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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ボケは死んでも治らない?
〜 化けて出た男 〜

「いやいや、わざわざ僕の話を聞きにきてもらっちゃったみたいで、どうもすみませんねぇ」
そう言って、男は人の良さそうな笑みを浮かべた。
彼の名は三沢治紀。昨年5月にこのアパートで自殺した、自称「お笑い芸人の無精卵」である。

「まぁ聞いて下さいよ、聞くも涙語るも涙の笑い話を」
そこまで言うと、彼は一度何かを待ち受けるかのように言葉を切った。
しかし、周囲にいる誰からもこれと言った反応は見られない。
数秒間の沈黙の後、彼は寂しげに呟いた。
「あの、それを言うなら苦労話だろ、とか、適応ツッコミを入れてもらえるとありがたいんですけど」
夏だというのに、部屋の中を冷たい風が吹き抜けた。

その後彼の語ったところによると、彼は数年前から相棒と2人で「どないもこないも」と言うお笑いコンビを結成していたが、いつになっても全く芽が出ず、ついにはその相棒にまで見捨てられてとうとう自殺したということだった。

「それで、今でもこうして時々化けて出てるんですよ」
治紀がそう言った時、それを聞きとがめて横にいた男が声を荒げた。
「時々じゃなくて、毎晩だろ!」
この男こそ今回の依頼主で、「毎晩毎晩お笑い芸人の幽霊が出て、寒いボケにつきあわされている」と相談に来た阪上龍一である。
その龍一の心からの抗議に、治紀はにこやかに微笑んでこう答えた。
「うん、なかなかいいツッコミですね。だいぶ上達したんじゃないですか?」
これには龍一も返す言葉も見あたらなかったらしく、頭を抱えて言った。
「それで、一体いつになったら成仏してくれるんだよ」

すると、治紀は真剣な目をしてこう答えた。
「僕は、一度でいいから大勢のお客さんの前でネタをやって、場内を爆笑の渦に巻き込みたいと思っているんです」

――いや、無理だろ。

喉元まで出かかったその言葉を何とか飲み込む一同。
それに気づいているのかいないのか、治紀は力強く拳を握りしめてこう続けた。
「この際贅沢は言いません、お客さんは五十人いればOKです。
 それだけの人数をうまく笑わせることが出来たら、僕はもう死んでもいいですよ」

その言葉に、一同を代表して守崎北斗(もりさき・ほくと)がツッコミを入れた。
「いや、あんたもう死んでるから、すでに」
さらに、龍一がそれに続く。
「それに、贅沢は言わない、って、五十人は十分に贅沢だろ」
しかし、そのツッコミはますます治紀を乗せる役にしか立たなかった。
「そこをなんとか! 一生に一度のお願いです!」
この誘いに、ついうっかり北斗が乗ってしまう。
「あんたの一生は一体いつからいつまでだよ!?」
彼がそう言うと、治紀は待ってましたとばかりにこう答えた。
「それはもちろん、生まれてから、死ぬまでですよ」
「じゃあ、もう終わってるだろ!」
と、龍一がツッコミを入れたその時、このままでは埒があかないと思ったのか、北斗の兄の守崎啓斗(もりさき・けいと)が口を開いた。
「ともあれ、それで成仏してくれると言うなら、なんとか努力してみよう」
「そうですね。いつまでもここでマンザイを繰り広げていても、何の解決にもなりませんし」
明らかに場違いな雰囲気を漂わせていた英国紳士のウォレス・グランブラッドもそれに同意する。
それを聞いて、治紀は嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとうございます。皆さんがそう言って下さると、僕も丸木船に乗った気持ちで見ていられます」
その直後、様々なツッコミが飛び交ったのは言うまでもない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 ツッコミ役は誰の手に 〜

「つまり、まずはツッコミ役を選ばなきゃいけない、ってことだな」
少し疲れた様子で北斗がそう言ったときには、すでに話し合いを初めてから三十分以上が経過していた。
とはいえ、実際に話し合いと呼べるような話し合いが行われていた時間はわずか数分に過ぎず、残りの時間はひたすら治紀のボケに対するツッコミに費やされていたのだから、話が進まないのも無理はない。
だが、その時間も「それぞれのツッコミ役としての適性を調べるための時間」と考えれば、必ずしもムダではなかった、ということにできる。
そのことに真っ先に気づいたのは龍一だった。
「それなら、治紀に誰がいいか選んでもらえばいいんじゃないですか?
 さっきまでのやりとりで、だいたいの感じはつかめてるはずですし」
しかし、その意見に北斗が異議を唱える。
「いや、でも全員がさっきのに参加してたわけじゃないだろ?」
次の瞬間、全員の視線が啓斗の方に集中した。
そう、ここにいるメンバーの中で、唯一「さっきの」に参加していなかったのが、生真面目すぎて冗談の一つも思いつかない啓斗なのである。
「俺?」
そのことを覚えていたのか、それとも全員の視線が集中していることで気づいたのか、啓斗が少し驚いたような声を上げる。
「俺は、あまりそういうのは」
拒絶の言葉を口にしようとする啓斗。
だが、それを北斗が押しとどめる。
「いや、兄貴も冗談の一つくらい言えるようになった方がいいぜ」
「そういうものか?」
「そういうモンだって。とりあえず、騙されたと思って試しにやってみ?」
北斗がそう言うと、啓斗はちょっと困ったような顔をしながらも承諾した。
「そこまで言うなら、まぁやるだけやってみるか」





さて、最初のパートナーに啓斗が指名されて、困ったのは治紀だった。
残りのメンバーのツッコミの技量(?)は先ほどのやりとりでそれなりに理解したつもりだったのだが、それに参加していなかった啓斗に対してはどこまで「本気」でやっていいのかわからない。
少し考えた後で、治紀は苦笑しながら提案した。
「じゃ、とりあえず基本的なところで、やってみましょうかねぇ」
「ああ」
啓斗の承諾を経て、とりあえずネタを始めてみる治紀。
「はいはいどうも皆さんこんにちは、治紀&ゴンザレスです!」
そこまで言って、ちらっと啓斗の方を見る。
名前を間違う、というのは彼にしてみれば初歩の初歩、基本中の基本と言ってもいいボケである。
ところが、少なくともこれくらいはツッコんでくれるだろう、という彼の期待は、あっさりと裏切られることになった。
「ゴンザレス? それが俺の役名なのか?」
「いや、聞き返してどうするんですか! ツッコんで下さいよ!!」
あまりといえばあまりの反応に、思わず治紀の方が逆ツッコミを入れてしまう。
啓斗は一瞬状況が飲み込めずに唖然としていたが、すぐに自分の反応が間違っていたことに気づいて頭を下げた。
「悪い。すまないが、もう一度頼む」
「ええ、今度はちゃんとツッコんで下さいよ」
そう念を押してから、治紀はもう一度同じネタを繰り返した。
「どうも皆さんこんにちは、治紀&ゴンザレスです!」
「俺の名前はゴンザレスじゃないぞ」
言われたとおり、今度はちゃんとツッコミを入れる啓斗。
そのツッコミ方があまりにも冷静すぎて、これで盛り上がるかどうか微妙なのが少し気になったが、治紀はそんなことはおくびにも出さずにネタを進めた。
「え? あぁ、あぁ、そうでしたねぇ。 あなたのお名前なんでしたっけ?」
「啓斗だ。守崎啓斗」
啓斗がそう名乗ったのを受けて、治紀が次のボケを発動させる。
「けいと? あぁ、セーターとか手袋とか」
と、治紀がそこまで言ったとき、今度は啓斗のツッコミが暴発した。
「編み物?」
その全然ツボをとらえていないツッコミに、啓斗を除く全員が床に突っ伏した。





「ダメですねぇ、これじゃ全然ネタが進みませんよぉ」
何とか立ち上がった治紀が首を横に振ると、啓斗は少し寂しそうに呟いた。
「やっぱり、俺には無理だったか」
それを聞いて、北斗は苦笑しながら啓斗の肩を叩いた。
「ま、いきなりってのはちょっと無理があったかもな。わりぃ」
そして、「じゃ、次は俺が」と彼が続けようとした時。
「では、次は私の番ですね?」
にこやかにそう言ったのは、なんとウォレスだった。
「外人と日本人のコンビネーション、結構イケルと思うのですが」
そう提案するウォレスに、治紀も興味津々と言った感じで答える。
「そうですねぇ。意外性があって、面白いかも知れませんねぇ」
確かに、どこからどう見ても落ち着いた雰囲気の英国紳士にしか見えないウォレスが漫才などを始めれば、そのミスマッチだけである程度のポイントは稼げるかも知れない。
それに、最初こそほとんど北斗と龍一にツッコミの機会を譲っていたが、二人のツッコミを間近でみてコツを覚えたのか、先ほどの「話し合い」の後半ではウォレスも他の二人に負けないような鋭いツッコミを繰り出していたことを考えれば、ツッコミ役としての適性もなかなかと言えるだろう。
「それじゃ、早速試してみましょうか」
治紀は嬉しそうにそう言うと、さっきとは少し変わったネタを始めた。
「どうも! 治紀と三郎の、ヒロシ&コージです!」
そのボケに対して、ウォレスが基本をしっかり抑えた鋭いツッコミを返す。
「ウォレスや! 生まれも育ちもイングランドや! 誰やねんさっきの」
それを踏まえて、さらに治紀がボケ返す。
「ああ、そうでしたねぇ。
 それでは改めまして、治紀とウォレスの、ヒロシ&コージです!」
しかしウォレスはこれにも素早くツッコミを入れ、ネタの流れを切らない。
「ちゃう言うとるやろが! 治紀とウォレスで、なんで『ヒロシ&コージ』になんねん!」
さながら卓球のラリーのように、ボケとツッコミが続いていく。
「よく聞いてくれました! 実はそこには深い落とし穴があるんですよ」
「落とし穴かい! 深い事情、とかとちゃうんかい!!」
「深い事情? あぁ、よく夏場とかに天気予報でやる?」
「それは不快指数や!!!」

二人の流れるような、というよりすでに竜虎相打つようなと言った形容の方が相応しくなった漫才(?)に、北斗はどう反応していいのか自分でもわからなかった。
確かに、ネタはあまり面白くない。
面白くはないのだが、場の雰囲気から思いっきり浮いているウォレスの存在感や、話の展開のあまりのスピード感、そして二人の鬼気迫る様子に圧されてしまって、白けることすら出来ないのである。
「なんか、すごいんだか、すごくないんだか」
そう呟いてふと横を見ると、北斗と同じように反応に困って引きつり笑いを浮かべている龍一の横で、啓斗が真剣な顔で聞き入っている。
おそらく、次にこういう機会があったときに自分でも対処できるよう、「冗談の一つも言えるように」なっておこうと思っているのだろう。
(これを参考にするのはやめた方がいいって、あとで兄貴に教えておかなきゃな)
そんなことを考えて、北斗は小さくため息をついた。

そうこうしている間にも、ネタ――あるいは、すでに単なるボケツッコミの大暴走――は続けられている。
「インターネット? ああ、高速道路の出入り口!」
「それはインターチェンジや!」
ほんのちょっと聞いていなかっただけのはずなのだが、すでに何がどうしてこんな話になっているのか全くわからない。
こりゃちょっとヤバいんじゃないか、と北斗が思ったとき、水面下で進行中だったもう一つの「ヤバいこと」の方が限界に達した。
「ジーザス!」
ウォレスが一言そう叫ぶと、突然その場に膝をついたのである。

かくして、限界も常識も越えた大暴走は、先に耐えきれなくなったウォレスのオーバーヒートによって終焉を迎えたのであった。

「ウォレスさん!」
心配そうに彼の顔をのぞき込む治紀に、ウォレスは悔しそうに一言こう言った。
「やはり……龍一サンには勝てません……あのマノビした感じが私では出せません!」
「いや、間延びしてないから」
憮然とした様子の龍一の一言が、再び室内を吹き抜けた冷たい風に流され消えていった。





大暴走の終焉から十数分後。
「それじゃ、いよいよ真打ち登場、だな」
いかにも自信があると言った様子で、北斗がにやりと笑った。
「北斗さん、何か良いアイディアでもあるんですか?」
怪訝そうに尋ねる治紀に、北斗は一度大きく頷くと、少しもったいぶって言った。
「どつき漫才だよ」
「いや、どつけないから。幽霊だし」
ここ数日の「特訓」のせいか、反射的に龍一がツッコむ。
そのツッコミに、北斗は待ってましたとばかりに答えた。
「そう、普通に手や足を出したって当たらないだろ?
 だから、普通にどつく代わりに煙玉ぶつけるとかしようかと思うんだけど」
「なるほど、派手な視覚効果で盛り上げるというワケか」
啓斗が冷静に分析すると、北斗は再び大きく頷いた。
「そういうこと。これなら大ウケ間違いなし!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 舞台の上は戦場だった 〜

「治紀と北斗のどつき漫才でいこう」と言うことが決定した後、一連のドタバタで「肝心の会場と観客の方はどうするか」ということをすっかり忘れていた一同は再び激しくも不毛な議論(もしくはボケとツッコミ)を行い、最終的には啓斗の提案により「近くで行われる夏祭りの時に出させてもらう」ということになったのである。

そして、その夏祭り当日。
北斗と治紀は、舞台裏で最後のネタ合わせを終えたところだった。
「いやぁ、いよいよ本番ですねぇ」
「ああ。アンタの一世一代の大舞台だ」
感慨深げに呟く治紀を勇気づけるようにしながら、北斗はちらりと腕時計を確認した。
後五分もすれば、スタンバイしなければならないだろう。
「やっぱり、緊張しますねぇ」
いつになく神妙な顔をしている治紀。
その様子を見ていると、なんだか自分まで緊張してくる様な気がして、北斗はたまらずこう言った。
「そういうこと言うなよ。俺まで緊張してくる」
すると、治紀はにこやかに笑ってこう返事をした。
「あ、そういうときは、手のひらにヒトデという字を書いて飲み込むといいんですよね?」
「ヒトデ飲んでどうすんだよ! って、アンタ全然緊張してないだろ!!」
そう北斗がツッコんだ後、二人は顔を見合わせて笑った。





「どうも! 治紀と十郎左右衛門の、タツゴロウと奇怪な仲間たちです!」
「誰が十郎左右衛門だよ!!」
練習の時よりも一段とブチ切れたツカミのネタに対して、北斗が景気良く煙玉を放る。
その様子に、集まった観客たちが声を上げた。
そこまでは、確かに北斗の計算通りだった。
彼の唯一の誤算は、上がった声が「笑い声」ではなく、「驚きの声」だったことである。
もちろん、中には笑い声も混ざっていた。
混ざってはいたのだが、その笑い声の主をよく見てみると、様子を見に来ていたウォレスだったりするのだからたまらない。
「はい、そういうわけで、今日はこの奇怪な仲間たちと一緒にお話をしていくわけですけども」
ネタを進めていく治紀の顔も、心なしか引きつって見える。
とはいえ、今から方針を転換することなど出来るはずもない。
そう考えて、北斗はこの際開き直ってとことん派手に行こうと決心した。
「仲間『たち』って何だよ! 『たち』って! 俺しかいねぇじゃねぇかよ!!」
北斗の激しいツッコミに、会場から再び驚きの声が上がった。

そして、いよいよネタも佳境にさしかかった頃。
「以上で、お会計のほう三十二万六千三百二十五円七十二銭ちょうどになります」
「どこがちょうどなんだよ! それに、そもそも七十二銭って何だよ!!」
今日何度めかの渾身のツッコミを入れた後、北斗は何かがぱらぱらと降ってきたのに気がついた。
(雨、じゃないよな。何だ?)
ふと足下に視線を落とすと、何やら木屑のようなものが落ちている。
(えーと、まさか……)
心配になって客席に目をやると、ずっと大笑いしているウォレスを除いた観客は先ほどよりだいぶ後ろに下がっており、その片隅では啓斗が北斗の方に向けて一生懸命身振り手振りでなにかを伝えようとしている。
(上?)
北斗が上を見上げたのと、柱が倒れて天井が落っこちてきたのはほぼ同時だった。

目の前で舞台が崩壊したのを見て、啓斗は思わず頭を抱えた。
(北斗のやつ、舞台の強度を計算してなかったな)
もちろん、この程度で生き埋めになる北斗ではないし、もともとすでに霊体となっている治紀にもその心配はない。
しかし、こんな結果では恐らく治紀を満足させることはできないだろう。
啓斗がそう考えていると、いつの間にか隣に来ていた北斗が啓斗の腕を引っ張った。
「なんかヤバイことになっちまったし、ここは一旦逃げようぜ」
啓斗は小さくため息をつくと、自分に言い聞かせるように呟いた。
「是非もなし、だな」

一方、他の客が避難を始めた後もずっと大笑いしていて事態に気づくのが遅れていたウォレスは、舞台が崩壊したときに上がった土煙を思いっきり吸い込んでむせていた。
「あの、大丈夫ですか!?」
土煙が少し収まったのを見て駆け寄ってきた人たちが、心配そうに逃げ遅れたウォレスのほうを見る。
「ええ、私はなんとか大丈夫ですが」
ウォレスがそう言って苦笑すると、その人々の目は舞台の方に向けられた。
「あの二人、まさか埋まってたりしないよなぁ」
誰かの呟いたその言葉で、一同にざわめきが広がる。
「まさか」
「いや、でも、あのタイミングじゃあ」

と、その時。
崩れた舞台の残骸の上に、誰かがひょこんと上がってきた。
治紀であった。
前の方にいた人々がそれに気づいて彼の方を見つめ、すぐに後ろの方の人々もそれにならった。
治紀は全員の視線が自分に集中したことを確認すると、皆に聞こえるように大声で言った。
「いやぁ、ここまで見事にオチたのは初めてですよ」
次の瞬間、辺りは爆笑。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 笑いの道は遠く険しく 〜

それから3日後。
龍一が、再び草間興信所を訪ねてきていた。

「あれから、全然出てこなくなったんですよ」
そう言って、龍一は窓の外を見つめた。
「出てきたら出てきたで鬱陶しくてしょうがなかったんですが、いざ実際に出てこなくなってみると、なんだか物足りない気もするんですよね」
「あぁ、そういうモンかもなぁ」
北斗が相づちを打つと、龍一ははっとしたように彼の方に向き直って、すまなさそうに言った。
「あ、勝手なことを言ってしまってすみません。わざわざ頼んで成仏させてもらったのに」
そして、小さくため息をつく。
「それにしても、あれでちゃんと成仏できたんでしょうか」
そこまで言って、再び窓の外を見て――そこで硬直する。
何事かと思って全員が窓の外を見てみると、窓の外には嬉しそうな顔をした治紀がいた。





「で、なんでまだいるんだよっ!」
先ほどまでのシリアスな雰囲気はどこへやら、以前と同じノリでツッコミを入れる龍一。
治紀はそんな龍一の顔を見て寂しそうに笑うと、小さな声でこう答えた。
「黙って行こうかと思ってたんですけど、やっぱり最後に一言挨拶していこうかと思って、途中から引き返してきたんです」
それを聞いて、再び全員が真剣な顔になる。
「では、やはり?」
ウォレスがそう尋ねると、治紀は返事の代わりにこくりと小さく頷いた。
「そうか。でも、これは喜ぶべきことなんだよな」
無理に笑顔を作りながら、龍一は治紀の肩を叩くようにした。
もちろん、実態がないので実際に叩くことは出来ないことくらいはわかっているはずだ。
だが、それはわかっていても、やはりそうせずにはいられなかったのだろう。
「いつになるかわからないけど、俺がそっち行ったらまた会おうぜ」
そう言って微笑む龍一に――治紀は、怪訝そうな顔をしてこう言った。
「え? 龍一さん、大阪に転勤の予定でもあるんですか?」
その返事に、治紀を除いた全員の目が点になった。
「お、大阪?」
「ええ。本場・大阪へ行って、修行しなおしてみようと思うんですよ。
 向こうなら、多分僕と同じような境遇の幽霊もいるでしょうし」
にこやかにそう語る治紀に、四人のツッコミが炸裂した。
『そういうことなら、もっとはっきり言わんかいっ!!』

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0526/ウォレス・グランブラッド/男性/150/自称・英会話学校講師
0554/守崎・啓斗/男性/17/高校生
0568/守崎・北斗/男性/17/高校生

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■         ライター通信          ■
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皆様どうもはじめまして、撓場秀武と申します。
今回は私の依頼に参加下さいまして誠にありがとうございました。
さて、今回も例によって例の如く(?)、タイムリミットぎりぎりの納品となってしまいました。
さすがは自称「〆切際の魔術師」……などと妙なことで感心していても仕方ありませんので、次こそはもう少し素早く仕上げられるように努力いたします。

・このノベルの構成について
このノベルは全部で4つのパートに分かれています。
今回は別々に行動するような場面がほとんどなかったこともあって、全員に同じものが行っておりますのでご了承下さいませ。

・個別通信(ウォレス・グランブラッド様)
まずは見事なプレイングどうもありがとうございました。
中盤の大暴走を筆頭に、最初以外は全体的にギャグメーカー的な役割をつとめていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
もし何かありましたら、遠慮なくツッコミいただけると幸いです。