソフト予約購入特典プレミア抱き枕を掲げて提案する。
「うう〜、それもロリッ子だが、そのロリッ子は作曲なんかしないじゃないか・・・」
いい加減疲れてきた想司はそれでもいいかなぁ〜などと思いながらぐったりと椅子にもたれた。
その時・・・
「ピンポーンッッッ!!!!」
隊員1号のピンポン帽が物凄い勢いで吹っ飛んだ。
「隊長っ!前方3時方向に10点満点ロリッ子でぇすっっ!」
「おおおぉぉ〜っ!」
星になった9号を覗く隊員9人の18の瞳が一点に集中する!
ピンポンピンポンピンポンッ!!!
全員のピンポン帽が勢い良く10点満点を打ち出した。
「最強最上文句なぁぁぁぁしっ!!!貴女が最高のロリッ子でーっす!」
想司が叫びながら少女の前に踊り出る。
「お手をどうぞお嬢さん。僕は貴女にめぐり合うためにこの世に生まれてきた者です。」
そう言うと想司はすっと膝を折り、少女の前に手を差し出した。
「・・・それって私の奴隷になるって事?」
少女の反応は冷ややかだった。

◆最強最上美少女
改札を抜けるなり、むさい男の怒鳴り声と共にやたらと芝居がかった少年が自分の前に飛び出してきた。
少女はその少年を冷ややかな瞳で見つめる。
少女の名はアリス。
調子の悪いマシンに癇癪を起こしてぶっちぎってしまったSCSIケーブルを購入しに秋葉原にきた矢先の出来事であった。
「イマドキSCSIなんか使ってるからUSB信者の嫌がらせかしら・・・」
アリスは意味不明な独り言を呟くと想司を無視して歩き始める。
「相性が良くてもそろそろ切り替える時期が来ちゃったのかしら・・・」
「まってくださいお嬢さん!せめてお名前を!」
歩き出したアリスの前に立ちふさがるようにして想司がたずねる。
「キキュゥゥゥン・ピー・ガ―・・・」
アリスはピタッと足を止めると想司のほうを向いて奇怪な音を立てた。
人間ではとても発音不可能な音だ。
「え?え?」
想司が面食らっているとアリスは意地悪く微笑んだ。
「マシン語よ。日本語ならアリス。」
「萌え〜〜〜っ!」
アリスの言葉と同時にむさい男たちの嬌声が上がった。
「隊長!このアンドロイド少女っぽさがまた萌えます〜っ!」
「その冷たい瞳で見下して欲しいです!隊長っ!」
「アリスちゃんのUSBコードで俺の心臓はバグりそうです〜っ!」
気が付くとアリスと想司は超萌え萌え状態のロリッ子☆捕獲精鋭部隊9人衆にむさくるしく取り囲まれていた。
「きゃーっ!な、なんなのこの■■■男たちはっ!!」
アリスはすっぱい臭いに耐え切れず側にいた男をけり倒して退路を開かんとしたが、萌え萌え男たちはびくともしない。
それどころかさっき星になったはずの隊員9号も蘇り、どさくさにまぎれて想司に萌え萌えになっていた。
「想司クン、ハァハァ・・・」
「何するんだバカーーっ!!」
「きもちわるーいっ!!!いやーっ!!!」
さすがの想司もアリスもネコにマタタビ・オタクに萌えキャラという最悪な状況では絶叫する以外に術は無かったのであった。

◆戦は終わり、日は落ちて
「・・・疲れた・・・」
よれよれになった想司がゴーストネットOFFのドアの前に立ったのは日もすっかり暮れ落ちた夜になってのことだった。
あの萌え萌え地獄の中、さんざっぱらもみくちゃにされた想司は憔悴しきっている。
「吸血鬼に血を吸われるとこんな感じなのか・・・」
萌え萌え男たちにすっかり圧倒されている想司であった。
ちなみに、アリスはあのすぐ後に秋葉名物アキバ焼きを袋いっぱい口いっぱいに頬張った背の高い男に救出され、無事その場を脱していた。

「あ、水野クン!」
ドアをくぐると雫の元気な声が彼を出迎えた。
耳の奥に残る地獄のような萌え男たちの声を吹き飛ばしてくれるような清々しい声だ。
「どうしたの!?大丈夫ぅ?」
自身満々で出て行ったときとは180度違うヨレヨレの想司を見て雫は呆然とする。
「雫ちゃん、ゴメン。Lを連れてこれ無かったよ・・・」
そう言うと、想司は近くにあった椅子に倒れこんだ。
「そ、そんなのいいよっ!水野クンがこんなになるまで頑張ってくれたことの方が、雫はすっごく嬉しいよっ!」
天使のような微笑で雫が言う。
萌え萌え地獄の後にこの笑顔、魂が洗われるような心地だ。
「雫ちゃん・・・」
「あ、そうだ。頑張ってくれた水野クンに雫のスペシャル☆プレゼントをあげるね♪」
そう言うと雫は店の奥へとかけて行った。
「プレゼント・・・」
雫の笑顔だけでも想司にはすばらしいプレゼントだったが、さらに用意されたというスペシャル☆プレゼントのことを思うと想司の心は昇天しそうだった。
「私が水野クンの為に作曲した曲なの。聞いてね♪」
そう言って雫は店のBGM用オーディオのスイッチを入れた。

『おおおぉぉ〜っ!おおおぉぉ〜っ!おおおぉぉ〜っ!』

世にも珍妙なメロディーにあわせて歌うこの声は・・・
「歌はネットで有志を募った萌え萌え合唱団なの♪」
雫がにこやかに微笑むのを見つめながら。
想司はそのまま気が遠くなってゆくのを感じていた。
「もう萌えキャラはゴメン・・・」

水野 想司14歳
酸っぱい思い出の一日であった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0424 / 水野・想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回は私の依頼をお引き受けありがとうございました。
水野クン1人だったのと、ギャグ希望・・・ということで思い切り遊ばせていただきましたが、如何でしたでしょうか?
私としては珍しく人の死なない話でした(ある意味、水野クンが死亡寸前だったかもしれませんが・・・)が、アリスとスリープウォーカーの二人もさりげなく登場させていただきました。
私にとって楽しいひと時であったように、水野クンにも楽しいひと時であったならばと願っております。
ではまた、どこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。