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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:館〜第一室〜
------<オープニング>--------------------------------------
 この地にそびえ立つ年季の入った館。
 その玄関先に、女は立っていた。
 年の頃、二十歳過ぎだろうか。
 生気を失ったその顔には、満面の笑い顔が浮かんでいる。
「ふふふ……」
 女は風に髪を振り乱しながら、中へと入っていく。
「まずは一室目……降霊術ね」
 そして女は館の中へと消えていった……。

「え? 館の調査?」
 武彦は、望月権蔵から聞かされ、すこし驚いた様子だった。
「そうなんです。これがその館からの招待状なんですが、少々おかしな文面で」
 望月から招待状を広げると、その文体は明らかにおかしかった。
『前略』という文字から後は、達筆過ぎて殆ど読めない。
「んん〜!? 一体何なんだ、こりゃ。最後の住所と「お待ちしてます」しか分からないじゃねーか!」
 この『前略』という文字と最後の読める文字の間には、一体何がかいてあるのだろうか。
 武彦も望月も考え込んだが、何かの意味が含まれているのは、おおよそ間違いないだろう。
「よし、分かった。調査を受けよう」
「大丈夫ですか? 一人で行くには非常に危険だと思われますが。それにその住所にある館は、今は誰も住んでいない廃墟のハズなんですよ……」
「何? そうか……。うーむ、せめて助手が欲しいものだぜ」
 望月を助手にしようとも思ったが、こんな臆病者、助手にもならない。
 するとそんなとき、呼び鈴が鳴ったのだった。

◎すべての始まり
「よっと、お客だ。力強い相手だといいけどな」
 草間は腕をグルリと何度か回しながら、玄関の扉を開ける。
 すると相手方も開けようとしてたようで、草間はいきなりつんのめった。
「おお、ビックリしたぜ、何だエマか」
「何だ、はないでしょうが! 折角手伝いに来てあげてるのに、その言い方気にくわないわね」
と、草間はシュライン・エマに鼻をつままれてひっぱられた。
 ここはエマのアルバイト先でもある。それでいて翻訳家であり、幽霊作家という肩書きも持っている、ちょっと変わった人物でもあった。
「なぁに? また依頼でも来てるの?」
「いや、依頼というか、招待状だ。しかもワケの分からないものだな……」
 エマが招待状を見ると、草間の言うように、本当にワケが分からない。特に草書体のような、崩れた字については、まったく分からないと言っても良かった。
「でもこれ、漢字なんでしょ?」
「それも分からない。だから悩んでるんだよ」
「この住所、ここからそうかからない場所よ。行ってみる?」
「そうだなぁ」
 そうした間に、次なるお客の呼び鈴が鳴った。
「おっと、お客だ。エマ、準備して待っててくれ」
「OK」
 玄関に出てみると、シャーロックホームズばりの衣装を着せたアムタを頭に乗せている美少女、神崎美桜(かんざき・みお)と、サラサラの髪の美青年である都築亮一(つづき・りょういち)が並んで立っていた。
「おお、君たちか! こんにちは!」
 都築と美桜は元気いっぱいに挨拶する。
「こんにちは、草間さん。お元気ですか?」
「こんにちは! 草間さん! 今日は興信所のお手伝いに来たんですけど、宜しいですか?」
「ああ、もちろんだ。さあ、入ってくれ。まあ、いつもながら先客がいるがね」
 エマと鉢合わせになる、都築と美桜。この両者は初対面だった。
「へえ、こんな美男子と美少女っているんだぁ。こんにちは。私はシュライン・エマ。あんた達は?」
 代表して都築が照れくさそうに応える。
「俺が都築亮一です。そしてこの娘は、俺の妹分の神崎美桜です。どうぞ宜しく」
「礼儀正しいね。うん、人間礼儀が大事だよ。それで、今日はどうしたの?」
「はい! 草間さんのお手伝いに来ました」
 エマは驚いた顔をして、草間を見つつ、自分では足りないのか! という視線を浴びせた。
「あのう、エマさんはここでは何をなさってるんですか?」
 都築が何気なく聞く。
「バイトよ、ここの。まあ、たまになんだけどね。翻訳家や幽霊作家だけじゃ、メシの食い上げなのよ。だから、すこ〜しでも歩合の良いここに来ているってワケ」
 そこに口出ししたのは、誰でもない、草間だ。
「そう歩合も良くないぜ。なあ、望月」
「ええ?! な、なんで私に振るんですかぁ?」
「お前がこんなワケの分からない招待状持ってこなけりゃなあ、まったく……」
 都築と美桜は、その招待状を望月から見せて貰った。
 だが『前略』と「お待ちしてます」と、住所しか分からず、その間に書かれている達筆過ぎる文については、専門家でもある都築でも苦労するところだ。
「これは……、普通の漢字でもなく、梵字でもありませんね。俺の予想ですが、英文が混じっている可能性も否めません」
「英文だって?! うむむ、余計分からなくなってきたな」
 いずれにしても、その場所には行ってみる必要がありそうだ。こんな謎を秘めたままでは、寝るに寝られないというところだ。
 行く人数は四人。エマ、都築、美桜、そして草間。望月は帰るらしいが、何かあれば連絡するということで辞退だ。
「よし、みんな準備はいいか?」
 草間は結界鞭を握りしめながら、エマはボイスコントロールの準備、都築はコートに忍ばせてあるあらゆる御札の整理、そして美桜はアムタの無表情な様子を見てコロコロと笑った。
「あ、それよかさ、その場所って何があるの?」
 エマが聞いてくる。
「館だ。今では誰も入っていないらしいが、今回に至ってはそうでもないらしい」
 不思議な顔をする三人。どうやら、館というのが気がかりなようだ。
 エマが心配そうな顔をする。
「ねえ、少し調べてからの方がいいんじゃない? 例えば、前に住んでた人とかさあ」
 するとそこに望月が立ち入り、草間達に告げた。
「そのことに関しては、こちらでも把握出来ませんでしたよ。なんでもその館自体は、二十年前に打ち捨てられたということだけです」
「へえ、望月にしてはよく調べたものだな」
「まあ、これも仕事ですからね。それでは私はお暇します。皆さん、十二分に気を付けて下さい」
「お前に言われなくても分かっているさ。じゃあな」
 望月は草間ほか三人にも礼を言って、去っていった。
 後は自分たちが、館に乗り込むのみ。
「みんな、準備はいいか?」
 草間は三人に再び号令を掛ける。OKがでたところで、四人は意味不明の招待状を持ちながら、館への道程を目指すこととなった。

◎黒の部屋
 四人は興信所から歩いて十五分ほどの位置にある、古めかしい館の前に立っていた。
 風が吹き荒ぶ。だが、この風はあまりにも生ぬるく、気色の悪いモノだった。
 草間が乗り出して、ノッカーを叩く。すると中からは、老人が出てきた。
「ああ、すみません。この館から招待状をもらったのですが……」
「はい、承っております。では、どうぞお入り下さい」
 草間の後に続いて、三人が続く。老人はどうやら執事役らしいが、かなりみすぼらしい。
「こちらでございます。このお部屋で、一晩お泊まり下さいませ」
 美桜が心配そうに、アムタを抱きながら言う。
「ええ?! 一晩も? あのぅ、お食事は出るんでしょうか……」
「もちろんでございます。四名様ですね。主様に申し伝えておきます。それと招待状はこちらで回収いたします」
「ああ、そうなのか。まあ、仕方がないな。その謎を解きたかったんだが」
 この招待状の謎をとられるのは、どうも解せず、合点がいかなかった。普通なら持っていても構わないだろうに、何に使うと言うのだろう。
 これも謎になった。どうもこの館に入ってから、謎が多くなってくる気がする。
 案内された部屋は、壁が黒ペンキでどこもかしこも真っ黒けの、黒い部屋だった。
 ベッドは折りたたみ式のもので場所を取らず、その代わり部屋の真ん中には、燭台をおいたテーブルがしつらえてある。
「やたらと黒い部屋ですね」
 都築があちこちをみながら言う。全部の部屋がこうなっているのだろうか。見てみたいが、執事に扉を閉められてしまった以上、出入りは出来ないようだ。
 しかも、途中で見たのだが、他の部屋は開かずの扉によって閉じられているようである。
 つまり解放されているのは、この部屋以外にはないということだ。
「ふう、やっとついたと思ったら、もてなしってこれだけ?」
 テーブルの上を見て、エマが悪態をつく。
 その時、声が聞こえてきた。誰とも分からないが、この部屋にはスピーカーというものはない。
 霊波で飛ばしてきているようだ。四人は霊感に強弱の差はあるが、この声だけは、誰の耳にもはっきりと聞こえる。
『ようこそ、我が館へ。そして楽しいゲームに参加してくれて、心から感謝致しますよ』
「ゲームだと?! 俺達はそんなことをしに、ここへ来たわけじゃない!」
 草間はいきり立って反論するが、相手に通じているかも分からない。
『まあ、そう焦らず。あなた方が知りたいのは、この招待状にかかれている謎ではないですか?』
「そうです。その文字は漢字や梵字でもない。英文が混じっているハズです」
 都築が言う。その問いに、主の声は少しばかり明るくなる。
『ほう、なかなか察しがよろしいですねぇ。ですが残念ながらハズレです。ということで、あなた達に、面白い趣向を楽しんで貰いましょう。ちょっとした罰ゲームみたいなものですがね……』
「何? 何が起こるの? 亮一兄さん、怖い!」
「大丈夫だ。大したことじゃないかも知れない」
 だが、テーブルの上は、すでに自動的に魔法円が描かれ、六芒星が現れてゆらりと揺らめいた。
 その途端。
『イー・アー・オー!』
 主の呪文らしき声が聞こえたと同時に、テーブルの中から、何かが吹き出してくる。
 煙だ。しかし普通の煙ではなく、異世界からの召喚を行った場合にでてくる独特の煙だ。
 要するに、主は異世界から何物かを召喚したという証だ。
「グルルル……!」
 喉を鳴らす音が聞こえる。
 犬か? それでもこの音は、普通の犬とは一線を画している。
 やがて正体が露わになる。その犬は、完全にこの世のものとは違っていた。
「我が名はガルム。ニブルヘイムの番犬なり……」
 その時、エマ、都築、草間を見ているガルムを余所に、美桜は反対の方に来ていた。
「美桜! まずは逃げろ! ここは俺達だけでなんとかする!」
「だ、だけど……」
 美桜は、足がすくんでその場にくずおれてしまった。もう、恐怖で何も出来ないと行った状態だ。
「用件を言え。ワシを召喚したのにはワケがあるのだろう」
「すまんが、ないぜ。阿弥陀如来様でも読んで貰った方がよほどマシさ!」
「このワシを用もなしに呼んだというか! その罪、万死に値する!」
 そして戦闘が始まった。
 最初に打って出たのは都築。あらゆる御札を重ね合わせ、オーンと真言を唱える。
 その間に、草間は都築から分けて貰った結護壁という御札をエマにも渡し、ガルムの攻撃をことごとく弾き返す。
 だが、弱点は見えてしまった。美桜である。ガルムが弾かれた場所が、運悪く美桜の膝元だったのである。
 これは非常にマズイ。もう美桜もこれまでか、と思ったときだ。
「ガルルル! グッ、ウグ」
 その前に立ちはだかったのは、アムタだった。阿弥陀如来の眷属であり、守護神であるアムタ。
「なんと! この人間は神の眷属を持っていたというのか、ウウグググ」
 草間は都築と一緒に飛び出した。そしてエマは怯むガルムに御札を貼り、草間は結界鞭で送還の五芒星を作り、都築は美桜を守った。
 やがてガルムは、結界鞭の中へどんどん沈んでいく。
 苦しみながらも、四人は何とか危機を脱したのだった。
「ふう、どうなることかと思ったぜ」
「やりましたね、草間さん!」
「ふふ、礼は美桜ちゃんに言った方がいいじゃない?」
「ふえ? 私はなにもやってませんよ。アムタが助けてくれただけです」
 いずれにせよ、刹那的な危機をくぐり抜けたのは間違いない。
「あ、これで帰られるかも知れませんよ。ドア、開けてみましょうか」
 美桜の催促に買って出たのは都築だった。
「そうだな。じゃあ、俺が」
と、ドアを開けてみる。
 しかしそこには、巨大な目があった。恐らく猫の目だろうが、こちらを見て睨み付けている。
 恐ろしく凄まじい光景に、四人はたまらず声をあげてドアを閉めた。
「やっぱり、一晩過ごさないと出られないってことか……」
 草間は、半ばガッカリしたような声を出す。
「仕方がないですね。でも食事も出ると言ってますし、ご馳走になってゆっくり休みましょう」
 都築が窘める。
「ゆっくりも休めるかねぇ」
「大丈夫よ。私たちみんな図太いから」
 エマが言う。まさにその通りだから怖い。
 夕刻過ぎ、四人は執事から出された美味しい食事に舌鼓を打ち、しばらくして眠くなったのでベッドを引き出して、男と女二人ずつに別れて休むことにしたのだった。

 翌朝。朝はすぐに来た。
『帰るのですか?』
 主の声が聞こえた。
「ああ。しばらくはきたくないねぇ、こんな館」
『謎、説きたくはありませんか?』
「ぐ……。か、考えておくぜ」
『時期に招待状も届くと思いますので。それでは皆さん、今日はこれにて』
「ああ! 散々楽しませてくれて、ありがとうよ!」
 四人は朝一番で、館を出た。
 しかし、主の言うように謎は明かされぬまま。
 そして、日の光が彼らを照らすのだった。

                 FIN
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086 シュライン・エマ(しゅらいん・えま) 女 26歳 
              翻訳家&幽霊作家&時々草間興信所でバイト
0413 神崎・美桜(かんざき・みお) 女 17歳 高校生
0622 都築・亮一(つづき・りょういち) 男 24歳 退魔師
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■         ライター通信          ■
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○都築さん、神崎さん。四度目の御登場ありがとうございます。
○シュライン・エマさん、三度目の御登場ありがとうございます。
○定員を三人にして、小説のクオリティが落ちないかとヒヤリと
しましたが、なんとか上手く書けたようです。いかがでしょうか。
○このシリーズは、もう少し続きます。謎が残っておりますので。
○「謎って何? 教えて〜」という声が聞こえてきそうですが、
それは物語を順に追って行けばたどりつけます。必ずです。
○できれば、謎を解き明かすまでお付き合い願いたいと存じます。
○それでは、近いうちにまたあいましょう。
                 夢 羅 武 市 より