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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


闇の導き手

〜オープニング〜


「またこの書き込みだー」
雫は、ぷうっと頬をふくらませて、マウスから手を離した。

『そこのいたいけな子羊たち。僕に助けを求めにおいで♪必ず救いは、君の身に訪れるヨ』
その一文と、黒いスーツのシルエット、そして地図だけを乗せたメッセージ。

「最近、このメッセージ、いろんなところで見かけるんだよね。何を助けてもらうのかな?」
雫は、後ろから覗き込んでいる者たちに、画面を見ながらそう呟いた。
「宗教みたいだけど・・・」
過去のログを遡って、雫は同じ書き込みを探した。
「あっ、ここにも!」
よく見ると、その書き込みは、毎月13日にされていた。
「何だか、不吉ね?」
うーん、と雫は悩んで、頬杖をついた。
「誰か、ここに行ってみてくれないかな?地図からすると、多分新宿だと思うんだけど」
そう言って、雫は、後ろを振り返るのであった――――


〜「救い」への参加者たち〜


「何だ、コイツ・・・」
御崎月斗(みさき つきと)は、ふう、とため息をつく。
背中で、一房だけの金髪が揺れた。
見た目も実際も、小学生なのだが、およそそれに見合わない貫禄と、落ち着きがある。
それもそのはず、実は平安時代から続く、陰陽師の家系で、しかもそこの跡取りなのだが、その枷が嫌で、東京の叔父の家に居候している。
しかし、自活のための資金繰りはきちんとしていた。
そのためのサイト運営である。
月斗は自ら、退魔依頼を受け、それを退治することで、報酬を得ていた。
今日は、そのサイトのチェックをしていたのだが、掲示板の書き込みを見て、思わずため息をついてしまったのだ。
そこには、例の、黒いスーツのシルエットとメッセージ、地図が書かれていた。
だが、何故か、アクセス解析をすると、ログが残っていないのだ。
「他にも、あるかな」
彼はものすごいスピードでキーを叩くと、瞬く間に、いくつかのサイトをきっちり絞り込んだ状態で、検索を終えた。
その中に、ある意味、怪奇系の老舗と言われるサイトの名前があるのを見て、アクセスした。
実際、彼は、そのサイトに書き込みをしたことはない。
だが、自分のサイトである、退魔依頼HP、「八百万五芒堂」を作成する時に、参考までに一度だけ見たことがあった。
さすが老舗、と言うべきか、そのサイトには、例のメッセージは何回も書き込まれているらしい。
「ちょっと、アクセスしてみるか」
管理者は、「しずく」というらしい。
そこには、メールアドレスが記載されていたので、月斗は、「しずく」に、話を聞きたい、と簡潔なメールを送った。
すぐにレスが返って来て、自分のサイトでチャットしている最中だから、ぜひ入室してきてほしい、と書かれていた。
彼はチャットルームに乗り込んだ。
ちょうど、「しずく」は、誰かと話をしているようだった。

>TSUKIさんが入室しました。

『しずく:あ、来たみたい』
『アイ:そうだね』
『しずく:こんにちは、TSUKIさん!初めまして、だよね☆』
『TSUKI:こんにちは。あんたが、しずくさん?』
『しずく:そうだよ☆よろしくね』
『TSUKI:黒いスーツのシルエットの、おかしな書き込み、あんたのところの掲示板にもあったけど』
『しずく:そう!今、アイとちょうどその話をしてたところ!』
『アイ:あんたも、知ってるんだね?そいつのこと』
『TSUKI:ああ。俺のサイトにも書き込みがあった』
『しずく:今ね、アイがそれを確かめに行くって言ってたんだよ☆』
『TSUKI:俺も、そいつに会いたいんだよな。一緒に行ってもいいかな』
『アイ:ああ、もちろん。そしたら、その新宿駅西口改札で落ち合おうか。現場だと、何か仕掛けられてたら嫌だからね』
『TSUKI:時間は?』
『アイ:じゃあ、今日の18時、で』
『TSUKI:分かった。また後でな』
『アイ:ああ』

>TSUKIさんが退室しました。

月斗はさっそく、他にも情報が落ちていないかどうか、あらゆるサイトを駆け巡って、かけらを探し集めた。
だが、これだけ書き込みがあるのにも関わらず、会ったことのある人間の書き込みがひとつもないことに、おかしいな、とは思い始めていた。
「まあ、行ってみれば分かることだけどな」
思いっきり伸びをして、月斗はあくびした。
時間まで、まだ余裕がある。
彼は、鞄の中から、今日出された宿題を出し、片付け始めた――――


いきなりひきつけを起こして倒れた人間がいて、レイベル・ラブは、その場で応急手当をしていた。
場所は、新宿のネットカフェ。
ジャングルのような印象のその店で、最近はやりの怪奇系サイトを閲覧中、軽い呪いにでもかかったらしい。
ぱぱっと手早く処置をすると、レイベルは、その患者の意識を取り戻させ、ふとそのサイトに目をやった。
「なんだ、これは」
そこには、例の、黒いシルエットの画像を貼り込んだ書き込みがあった。
その文面を読み、軽く彼女は首をかしげた。
金髪が、さらりと背中に流れる。
「・・・私には、この純朴な狼にこそ、救いが必要な気がするが。広告屋としては今ひとつだからな。頭文字Cの男も黒い誘惑者も一流だったぞ?といっても彼らを直接知ってる訳じゃないが」
たった一行の、誘惑の文句も、レイベルにかかっては、体裁も何もあったものではない。
しっかりこきおろして、またしても、彼女は続けた。
「しかし、肥大したネットの弊害という奴か、この程度でも餌となるに十分な数は行くのだろう・・・って、いきなり狼と決め付けているな。だがそうとしか読み取れないだろう?この内容じゃ。すると、行く奴も『救い』より『狼』に惹かれて行くのか・・・酔狂な事だ。君子じゃないから危うきに近付きたいの、だな」
そうひとりごちて、とことことレイベルは出口に向かって歩き出した。
足は、既にその現場へと向かっている。
「『ネットで』といえば聞こえは良いが、実作業は地味だ・・・笑えるな、コイツが13日に現れてはちまちまとキーを叩いてるところを想像すると。ご苦労なことだ」
レイベルは、小さく、くくっと笑った。
「では、子羊とついでにこいつにも救いを、福音をもたらしてやるとするか(ちょうど新宿方面にいるし『利益』になるかもしれないし)」
不死の闇医者、レイベル・ラブ。
長年の負債により、億単位にまで膨れ上がった借金は、そんな彼女を追いかけて、追いかけて幾星霜、という感じである。
少しでも、その借金の足しになるのであれば、と彼女はその地図の場所に向かった。
患者あるところに、レイベルあり、である。


〜闇皇子現る〜

藤咲愛(ふじさき あい)は、さきほどのチャットで待ち合わせをした、TSUKIを待っていた。
新宿西口改札は、いつも人でごった返している。
いろんな種類の人間を吸い込んでは吐き出す、その改札横で、彼女は、目当ての人物を探していた。
真っ赤なスーツに、真っ赤なルージュ、一見して派手な格好の彼女は、いまや、「歌舞伎町の女王」の異名を取っていた。
彼女の特殊な能力によって、彼女を指名する客が後を絶たないのだ。
それは、「触れた相手の痛覚を、一定時間、快楽に変えることが出来る」という能力である。
彼女の持つ、鞭やろうそくは、あっという間に、客たちを楽園に送ることが出来るのであった。
真っ赤なのはスーツやメイクだけではない。
その髪も、目も、同じように真っ赤である。
長い髪は背中の半ばまであり、可愛らしげな容姿に、どこか小悪魔的な雰囲気を漂わせていた。
そんな彼女に臆せず、まっすぐに歩いて来た人物がいた。
驚いて目をまるくする愛に、彼はぶっきらぼうに言った。
「あんたが、アイ?」
「ああ、そうだよ。もしかして・・・」
「俺は、TSUKI。さっきチャットで話したよな?」
「あんたが、TSUKI?!」
愛は本気で聞き返した。
まさか、こんな子どもだとは思っていなかったのだ。
「子どもだと思って、甘く見んなよ。俺はこれでも、能力者なんだぜ」
「そうか、そうだよね」
なんとなく、同じにおいを嗅ぎ取って、愛はひとつ頷いた。
「あたしは、藤咲愛。よろしくね」
「俺は御崎月斗。よろしく」
月斗は片手を出した。
握手して、愛は先に立って歩き出した。
新宿は、愛にとっては庭のようなものである。
すべての裏路地に通じ、どんな場所でも簡単に相手を撒くことが出来た。
「何かあったら、すぐに逃げ出せるよ、まかしといて」
愛は、にこっと笑って言った。
すると、月斗も、応じるように答えた。
「ま、肉弾戦になったら、俺が何とかする」
靖国通りを抜け、歌舞伎町に入る。
この界隈は、細かい路地がたくさんあり、愛の見たところによると、地図は明らかに、その路地の一角を指していた。
決して、店や建物ではない。
その辺りに、既に胡散臭さは漂っている。
それでも、愛は、自分の背負った過去の重さを、救えるものなら、と思っていた。
もちろん、期待は全くしていなかったが。
ふたりが着いたのは、愛が創造した通り、薄汚い路地の袋小路であった。
目的のシルエットの男は、ふたりを見つけて、ゆっくりと顔を上げた。
「こんばんは、お客様」
その声は、いっそ透明と呼んでもいいほど、きれいな声であった。
それなりに高い背と、長い長い脚が目立つ。
顔は、アイマスクに隠されていて、よく分からない。
「初めまして。僕は、闇皇子(やみおうじ)と呼ばれてるんだ。よろしく」
さっと、ふたりに緊張が走る。
「おまえが、あの文章を書き込んだのか?」
静かに、月斗は問うた。
闇の中で、どうやら男は微笑んだようだ。
「うん、そうだよ。お気に召した?」
「誰がお気に召すんだよ、あんなの!」
愛が即座に反論する。
「チャチな文章書いて!!」
「チャ、チャチって・・・」
男は少しひるんだ。
「ひどいな、お姫様は。それで?救って欲しいのはどっち?」
さっさと話題転換して、男は、ふたりを交互に指差した。
「あ、お姫様の方かな。じゃあ、お姫様には、こっち」
そう言って、男は何かを取り出したようだ。
「で、そっちの少年には、こっちね」
その手には、右手に白い珠、左手に黒い珠があった。
「そーれっと!」
いきなり、男は、その珠をふたりに投げつけた。
あまりに急なことだったので、ふたりは、顔をかばうのが精一杯だった。
パリン、と空中で珠が弾けた。
その瞬間、霧のようなものがふたりを包み込んだ。
げほ、と愛が咳き込む。
しかし、それも一瞬のことで、すぐに意識が消え去って行った。


〜幸せなまどろみ〜

愛は、ゆっくりと目を開けた。
別に意識を失っていた訳ではないようだ。
「愛?大丈夫?」
やわらかい、優しい声が降って来た。
愛は、うん、とひとつ頷いて、その手を当たり前のように取った。
そして、見上げる。
「お母さん・・・」
「どうしたの?どこか痛いの?」
板張りの廊下で、どうやら自分は転んだようだ。
少し、膝がすりむけている。
「あらあら、血が出てるわ。ちょっと待ってね」
そう言って、愛の母は、ぱたぱたと台所に駆けて行く。
入れ替わりに、ひょいと顔を見せたのが。
「お父さん・・・」
「ああ、愛ちゃん、怪我したのかい?」
どれ、と父は愛の傷を覗き込む。
「すりむいたんだな。じゃあ、ちゃんと消毒しておかないとなあ」
「今、お母さんが、お薬持って来てくれるよ」
「そうか、じゃ、愛ちゃんが大丈夫になったら、お父さんと公園に行こうか」
「うん!」
愛は思いっきり頷いた。
痛みもある。
感触もある。
嘘ではない。
幻でもない。
ならば、これは。
「愛、これ、塗っておきましょう」
母の手には、いつも消毒する時に使う、小さな塗り薬があった。
少しきつい、薄荷の香り。
「大丈夫、しみないしみない」
おまじないのように、母は繰り返した。
そうすると、不思議と痛みは引いていくのだ。
父が、大きな右手を差し出し、愛の手を引いた。
「さあ、公園に行こう、愛ちゃん。今日は何して遊ぼうか?」
愛は立ち上がり、父と連れ立って歩き出した。
公園までは、愛の足でも2分ほど。
きゅっと父の手を握って、愛は公園へと歩き出した。


「あ、あれ?」
月斗は、ちょっとくらくらする頭を軽く振って、周りを見回した。
ここは、家だ。
叔父の家。
さっと、体中を触って、異常がないか確かめる。
別に、どこも何もなっていない。
油断は出来ないような気がしたが、それでも、自分の住む場所まで来ることなど出来ないのは、自分がよく知っていた。
「・・・振り出しに戻る、か?!」
拍子抜けしたような声で、月斗は呻いた。
慌てて、現地に戻ろうとした月斗は、ドアのノブを回そうとして、すかっとそれを通り抜けてしまった。
「あれ?」
よく、手を見つめてみる。
「・・・なんだ、こりゃ!」
月斗は柄にもなく、叫んでしまった。
何と、体が透けているのだ。
しかも、宙に浮いている。
これでは、まるで幽霊のようではないか。
彼は、部屋の時計を見た。
もう19時、弟たちもいるはずだ。
彼は大声で、弟たちを呼んだ。
しかし。
5分経っても、10分経っても、何も起きなかった。
仕方なく、彼はドアをすり抜け、弟たちを探した。
リビングで、TVを見ている。
「おい、おまえたち!」
月斗は、彼らの肩に手を置こうとした。
まただ。
またすり抜けてしまう。
「おい!!俺に、気付かないのか?!」
気付いてはいるようだ。
だが、特定できていない。
弟たちは、一言。
「タチの悪い動物霊でもいるのかな?」
その一言で、すべてを片付けてしまっていた。
なぜ?
どうして?
疑問が頭を駆け巡る。
いったい自分の身に何が起きたのか、今の彼にはさっぱり分からなかったのだった。


〜最後の客〜

「今日はこれで終わりかな?」
『闇皇子』と名乗った青年は、うーん、と伸びをしながらそうつぶやいた。
手に入ったのは、人形二体と、ガラス玉がひとつ。
いつもより、少し数は少なめだ。
さて、と彼は、小さな人形を入れた鳥籠と、ガラス玉が入った小瓶を持つと、すたすたと路地を歩き始めた。
その時だった。
「・・・誰もいないのか?『狼』は?」
金髪の女性が、袋小路の方に行き、うろうろしていた。
闇皇子は、首を傾げて振り返った。
「あれ?まだお客さんはいるのかー」
そしてまた、元の場所に戻る。
「僕をお待ちかな?」
「・・・おまえが、招待主か?」
緑の目で、穴があくほど見つめられ、困ったように闇皇子は頭を掻いた。
「うん、そうだよ」
「・・・そうか。それで?『救い』とやらはもらえるのか?」
レイベルは、真顔で闇皇子に訊いた。
闇皇子は、にっこり笑って答えた。
「お客様だね?ようこそ」
「じゃあ、おまえが『狼』なのだな?」
「うーん、そんな名前を使った覚えはないんだけどなあ。僕は、『闇皇子』。君の望んでる『救い』を配ってるよ」
「・・・なんだ、このにおいは」
不意に、レイベルは顔をしかめた。
遠い昔に嗅いだことのあるにおいだった。
ふっと、闇皇子の表情がなくなった。
「・・・このにおいに気付くとは・・・君は誰だい?」
「私の名は、レイベル・ラブ。それにしても、このにおい・・・」
闇皇子は、すっと、数歩下がった。
「じゃあ、レイベルさん?僕の香水に気付くってことは、君は、外見通りの年齢ではないってことだよね?」
「ああ、もう随分長い間、生きている」
レイベルの目が、すうっと細められた。
「これは、明らかに、『ドレインチェリー』だ。幻の麻薬として、闇の世界では結構な額で売りさばかれていた。おまえ、これを人に使ったのか?」
「ご名答!」
パチパチと、闇皇子は拍手した。
「『ドレインチェリー』と判別できるとは、さすがだね」
「なるほど。その戦利品が、そこの鳥籠と小瓶なのか」
「そうだよ。でも、手口がバレたらつまらないなあ」
「『ドレインチェリー』で、意識を、一番楽しかった過去に連れ去り、その世界からの離脱が出来ないように固定して、魂と肉体を魔術で分離する。『ドレインチェリー』が効かなそうな人間には、単なる強烈な睡眠作用をもたらす揮発性の薬品で、意識を奪って、肉体と魂を分離する。でも、魂は、まどろみの中にいるだけで、肉体から追い出された瞬間、覚醒するのだろう?今頃、何が起きたかも、分からないまま、本当の死を待つことになっているな」
「その通り!さすがだね!」
闇皇子は、両手を上げて、降参の意を表明すると、レイベルに華やかな笑顔を向けた。
「お姫様、どうぞ、こちらを」
すいっと、彼は鳥籠と小瓶を、レイベルに渡した。
「じゃあねっ☆」
闇皇子は、ふうっと空気に透けていく。
「お姫様の推理力に感服したから、今日の戦利品はあげるよ。魔法も解いてくね!それじゃ、また☆」
「えっ、おい!!」
レイベルは一瞬、対応が遅れた。
闇皇子が完全に消えた瞬間、鳥籠と小瓶が壊れ、ふたりの人間がそこに現れた。
「これでは、私が悪者みたいだな・・・」
レイベルが、額をおさえながら、首を振る。
ややあって、ふたりはほぼ同時に目を覚ました。
「い、いったい・・・」
「くっそ!!」
どちらにどちらの薬が使われていたのか、レイベルには開口一番の一言で察しがついた。
「・・・闇皇子は、もう現れないだろう」
ふたりに向かって、レイベルは言った。
「何でだよ!!あいつ、どこ行きやがったんだ?!」
「それは私にも分からん。何とも言えん」
無表情なレイベルに、月斗は更に腹が立ってきた。
その横で、愛はぽつりと言った。
「やっぱり、救いなんて、なかったんだね・・・」
その肩が震えた。
「あたしを救ってくれるものは、この世にはないのかも知れない・・・」
「救いなんて、誰かに求めるもんじゃねえよ」
ふん、と月斗は鼻を鳴らして言った。
「自分で見つけるしかねえんだよ、そんなの。それが『救い』である必要はないぜ。別に、『解放』だって、『忘却』だっていいじゃんかよ。自分に合った方法を見つけて、昇華させれば、な」
「そっか・・・」
愛は、涙をぬぐって、夜の空に目を上げた。
「こんなに明るい新宿でも、星は見えるんだね・・・気付く人は、そう多くないけど・・・今夜のあたしみたいに、こうやって、目立たなくても見つけてくれる人は現れるのかもね、あたしにも・・・」
レイベルは、愛と月斗を交互に見やった。
そして、口を開く。
「・・・後遺症がないようで良かった。それでは、私はここを去ろう。ここは、私を探している人間でいっぱいだからな」
「あっ、ちょっと待って!!」
愛は、レイベルを引き留めた。
「助けてくれたんだよね?じゃあ、これ、持って行ってよ。あたしには、今、これしかないから」
そう言って、差し出された手には、厚さ1センチは優にある、札束が握られていた。
「今は、これしかないけど、いつか、これ以外のものも、手に入れてみせるからさ。今度は、誰かに求めるんじゃなくて、自分の力でね」
「・・・それなら、遠慮なく」
レイベルは、神妙にそれを受け取った。
「じゃ、俺はこれをやるよ」
月斗は、小さな紙をレイベルに渡した。
「俺の式神。ふっと息を吹きかけると、生き物に変わる。一度きりだけどな、何かに使ってくれよ」
紙をもらい、レイベルはふたりに頭を下げた。
「何かした訳ではない。患者がいるところに、私は行くだけだ。ではな」
レイベルはゆっくりと踵を返した。
その背中が見えなくなり、角に消えた後も、愛と月斗は、薄暗く光る、東京の寂しい星空を、仰ぎ続けていたのだった――――

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0830/藤咲・愛 (ふじさき・あい)/女/26/歌舞伎町の女王 】
【0778/御崎・月斗(みさき・つきと)/男/12/陰陽師 】
【0606/レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)/女/395/ストリートドクター】

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■         ライター通信          ■
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初めまして!ライターの藤沢麗(ふじさわ れい)と申します。
今回は、「闇の導き手」へのご参加、ありがとうございました!
いかがでしたでしょうか?
今回の依頼は、かなり曖昧な書き込みを元にしたものでしたので、
みなさまのプレイングを読むのを、とても楽しみにしていました。
今回のノベル、みなさまの心には、どう響きましたか?

御崎月斗さんは、小学生の割に、しっかりした人生観をお持ちのようですね!
何だか、縁側でお茶、のイメージが・・・。
冷めた物言いが結構、藤沢的には、好きでしたね♪

また未来の依頼にて、ご縁がありましたら、ぜひご参加下さいませ。
この度は、ご参加、本当にありがとうございました。