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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


神薙神社祭【水無月】
●オープニング【0】
 神薙北神社と神薙南神社。この2つの神社は旧冬美原城を守るように南北に配置されている。
 その2つの神社では毎月のように祭り――神事が執り行われている。この土地の平穏を祈るために続けて行われてきたのだ。
 そして今月もまた神薙南神社で奉納試合が行われる。奇数月は神薙北神社で、偶数月は神薙南神社で奉納試合は行われるのだ。
 先月と同様、今月も奉納試合はじゃんけんで行われるようだ。巫女さんたちが奉納試合の参加者を募っている。境内には舞台の設営が始まっており、テレビクルーの姿も見受けられる。
 その中にはラジオパーソナリティの鏡巴の姿もあった。スタッフらしき男たちと何やら話し合っている。恐らく今月の司会進行は彼女なのだろう。
 1回戦は1対1による勝負。そして勝ち残った方、負け残った方、各々のグループの中から優勝者と裏優勝者を決定するのも先月と同様だった。もちろん優勝者か裏優勝者になると賞品が贈られるのも同様で。
「いかがですか、参加なさいませんか?」
 巫女さんが、にっこり微笑んで話しかけてきた。

●今月こそ【1B】
「やっぱりお祭りっていいよね〜♪」
 左右に並んでいる露店をきょろきょろと見ながら、北一玲璃はそうつぶやいた。まだ早い時間ではあるが、露店にはそれなりに客が来て賑わっている。奉納試合が始まる頃にはさらに人が増えて賑わうことだろう。
(賑やかだし、楽しそうだし)
 こんな光景を見ていると不思議な物で、自然と顔がほころんでしまう。今の玲璃がそうだった。
(でもこのお祭り毎月あるんだっけ? よく続くよね……まあ、楽しいからいいけど♪)
 玲璃は社務所に向かっていた。もちろん奉納試合に参加するためだ。先月はサイコロの目1つ違いで惜しくも優勝を逃していた。ゆえに今月の参加は、そのリベンジの意味合いもあった。
(……勝負は時の運、だしね)
 リベンジが上手くいけばいいとは思っているは、やはり勝負は時の運。玲璃はそのことを自覚していた。
「とにかく、今月も奉納試合頑張っちゃおう。おーっ☆」
 1人で気合いを入れ、盛り上がる玲璃。行き交う人々は玲璃の方をちらりと見て通り過ぎていたが、玲璃はそれに気付くことなく社務所に入っていった。

●参加者紹介【2A】
 夜7時過ぎ――本殿前の特設舞台の上に1人の女性が上がった。マイクを手にした巴だ。
「皆さん、お待たせいたしました。今月も奉納試合の日が無事やって参りました。果たしてどの方が優勝者に、また裏優勝者となるのでしょうか」
 巴が話し出すとすぐに観客から拍手が起こった。先日のアナウンサーと違って落ち着いた喋りであった。
「今月の司会進行は私、鏡巴が担当いたします。それでは今月の参加者を紹介させていただきます」
 巴は参加者待機席の方を見た。座っているのは南宮寺天音、北一玲璃、宮小路皇騎の3人だけだった。巴は1人ずつ名前を読み上げていった。
「……ここで皆さんにお詫びがございます。あいにく今月は参加者が少ないこともあり、急遽ルールを変更させていただきました」
 巴はぺこりと頭を下げると、変更となった今回のルールを説明し始めた。
 勝負は3回勝負の1回戦のみ。最も勝ち数の多い者が優勝者に、最も負け数の多い者が裏優勝者になる。並んだ場合はサイコロの目の大小で決定だ。
「ここに居るのって、先月最後まで競り合った面子やん……」
 横に並んでいる2人を見て苦笑する天音。奇しくもこの3人は、先月はサイコロの目で明暗が分かれていた。
「今月は負けないから」
 玲璃はくすっと笑って天音に言った。
「うちかて絶対負けへんで」
 ニッと笑って答える天音。
「……今月も最後までもつれ込みそうだな」
 皇騎がぼそっとつぶやいた。その可能性は十分にあり得る。
 間もなく試合開始だ――。

●飴【2B】
(あ、そうだ)
 玲璃はポケットをごそごそと探った。そして中から和紙に包まれた物を取り出した。先日、エミリア学院で拾った飴だ。
(食べたら何かいいことあるかもしれないし、今のうちに口に入れちゃおっと)
 玲璃は和紙を開いた。中には大粒で多面体な飴があった。非常に透き通っており、食べるのが少しもったいないような気もする。
 飴を口元へ運ぶ玲璃。飴からは甘い香りがした。何とも美味しそうな香りだ。玲璃は口を少し開けると、ぽいっと飴を口の中に入れた。
 飴は口の中へ入れるとすぐにさらさらと溶け出した。甘味が口の中に広がってゆく。巴に呼ばれる頃には、ほとんど溶けてしまっていた。

●優勝者・裏優勝者決定戦【3B】
「それでは南宮寺天音さん、北一玲璃さん、宮小路皇騎さん……舞台の上にどうぞ」
 3人は巴に呼ばれて舞台に上がった。
「先生頑張ってくださーいっ☆」
 皇騎に声援が飛んだ。もちろん非常勤講師として教えに行っている、エミリア学院の女生徒からの声援だ。しきりに手を振っている少女たちに対し、皇騎は笑みを浮かべて小さく手を振り返した。
「よろしく〜」
 巴ににっこりと挨拶する天音。巴も笑顔でそれに返した。天音が観客の方を振り向くとテレビカメラがあったので、ついでにそちらにもにっこりと挨拶をした。愛想を振りまくとはまさしくこのことか。
「それでは始めますが……よろしいですか?」
 巴が3人に準備はいいか確認した。
「うん、大丈夫だよっ☆」
 巴にVサインを見せる玲璃。天音と皇騎は無言で頷いた。
「それでは参ります……1本目。最初はグー、じゃんけんぽん!」
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
 巴とかけ声を元気よく合わせる玲璃。3人が一斉に手を出す。
(えっ……?)
 玲璃の目には信じられない光景が見えていた。他の2人の手が、ゆっくりと動いて見えるのだ。2人は玲璃と同じ手を出そうとしている所だった。
 3人の手は天音がパー、玲璃もパー、そして皇騎もパー。観客から大きな溜息が漏れた。
「1本目は引き分けです。情報によりますと、こちらの3人は先月好勝負を繰り広げたそうです……果たして今月もそうなるのでしょうか」
 巴が話している間も、次の手を考えている3人。しかし玲璃だけが妙に神妙な表情であった。
(何、今の……)
 何が起きたのか把握できない玲璃。今のは単に目の錯覚だったのだろうか。
「続いて2本目に参ります……最初はグー、じゃんけんぽん!」
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
 巴と玲璃のかけ声に合わせ、3人が一斉に手を出した。
(またっ……!)
 またもや他の2人の手が、玲璃の目にはゆっくりと動いて見えていた。咄嗟の判断で出す手を変える玲璃。
 3人の手は天音が先程と同じくパー、玲璃もやはり同じくパー、しかしただ1人皇騎だけがグー。
「2本目、宮小路さんが1歩後退です。南宮寺さんと北一さんは互いに譲りません」
 淡々と解説する巴。だがその淡々さが不思議と緊張感へと変わってゆく。
(錯覚じゃない。見えてる……)
 玲璃はごくりと唾を飲み込んだ。次もゆっくり動いて見えたなら、少なくともじゃんけんで負けることは有り得ない。
「泣いても笑ってもこれが最後です……よろしいですね? 3本目に参ります……最初はグー、じゃんけんぽん!」
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
 最後まで元気よくかけ声を合わせる玲璃。3人が最後の手を出した。
(見えた!)
 三度、玲璃の目にゆっくりと動いて見える他の2人の手。玲璃は出そうとしていた手をそのまま出した。
 3人の手は天音がチョキ、玲璃もチョキ、皇騎は……パー。
「あ〜っ!」
 観客の一部から悲鳴に似た声が上がった。エミリア学院の女生徒たちの声だ。
「3本目も南宮寺さんと北一さん、譲りません。この瞬間、宮小路さんの敗退が決まりました。宮小路さんが今月の裏優勝者となります」
 2敗を喫した皇騎は自動的に裏優勝者となる。後は優勝者を決めるのみ。
 サイコロを抱えた巫女さんがそそくさと舞台に上がってくる。ここで一番大きな目を出した方が、優勝者となる。天音対玲璃、先月の決定戦再びだ。
「まずは南宮寺さんからです。どうぞお願いします」
 巴がそう言うと、巫女さんが舞台の上からサイコロを放り投げた。サイコロはころころと転がって……6の目で止まりそうになった。
「よおっしゃ!」
 ほぼ勝利は決まった、天音がそう確信した時に運命の悪戯が起きた。サイコロは小さな石に乗り上げたかと思うと、さらにころんと転がって――4の目を上にして止まった。
「4です。微妙な数字ですね……」
 天音は出た目を見て頭を振った。
「続いては北一さんです。これで決まるのでしょうか。どうぞお願いします」
 再び巫女さんが舞台の上からサイコロを放り投げた。サイコロはころころと転がって……6の目を上にして止まった。天音はがくっと肩を落とした。
「やったぁっ!!」
 玲璃は舞台の上で大きく飛び跳ね、全身で喜びを表現した。
「4対6、今月の優勝者は北一玲璃さんと決まりました。おめでとうございます」
 笑顔の巴。観客から大きな拍手が沸き起こった――。

●奉納【4】
 優勝者の玲璃と裏優勝者の皇騎は各々別の和紙に手形を押し、筆で署名をすることとなった。この優勝者の分を神薙南神社へ、裏優勝者の分を神薙北神社へ奉納することによって、一連の奉納試合は終わりを迎えるのである。

●よろめく少女【5D】
「うっ……ううっ……ぐぇっ……!!」
 神薙南神社の境内にある公衆トイレ――その個室の1室から苦しそうな少女の声が聞こえていた。やがて勢いよく水の流れる音が聞こえ、静かになってから個室より少女が姿を現した。
 玲璃だ。口元を手で押さえ、よろめきながら個室から出てきた。
 玲璃はすぐに洗面台へ向かうと、両手に水を溜めて口を漱いだ。
「ふう……」
 ようやく落ち着いたのか、玲璃は小さく溜息を吐いた。そしてハンカチを取り出し、額の汗を拭う。
(何でこんなことに……)
 玲璃は優勝賞品を受け取ってすぐに気分が悪くなり、この公衆トイレへ駆け込んでいた。その結果、胃の中は空っぽになっていた。
 今日は朝から妙な物を食べた覚えもない。体調も悪くはない。なおかつ優勝したのだから気分がよくなりはしても、悪くなる要素はない。
(何で……?)
 玲璃はもう1度、落ち着いて朝からの行動を思い返してみた。そして行き着いたのは――。
「飴……?」
 ぽつりつぶやく玲璃。まさかとは思ったが、妙な物といえば奉納試合の前に食べた飴しか思い当たらない。
(でもそういえば)
 関係あるのかどうかは分からないが、他の2人の手がゆっくり動いて見えたのは飴を食べた後の話だ。
「あの飴に何かあるのかな……」
 玲璃は思案しつつポケットを探った。出てきたのは飴を包んでいた和紙が1枚。玲璃はその和紙をじっと見つめていた。答えは今はまだ出ない――。

【神薙神社祭【水無月】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0702 / 北一・玲璃(きたいち・れいり)
                   / 女 / 16 / 高校生 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全12場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・お待たせしました、水無月の神薙神社祭のお話をお届けします。今回は人数がぐぐっと少なめですが、色々と謎がちりばめられていると思います。
・人数の関係で、じゃんけんは1回戦の物のみを使用させていただきました。アンケートの内容は、今後の依頼で反映できればなと思っていますのでお楽しみに。
・北一玲璃さん、3度目のご参加ありがとうございます。見事リベンジを果たして優勝です、おめでとうございます。まさか飴を使ってくるとは思いませんでしたが。はてさて、どうして本文のようなことが起きたのでしょう。いずれ詳しく原因を探ってみますか?
・次のアイテムをお送りします。次回以降冬美原でプレイングをかけられる際、臨機応変にアイテムをご使用ください。
【07:神薙南神社の護符】
・効果時間:所持中永続
・外見説明:複雑な紋様の描かれた護符
・詳細説明:いわゆる魔除けの類。精神攻撃に対する抵抗力が上昇。非売品。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。