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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


fail-safe

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身長は190近く、髪も瞳も色素が薄く赤茶けてた一見する所、ヤン
キー風貌の青年が一人、公園のベンチで悩んでいた。
鋭い目つきで足元を見つめ只ならぬオーラを発している彼の半径10M
以内に近づく人間はいなかった。誰もかれも遠巻きにして、もちろん
視線もあわせないようにして避けて通っていた。

彼の名前は羽本(うもと)という。

その性格は見た目とは大違いで、真面目で素直で純粋。
今どきでは極めて珍しいタイプの『人間味』有る男である。
しかも、彼はこれまた見かけと違い和楽器全般を教える教室の師範で
もあった。
その彼が現在頭を抱えて悩んでいる事。
それは今から学校へと忘れ物を取りにいかなければ為らない、と言う
事だった。
最近小学校などでは和楽器を取り入れた授業を行ってる。彼も週一回
ではあるが、講師として学校へと足を運んでいる。
関係者なのだから、学校へ忘れ物を取りに行く事に何の問題も無い筈
である。
「アレ無いと明日困るんだよなぁ・・・」
溜息と共に時計を見ると6時30分をちょうど回った頃だった。
このまま素直に学校へ戻れば、7時くらいになるだろう。
「嫌だなぁ・・・」
彼を躊躇させている原因は、今日児童から聞いたお決まりの『学校の
怪談』話だった。音楽室、美術室、裏庭の焼却炉、3階の女子トイレ
等など聞きたくも無いのに聞かされて・・・ようするに、彼は『おば
け』がキライなのである。

「・・・誰か一緒に行ってくれないかな・・・」



**

「誰か一緒に・・・って誰が一緒に行ってくれるつーんだよ。」
呟いた内容に思わず自分でツッコミを入れて脱力する。
このまま悩み続けているだけでは益々時間が経ってしまい時間の無駄
である。一人で学校へ行く事を心に決め羽本は、ベンチから立ちあが
ると気合を入れた。
何気なく視線をあげると目の前には見知らぬ人物が立っていた。
着崩した着物姿の黒髪の女性が一人、こちらを見ていた。
「……」
「あんた、さっきからナニ悩んでんだい?」
何だか寒気がするのは気のせいだろうか…
「あたしでよかったら相談のってあげようか?」
羽本の背中に冷たい汗が流れた…もしかすると目の前のこの女性はも
しかして?ひょっとして!とグルグル思考が定まらない。
「あたし桔梗って名前のただの幽霊だけど相談くらい…って、あら?」
羽本は彼女の言葉を最後まで聞く事無くその場に倒れてしまった。
「あらあら!世話の焼ける兄さんだねぇ」
桔梗はやれやれといった顔をして気絶している羽本の顔を覗き込んだ。
「ほら!しっかりおしよ!」
「…うぅ〜ん……」
程なくして気がついた羽本だったが、目の前の桔梗を見るなり勢い良
く後ろに後ず去った。その姿を見て一瞬驚いた顔をした桔梗だったが
直ぐに表情を戻しクスクスと笑い出した。
「あんた、もしかして幽霊が恐いのかい?」
「…ほ、ほ、本物…?!」
「まさか、あたしみたいな別嬪を恐いとか言うんじゃないだろうね?」
「…い、いや言いません。」
桔梗の迫力に押されて羽本は今悩んでいた事を話した。桔梗はそれを
聞き終えると、ニッコリと色っぽい笑顔で羽本に笑いかけこう言った。
「じゃぁあたしがついてってやるよ。言うだろ?毒には毒を、幽霊に
は幽霊をってね?」
「えっ?!」
「あら、まさか断りなんざしないよねぇ?」
「……お願いします」
結局、桔梗の迫力、そして幽霊が恐くて反論できない事もあり羽本は
一抹の不安を感じながらも一緒に行ってもらうことにした。


**

学校へ到着した彼らは取りあえず用務員室を目指した。
もちろん、鍵を借りて目的の場所へ忘れ物を取りに行く為に。
用務員のおじさんから親切にも懐中電灯まで渡されて、いよいよ薄暗
い校内へと二人は足を踏み入れた。
「で?あんたの忘れ物はどこだい?」
「え、えっと…第二校舎4階の音楽室です」
「ふ〜ん。あんた音楽の先生なのかい?」
「い、一応和楽器専門っすけど…ね」
ビクビクしながら後を付いて歩く羽本に桔梗はプッと吹きだした。
「あんた一体幾つだい?男ならピシッとしなきゃモテないよ?」
羽本はこれ以上奥へと進む事が嫌になっていた。
何故ならば・・・
《美術室》
《理科室》
《音楽室》
という怪談物お約束の場所テンコ盛り♪が待ち構えているのだ。
おまけに同行者は本物の幽霊。
「もうヤダ…オレ、行きたくない…」
そして涙目の羽本を無視して、彼の腕を引張りながら同行者は前へと
進んで行く。
涙目の羽本は深い溜息を吐き桔梗の後をついてく。
「やっぱ、オバケは恐ぇよ・・・」


**

大騒ぎをしながらも、既に目の前に幽霊がいると言う事もあるのか、
それともタダ単にこの状況になれてしまっただけなのか…。
極端な話、泣く事も無く(笑)意外と早く目的の場所である音楽室へ
到着した。
音楽室へ着くなり羽本は今までの緊張で硬くなった体の力を抜いて床
へとへたり込んでしまった。
「つ、疲れた…」
「なーにいってんだい!ほら、さっさと忘れ物捜さないと置いてちま
うよ!」
桔梗にそう言われ、羽本は慌てて忘れモノを捜しに取り掛かった。
その間、桔梗は手持ち無沙汰に音楽室の中をウロウロと見て回った。
おそらく西洋の作曲家なのだろうか…やたら外人の肖像画が置いてあ
る。それらを暫らくは興味深く見つめていた桔梗だったが、わかるは
ずもなく直ぐに興味を失ってボンヤリと窓の外を見つめた。
「学校の幽霊…出てこないねぇ…」
羽本にとっては有難かったのだが、実は『お仲間』が現れ無い事に対
して桔梗は少しガッカリしていた。
「な〜んかツマンナイねぇ…もしかしてあたしがいるから遠慮して出
てこなったのかねぇ?」
と、考えているのが伝わったのか、それとも偶然なのか、廊下の方に
何やら『お仲間』の気配を感じ取って桔梗は廊下の方を見やった。
「あ、あったぁ!」
桔梗がそれを確認しようとした瞬間、タイミングよく目的の忘れ物を
発見した羽本の安堵の声が聞こえてきた。
「はぁ…これで明日大丈夫だぁ…」
「ねぇ?何忘れたんだい?」
桔梗はその背後からすぅっと現れて羽本の手元を覗き込んだ。
それに対して羽本は驚き一瞬固まったが直ぐに気を取り直して桔梗に
向き直って答えた。
「あ、三味線のバチです。」
「ふぅ〜ん。」
廊下の方でガタンと物音がして羽本は反射的に振り向いた。
「…い、今音がしませんでしたか?」
「あら、やっぱり。」
「や、や、やっぱり?」
「そう。」
暫しの沈黙。
それを破ったのは羽本だった。
「……忘れ物も見つかったし、か、帰りましょう!」
「あら…もう帰っちゃうの?」
「用務員のオジサンに鍵を返さなきゃいけないし…」
「見かけによらず律儀な男だねぇ…まぁ、あたしはキライじゃないけ
どねぇあんたのそーゆートコロ。」
「は、はっはっは…あ、アリガトウございます…」
羽本は背中をすぅーっと走った寒気に顔を引きつらせた。気のせいか
トリハダまで立ってきている。周囲の温度もなんだかイキナリ下がっ
た様な気もする。
「あぁ、邪魔してるよ。」
突然桔梗が声をかけた。何も無い空間に。
「…き、桔梗さ…ん?」
「ごめんねぇ…こっちの兄さんが忘れ物しちまったらしいんだよ。こ
の人ね、見かけの割には小心者みたいだからあんまり脅かさないでお
くれよ?」
大きな窓から入る月の光に照らされてボンヤリと白っぽい影が無数浮
かび上がって見えた。
それが何であるのか…羽本は十分に解かっている。
解かっているからこそ、こうなってしまうのだ。
「ッッッッッッッッ!!!!」
次の瞬間、羽本の絶叫が校舎内に響き渡った。

その絶叫は用務員室のオジサンにも聞こえたらしい。



**

鍵を返す時用務員のオジサンに大笑いをされ要らぬ恥をかいたものの
なんとか忘れ物も見つけられ、現在は無事に帰途へと着いていた。
羽本は疲れまくっていた。
どのくらいかというと、フルマラソンを走った後くらいに疲れていた。
出会った公園まで辿り着くと、最初に座っていたベンチに羽本はどっ
かりと腰をおろした。
「あの…どーも有り難うございました…」
その横に座りながら桔梗は可笑しそうに笑った。
「兄さん、大丈夫かい?」
「はぁ…」
「幽霊もそんなに恐いものじゃないだろう?」
「……そ、そうですね…」
引きつりながら律儀に受け答えする羽本を見て桔梗は堪えきれずケラ
ケラと笑い出した。
「いいんだよ。無理しなくったって!」
「…そんな事ないですよ。」
ムキになって否定する羽本を宥めながら桔梗はすぅーっと身体を浮か
した。
「はいはい。じゃぁあたしは帰るね」
「あの、ホントに有り難う。」
「もう忘れ物するんじゃないよ!」
そう言って桔梗は笑顔を見せ背を向けた瞬間、背後で小さく「あっ」
と言う声が聞こえてきた。
それを不審に思って振り返ると、ハン泣き状態の羽本の姿を見とめた。
「どうしたんだい?」
「…を…た…」
「え?」
「忘れた…さっきビックリして落としたみたい…」
最後は聞こえないくらい小さな声で羽本は呟いた。
それを聞いて桔梗は大笑いをした。

「仕方ないねぇ。また一緒に行ってあげるよ♪」

可笑しそうに笑う桔梗を尻目に、羽本はその場に力尽きた。

忘れ物は二度としないと心に誓う羽本だった。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 0616 / 棗・桔梗 / 女 / 394 /典型的な幽霊


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■         ライター通信          ■
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こんにちわ。おかべたかゆき です。
ご参加いただきありがとうございました。
今回は各PCで話をチョコチョコと換えて書きました。
怪談で雑談で変化球を狙ったんですが…外している様な気が
します。(^^;ゞ
こちらのお話は協力者が幽霊さんだったので、終始羽本くん
はビクビクしっぱなし状態でした。あと、色っぽい系おねえ
さん幽霊のイメージ崩していないか気になりますぅ(汗)