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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・仮面の都 札幌>


調査コードネーム:神殿  〜邪神シリーズ〜
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :界鏡線シリーズ『札幌』
募集予定人数  :1人〜2人

------<オープニング>--------------------------------------

 ああ。これは三浦さま。
 お久しぶりでございます。
 トウ・オマの一件から半月、世界は平和そのものででございますなあ。
 は? あのときの本でございますか?
 北大に預けてありますが。
 ええ。あそこなら宗教学に強いですから。
 それで、本日のご用件は? 
 まさか件の本の話をするために、このような陋屋をお訪ねくださったわけでもございますまい。
 また、彼の者どもが蠢動を始めましたか?
 ほう。内浦湾の海底が隆起。
 具体的な場所は‥‥森と室蘭の間くらいですか‥‥。
 ふむ‥‥。
 またぞろ、レーダーに映った某国の潜水艦でも見間違えたとか‥‥。
 冗談ですよ。
 そんなに睨まないでくださいませ。
 そうですねぇ。
 それでは、この張り紙でも玄関に貼っておきましょうか。

 荒くれ者 大募集!!
 職種 調査員
 調査対象 内浦湾沖
 自衛隊と同行の予定
 高給優遇。経験不問。

 え? この前と一緒ですか?
 よく見てくださいませ。少しだけ異なっているではありませんか。
 もちろん私も一緒に行きますよ。
 長万部のかにめしが楽しみです。


※邪神シリーズです。
※バトルシナリオになるか微妙です。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日と木曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。


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神殿

 初夏の日差しを受けながら、国道をランドクルーザーがひた走る。
 絶好のドライブ日和だが、車内の雰囲気は必ずしも良くなかった。
「しっかし、男ばっかりやなぁ」
 全員の心を代弁するように、藤村圭一郎が呟く。
 合同コンパではないので、必ずしも異性の存在が必要なわけではない。
 にもかかわらず、黒髪の占い師がこんな事を口にするのは、彼自身気が付かない不安が、精神の一部に巣くっているからかもしれない。
 目的地は長万部町。
 道南に位置する観光と漁業の町である。
「‥‥海底の隆起か。今度こそ大物のオデマシかもな‥‥」
 座席の上で日本刀を抱いた巫灰滋が、誰にともなく言った。
 全てのフラグメントが、負の方向を示している。
 車内にいる男たちが頷く。
 五名。
 ハンドルを握る三浦陸将補。助手席の嘘八百屋。後部座席の藤村と巫。
 そして、
「‥‥臭いますねぇ。海に近付くに連れ、奴等の臭いが漂ってくるようです」
 人のよい笑顔で意味不明のことを言う星間信人。
 内浦湾沖で見られる不自然な海底隆起現象を調査するメンバーである。
 むろん、動いているのは彼らだけではない。
 ランドクルーザーの後ろには、自衛隊ナンバーの装甲車が三両続いているし、今回は海上自衛隊が増援を差し向けてくれることになっている。
 護衛艦が一隻と調査用の潜行挺。それに、日本が保有していないはずの原子力潜水艦が一隻だ。
 ちなみに護衛艦とは、昔の言い方でいえば巡洋艦ということになろうか。
 今回は対空兵装より、魚雷を多く積んでいるはずだ。
「大げさなこっちゃ」
 などと藤村がからかったものである。
「まあな。どうも今回は海自の方が乗り気でな。普段なら協力を要請してもなかなか応えてはもらえんのだが」
 警視庁と警察庁の仲が悪いみたいなものかな。
 内心の声を浄化屋は口にしなかった。
 べつに改めて確認するような事でもあるまい。自衛隊は大きな組織だ。右手の親指と左手の小指が喧嘩してもおかしくはなかろう。
 妙だろうと珍だろうと、海上と海中の戦闘力を有する援助者があるのはありがたい。
 船がなくては、調査もなにもできはしないのだ。
「とはいえ、水の眷属どもの仕業だと最初から決めてかかっては危険ですね‥‥蟠龍洞のときも最終的に待っていたのはアイツらではなかったそうですし‥‥」
 微かに唇を動かしながら、星間が小首を傾げる。
 この件、不審な部分が多すぎるようだ。
 海。隆起。本腰を入れる海上自衛隊。
 まるで既に結論が用意されているような‥‥。
 棘のようなものが精神野に不快な刺激を与える。
「ところでご主人。あの本、解析は進みましたか?」
 だが、図書館司書が口にしたのは別の件だった。
 自分の考えを開陳したりしないのが、星間の星間たる所以であろう。ただ、理由あってのことなのだ。
 腹背に敵を作らない。
 要するに、彼の行動理念はそういうことである。
 すべてのカードを晒す必要はない。
「いいえ。まったく」
 嘘八百屋が応える。
「ですから、僕の大学に預けてくれれば良かったのに」
「遠すぎますから、第三須賀杜爾区大学は。それに、北海道大学も宗教学には強いんですよ」
「なるほど」
 ごくありふれた日常会話。
 しかし、白刃を打ち交わすような危険さが含まれていた。
 おそらく、この雑貨屋の主人は気付いている。否、疑念を持っているというあたりが妥当なラインか。
 軽い分析。
 そして、彼の方は疑われていることを知っている。
 もちろん嘘八百屋も、疑いを察知されていることに気が付いているだろう。
 心が洗われるような関係である。
「あれ? 北海道大学なのか? 北斗学院じゃなくて?」
 巫が口を挟んだ。
 てっきり、綾の研究室で解析されているとばかり思っていた。
 事実、北海道で最高の宗教学者は浄化屋の恋人であろう。解析にせよ研究にせよ。彼女に依頼するのが効率がよいはずだ。
「ところが、北大の城島(きじま)教授から是非にと請われまして」
「ち! あの男か!」
 運転席の三浦が舌打ちする。
「知っとるんか? 三浦はん?」
「海自のシンパさ。綾をライバル視してる男だな」
 簡潔な答え。
 なぜか巫の背筋を悪寒が走った。
「‥‥義爺さん‥‥」
 内心の呼びかけ。
『うむ。少々気になるのう』
「だよな。考えてみたら、アイツが攫われた理由も判らねえし‥‥」
 物理魔法を狙って。
 それが理由である。
 だが、なぜ邪教徒どもは物理魔法の存在を知っていたのか。
 日本のトップシークレットあるにもかかわらず。
 偶然という幸福な単語で一括りするには、不可解なことが多すぎる。
『じゃが、いま考えたところでどうにもなるまい』
「そうだな。今は目前の調査に集中しよう」
「どないした灰滋? ぼっとして」
「いや、なんでもない」
 そう言って、巫は思索の海を漂うのをやめた。
 インテリジェンスソードと話したように、現状で採るべき手段はない。
「カノジョのことでも考えてたんちゃうか?」
 戯けたようにからかう藤村だったが、
「ああ。少し心配だな‥‥」
 という浄化屋の反応に戸惑う。
 あまりにも真剣な眼差しだったので。


「むっちゃ美味いやん!」
 藤村が歓声を上げる。
 長万部のドライブイン『かなや』。
 とりあえず、腹が減っては戦は出来ぬというわけで、五人は食事中であった。
 他の自衛隊員はというと、一足先に予定地点に赴いて配置の最中であろう。このあたり、星間も藤村も巫も嘘八百屋も士官待遇である。
 まあ、ドライブインの食事程度の優遇でしかないが。
 とはいえ、名物のかにめしは、なかなかの美味である。
 粗食に慣れて(慣らされて?)いる占い師が喜ぶのも無理はない。
「そうか? こないだ定山渓で喰ったカニの方が上手かったぞ」
 近過去の記憶と比較しつつ、浄化屋が反論する。
「いやいや。結構いけますよ。こんなもの東京で食べたら幾らするか」
 経営者に代わって、図書館司書が弁護した。
 さすがの人当たりの良さである。
「おかわりや!」
 藤村が丼を掲げる。
 他人の奢りだと思うと食も進む。
「おいおい。あんまり食いすぎると動けなくなるぜ」
 巫が笑った。
 深刻な忠告ではない。
 黒い目の占い師は、どれほど戯けていても自分の役割をきちんとこなす男である。その点について、一グラムの疑いも浄化屋は持っていなかった。
 それに、今回の仕事は海上での調査がメインになる。
 さして機敏な動きを要求されるわけでもない。
 まあ、船酔いにさえ気を付けていれば問題なかろう。
 最新鋭のイージス護衛艦が参加する作戦である。個人的な武勇を競う場面があるはずもないのだ。
 ただ‥‥。
 箸をやすめて、星間が思慮に沈む。
 水中戦ということになれば、やはりこちらの不利は否めませんね。最新の兵装とやらが、何処までヤツらに通用するか‥‥まあ、戦力としてアテにしなければ問題ではないでしょう。最低限、囮の役目くらいは果たせそうですし。
 軽く見切る図書館司書であった。
 彼の内心を知る術があったとしたら、現職の自衛官である三浦陸将補は、さぞ不本意なことだったろう。
 多額の国費を投じて建造された護衛艦が囮程度とは。
 だが、これは、そういう次元の戦いなのだ。
 べつに「下等な魚ども」に物理攻撃が無効だというわけではない。
 たとえば、対水中用の兵装は爆雷や魚雷ということになるが、命中しなくては無意味である。正直にいって、水中でのヤツらの速度は想像を絶する。船にすら振り切られることの多い魚雷では、影を捉えることも難しかろう。むろん、爆雷は言うに及ばぬ。
「やはり、頼みの綱はこれだけですね」
 そっとポケットを探る。
 彼以外には意味の判らぬ小さな笛が、そこに収まっていた。
「では、そろそろ現場に向かいましょうか」
 いつもの穏やかな微笑をたたえ、仲間たちを促す星間であった。


 白波を蹴立てて護衛艦が進む。
 艦名を「みょうこう」という。海上自衛隊が誇るイージス艦の一隻である。
 湾というものは基本的に波は静かで、外洋港効能力を有する護衛艦には裏庭の散歩程度のものであろう。
 むろん、艦上で揺れはほとんど感じない。
 快適な船旅と称して良いが、乗組員の顔は緊張に強張っていた。
 否、乗組員たちだけでなく巫や藤村も当惑を隠せない。
 沖で待機していた潜水艦からの通信が途絶したのだ。
 緊急事態を報せたのを最後に。
 この事態を予想していた唯一の男、すなわち、星間だけが泰然としている。
 おそらく、今から向かっても手遅れだ。
 すでに潜水艦の命運は尽きているだろう。
 問題は、何者によって潜水艦が葬られたか、である。
 正直に言って、星間の興味はその一点に絞られている。
 まさか、アレが復活したとは考えにくい。
 となれば‥‥。
 思考を進める間にも、みょうこうは現場に近づいている。
 三〇ノットの快速だ。
「高速で接近中の物体感知! 金属ではありません! 数は二つ!!」
 索敵にあたっている隊員が、悲鳴に近い声で報告する。
 同時だった。
 激しい衝撃が船体を襲い、艦橋にいたものを転倒させる!
「ぐ‥‥艦長、絶対に艦を止めるな。標的になる」
 床に転がったまま、三浦陸将補が要請する。本来、艦の指揮権は彼にはないが、一応、上位者としてこのくらいのことは言えるのだ。
「いくで。灰滋」
「わかってる」
 計器類に捕まりながら身を起こした占い師と浄化屋が頷き合った。
 艦橋に彼らの戦闘部署はない。
 ここは海上自衛隊員に任せるべきだろう。
 ふと見ると、星間の姿もすでに消えている。
 どうやら、一足先に甲板に出たようだ。
 称賛に値する行動力であるが、つれないこと夥しい。
「なんや。付き合いの悪いやっちゃ」
 苦笑しながら、巫の肩を抱く藤村。
「ひっつくな。気色悪い」
「失礼な。せめて気持ち悪いて言いや」
「たいしてちがわねーだろ」
 乱暴に仲間の腕を払いのけ、貞秀を引っ提げた巫も甲板へと歩き出した。
 合戦に望む武将のような風格が漂う。
 板に付いてきたやん。
 肩をすくめた藤村が後に続いた。
 甲板で二人が見たものは、あまりにも異常な光景だった。
 舳先で小さな笛を吹く小柄な青年。
 普通のクルーズなら、それほどおかしくもない情景だが。
 波飛沫が狂風に煽られ、星間の髪を濡らしている。
 なんともいえぬ迫力を感じ、息を呑む占い師と浄化屋。
「やはりダゴンどもですよ。安心してください。既に手は打ちましたから」
 気配に気づいたのか、図書館司書が振り返って言う。
 いつもの笑みを浮かべたまま。
 闇の深淵を覗き込んだような感覚に捕らわれ、藤村と巫が立ち尽くしていた。

 その頃、艦橋は新たな驚愕に包まれている。
「なにか現れました! 数は四つ!!」
「何かとは何だ! 正確に報告しろ!」
「判りません! とにかく、海中に四つの物体が出現し、先ほどの二つと争っているようです!!」
 要領を得ない報告である。
 これで納得してくれる艦長がいるとすれば、かなりの少数派だろう。
 ふたたび怒鳴り返そうとする初老の艦長の方に、嘘八百屋が手を置いた。
「味方でございます。任せておいて大過ございません」
 穏やかな口調。
 異常な事態に際して、これほどありがたいものはないだろう。
 とにかく、今のところ艦への攻撃は休止しているのだ。
 体勢を立て直すチャンスである。
 出来なければ、座して第二撃を待つだけだ。
「三浦さま」
「判っている。陸自全員に白兵戦の準備をさせよう」
「ご明察。恐れ入ります」
 真面目くさって嘘八百屋が頭を下げ、にやりと三浦が笑った。
 つまり、艦への砲撃(?)を断念した敵が次に考えることは、兵員を送りこんでの白兵戦だ。
 この場合、兵員とは魚人どもである。
 早急に迎撃の準備を整えなくてはならない。
 住む世界は違えど、戦略眼において二人は拮抗しているようだ。

 海中。
 静かなその世界は、今や激闘の舞台だった。
 二匹のダゴンと四体のビヤーキー。
 前者は水流を操って攻撃し、後者は常磁性器官フーンを駆使して水中を高速移動しながら、相手を切り刻もうとする。
 蛙を擬人化したような巨大生物と、グロテスクな昆虫の如き異空間の怪物。
 繰り広げられる戦いは、神話世界の出来事のようだった。
 北の大地はこの戦いを既に目撃している。
 そして、北の海も目撃者となったのだ。
 乱れる水流。血に染まる海底。
 水と風。二つの眷属たちがぶつかり合う音は海上に届くことがなく、無音の死闘が繰り返される。
 数の上では四対二。ビヤーキーたちが圧倒的に有利だが、海中はダゴンにとってホームグラウンドである。地の利は水の邪神たちにあるだろう。
 いつ果てるともなく、戦いは続く。

 むろん、戦いは海中の専有物ではなかった。
 みょうこうの艦上に、魚人たちが侵攻を開始したのである。
 トビウオのように海面から飛び出し、六メートル上の甲板に降り立つ。
 恐るべき能力である。
 が、迎撃するものたちは怯懦に震えたりはしなかった。
 魚人が油断ならざる相手であることは最初から判っている。
「いくぜ! 義爺さん!!」
『応!』
 貞秀を構えた巫が、猫科の猛獣の動きで奔る。
 右に左に繰り出される斬撃は、戦闘態勢を整えていない魚人を次々と葬っていった。
「こんなことも出来るで!」
 藤村の叫びと共に、数匹の魚人の足が氷結する。
 なにも、直接的な打撃を与えるばかりが戦いではない。
「ほな。さいなら」
 不様にもがく魚人たちを海へと蹴り飛ばす。
 跳躍力も機動力も、足が生きていればこそだ。
 いずれ氷は溶けるだろうが、凍傷は簡単に回復すまい。
 他方、星間は動いていなかった。
 舳先にたたずんだまま、時折、甲板に視線を送る程度である。
 こちらの戦いに参加できるほど海中の戦況が気楽なものではなかった、という理由もあるが、それ以上に仲間の勇戦が著しかったこともあった。
 甲板に飛び乗ってきた魚人は三〇匹ほど。
 占い師に浄化屋。雑貨屋や自衛隊員たちの活躍で、魚人の全滅は時間の問題である。
 ここは、ビヤーキーへの指示に専念すべきだろう。
 やがて、甲板上の戦いが集結する。
 勝者は人間たちだった。損害は軽傷者が五名ほどでた程度。戦闘自体の所要時間は三〇分ほどであった。
「パーフェクトゲームやな」
 藤村の不敵な言葉も、大言壮語とはいえないだろう。
 まさに、完勝であった。
 ほぼ時を同じくして、水中戦も終幕を迎えている。
 傷だらけになった一体が、キーキーと勝利の雄叫びをあげる。
 他は、もはや海底に沈んだきりピクリとも動かぬ。
 数の差が、最終的な勝利を産んだのである。
 無言のまま、星間が笛を口に当てた。
 眷属たちの死を悼み、労をねぎらうために。
 まったく、相手のフィールドで戦うのは骨が折れる。低劣なサカナどもに三体も屠られるとは。
「‥‥少なすぎないか‥‥?」
 と、巫の呟きが甲板に流れた。
 給料袋の中身を確認した勤め人のような台詞だが、意図するところは星間と藤村にも伝わった。
 記憶にも新しい蝦夷蟠龍洞での戦い。
 あのとき、敵の用意した戦力はこんなものではなかった。
「ふふ。良い勘してるしてるね。浄化屋クン」
 突然の声。
 聞き覚えのある、若い男性の声。
 そして、甲板の中央部にたたずむ浅黒い肌の青年。
 その青年を除いた全員の顔が強張る。
「‥‥ブラックファラオ‥‥」
 呟く声は誰が発したのか。
「相変わらず、キミたちは強いねえ。せっかく奈菜絵クンが張った罠も、簡単に食い破っちゃった」
「サカナ天国の下僕の罠など、何ほどのことがあります?」
「言うねえ星間クン。大事なビヤーキー三匹もやられたクセに」
 揶揄するように、青年が嘲笑う。
「寝言は!」
「寝てから言えや!!」
 絶妙のコンビネーションで言い放った巫と藤村が、同時に技を解放する。
 氷の能力と火の物理魔法!
 この二つが接吻するとき‥‥。
 巨大な爆音。
 吹き上がる即席の霧。
 水蒸気爆発という。
 邪神にすら致命傷を与えうる合体技だ!
 ブラックファラオといえども、無傷では済むまい。
 だが、爆発が捉えたのは、青年の影のみであった。
「ふふふ。コレが噂の物理魔法だね。奈菜絵クンご執心の」
 声は、艦橋の上部から響いた。
 一〇メートルを超える跳躍。
 いまさらの事ながら、人間とは思えぬ。
「ふざけやがって‥‥」
 ぎりぎりと奥歯を噛みしめる浄化屋。
「ふざけるのは人生最大の楽しみなんだよ。理解してほしいなあ」
「あんまりオモロないな。アンタ、芸人としては三流や」
 好戦的に言って睨め付ける占い師。
 あからさまな挑発である。とにかく、相手のペースを崩さなくては勝機など掴めない。
「ふふ。安心して良いよ。ここで君たちを殺すつもりは無いから」
「だったら、何しに出てきたんです?」
 星間が尋ねる。
「ちょっと海上のヴァカンスを楽しんでもらおうと思ってね」
「丁重にお断りしますよ。あなたに楽しませていただく義理はありませんから。今のところ」
「まあ、そう、つれないこと言わないでよ。奈菜絵クンとも約束しちゃったからね」
 台詞の後半から、青年の手に光球が生まれ始めていた。
『気を付けよ愚孫。あの光、以前に受けたときの比ではないぞ』
 貞秀が巫の心に警告を発する。
「保ちそうか? 義爺さん?」
『判らぬ。上か、横か、どちらかに流す方が無難じゃろう。ぬかるでないぞ』
「‥‥わかった」
 混ぜ返しもせず、巫はカタナを握り直した。
「勘違いしないでくれ。コレはキミたちを攻撃するためのものじゃない」
 身構える人間どもを眺め、青年は光球を放った。
 艦尾へ向けて。
 爆音があがる。
「ヘリ甲板とエンジンを壊しただけだよ。まあ、このくらいじゃ沈まないでしょ」
 黒煙が流れ、青年の姿を覆い隠す。
「ま、沈んでもこの季節じゃ風邪ひかないよね」
 徐々に消えてゆく声。
「‥‥まさか‥‥!?」
 なにかに思い当たったかのように、星間が唇を噛んだ。
 してやられたかもしれれません。
 彼の思いを裏付けるかのように、無線機から悲鳴が流れ出していた。

『こちら真駒内基地! 正体不明の怪物の襲撃を受け交戦中! 来援を請う! 至急、来援を請う!!』

 照りつける太陽とそよぐ海風が、行動力を失った護衛艦を、ただ見つめていた。


                     終わり

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0377/ 星間・信人    /男  / 32 / 図書館司書
  (ほしま・のぶひと)
0146/ 藤村・圭一郎   /男  / 27 / 占い師
  (ふじむら・けいいちろう)
0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / フリーライター 浄化屋
  (かんなぎ・はいじ)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「神殿」お届けいたします。
かなりの勢いで続き物くさいです。
しかも、このタイトル、この時点で意味が判りません。
いったい、どうなっているんでしょう?
あうぅ(汗)
えーと、楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、またお会いできることを祈って。