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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


【赤きモノ】
◆残された歯形
残忍な死体が発見されたのは、6月のとある午後のことだった。
場所は神社の近くの雑木林の中、人もめったに来ない場所だった。
そこでまるで紙のように引き裂かれた人間の死体が発見された。
辺りは血で染まり、地獄絵図のようだったと記録されている。

「その死体は・・・姉でした。」
依頼人は暗い顔で俯いたまま告げた。
「新聞発表では野犬に襲われた事故の可能性と両方で調べているとありましたね。」
草間は新聞に書かれていた記事を思い出す。
まだその事件のことは記憶に新しい。
「場所が場所でしたので、警察は事故の方向で考えているようです・・・」
道らしき道も無い雑木林。近隣では野犬がうろついているとの報告もあった。
「でも、僕は姉は殺されたのだと思っています。」
依頼人は悲しみに顔をゆがめていたが、はっきりと言った。
「僕・・・見たんです・・・姉が死ぬ3日ほど前・・・姉の首に歯形があるのを・・・」
「歯型?」
「そうです。この辺にこう二つの跡が・・・」
自分の首の付け根の辺りを指差して示す。
その説明だけで、その歯形がどんなものであったか容易に想像がついた。
映画やドラマでお馴染みのあの歯・・・
「あれは吸血鬼の歯形でした。姉は吸血鬼に殺されたのです。」
「吸血鬼・・・」
暗い闇の住人。
「どうか、姉を殺した犯人を捕まえてください。」
依頼人はそう言って深く頭を下げた。

◆死体
「吸血鬼・・・ねぇ・・・」
机に広げられた資料を眺めながら、大塚 忍は眉をひそめた。
皆がどこからともなく集めてきた資料の中には、警察の現場検証写真もあった。
雑木林の中が血に染まり、ほとんど原形をとどめいていない肉片となった死体も写っている。
頭部らしき写真もあったが、そこに問題の歯形は認められなかった。
怪奇雑誌のルポライターである大塚は残忍な事やこう言った怪異には慣れていた。それゆえに感じる不可解なものがあった。
「まるでボロ切れでも引きちぎったような有様だな。」
その様子を見て、大塚は吸血鬼ではないような気もしていた。
奴らはプライドが高く、貴族然とした態度を崩さない。
そんな連中がこんな風に食い散らかすようなまねをするだろうか?
「判断するのは早いかもしれませんが・・・依頼人はそう信じているようですね。」
宮小路 皇騎が残忍な写真を細かくチェックしながら言う。
「今のところ、吸血鬼といえる話は依頼人の見た歯形だけですけれど・・・」
「警察の方ではやはり野犬に殺されたってことになっているの?」
難しい顔で写真を見ていた久留宮 千秋琴がたずねる。
「なにか野犬の歯形とか・・・証拠は出てきたのかしら?」
「今のところはその件でまとめているようですね。」
宮小路はノートPCのキーを叩きながら答える。
どうやら、警察関係の資料は宮小路が警察のデータシステムに侵入して入手して来たようだ。
「吸血鬼だと言う証拠が挙がっても、警察は野犬と言い張るかもしれませんが・・・。」
「今の日本の法律では怪異の類は無いものになってるからな。」
大塚が手元の資料をバッグに仕舞いこみながら言う。
「さて、俺は刑事の真似をするわけじゃないが現場百回と行くよ。お先。」
そう言ってさっさと事務所を後にする。
大塚の後姿を見送った二人も、広げた資料を片付け始める。
「どちらにしろ、現場は見ておいたほうが良さそうですね。行けばわかることもあるかもしれない。」
「ええ、そうね。」
久留宮は自分のカバンを抱えると「お先に失礼します。」と軽く会釈して事務所を後にする。

一人、事務所に残った宮小路はノートPCのモニターを見つめたままため息をついた。
一応、調べられるだけの資料は探し尽くしたが、これといって決め手になるものは無かった。
類似した事件も見当たらない。
吸血鬼というもの自体が跡を濁すような存在ではないので、発覚していないことも多いのだろう。
そんなことを延々と考えている時、ふと、事務所の暗がりに人の気配を感じた。
幾度か感じたことのある気配だ。
「司さん・・・?」
そして覚えのある名前を口に出して呼んでみた。

案の定、その暗がりからふわりと人影が踊り出る。
「今日は。」
そう言って会釈する司 幽屍に宮小路は苦笑を返した。
この幽霊氏とは幾度か同じ事件に立ち会ったことがある。
腐れ縁というのか・・・最近ではその気配もはっきりとわかるようになっていた。
「司さんも、この事件を?」
「ええ、ちょっと興味を持ちまして。」
司は生前霊能者だった。その時の使命をいまだ感じつづけているのか、魂魄のみとなっても現世に残り、怪異と邪気を祓い続けているのだ。
「亡くなったお姉さんにお会いしようかと霊界を覗いたのですが、魂魄が失われてしまっているようでお会いできなかったんですよ。」
司は自分が手に入れた情報を惜しげもなく話す。
「魂魄が失われている?」
「食べられたのかもしれませんね。」
吸血鬼、夜の住人、人間を糧とするモノ・・・
「やはり、吸血鬼なのでしょうか・・・?」
宮小路は目を伏せるようにして思案する。
「わかりません。だから、興味が湧くのかもしれませんね。」
司はそう言って、この若い青年に微笑み返した。

◆走狗
「虎杖、さりげなくこの辺りを探してね。」
久留宮は手のひらに乗った小さな生き物に語りかける。
「探すのは犯人。血臭の強いもの・・・深追いはしなくてもいいわ。」
事務所を出るとすぐに、自分の守護獣である犬神の「虎杖」に探索を命じていた。
「でも、相手がこちらに興味を持つように仕向けてね。その間に私もお姉さんの魂を探してくるわ・・・」
主人の命に小さく尾を振ると、虎杖は風に乗るように街の中へと駆けていった。
「さて、私も被害者のお姉さんにお会いしてお話を聞かなくっちゃ。」
犯人が本当に吸血鬼だったら、魂が残っているかはわからないが、久留宮は大急ぎで現場である雑木林へと向かった。

◆挑発
「さって、どこまで通用するかわからないが・・・やるだけやってみるか。」
現場の雑木林に一足先に到着した大塚は、深呼吸すると辺りに自分の気を広げるようにして回りを探り始めた。
雑木林の中はすっかり日も暮れ闇に包まれているが、霊力のおかげで薄暗がり程度の視界は確保されている。
「そんなんじゃ、奴らは現れないよっ☆」
不意に頭上から声が響く。
「誰だっ!?」
気配もなくいきなり現れた人物に大塚は警戒を強くする。
「吸血鬼のことなら僕にお任せさっ☆」
そんな台詞と一緒に、声の主が樹の上から飛び降りてきた。
シンプルなレースで彩られた上品な白いサマードレスの裾を翻して、大塚の目の前に着地する。そして、この暗がりなのに何故か麦藁帽子をかぶり白い日傘を差している。
「僕は水野 想司。吸血鬼ハンターさ。」
そう言って水野 想司はにこっと微笑みかけた。
大塚はあまりに自分が想像していた光景と違うものが目の前で展開していることにめまいを感じる。
「そ、その格好は・・・」
「これ?」
想司はスカートの裾を軽くつまみクルンと一回りしてみせる。
「長年のハンター生活と個人的趣味で培った「向日葵畑と麦わら帽子が良く似合う控えめな美人さん」という吸血鬼が萌えてしまう弱点を押さえた知的な戦術なのさ☆」
銀の十字架、白木のくい、にんにく・・・と吸血鬼の弱点は多々語られど、ここまで奇抜な弱点を指摘するものもあるまい。
「お兄さんも吸血鬼を探してるんでしょ?僕といれば吸血鬼なんてイ・チ・コ・ロ☆だよっ♪」
「俺は女だっ!」
大塚は相手のペースに巻き込まれまいと足を速めて歩き出したが、想司は「まってよ〜☆」とお嬢さん走りで追いかけてくる。
しかも、雑木林の足場の悪い場所であるにもかかわらず、かなりの早さで付いてくるので、結局、大塚は行動を共にすることになってしまった。

◆暗がりに住まうもの
大塚に遅れて現場に到着した久留宮は、すっかり日が暮れて闇に満ちた雑木林の中を彷徨っていた。
「居ない・・・どこにも居ないわ・・・」
被害者の霊から状況を聞こうと、その霊の姿を捜し求めていたがどこにも見つからない。
そうやって探しているうちに、久留宮はひどく臭う場所を見つけた。血の気配だ。
「ここは・・・」
霊力のおかげで街灯も無い雑木林の中でも、薄暗がり程度の視界を保っている久留宮は辺りを見渡した。
「殺害現場・・・」
写真で見た殺害現場その場所のようだった。
綺麗に片付けられ、ここが惨劇の現場であったことを残すものは何も無かったが、ひどく臭う血の匂いだけは消えてなかった。
この匂いは久留宮が気配として感じ取っているものなのだが、今にも鼻に臭いそうなほど生々しい。
「おかしいわ。」
この臭いを嗅いで久留宮の疑問はますます深まる。
血を命の糧とするものが、こんなに血を残すだろうか?
久留宮は地面に手をついて、そこから気配を探る。
重く・・・黒く・・・赤い気配。
血と肉を求めるものの気配・・・
「肉?」
吸血鬼は人を殺すが肉を口にはしない。
彼らが口にするのは生命の甘露である血液だけ・・・
「やっぱり違うっ・・・」
その時、不意に何かが唸る声が聞こえた。
『グゥゥゥ・・・』
「!」
あまりに鮮烈な血の気配に気を取られて、側までそれが来ているのを見逃してしまった。
「虎杖っ!」
久留宮は偵察に放っていた犬神を召喚する。
チッ・・・と小さく鳴いて久留宮の肩に小さな光が舞い降りた。
『グゥゥゥ・・・』
雑木林の下生えの草の向う・・・生臭い気配がこっちを見ている・・・
「他にも人が来てるわ・・・その人たちに伝えて!行け!虎杖!」
久留宮は他にも調査に来ているメンバーに警告する為に虎杖を走らせた。
肩にいた小さな光は3つに分かれると、矢のように暗がりの向うへと飛び去る。
「さて、どこまで出来るかわからないけど、私がお相手よっ!」
久留宮は姿を見せぬ敵意の主に勇ましく宣戦布告を告げた。

◆屍肉食い
一番最初にその場所に駆けつけたのは、宮小路と司だった。
彼らは久留宮に遅れて事務所を出て、同じように殺害現場を見ようと現場に向かってる途中に虎杖に呼ばれたのだった。
「久留宮さんっ!」
宮小路は久留宮に襲い掛からんと身構えていた野犬の群れを、召喚した武器「ロンギヌスの槍」でなぎ払う。
ギャンッ!と痛みに悲鳴をあげ犬は樹に打ち付けられるが、くるりと猫のように体制を立て直して再び襲い掛かってくる。
「気をつけて!普通の犬じゃないわっ!」
そう叫ぶ久留宮も腕を振るいかまいたちを繰り出して応戦するが、切られても裂かれても犬は地面につくと再び立ち上がり襲い掛かってくる。
「攻撃に統率が取れている・・・何かの眷属なのか・・・」
司は野犬の攻撃を見てそう呟く。
不思議な事に司には何の興味ももたないのか、犬は襲い掛かってこないのだ。
「そいつらはグールだよっ!」
白いスカートをひらめかせながら遅れて現場に駆けつけたのは想司と大塚だった。
足場の悪いところを全力疾走した所為か肩で激しく息をしている大塚に対し、想司はまったく息切れしていない。さすが、おチャラけた格好はしていても吸血鬼ハンターというべきか。
「そいつらは聖呪を込めた武器で心臓を貫かなくちゃダメだよっ☆」
そう言って想司は手にもっていた買い物袋の中からマシンガンを取り出す。
「僕が結界を作るから、動かなくなったら狙い撃ちしてねっ☆」
「わかったっ!」
想司以外に唯一聖呪を受けた武器「ロンギヌスの槍」を持つ宮小路はねらいを定めるために、息を落ち着けて構えを絞った。
「来い!」
「んじゃ、行くようっ☆聖なる結界作成っ☆」
ノリはすっかり魔女ッ子気取りで想司はスカートを派手にひらめかせながら辺りの樹にマシンガンをぶっ放してゆく。
ダダダダダダッと軽快な音を立てて銃弾が樹に撃ち込まれてゆく。弾を打ち込まれた樹が次々と青く燐光を帯び、犬たちを追い込むように結界が張り巡らされる。
「カ・イ・カ・ン♪」
想司は恍惚の表情でそう言うと、再び犬に向けてマシンガンをぶっ放す。
「お姉さんもこれでガンばれっ☆」
マシンガンを打ち込みながら、想司は大ぶりな銀のナイフを大塚に投げて渡す。
結界に追い込まれた犬は、どこから集まったのか100頭を軽く超える。
「に、肉体労働だ・・・」
大塚は妙に魔女ッ子デザインちっくなナイフを構えて、囲われた犬たちにとどめを刺さんと切りかかった。

「こいつらは屍肉食い。だからおじさんには興味が無かったんだよ。」
想司は司をおじさん呼ばわりで言った。
「なるほど・・・」
犬を全て刺し殺し終わった一同はあたりに転がる犬の屍を見渡して頷いた。
犬が狙って襲ったのは肉体を持つ、久留宮や宮小路だった。肉体をもたぬ司には目もくれず、久留宮が警戒の為に放った虎杖も見逃したのだ。
「では、依頼人を襲ったのもこいつらなのか・・・」
宮小路はつま先で犬の死体を小突きながら呟いた。
「そうだろうね。こいつらにあの調子で襲われたら、普通の人間はボロボロさ。」
みなの頭の中に現場写真が思い浮かぶ。
ボロ布のように引き千切られた死体。
「じゃぁ、吸血鬼では無かったのね・・・」
久留宮が壮絶な血の臭いを避けるためにハンカチで口元を押さえながら聞く。
「いや、まだわからない。こいつらのボスがまだ居るはずだ。」
大塚の言葉に一同はハッと顔をあげた。
確かに。野犬は自然にグールへと変化はしない。
「側にいますね・・・」
皆より高い場所で辺りを見ていた司が声を潜めて言った。
皆も気配を探るために静かに息を潜める。
5人ははっきりと存在を嗅ぎ取った
「居る・・・」
その存在はゆっくりと5人の前に姿をあらわした。

◆生ける死体
気配だけではない、生々しい腐臭が鼻をつく。
目の前に姿をあらわせたのは大きな人間の形をした腐肉の塊だった。
元は人間の死体だったのかもしれない。
しかし、今や体は腐りはて、泥や落ち葉に混じり凄まじい姿に変わり果てている。
「コイツもグールだっ!」
想司が真っ先に指摘する。
「聖呪を受けた武器しか効かない!気をつけてっ!」
グールは足元に転がった犬の死体を手にとり口へと運ぶ。
メリメリッ・・・と肉と骨を裂く湿った音が響く。
「こいつ食ってるのかっ!?」
大塚が吐き気を堪えながら言う。
手に想司から借り受けたナイフを構えているが、おぞましさに足が竦む思いだ。
おぞましさを感じているのは大塚だけではない。
宮小路も久留宮も青い顔でグールを見つめている。
「私がおさえつけます!誰か捕獲を!」
司は頭上からグールの元へと舞い降りる。
依頼人の希望は「犯人を捕まえる」こと。
「加勢する!」
宮小路も槍を構え前に踏み出す。
「殺しちゃダメなのか、面倒くさいなぁっ」
想司が買い物袋の中から銀の十字架を取り出す。
「これなら殺さないで動きが止まるからねっ☆動きを止めたら僕が捕獲するよっ☆」
先が鋭く刃になった十字架を構えて可愛く決めポーズを取る。
「では、私が正面から行きますので、司さんは後ろからっ!」
宮小路がそう言うと、司は静かに後ろに回る。
このグールも犬たちと同じく肉体を持たぬものには疎いようだ。
グールは緩慢な動きで犬をむさぼっていたが、宮小路が踏み出すのを見て顔をあげた。
元は眼球が埋まっていたのであろう窪みに濁った光が見える。
「キリスト教的なものは得意ではないのですが・・・」
宮小路は聖書の祝福の一説を思い出しながら唱える。
構えた槍に言葉と共に力がみなぎってゆくのがわかる。
「宮小路さん!」
司がグールの足元をさらい、グールは一瞬動きを鈍らせる。
「父と子と聖霊の御名において、Amen!」
Amenの掛け声と同時に、宮小路は槍をグールの体の中心に突き立てる。
心臓を避けたのは、グールを殺さないためだ。
「!!!!!」
槍によって樹に縫いとめられてしまったグールは声にならぬ叫びをあげ、活動を停止した。
「あらら、僕の出番無かったや☆」
想司が残念そうに呟いた。

◆依頼人
「しかし、捕まえたのはいいけど・・・これをどうやって依頼人のもとへ連行するかだな。」
激しい腐臭を放つグールの体を見ながら、大塚は手で口元を覆ったまま言った。
「運ぶにしてもちょっと問題があり過ぎですね。」
久留宮はその臭いに近づくことも出来ず、離れた場所からこっちを見ている。
「ここにこのまま置いて置くのも問題がありすぎると思いますが・・・依頼人をここへ連れてくる以外に方法はなさそうですね・・・」
体を捕獲している槍に結界を施しながら、宮小路は言った。
「明るくなったら、依頼人に連絡しましょう。」
「その心配は無いぜ。」
「!」
後ろ聞こえた声に一同が顔をあげる。
グールを倒した安堵があったとは言え、近づく気配に気がつかなかった。
それどころか、一同はその声の主を見た瞬間に金縛りにでもかかったように、声も動きも封じられてしまった。
暗闇の雑木林に立っていたのは、草間興信所に姉を殺した犯人を探してくれと依頼に来た依頼人だった。
「悪いけど、ちょっと黙ってもらったよ。厄介な匂いのするのが居るからね。」
依頼人はそう言うと、想司をちらりと見た。
想司は憎々しげに依頼人を睨みつけている。
「コイツが犯人だったのか・・・ナリソコナイだったとはな。」
依頼人は樹に縫いとめられたグールに近づくと首筋にそっと指を触れた。
その瞬間、まるで砂細工が風に散らされるようにグールの体はさぁっと崩れ落ちた。
そして、崩れた体は地面に吸い込まれるように消えてゆく。
「不味い・・・」
依頼人は眉をしかめた。
「やはりナリソコナイではダメだな。」
「・・・お前は・・・何だ・・・」
司が絞り出すような声で言った。
幽霊である司さえも縛り付ける強力な呪力。
依頼人が術を使った気配は無かった。このみなの動きを止めているものは、純粋に依頼人の持つ力の威力でしかない。
「俺?俺は吸血鬼さ。」
依頼人は面白そうに笑みを浮かべ一同の方を見る。
「この辺で吸血鬼らしい気配を感じていたんでね、あんたたちを餌に誘き出そうとしたんだが・・・勘が外れたようだ。コイツはただのグールだ。野犬はコイツに齧られてグール化したんだろうな。」
「餌・・・だと・・・?」
「ああ、そうさ。お前らは撒き餌だったんだよ。ここで殺された女をネタにそれを調査させるように仕向けて、狩場に餌として送りこんだって訳さ。」
「なんだ・・と・・・」
大塚も必死で声を絞り出す。気の強さが戒めを押しているが・・・それでも言葉を発するのがやっとだ。
「おっと、誤解されちゃ困るな。俺は別にあんたたちを死なせるつもりは無かった。吸血鬼が出てきた時点で俺が登場して、そいつを食う予定だったからな。」
依頼人はオーバーアクションで肩を竦める。
「俺は吸血鬼とは言ってもゲテモノ食いでね。吸血鬼・・・つまり同族しか食べないんだよ。」
そう言うと、依頼人は暗闇の中へと悠然と消えていった。
皆が体の動きを取り戻したのはそれから一刻もたってからだった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌のルポライター
0496 / 久留宮・千秋琴 / 女 / 18 / 大学生
0790 / 司・幽屍 / 男 / 50 / 幽霊
0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生
0424 / 水野・想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
司さんは走り回っていたイメージですが、いかがでしたでしょうか?
肉体がない幽霊というのはやはり微妙な立場みたいですね。
吸血鬼やグールには確かに肉体が無いことが武器になるかもしれません。
今後の活躍を期待しています。
では、またどこかでお会いしましょう。
しばし、お別れです。
お疲れ様でした。