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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


【蟲毒の呪】
◆悪意
「私はね、人が死ぬのを見ているのが大好きなの。自分が殺すのはもっと好きだけど、他の誰かが殺すのを見ているのも好きよ。」

ふと立ち寄ったチャットで物騒な発言を見つけた。

「こうやってネットの広い世界を漂っていると色んなモノが見れるの。死にたい人間の呟き、殺してしまった者の呟き、これから殺そうとしている者の呟き・・・」

雫は慌ててログインし、物騒な発言の主に声をかけることにした。
発言主のHNはAlice。よくある名前だが何故かこの物騒な発言の主によく似あっていると思った。

「そんな発言をどこで見たの?」

雫は挨拶もそこそこにアリスという名の人物に声をかけた。

「興味があるの?」

アリスという人物がモニターの向うでにやっと笑っているような気がする。

「そう言うことにすごく興味があるの。教えてくれない?そのサイト。」
「いいわよ。アドレスを教えてあげる。」

そう言うといきなり雫のモニターにメーラーが立ち上がって、何の操作もしていないのに勝手に受信ウインドウが受信を知らせた。
(この人・・・ハッカーなのかしら?)
だとしたら、匿名プロキシ経由の雫の身元を一瞬でサーチした腕前は恐ろしいほどのものだ。
雫は恐る恐るメールを開く。ウイルス感染の危険を考えたが、そんなものを植え付けるつもりだったらもう手遅れだろう。
メールに添付されたヘッダは白紙・・・どういう経由で送られたかはわからない。
メールの内容はあるサイトのアドレスが記入された一行だけ。

「そこで蟲毒の呪詛を頑張ってる女の子がいるのよ。自分を裏切った親友を殺したいんですって。面白いわよ。」
「そんなの駄目よ!」

雫はおもわず書き込んだ。
どんな理由があっても呪詛なんて許せない。
そう言う力を負の方向へ使っちゃいけない。

「面白いわね。じゃぁ、邪魔してみてよ。この女の子が親友を殺さないですむように。」

アリスの笑い声が聞こえてくるようだ。
濃厚な邪悪の気配。人の死をこの上ない娯楽のように弄ぶ気配。

「わかったわ、この女の子に殺人なんて絶対にさせないっ!」
「期待してるわ。正義の味方さん。」

その一言を残し、アリスという人物はログオフしてしまった。
雫は大至急、助けを求めるために自分のBBSへと書き込みを急いだ。

◆日記
○月○日
私はSを許さない。
親友だと思ってたのに・・・
私を裏切ったS、憎いS。絶対絶対許さない。
殺してやる。
○月○日
Sを呪い殺してやる。
犯罪にならない方法でSを呪い殺してやる。
呪いなら犯罪にはならない。
○月○日
蟲毒の術というのがある。
私はそれでSを呪い殺す。
許さない。許さない。許さない。
○月○日
誰にも邪魔はさせない。
私はSを呪い殺す。
Sが憎い・・・

◆呪詛
「・・・というわけなのよ。」
雫は目の前に集まるメンバーに自分の知りうる情報を話した。
ここはゴーストネットOFF店内のテーブルの一つ。
雫のBBSに書き込まれた蟲毒の呪詛の話を聞いて興味を持ったメンバーが集まっていた。
「呪詛なんてそんなに簡単にできることでは無いのですが・・・」
話を聞いていた宮小路 皇騎が苦笑する。
「誰にでも手軽にできることじゃありません。」
間宮 甲斐が相槌を打ちながら続ける。
「まぁ・・・生かすの殺すのと簡単に口にする人は多いですね・・・」
「そして、その情報提供者が「Alice」ですか・・・」
宮小路は名前に思い当たるところがあるのが、ちょっと眉をひそめる。
「アリアリは可愛い女の子だよっ!」
「!?」
今まで黙って話を聞いていた水野 想司がいきなり割ってはいる。
「知ってるんですか?水野さん。」
「知ってるも何も、アリアリと僕は「ラブリーばーにんぐ☆」ってアイドルユニットまで結成してるのさ☆」
そう言いながらバッグの中から本を取り出す。
少女の写真が表紙になっているその同人誌らしいその写真集には水野想司監修とさりげなく書かれている。
「そしてこれがアリアリの写真集・夏限定500部プレミアつきだよっ☆」
握りこぶし大熱説付きで本を差し出された宮小路と間宮は、なんと言っていいのか苦笑する以外に無かった。
「この女性が雫さんと話をした「Alice」と同一人物なんですか?」
「ううんっ、わかんない。でも僕のアリアリは彼女だけなんだっ☆」
そう言ってウルルン目で写真集を抱きしめた想司の頭を雫は遠慮なく叩いた。
「話の腰を折らないのっ!!」
「ま、まぁ・・・雫さん・・・」
隣りに座っていた間宮がハリセン片手に肩を震わせている雫をなだめる。
「とりあえず、落ち着いて話を元に戻しましょう・・・」
「そ、そうね・・・」
「で、呪詛のことなんですけど・・・」
間宮はモニターに映った少女の日記を見ながら言った。
「宮小路さんも仰ってますが、呪詛というのはそう簡単なことではないんです。この少女もネットでそう言っているだけかもしれない・・・ネットではよく見かける過激な話ですが、彼ら全てが犯罪に手を染めているわけではないですしね。」
「それを確かめて欲しいの・・・」
雫は表情を曇らせて言う。
「嘘ならそれでいいの。でも、もし本当に呪詛なんかしてるなら止めなくちゃ!」
雫の真剣な眼差しと言葉に、話を聞いていた三人も頷く。
「では、まず確認からですね。」
宮小路がそうまとめて、一同は席を立った。

◆気配
間宮はその左右色の違う宝玉のような瞳で、じっと夜空を見上げた。
宮小路の調査の結果、あの呪詛を行おうとしている少女はそう遠くは無い所に住んでいるらしい。
それならば、もし、その呪詛が本当であれば「気」でわかるはず・・・
「どこにいるのですか・・・」
間宮は気を鋭く張り詰める。
雑多な気に押し潰されそうな東京。
この街の中から砂の一粒を探し出さなければならない・・・
夜空に向かって手を広げるように、自分の気を広げる。
浄眼である金色の右目が光を放たんばかりに輝きを増す。
「見つけました。」
黒い気配が立ち上る煙のようにはっきりとその目には見える。
暗がりの中、地中にあるなにかに話し掛けるように、地に伏せ語りかけている少女・・・
「そう遠くはありませんね・・・」
そう思ってはっきりと場所を確かめようと、更に気を研ぎ澄ました時に奇妙な気配を探り当てた。
「・・・?」
その気配は人のものであるらしかったが、あまりにも強く、そしてあまりにも人間離れしていた。
間宮がその気配を不思議に思っていると、その気配は間宮の目の前で見る間に形を取り始めた。
そして、それは50歳くらいの落ち着いた男性の姿に固まった。
「失礼。キミが私と同じモノを探しているようだったので、ちょっと立ち寄らせていただきました。」
丁寧な物腰で間宮に語りかけたのは司 幽屍。
司は姿無き魂魄となった今でも、悪しき霊を祓うために現世に姿を残している幽霊だった。
「私もあの呪詛を行っている少女に興味がありましてね。今、それを追いかけていたのです。」
「詳しい場所がわかりますか?」
間宮の問に司が頷く。
まるで生身の人間がそこにいるような存在感だが・・・その姿は朧に揺らめきがある。
「こんな姿をしているせいか、目に見えぬものには強いので・・・ここから遠くありません。ご案内しましょう。」
「お願いします。」
間宮は司の申し出を受け入れた。
間宮には彼が邪悪なものでないことは右の目に映るその姿でとっくにわかっていたのだ。

◆説得
間宮から連絡を受けた宮小路が合流し、司 幽屍の案内で呪詛を行わんとしている少女のもとへと急いだ。
「もう随分、黒いものが膨れ上がっている・・・呪詛が完成するのは近い。」
司が行く手にある黒い気配を見て言う。
近づくに宮小路や間宮にもはっきりとそれは感じられる。
「近い・・・」
更に強まる気配に間宮が言う。
「あの辺りのようですね。」
前方に大きな黒い盛り上がりが見える。
大きな樹が立ち並ぶ手前に朱色の鳥居が見えた。どうやら神社のようだ。

境内の中へ足を踏み込むと、湿った樹の匂いがぷんと鼻をつく。
それと同じくらいの濃さで何か黒いものが体に纏わりついてくる。
「もう完成直前といったところですか・・・」
司がそう呟く。
そして正面の社に目を向けたとき、一人の少女の姿が見えた。
「彼女ですね。」
間宮は悪寒に疼く瞳を細めて言った。
「貴方たちは誰っ!?」
3人の姿を見つけた少女がヒステリックに声をあげた。
「私の邪魔をしに来たのね・・・」
「そうじゃないっ・・・」
間宮は少女を落ち着かせるように・・・慎重に穏やかに話し掛けた。
「私たちは敵ではありません・・・」
しかし、少女の瞳はすでに正気を失っている。
「嘘だわっ!わかってるのよっ!」
彼女の足元から黒い煙が立ち昇るように邪気が舞い上がる。
自分の仕掛けた呪詛にとり憑かれた少女は、声を荒げて叫んだ。
「邪魔をしないでっ!」
ぶわぁっと怒気と一緒に巻き上がった黒いものが、一斉に3人に襲い掛かる。
「冴月!」
間宮がそう叫ぶとその手には金色の輝きを放つ刀が現れた。
そして、その刀を真正面に構えると襲いくる邪気を切り裂いた。
「行け!式よ!」
間宮が切り裂いた邪気の隙をついて、宮小路が放った符が少女の動きを捉えんと飛ぶ。
「無駄よっ!」
少女は飛んできた符を手で横薙ぎに払うと、自分の足元に手をついた。
「蟲よ!我が命に従え!」
少女の叫ぶような命令に、地面の中から更にどす黒い邪気が湧き上がる。
「我が中に宿れ!」
そして少女の言葉と同時に黒い邪気は一斉に少女の体の中に吸い込まれた。
「なんてことをっ・・・」
「Sも・・・貴方たちも・・・みんな・・・みんな許さないっ!」
「呪詛が完成するっ!」
司の叫びとほぼ同時に少女の中の邪気が爆発するように放たれた。
「みんな死んじゃえばいいのよっ!!」

◆呪詛返し
「仕方ないっ!」
鋭さを増した殺意とともに襲い来る邪気の正面に司が立ちふさがる。
「呪詛を返すっ!」
司はきりっと姿勢を正し、襲い来る邪気を睨み据え、大きく拍手を打った。
「破邪!」
拍手の音はパァンッと澄んだ音色であたりに響き渡った。
その音に邪気が散々に切り裂かれる。
そして、邪気とともに少女にもその刃は襲い掛かった。
「きゃぁぁぁぁっ!!!」
打ち破られた呪詛は、少女が放ったものより更に鋭さを増してその体を貫いた。
崩れ落ちる少女の体からは夜目に黒い血がだくだくと溢れる。
見る間にそれは地面に染みを作り、少女はその上に伏せるように倒れた。
「人でなしは、人間ではない私で十分です・・・」
司が苦い顔で伏せて動かない少女を見つめる。
「すみません。辛い役をさせてしまいました・・・」
宮小路が司に詫びを告げる。
間宮も同じ思いで司の顔を見た。
司は苦笑いでそれに応えた。

◆蟲毒
伏せたまま命果てた少女に触れようとすると、その体はまるで灰が風に散るように解けて消えてしまった。
そして、その血に濡れた地面にはぽっかりと大きな穴があいていた。
「蟲に食われたんですね・・・」
宮小路がそう言って穴の中を覗くと、そこには小さな動物の骨が詰まった壺が埋められ口を開いていた。
残された毛皮と骨の大きさからそれはペットショップでよく売られている小さなハムスターであることがわかった。
何匹いたのかもわからないほど、無数の白い骨が入った壺を掘りだす。
「無垢な命を無用に奪うとは・・・」
それを見ていると呪詛に対する憎しみが沸き起こる。
無数の罪無き命を奪うだけの術。
何も生み出さず、ただ奪い破壊しするだけの術。
それが呪詛。

3人は壺から一つ一つその小さな骨を取り出すと、鎮魂の言葉とともに森の地面へと還してやった。

◆種
「今回は負けましたが・・・次回は容赦はしません。」
宮小路はモニターに映る少女に静かに言った。
しかし、その声は明らかな怒りを含んで重く響く。
『勘違いしないで。私は勝負なんかしていないわよ。』
くっくっと喉の奥でアリスは笑いながら言う。
『私がしたのは助言だけ。呪い殺したいという彼女の意思を尊重してあげただけよ。』
「それはあなたが背中を押したのと同じことでは無いですか?」
『背中?』
「どんな人間だって、一度は憎しみや殺意が浮かび上がることがある。でも、その度に思いなおし、それを乗り越えてゆくものだ。それなのにあなたは呪詛の方法を教えることで、殺意と憎しみを現実のものにした・・・」
宮小路は苦い顔のまま続ける。
モニターの向うの少女は唇の端に皮肉な笑みを浮かべて聞いている。
「罪を犯そうとしている人間にあなたは凶器を与えたんです。」
『そうねぇ。私は確かに凶器を与えたわ。でも私は凶器を与えただけ。それを使ったのは彼女の意思よ。彼女が強く望んだから死は現実となったのよ。』
モニターに映るアリスは幼い。
あどけない笑みを浮かべればその辺にいる子供と同じ少女だ。
しかし、今の彼女はひどく大人びている。
皮肉な笑みを浮かべ、死を弄ぶ意味を知り、それを楽しんで・・・
「あなたは間違っている・・・」
宮小路が声を絞るように言った。
それ以上言葉が出てこない。
『間違っていても、これが私なんですもの。』
アリスは笑う。
ひどくその声が耳障りだった。
宮小路はモニターとマシンの電源を落とした。
これ以上彼女の声を聞くのが辛かった。
「・・・危険な存在の少女ですね。」
電源が落ち、部屋に暗闇が戻ると、誰もいないはずの部屋に声が響く。
「司さん・・・」
幾度か顔を合わせたことのある幽霊の男が宮小路の前に姿をあらわす。
「いつまでも好き勝手にはさせません。」
宮小路は言った。
「こんなことは間違っています・・・」
司は宮小路の強い言葉に、沈黙で頷くだけだった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0803 / 間宮・甲斐 / 男 / 22 / 陰陽師
0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生
0790 / 司・幽屍 / 男 / 50 / 幽霊
0424 / 水野・想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
ちょっと後味の悪い最後になってしまいましたが、如何でしたでしょうか?
司氏は今回ちょっと辛い役どころになってしまいました。
呪詛を行おうと思った時点ですでに呪詛に取り付かれてしまっていた少女に、最後の慈悲だったかなと私的には思っているのですが・・・
今後の司氏の活躍に期待しております。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
今回は、お疲れ様でした。