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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


恋彩日

<序>

『デートして欲しいんだ』

 突如電話から聞こえたその言葉に、草間は飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。喜劇かかった大仰なリアクションではあったが、今の彼にはそうするより他なかったのである。
 男から「デートして欲しい」などと頼まれたとあっては。
「は……はアッッ?! おおおお前何言ってるんだっ?!」
 書類の上に散った琥珀色の液体を慌てて手近にあった雑巾で拭いながら、草間武彦は電話の向こうにいる古くからの知人、鶴来那王(つるぎ・なお)に頬を引きつらせながらやや上ずった声を投げつけた。
 前から変な奴だ変な奴だとは思っていたが。
(やっぱり……こいつは変だ)
 雑巾を片手に握り締めつつ勝手に心の中でそう決め付ける草間に、受話器の向こうからかすかに涼やかな笑い声が聞こえた。
『違う、これはれっきとした依頼なんだ』
「ならなおさらだ。うちはデートクラブじゃないぞ」
『だから……判らないか? こんな依頼をお前の所に持ち込む理由が』
 かすかに耳に届く相手のため息に、草間が眉をしかめた。
「ただのデートじゃないってことか」
『そういうことだ』
「……話、聞かせてもらおうか?」

 つい数日前のこと。
 鶴来は普通に街中を歩いていたのだが、その時ふと道路の脇にいる一人の少女を目に止めた。特別綺麗な容貌だったというわけでもなんでもない。ごくごく普通の容姿の、ごくごく普通にどこにでもいる女子高生のようだった。
 ただ、霊体だったということを除いては。

「……お前、普通に出歩いてる時くらい意識的にそういうモノから目をそらせないのか」
『少し前まではそれも可能だったんだが、最近何だか上手くいかないんだ』
 草間のツッコミに苦笑しながら答えると、鶴来は話を続けた。

 少女は自分の姿に目を止めた鶴来に気づいたらしく、道路の先に向けていた視線を彼へと転じた。目が合ってしまった以上、なんとなく放っておくわけにも行かず、彼女に近づいたのだが――…

『そしたら取り憑かれてしまったんだ』
「……お前」
 あっさりと言い放った相手に、草間は額を押さえる。
「じゃあ何か。今お前はその女の子に憑かれてる状態なのか?」
『自我で押さえ込んでいるから、彼女は表には出て来れないけれど。……今、少し彼女と意識が融合気味なんだ。このままだと完全に融合してしまうまで時間の問題かもしれない』
「で? それがなんでデートに繋がる? さっさとお祓いでも何でもしてもらえばいいじゃないか。うちのヤツ、何人か回してやろうか?」
『手荒な真似しなくても、彼女は誰かと一日遊んでもらえたらそれでいいって言っているから。気が済めば行くべきところへ行ってくれると思う』
 常より幾分柔らかい口調なのは、その少女との意識の融合のせいなのか。
 煙草を一本取り出して、フィルターを唇に当てながらため息をつく。
「ということは、お前に憑いた状態で遊ぶってことだな? つまりはお前とデートってことだな?」
『……ということになるかな。費用は俺が持つから、適当に一日相手してもらえると助かる』
「もしそれでお前から離れなければ?」
『その時は、付き合ってくれる人の判断に任せる』
「了解」
 それじゃあ、と言葉を残して鶴来が通話を切る。ふと、受話器を電話に戻そうとして、草間は首を傾げた。
「そういや男か女、どっち回そうか?」
 鶴来は男だが、中に憑いているのは少女だ。
 中にいる少女に合わせるのなら男を回すべきだが、それだと外見上、鶴来と男同士でデート、という何となく不毛な状況に陥るような気がしなくもない。
 けれど女なら、外見上はデートに見えるが、中にいる少女にとってはデートにはならない。
「……まあ、どっちでもいいか」
 話を回してみて「行く」というヤツに任せればいい。
 あっさりとそう決めると、受話器を置いた手でライターを取り、くわえた煙草の先に火をつけた。

<第一幕・依頼を受ける女>

「面白そうな依頼ね。鶴来さんなんでしょ?」
 事務所内で書類を片付けていたシュライン・エマが、置いた受話器を再び持ち上げた草間に問いかけた。
「誰に回そうか悩んでるなら、私が行こうか?」
 書き終わった書類をトントンと揃え、椅子から腰を上げる。草間が驚いたようにわずかに眉を持ち上げた。
「いいのか? 中身の一部は女子高生だけど、外見と大部分は鶴来のままだぞ?」
「別に構わないわよ? 女子高生か……微妙なお年頃よね」
 頬に手を当てて、シュラインは窓の外へと視線を向けた。
 男臭いのが平気か、それとも駄目か。微妙な境界線を持っている年頃だろう。相手の苦手なタイプにハマらないように、考えなければならない。
 ファーストインプレッションというのは、思いのほか大事なものである。そこをきっちり押さえておけば、後はまあ、自然と結果はついてくる……だろう。
「ま、外見はこれだしね」
 言って自分の頬をぺちぺちと軽く掌で叩く。女性的と言い切るよりは中性的と言うほうがよほどしっくりくる顔立ちだということは自分でもよく承知している。
 後は、声。これはまあ、自分の特技で何とかフォローできるだろう。服装は男物で、なるべく体のラインが出ないものを選べばいい。
(そういえば)
 ふと、シュラインは頬に手を当てた。
 取り憑いている女子高生が「誰かと一日遊んでもらえたらそれでいい」と言っているというが――道端で一人立ち尽くしていた彼女は、一体そこで何を見ていたのだろう? どうしてそこにいたのだろう?
 もしかしたら、誰かを待っていたのかもしれない。本当は、誰か一緒にいたい人がいたのかもしれない。「誰かと遊んでもらえたら」ではなく、本当は一緒にいたい「誰か」がいたのかもしれない。
 だから、鶴来にそう訴えたのではないか?
 としたら、それとなく話を聞いて、その「誰か」と会えるようにしてあげれば、迷いなく成仏させてあげられるかもしれない。
「なんとかなりそうか?」
 どうやらすでに行く気満々であれこれと考え込んでいるらしいシュラインに、草間が受話器を元に戻して新しい煙草に火を点けながら問いかけた。それに指でオッケーサインを作って微笑む。
「任せて。っと、ああそうだ、武彦さん、鶴来さんからもう一度連絡があったら、その女の子の容姿とか雰囲気とか、もう少し詳しく聞いておいてくれる?」
「容姿と雰囲気? ああ、それは別に構わんが……何でだ?」
「それはヒミツ」
 ふふ、と楽しげに笑うと、シュラインはまた書類へと意識を戻した。
 そんなシュラインを、何ともいえない表情で草間は眺めやり、わずかに肩をすくめた。

<第二幕・二つの魂を持つ男>

 午前十時。
 行き交う車の流れを、少女を受け入れたちょうどその場所でしばし眺めていた黒スーツ姿の彼は、やがて右手首にはめた時計の文字盤に目を落とし、一つ吐息を漏らす。
 常と違う、自分の意識の傍らにある他者の意識に頭痛のようなものを覚えながら、鶴来那王はわずかに目を伏せた。
「…………」
 自分の感覚ではない者の感覚が自分の中に確かにあるというのは、ある意味、ひどく気味の悪いものだった。
(……気分、悪いの?)
 耳にではなく、感覚に直接響くように聞こえる少女の声に、緩く頭を振る。
「いや」
 短く答える。けれどその言葉にあからさまな濁りがある事くらいは、自分の意識と半ば融合している少女のことである、気づかないわけはない。
(ごめんなさい、私……)
「……お前が気にすることじゃない」
 申し訳なさそうに意識内に聞こえるその声に、自分の胸――心臓の真上に右手を置きながらもう一度緩く頭を振った時だった。
 す、と目の前に薔薇の花束が現れた。目が覚めるような見事なその真紅に、感覚に押し流されて曇りかけていた視界が一瞬にして晴れ、鶴来は目を瞬かせる。
「待たせた?」
 耳に届いた柔らかいテノールの声音に、鶴来が花束から目を上げる。
 そこには、体型が判然としない男物の黒い服で身を包んだ中性的な美貌の主がいた。薔薇の花束を差し出しながら、青い瞳を少し細めて優美に微笑む。襟足で一つに結わえられている黒髪が、排気ガスを含んだ温い風に揺れた。
「こんにちは」
 挨拶を述べながら、相手の反応を見てかすかに笑い声をこぼす。
 明らかに面食らっているらしかった。目を見張ってまじまじと自分の姿を見ているのが面白い。
 今まであまり彼が表情を崩すところを見たことがなかったので、この新鮮な反応になんとなく満足を覚えながら、現れたシュライン・エマは持っていた花束の中から一つ小さめの薔薇を抜き取ってその胸にそっと飾ってやった。
「私じゃ中のコがご不満かしら?」
 ちらりと間近に鶴来の顔を覗き込む。
 と、その顔に明らかにうろたえるような色を映し、片手で自分の口許を覆った。そしてぎこちなく視線をずらせる。
 その頬がわずかに赤く染まっているのを見、シュラインが眉をひそめた。
「……鶴来さん?」
「い、いえ、これは俺の反応ではなくて」
 困ったような顔をしながらも慌てて視線をシュラインに戻し、鶴来は緩く頭を振った。
「嬉しいらしいです、彼女が」
 そういえば、少女と彼の意識が融合しかかっていると武彦さん言ってたっけ、と思い出す。
 しかし。
(頬を赤らめる鶴来さんの姿を見る日が来るとはねえ)
 この、一見は穏やかながらも何となく底意地は悪そうな彼が、そんな可憐な姿を自分に見せてくれるとは思いもしなかったのである。
 突発的な事故のようなそれに吹き出しそうになるのを何とかこらえるシュラインに、鶴来がさらに困ったような顔をする。
「俺の意思ではありませんから」
「はいはい、わかっていますって」
「……だったら笑わないでください」
「別にいいじゃない、可愛いんだから」
「…………」
 その言葉に、一瞬だけ思いきり嫌そうな顔をしてみせ、鶴来は片手で顔を覆って緩く頭を振った。そして何かを振り切るように手を下ろし、まっすぐにシュラインへと黒い瞳を向ける。顔にはいつもの優美な微笑が張り付いている。
「それでは、今日一日よろしくお願いします」
「仕事だと割り切ったわけね」
「……割り切るも何も、仕事ですから」
 生真面目に告げる鶴来に、シュラインはわずかに芝居がかった仕草で肩をすくめてみせた。
「まあいいわ。それじゃ今日は一日よろしくね。貴方も、そして中のコも。仲良くしましょうね」
 花束をその腕に預けると、シュラインは軽くウインクをした。途端、また軽く頬を染めて鶴来はうつむいてしまう。
 けれど、今度はその唇から。
「あ、あの、こちらこそ……よろしくお願いします……」
 彼らしからぬおずおずとした言葉が紡がれた。怪訝そうにシュラインが鶴来を見やる。
「……ねえちょっと鶴来さん? 変なモノでも食べたの?」
「あ、ご、ごめんなさい、私……っ」
 自分に向けられる怪訝そうな視線にハッと気づいたように、鶴来が口許に手を当てておろおろと戸惑うような仕草をする。あまりにも彼らしくなさすぎるその態度に、ますますシュラインが怪訝そうな顔になる。
 だが、すぐにその行動の主が、体の本来の主ではないことを察した。
 鶴来の意思と関係なく頬を赤らめたりできるのだ。ならば瞬時にその意識を支配して言葉を発することもできるはずである。
 気を取り直すように軽く咳払いをして、シュラインはにっこりと微笑んだ。
「かまわないわ。鶴来さんが意識の押さえを甘くしたんでしょ。話していいって許可出してるのよ、彼が」
 ひらりと手を振って、落ち着かせるように言う。そして改めて、もう一度微笑みとともに挨拶を口に乗せた。
「今日は一日よろしくね。一日だけの倒錯ワールドも悪くないでしょ? タカラヅカの男役と女役っぽくてちょっと面白いと思わない? ダメかしら?」
「だ、ダメじゃない、です」
 頬を朱に染めて俯き加減に言うその姿はやはり鶴来那王のものなのだが、シュラインには、あらかじめ草間を通じて聞いていた少女の容姿がその姿に重なって見えるようだった。
 肩口くらいまでの黒髪を伸ばした、今時ちょっと珍しいくらいに楚々とした、セーラー服の女子高生。
(……上手く行くべきところへ送ってあげられればいいんだけど)
 ふと鶴来が目を上げた時、そこにはもう恥じらいの色はなく、いつもの怜悧な鶴来那王の表情があった。自分を見る黒い瞳に曖昧に笑いかけ、シュラインは軽くその肩を叩いた。

<第三幕・悪巧み>

 しばらく散歩のように休日でごった返す人波の中を並んで歩きながら、好きな俳優だの好きな雑誌だの好きな服のブランドだの、何気ない話をしたり(話していたのはずっと、鶴来ではなく少女の方だった)、店の軒先に並ぶ品物をあれこれ手にとって見ては「可愛い」だの「素敵」だのと、二人してはしゃいだりしていたのだが、ふと、シュラインはとある店先に目を止めた。
 そしてニヤリと笑みを浮かべる。
 なんだか酷く人の悪い笑みだった。
「鶴来さん?」
 呼ばれて、ゆるく隣を歩く男が首を傾げる。
 少女が意識の大半を占めていた時はどこか頼りなげな眼差しをしていたのだが、今は確かに彼の意識が表に出ていると一目でわかるひどく落ち着いた眼差しだった。
「はい?」
「今からお店に入ろうと思うんだけど、いいかしら?」
「? ええ、構いませんが」
 ひっきりない人の波からシュラインを庇うように少し片腕を持ち上げてながら答え、鶴来は空いている手を耳に当てるような仕草をする。
「……彼女も構わないと言っていますし」
「彼女はかまわないでしょうけど、アナタがいいかどうかを聞きたかったのよ」
「え?」
「まあいいわ、さっき了承って言ったものね。男に二言はないわよね」
 にっこりと含みのある笑みを浮かべると、シュラインは持ち上げられていた腕に自分の腕を絡めて、それを強引に引っ張るようにして歩き出した。

<第四幕・零れ落ちる真実>

 落ち着いた、女性ボーカルの洋楽がボリューム控えめに流れている。
 幾つもの棚やワゴンが置かれた狭い店内には、どこからともなくほんのりといい香りが漂ってきていた。
 そして、目を向ける先々には、色とりどりのレースやフリル、光沢のあるひらひらとした布などがある。
 いや、それは布ではなく。
 スリップと呼ばれる、女性の下着。
「……あの、シュラインさん」
 顔を伏せて、傍らで下着を手に取って鼻歌混じりに商品物色をしているシュラインを呼ぶ。ん? と満面の笑みを浮かべてシュラインが鶴来を見やった。
 もちろん、鶴来が何を言いたいのか、シュラインにはしっかりと判っている。
 判っていてわざとやっているのだ。
 今、二人がいるのは女性下着の専門店だった。自分がいるにはあまりにも場違いなところだと、そう鶴来は訴えたいのだろう。
 我ながらイジワルだなあと思いつつも、にこにこと邪気のない微笑みは崩さない。何も気づかないフリをして、問いかける。
「なあに鶴来さん?」
「……あの、俺、外に出ていますから」
 言葉半ばでくるりと踵を返して逃げ去ろうとする鶴来の腕を、すぐさまシュラインの手ががっちりと引っつかんだ。
「鶴来さん? アナタが出て行ったら彼女も出て行くことになっちゃうんだけど?」
 わずかに首を傾げるようにして、にーっこりと極上の微笑でもって、言う。鶴来が肩越しにわずかに振り返る。
「ですが」
 店内に流れる音楽に乗ってかすかに聞こえてくる笑い声ともこそこそ話ともつかない女たちの声に、鶴来がひどく困った顔をする。もちろん、シュラインの超聴覚がその声をとらえていないわけはない。内容までしっかり聞こえている事だろう。
 目で訴えるようにシュラインを見るが、シュラインはにこにこと笑っているだけである。
「今日は私とアナタじゃなく、私とアナタの中のコのデートなのよ。依頼を持ってきたのは鶴来さんじゃない。なのに鶴来さんが邪魔してどうするの?」
「……それはそうですが」
「最近は彼氏と一緒に下着買いに来る女の子だっているんだから。他のお客さんにはそう見えてるわよ」
 言って、近くにあったブラを引っつかみ、ストラップをつまんで鶴来の目の前に差し出す。
「これなんかどうかしら?」
「どうと言われても……そういうのは草間にでも聞かれたほうが」
「何でここで武彦さんのことが出てくるのよっ。……まあいいわ。イイ機会だから鶴来さんもよーく見ておいたら?」
「いい機会って……」
「勉強になるわよ?」
「なんの勉強に……」
 目をそらせながらこめかみに指を当てるような仕草をし、わずかに目を伏せる。あ、とシュラインが思う間もなく、次に目が上げられた時にはその意識は少女と入れ替わっていた。
「逃げたわね」
 ちっ、と短く舌打ちして言うシュラインを、鶴来の目で少女が不思議そうに見る。そして、鶴来の声でぽつりと言った。
「そのブラ……すごいですね」
「え?」
 特に意識せず手近にあったものを掴んだだけなのだが、と手に持っていたブラを改めてよく眺める。
 総黒レース。カップの部分はすけすけ仕様。
 ……確かに、すごい。セクシーどころの話じゃない。
 上目遣いで少女がおずおずと問いかける。
「……それ、買うんですか?」
「あは、ははは……まさか。こんなの買うわけないじゃないの」
 乾いた笑いで頬を引きつらせながら、シュラインは慌ててそれを元あった場所に戻す。
 しかし、これを見せられて「どうかしら?」などと尋ねられた鶴来は、自分のことを一体どう思っただろうとふと思う。
「……まさか私の標準装備がこんなのだとは思ってないでしょうね」
 棚に戻したばかりのブラを睨みつける。
 …………。
 ……ありえないことではない、と思ったら背中に汗がだらりと流れた。
 草間武彦と連絡を取れる立場にあり、しかも自分の草間への想いにも気づいているヤツである。こんなところに連れ込まれた腹いせに、草間にあることないこと吹き込まないとも限らない。
 鶴来の性格の悪さは、この前のドライブ依頼の時に身をもってよーく思い知っているシュラインである。にっこり優しく笑っていても、その腹の中は真っ黒に違いないと確信している。
(冗談じゃないっ。後で勘違いしてないか確認して、もし勘違いしてたら締め上げて違うんだって言い聞かせなきゃね……)
 ぐっと握りこぶしを固めるシュラインを、不思議そうに傍らから少女が首を傾げて眺めている。が、真剣に考え込んでいる様を何かと勘違いしたのか、胸の前に拳を作って一生懸命、訴えるように口を開いた。
「シュラインさん素敵だから、きっと似合うと思いますよ? あのブラ。ちょっと……過激ですけど」
「え? あ、いや、違うのよ。似合う似合わないじゃなくて」
「私はもう、どんな下着もつけられないからなぁ……」
 慌てて誤解を解こうと口を開いたシュラインは、けれどもぽつりと紡がれた少女の言葉に声を呑んだ。少女は拳にしていた手を開き、手のひらを鶴来の胸に当てながら目を伏せて小さく笑う。
「でも、鶴来さんが入っていいよって言ってくれなかったら、きっとこうして誰かとお話したりすることも、シュラインさんに遊んでもらうこともできなかったんですよね」
 その言葉に、シュラインはわずかに眉宇を寄せた。
「入っていいって、鶴来さんが言ったの?」
(近づいたら取り憑かれたって、鶴来さんは武彦さんに言ってたんじゃなかったっけ?)
 ゆっくりと一つ瞬きして、鶴来が――少女が頷く。
「私、もうどこにもいけないと思っていたから……誰も、私に気づいてはくれないと思っていたから」
 道路脇で一人、ずっと立ち尽くすだけ。たとえ顔見知りの者が通っても、声をかけることも追いかけることも出来ない。
 ただ、見ているだけ。
 自分一人を取り残し、時が過ぎて行くのをそこで見ているだけ。
「そんな日々が、ずっとずっと続いていくんだと思っていたから」
 もう一度手を胸に当てて微笑むその姿を見、シュラインは無意識に、同じように自分も自らの胸に手を当てていた。
 一人でいる孤独。
 世界は確かにそこにあるのに、すべては自分とは関係のないところで動いていく。自分はそこに関わる事も出来ない。
 それは、恐ろしい事ではないのか?
 ただずっと、見ているだけ。動く事もできず、そこにいるだけ。
 それは、苦痛ではないのか?
 もし、そんな一人きりの世界に、手を差し伸べてくれる人がいたとしたら? 孤独で乾ききった心に、水を与えられるように誰かに優しくされてしまったら?
「…………」
 彼女には、誰か会いたい人がいるのではないかと思っていたが。
 まさか。
 シュラインは、何か大切なものでも抱くように自分の胸に手を当てて伏目がちに微笑んでいる鶴来の容姿を持つ少女を青い目を瞠って見つめた。
 その、どこか幸せそうな様を。
「……出ましょうか」
 ここに入ってきた時と同じく、その手を取って強引にシュラインは店を後にした。唐突なそのシュラインの動きに、少女は翻弄されるように足元をふらつかせながらおとなしく従った。

<第五幕・定められる役者名>

 夕焼け間近の空の下、子供達のはしゃぐ声が聞こえる。
 ベンチに腰掛けていた少女に、シュラインは近くの自販機で買ってきた缶ジュースを手渡した。そしてその横に腰掛ける。
 朝はまだ生き生きとしていた薔薇の花束は、ほんの少しだけ萎れかけていた。それを膝の上に乗せて、少女がゆるく首を傾げる。伸ばされた髪がさらりとその肩口から零れ落ちる。
「もうすぐ夏休みですね」
 子供達がキャッチボールをしているのを眺めながら、冷えたジュースの缶を両手で包む。その横顔を見ながら、シュラインは吐息を漏らして小さく笑った。
「どうしてあなたはこの世にとどまっていたの?」
 ストレートな問いかけに、少女が視線をシュラインの方へとゆっくり向けた。そしてたおやかに微笑む。
「よく待ち合わせをしていたんです。あそこで」
「あそこって、アナタと鶴来さんが会った場所ね?」
「今日の待ち合わせ場所でもありました」
「誰と待ち合わせていたの?」
「……ともだ……」
 ぽつりと躊躇いがちに小声で言いかけてから、苦笑してもう一度口を開く。
「親友と、それから、その親友の彼氏と」
 缶を開けながら、シュラインは足を組み上げた。そしてその膝の上に頬杖をついて子供達が投げている白いボールの軌跡を目で追う。
「……好きだったんです、私。親友の彼氏が」
 黙って話を聞いているシュラインに、独り言のように言葉を紡ぐ。
「親友は、私のことをいつも気にかけてくれていて……」
 引っ込み思案な自分を案じて、よく遊びに行く時に声をかけてくれた。彼氏の方もそれに嫌な顔をせず、三人で楽しい時間を幾つも過ごした。
 時を重ねれば重ねるほど、想いは募るばかりで。
 何度も諦めようとしたけれど、諦めきれなかった。けれども親友の事も大好きだったから、結局、口にする事もなく、自分の胸の中でその想いは宙ぶらりんになっていた。
 そうこうしている内に、自分はあの待ち合わせ場所とは違う所で交通事故に遭い、命を落としてしまったのである。
「……気がつけば、あそこにいました。その日もあそこで待ち合わせしてたから、早く行かないと二人が心配するって思っちゃったからかもしれません」
 けれど、待っても待っても、あの二人はあの場には現れなかった。
 太陽が昇るのを何度見ただろう。
 星が空を彩るのを何度見ただろう。
 巡る季節を幾つ数えただろう。
「もう数えるのも飽きちゃって。気がつけば、その親友と好きな人のことなんか忘れちゃって、どうすればここから動けるのかなって考えるようになっていたんです」
「そこに、鶴来さんが現れたわけね」
 頬杖をついたまま顔を少女の方へと向け、柔らかく笑ってシュラインが言葉を挟んだ。そのまま視線を空へと向ける。
「そんな時に優しい言葉かけられたら、心動いちゃうわよね」
「えっ」
 驚いたように少女がシュラインの顔を見た。その頬がわずかに赤く染まる。そのまま俯いて、膝の上の薔薇に視線を落とす。
 可憐な恥じらいに、シュラインが優しく目を細めた。そして空を見上げ、白けた顔をしてかりかりと頭をかく。
「ったく、鈍い人よね。何がデートしてくれ、よ。アンタがデートしてあげればいいんじゃないのよ。ったくもう……バカね、バカ。女の子の気持ちなんてなーんにもわかってないんだから」
「でも、でも鶴来さんは、ただ私のお願いを聞いてくれただけで……」
 悪くないんです、と必死で鶴来を庇う彼女がなんだかひどく健気でかわいく思えて、シュラインは腕を伸ばしてその頭を胸に抱きしめた。
「シュラインさん……?」
 うろたえるようなその声を聞き、シュラインは目を閉じる。優しく指先で髪を撫でる。
 その脳裏で、いつもの怜悧で落ち着いた「鶴来那王」の声を思い出す。声質、イントネーション、特徴。今まで会った間に聞いた鶴来の声から受けた印象を、解析し、そしてそのデータを反映させるべく声帯に意識を集中させる。
 ゆっくりと、唇を開いた。声帯を、震わせる。
「食事に行こうか」
 紡がれた声を聞き、びくりと、腕の中にある体がわずかに震えたのが判った。恐る恐ると言った感じで、少女が顔を上げる。
「……シュラインさん、今の声は」
「意識の融合と入れ替わりの具合を見て、今日がリミットだろう。最後だから、思いきり楽しまないと」
 鶴来那王の声と口調を模写したまま、シュラインは言って少女を腕から解放して立ち上がった。そして、驚いたままの少女に手を差し伸べて笑いかけた。
「行こう」

<第六幕・演技――すなわち、欺く事>

 あらかじめ予約を入れておいた都内のホテルの最上階のレストランで窓の外に広がる見事な夜景を楽しみながら食事を済ませた二人は、ホテルから出て空を見上げた。
 街の明かりのせいでくっきりとは見えないが、それでも幾つかの星が瞬いているのが見える。
「……どこか行きたい場所は?」
 鶴来の声音のまま、シュラインが鶴来の姿の少女に問いかけた。きっと、次に訪れる場所で最後の時が訪れることになる。
 場所くらいは、選ばせてあげたかった。別れの場所くらいは。
 手に持っていた花束を夜空に掲げて、少女が明るく笑う。
「東京タワーが見たいです」
「東京タワーか。……わかった、行こうか」
 片手を上げて走っていた空車のタクシーを拾い、希望の場所へと移動する。
 その車内で、少女はずっと自分の胸に手を当てたまま俯いていた。
「……どうした?」
 問いかけると、ふと顔を上げて苦笑する。
「なんだか、シュラインさんの声を聞いていたら、鶴来さんがそっちに行ってしまったんじゃないかって気がして。呼びかけても答えてくださらないし」
 それに答えるように小さく笑う。そして自分の胸に手を当てた。
「今、俺はこっちにいるんだ。問いかけても答えないのは当たり前だ」
 自分の能力の事は口にせず、「鶴来那王」として少女に語りかける。
 タカラヅカの男役を演じるつもりで楽しもうと思っていたが、今はその男役の名前が「鶴来那王」になっただけのこと。
 鶴来はおそらく、中で話は聞いているのだろう。だからこそ、自分にすべてを任せて返事をしないでいるに違いない。
(ズルいわよね、それって)
 自分では何もせず、人に任せっぱなしなのだから。
 ……まあ、彼にとっては「仕事」でしかないようだから仕方ないといえばそれまでである。自分も「仕事」としてここに来ているのだ。文句を言えた筋合いではない。
 目を上げると、鶴来の顔がある。驚いたようにシュラインを見ていた。
「じゃあ、今私が一緒にいるのは、鶴来さんなんですか?」
「ああ」
 躊躇せず、短く答えて微笑む。嬉しそうに笑うその少女の表情に、わずかに胸が痛むのを感じてシュラインは憂いを帯びそうになる表情を隠すように窓の外へと顔を向けて、短く吐息を漏らした。

<第七幕・別れの香り>

 芝公園前。
 薄闇の中に、ライトアップされた東京タワーの姿が浮かび上がっている。
 タクシーを降りた少女は、ふと、その顔をタワーと逆の方へ向けて――そのまま固まった。走り去っていくタクシーの赤いテールランプを見送ってから、シュラインがそれに気づいて少女を見やる。
「どうした?」
「……涼子ちゃん」
「え?」
 涼子ちゃん? と反問しながら、シュラインがその視線の先を追うように目を上げる。
 少し先の道路脇に、しゃがみこんでいる少女とそれを立って見下ろしている少年がいた。少女は両手を合わせて何かを祈っているかのようだった。少年も、それに倣うように立ったまま両手を合わせて目を閉じる。
 不思議な静寂が、そこにはあった。悲しみと優しさと愛しさに満ちた、まるで聖堂での祈りのような空気だった。
 やがて祈りを終えた二人は、手をつないで何事もなかったかのように歩き去っていく。その祈りを見守っていた二つの人影があることに気づかずに。
「……私、ここで事故に遭ったんです」
 しばし呆然と二人の背中を見ていたシュラインは、傍らからの声に我に戻った。青い眼差しで少女の方を見て――その双眸を見開く。
 街灯に照らされるその横顔に、涙が光を添えていた。
「私のこと、ちゃんと覚えててくれてたんだ……」
「じゃあ、あれが親友とその彼氏?」
 こくりと頷く。そして目を伏せて微笑んだ。
「覚えててくれたんだ」
「…………」
「話はできなかったけど、もう一度あの二人に会えてよかった」
 忘れられていると思っていた。もう二度と会えないと思っていた。
 けれどそうではなく、二人とも自分がいなくなった後も、ちゃんと覚えていてくれたのだ。自分のためにこうして祈りを捧げてくれていたのだ。
 それだけでもう、十分だった。
 はらはらと黒い双眸から零れる雫を、シュラインがそっと手の甲で拭ってやった。
「……自分の行くべきところが、わかったか?」
 濡れた睫を持ち上げ、少女がこくりと頷いて微笑んだ。
「はい。もう大丈夫です」
「そうか」
「今日はとても楽しかったです。もう何も……本当に、もう何も、思い残す事はありません」
 噛み締めるように言い、深々と丁寧にお辞儀をした。
「ありがとうございました。シュラインさん、鶴来さん」
「こっちも、楽しかった」
 鶴来の声のまま言いながら、シュラインはポケットからラッピングされた小さな箱を取り出した。それを差し出す。不思議そうに、まだ少し濡れた瞳でそれを見、少女は首を傾げる。
「プレゼント。開けてみるといい」
「いいんですか?」
 受け取って、ピンク色のリボンを解く。さらに中のピンク色の箱も開いて、ふと顔を上げる。
「香水、ですか?」
「何を贈ろうか考えたんだ。口紅や装飾品……。けれど、持ってはいけないだろうし……せめて香りならば持っていけるかと思って。似合うものを選んだつもりだ」
 ジバンシーのグランサンボンオードトワレ。
 依頼を受けると草間に言った時に鶴来に彼女の雰囲気を聞いておいてくれと言ったのは、実はこの香水を用意するためだった。魂に刻める贈り物をしたかったのである。
 彼女の手元から取ると、周囲の空気に混ぜるように軽く吹きかける。柔らかな花の香りがふわりと広がった。
 しばらく目を閉じて夜気に溶け込むその香りを堪能していた彼女は、ふと目を上げて微笑んだ。この上もなく幸せそうに。
「ありがとうございます、本当に。この香り、きっと忘れません」
 言うと、ふっとシュラインとの距離を詰めた。
 反応する間もなく。
 その頬に、軽くひんやりとした唇が触れる。
 甘い花の香りが一瞬、濃くなったような気がした。
 不意の出来事にシュラインが目を見開いた途端、かくんと前にあった体から力が抜けた。崩れ落ちそうになるその体を、はっと我に返って咄嗟に抱きかかえるようにして支える。
「つっ、鶴来さんっ?!」
 声を作るのもうっかり忘れてしまったが。
 緩く手でこめかみを押さえながら頭を振って目を上げるその顔には、もういつもの怜悧な色が戻っていた。
 そこにいるのは、さっきまでの少女ではなく、体の本来の主である鶴来那王である。
「……行ったようですね」
 空へと視線を向けながら、短く言葉を紡いで彼は吐息を漏らした。
 もしかしたら、その黒い双眸には空へと登っていく彼女の姿が見えているのかもしれない。
 わずかに瞳に残った水滴をこぼすようにゆっくりと目を伏せると、鶴来はシュラインに向けて穏やかに微笑んだ。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした、じゃないわよっ。相変わらず嘘つきなんだからっ」
 べしりと軽くその頬に、ハンカチごと平手をたたきつける。零れる涙に苦笑を深くしながら、ハンカチを受け取って水滴を拭う。
「能力以上のことを自分の身に科すのは危険なことなんですね。別に彼女を身の内に入れるくらい、どうということはないと思ったんですが」
「当たり前でしょうっ?! その自分を省みない性格、なんとかならないわけ?!」
 周囲が迷惑である。
 まったく、と吐息混じりに呟くと、シュラインは鶴来の手にあった薔薇の花束を取り上げてつかつかと歩き出す。鶴来もその後におとなしく従うように歩き出す。
「……ごめんなさいね、惚れた男がこんなにアンポンタンで」
 言って、シュラインが花束を置いたのは、さっき彼女の親友とその彼氏が手を合わせていた場所。紡がれた言葉に鶴来が苦笑をこぼす。けれど、何も言わなかった。
 夜の空気に、柔らかく溶け込む花の香り。
 まるで、もうここには居ない彼女の残り香のようだった。
 ふと、シュラインは最後に彼女が唇で触れた頬に手を添えた。
 それは、自分を「鶴来那王」だと思ってのものなのか。
 それとも、「シュライン・エマ」へのものだったのか。
 答えは、もう、聞くことはできない。

 天に向かって伸びている光の塔が、静かにその場でたたずんでいる二人の姿を緩やかに照らしていた。

<終――そして幕は閉じて>

 日中は太陽がまっすぐに地上へ光を大盤振る舞いしていたが、今はその日も傾き、少しはしのぎやすくなった。
 窓の外には、見事な夕焼け空が広がっている。
 その窓の前にあるデスクで書類の整理をしていたらしい草間が、ふと顔を上げた。
「おいシュライン」
 アイスコーヒーを作っていたシュラインは、氷をグラスの中に放り込みながら備え付けの小さな給湯室から顔を出す。
「何?」
 手に残る氷のひんやりとした感覚を軽く手を叩いて払いのけると、お盆にグラス二つを乗せて給湯室を出る。
「これ、鶴来からの手紙なんだが」
「鶴来さんから?」
 グラスを草間のデスクに置きながら首を傾げる。
 あのデート依頼から、もう数日が過ぎている。依頼の処理に特に不備はなく、鶴来からの依頼金の振り込みも終わっているはずだ。
「新しい依頼?」
「んー……というかシュライン」
 かりかりと頭をかきながら、草間は何かをいぶかしむかのような目でシュラインを見やり。
 言った。
「シュラインさんの下着を見ることがあったとしても、決して驚かないように、と書かれてるんだが……お前、鶴来に下着なんか見せたのか?」
 自分の分のアイスコーヒーに口をつけていたシュラインは、その言葉に思わず液体を吹き出しそうになった。
「……っ」
 どうにかコーヒーを飲み下して口許に手を当てながら、シュラインはあの下着店での一件を思い出す。
(わ、わ、忘れてた―――ッッ!!!)
 そうである。あの後勘違いされていないかどうか確認して、勘違いしていたら誤解を解かなければと思っていたのだが、少女のことに意識をもっていかれすぎてうっかり忘れていたのである。
 慌てて呑み込んだためにコーヒーが気管に入ってしまって小さく咳込んでいるシュラインを、さらに怪しむ目つきで草間がデスクに頬杖をつきながら見ている。
「お前ら、一体何してきたんだこないだ。……ああいや、まあプライベートなことだというなら別に俺が聞くようなことでもないんだが」
「ちょっと! 変な誤解しないでちょうだいっ! なんで私があんな性格ねじくれまがった人なんかとどうにかなんなきゃなんないのよ!!」
 バンッ、とデスクに掌を叩きつけて気合の入った声で叫ぶシュラインに、草間が身の危険を察知してか、素早くグラスを持ってデスクから身を離す。
(覚えてなさい鶴来さんっ! コノウラミハラサデオクベキカッッ!!)
 呪うように拳を握り締めて草間の手の中にある手紙を睨みつけるその眼差しにさらにキャスターを転がして椅子ごと逃げる草間。一メートルほど退避完了したところで、コーヒーを一気にあおり、手紙とグラスをデスクに置いて立ち上がる。
「さて、それじゃ行くか」
「行くかって、どこへ?」
「青山」
「青山?」
 慌てて窓を閉めながら問いかけるシュラインに、草間は顎でデスクの上の手紙を示した。
「イタリアンレストランのカップル席、予約してくれているそうだ。地上三四メートル、プール付ガーデン。パノラマ夜景が綺麗なんだと」
「……鶴来さんが?」
「おごりだそうだ。たまにはシュラインさんを労ってあげろ、だとさ」
 行くだろ? の問いかけにシュラインはこくりと頷く。そしてデスクの上にある手紙を見て、小さく苦笑した。
(まったく、困った人ね)
「とりあえず、仕返しは勘弁してあげるわよ」
 ふふ、と短く笑うと、シュラインは手紙に向けて一つイタズラっぽくウインクした。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】

【0065/抜剣・白鬼(ぬぼこ・びゃっき)/男/30/僧侶(退魔僧)】
【0226/斎司・更耶(斎司・更耶)/男/20/大学生】
【0689/湖影・虎之助(こかげ・とらのすけ)/男/21/大学生(副業にモデル)】
【0807/東斎院・神音(とうざいいん・かのん)/女/14/中学生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。ライターの逢咲 琳(おうさき・りん)です。
 この度は依頼をお請けいただいて、どうもありがとうございました。
 少しでも楽しんでいただけましたでしょうか?

 シュライン・エマさん。再びお会いでき、とてもうれしいです。
 今回、デートコースだけでなく、取り憑いている少女に「実は一緒にいたい人がいるのではないか」とプレイングかけてくださったのはシュラインさんだけでした。結果、彼女が本当にこの世に残ってしまった理由等、いろいろなことが明かされました。
 おかげで、彼女が最も一緒にいたい人といることができ、そしてずっと気にかかっていた事も解決することができました。ありがとうございました。
 そしてやっと、シュラインさんの能力を作中でちゃんと生かせたことが、個人的には嬉しくてなりません。イメージ違っていたら申し訳ないです(汗)。
 それにしても下着店…(笑)。大変笑わせていただきました(笑)。

 さて、今回はオープニングサンプル掲載時にも告知しておりましたとおり、完全個別で書かせていただいています。
 よろしければ、お手隙の時にでもこの作品についての感想などいただけるととても嬉しいです。
 それでは、また会えることを祈りつつ。
 今回はシナリオお買い上げ、本当にありがとうございました。