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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・陰陽の都 朧>


陰の章 狐狗狸 転移

●オープニング
 市役所前に、最強にして最大の妖蚩尤が現れたという騒動が起きてから数日後。今度は狐狗狸でも異界からの客人を迎えることとなっていた。
「な、なんでぇここは?」
 紅蓮の髪を持った男が、店の軒先で頭を振りながら呟いた。
「ったく、酷い扱いだねぇ。いきなり目の前が暗くなったと思ったらこんな場所に飛ばされるなんてさ」
「うむ。年寄りをなんだと思っているんじゃ」
 さらに着物姿の妖艶な女と、老人の面をつけた見るからに怪しい男が文句を言う。
 彼らの出現に、店にいた客と店主は目が飛び出るほど驚いた。何しろ、突然三人もの男女が何も無い空間からスッと幽霊のように姿を現したからだ。
「お、おい…。あいつら何なんだ……?」
「し、知らねぇよ」
「も、もしかして妖? 陰陽寮に知らせなくちゃ」
 怯える彼らの言葉の中に、陰陽寮というものがあったことに三人はピクリと反応した。
「陰陽寮だと? おい、ここには陰陽師がいるのか!?」
「だとしたらなんなんだよ! に、逃げろぉ!!」
「っておい!! いきなり逃げんな、手前ら!」
 いきなり巨大な鉄の爪を振りかざして問われれば、誰でも逃げる。彼らは蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。女と仮面の男ははぁとため息をついた。
 そこに。
「おいおい。随分と物騒じゃねぇか。何かあったのかい?」
 店の外から、この場にそぐわないおどけた声が聞こえてきた。振り返ってみれば、そこには黒髪の一人の男が立っていた。須佐ノ男である。
「なんだ手前ぇ? …丁度いい。おい、ここに陰陽師がいるのか?」
「それが人に物を頼む時の態度かよ?」
「なんだとぉ? 知ってるならさっさと教えやがれ!」
「嫌なこった。聞きたきゃ力づくで聞き出すんだな」
 紅蓮の髪の男の眼に、剣呑な光が宿る。
「面白しれぇ。やってやろうじゃねぇか! 後で吠え面かくなよ」 

(ライターより)

 難易度 普通

 予定締切時間 7/1

 こちらは例の三人組との接触になります。
 須佐ノ男が喧嘩を売ってしまっているので、戦闘は避けられない方向に行っていますが、努力次第で会話に漕ぎつけるかもしれません。
 ただ、あまり時間をかけていると……。
 私の依頼に初参加、もしくはこの三人が分からない方は人物紹介をお読みになってください。そこに三人組の説明が書かれています。
 それでは皆様のご参加を心よりお待ちいたします。  

●狐狗狸
 すっかり人気の無くなった狐狗狸では、三人組の男女と須佐ノ男が対峙していた。三人組の中で、紅蓮の髪をもつ男、罵沙羅の方は、手の甲につけた巨大な鉄の爪を須佐ノ男に突きつけた。
「言っとくが俺は手加減なんかしないぜ。あの世で自分の無謀さを悔いるんだな」
「ぬかせ。お前こそ自分の馬鹿さ加減を思い知るんだな」
「言いやがったな!」
 激昂した罵沙羅は、迅速の勢いで須佐ノ男に殴りかかった。
 しかし、須佐ノ男は自分の座っていた椅子を軸に、あっさりと後方に飛び退ってその一撃をかわす。虚しく鉄の爪が空を切った。
「野郎!」
 自分の一撃を涼しい顔で避けた須佐ノ男に憎悪の視線を送り、罵沙羅は間合いを詰めるとさらに連続攻撃を繰り出す。風を斬るほどの勢いで繰り出された爪は、僅かに触れるだけで服を切り裂き、その下の体もずたずたにする。
 須佐ノ男は、腰を低く屈めその攻撃を避けると、今度は蹴りを繰り出す。罵沙羅の攻撃に勝るとも劣らぬ速度で放たれた蹴りは、僅かに罵沙羅の頬を掠める。
「な、なんだと!?」
 罵沙羅は、須佐ノ男の一撃に驚嘆し慌てて間合いをとった。頬から一筋の血が流れ落ちる。
「ほほう…」
「やるもんだねぇ」
 高みの見物と洒落込んでいた、大怨と翁の二人も須佐ノ男の動きに感心した。呪禁師である罵沙羅の攻撃を上回る身のこなしで、完全に彼を翻弄をしている。体術だけならば相当の腕前である。
「お前ら! のんびり見てないで少しは協力しろよ」
「あんたが勝手に始めた喧嘩じゃないか。自分で決着をつけなよ」
「そうさのう。自分の面倒くらいは自分で見るべきだと思うが」
「……」
 二人の仲間にすげなく協力を断られて、がっくりと肩を落とす罵沙羅。
 そこへ…。
「折角のうまい蕎麦が、台無しだ。喧嘩をするなら他所でやれ。迷惑だ。」
 蕎麦を啜る音とともに悪態をつく声が聞こえてきた。見れば、ほとんど客のいなくなった店に、二人の少年がのんびりと蕎麦を啜っているではないか。どうやらこの声はまだ小学生のような体つきの少年から発せられた言葉らしい。
「夢崎…。止めるのはいいが、お前、その台詞は火に油を注ぐようなもんだぞ」
「構うものか。大体いい年こいて、店の前で暴れるような奴らが悪いんだ。TPOくらい考えろ。その肩の上の球体は飾りか?」
「なんなんだ、この糞餓鬼どもは…」
 横合いから生意気そうな子供たちに文句を言われ、罵沙羅は怒りを通りこして呆れかえった。訳も分からない場所に飛ばされて、見知らぬ男と戦った上にこの有様。今日は厄日としか言いようが無い。
「なんだよ旦那? もう終わりか?」
 構えを解いた罵沙羅を見て、須佐ノ男が物足りなさそうな表情になる。
「止めだ止め。手前えらなんぞに構っていられるか。よく考えたら俺たちは元の世界に戻れればそれでいいんだ。ここがどこかなんて知ったことじゃねぇ」
「ようやく気がついたのかい、この単細胞。そうだよ。あたしたちはこんなところからさっさとおさらばすればいいんだ。まぁ、その方法に関しては色々と聞かなきゃいけないけどね」
「元の世界? お前たち、他の場所からやってきたのか?」
 少年、守崎啓斗は三人組の話にある「元の世界」という言葉に反応した。彼らの話し振りを聞いていると、まるで違う世界、例えば自分たちが来ている東京などから訪れているような感じを受ける。
「そうさ、ここがどこだかは分からないが、あるビルにいたところ、変な連中が使った術に巻き込まれたんだがこんなところに着いていたのさ」
「変な連中? 」
「赤いスーツを着た変なオヤジに、この時期だってのにくそ暑苦しい白いコートなんか着たスカした野郎。それから…」
「なんだって!? 」
 守崎は驚いて、自分の前で平然と蕎麦を啜っていた夢崎英彦と顔を見合わせた。数日前に起きたあの事件。自分たちがいた現代の東京の町より戻ってきたという妖が、市役所の上空に現れた。その連中が今罵沙羅の語った者たちの特徴と符合するのである。
「奴らと一緒に引き込まれてきただと? お前たち一体…」
「まぁまぁ、そんな事、別にどうでもいいではありませんの。仲良くいたしましょう」
 そう言って須佐ノ男にほがらかに笑いかけたのは、狐狗狸の店主とラーメン談義をしていた望月彩也であった。朧にラーメンという料理は存在しない。望月が語るラーメンについて、店主は非常に興味を抱いたようで、かなり熱心に話し込んでいた。
「喧嘩など止めて、プリンを食べましょう。私、作ってきたんですの」
 これまた、店主の知らない菓子であった。茶碗蒸みたいだけれど、冷やして食べると美味しいという彼女の説明に興味津々の体である。カスタードクリームの濃厚な味は、朧の人々にとっても新感覚のものだった。作り方を聞いて、作ってみる価値はあるかもしれない。
「ぷりん、ねぇ…」
 目の前に置かれた黄色い物体を前に、須佐ノ男はため息をついた。確かに見た目は茶碗蒸に似ていなくも無い。   
「ほほほ、妙な気を感じるから来て見れば、随分と面白い連中がいるではないか」          突如店に響き渡る女の声。狐狗狸にいた一行は驚いて辺りを見回した。
 姿は見えねども、須佐ノ男には聞き覚えのある声であった。いや、忘れようにも忘れられないといった方が正しいであろうか。
「玉藻!」
 憎悪の込められた声に応えるように、店の中空に艶やかな十二単を纏った女が姿を現した。朧の町を騒がす妖の者玉藻前である。
「須佐ノ男か…。残念だがそなたと遊んでいる暇は無い」
「な!」
「それよりもそこな三人」
 玉藻前が手に持った扇子に差された三人組の内、翁が問い返す。
「何かな?」
「そなたら随分と陰陽師を憎んでいるようだが、それならばこの町に留まったほうが良いぞ」
「なんだって?」
 玉藻は口の端を持ち上げてほくそ笑むと、須佐ノ男に視線を向けた。
「ほれ、そこの立っておる男須佐ノ男は陰陽師なのだよ」
「なんだと!?」
「それに、この都市には陰陽寮と言って、陰陽師の集りまである。我はそれと敵対する者。どうかな、我とともに参らぬか? 悪くはせぬぞ」
 玉藻が言った通り、須佐ノ男は陰陽師であるし、この都市には陰陽寮という組織が存在する。罵沙羅たち呪禁師にとって、彼らは宿敵とも言える存在である。
「大怨、彼女は人間ではありません。妖の者と言われる存在なのです」
 考え込んでいる三人に声をかけたのは、着流し姿の宮小路皇騎であった。その肩には大梟『御隠居』が止まっている。
「それが何か問題か? 単にこやつ等と妾の利害が一致しているだけのことよ」
「そうだねぇ、陰陽師の坊や。確かに陰陽師は私たちの敵さ」
 大怨は玉藻の言葉に追従するように頷く。
「では、彼女について行くと?」
「少なくとも陰陽師の手を借りるよりはマシさね」
 目で須佐ノ男を示す大怨。
「どうしても貴方が私たちと敵対するというのであれば、私が相手をします」
 あくまで陰陽師に敵対すると言い張る以上、彼女の相手は自分でするつもりであった。現代の東京で何度も渡り合ってきた間柄であるし、同じような術を使う者同士雌雄を決する必要があるだろう。
「翁さん、翁さんも同じ考えなのですか?」 
 神埼美桜は悲しげな瞳で、面を被った老人を見つめた。
「そうさな。わしらは陰陽師と敵対しておる。連中と馴れ合いをするつもりは無い」
「翁さんさん…私の中には、まだ憎しみが残ってます。何故、私が生き残り皆が死んでしまったのだろう。自分の力が憎い。こんな力なんかなければよかったと…。でもその憎しみに負けてしまえば同じ過ちを繰り返してしまうから、翁さんさんも負けてはだめ。憎しみに逃げてはだめです。直にお互いが理解できるとは思いません。これから少しずつわかりあっていきましょう」   
「お嬢ちゃん、それは理想じゃよ。理想だけでは人は説得できぬ。自分がしたことを他人に強要するのは傲慢ではないかね?」
 翁の、静かなしかし痛烈な一言に神崎は衝撃を受けた。
「そんな、私は…」
「分かり合うのは無理ってことだよ。奴と俺達は住む世界も考えも違う。戦うしかないんだろうよ」
 そんな神崎の肩を、須佐ノ男の手がポンと置かれた。
「ほほほ。どうやら話はついらようじゃの。ではこの者たちは妾がつれてゆくぞ」
「好きにしな」
 玉藻は高笑いを上げながら、呪禁師たちとともに姿を消した。
 結局呪禁師たちと分かり合うことはできなかったが、店を戦場にすることは避けられた。店主はほっと胸を撫で下ろすのだった。
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業 / 属性】

0461/宮小路・皇騎/男/20/大学生(財閥御曹司・陰陽師)/土
    (みやこうじ・こうき)
0554/守崎・啓斗/男/17/高校生/木
    (もりさき・けいと)
0555/夢崎・英彦/男/16/探究者/金
    (むざき・ひでひこ)
0413/神崎・美桜/女/17/高校生/水
    (かんざき・みお)
0101/望月・彩也/女/16/高校生/水
    (もちづき・さいや)

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■         ライター通信          ■
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 大変お待たせいたしました。
 陰の章 狐狗狸 転移をお届けいたします。
 この作品を持ちまして、ひとまずベルゼブブとしては執筆活動を休止させていただきます。
 10月にはまた活動を再開したいと考えております。
 よろしくお願いいたします。