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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:館〜第五室〜
------<オープニング>--------------------------------------
 この地にそびえ立つ年季の入った館。
 その玄関先に、女は立っていた。
 年の頃、二十歳過ぎだろうか。
 生気を失ったその顔には、満面の笑い顔が浮かんでいる。
「ふふふ……」
 女は風に髪を振り乱しながら、中へと入っていく。
「五室目……ゴーストね」
 そして女は館の中へと消えていった……。

 草間は久方ぶりに外で昼食を摂ってきた。
 興信所に着いて何気なくテーブルを見てみると、なんと招待状が乗っていた。
 勿論、館からのだ。
「ど、どうやって入ったんだ?! ピッキングか?!」
 いずれにしても部屋を荒らされた形跡はない。重要な武器である結界鞭もそのままだ。 怪訝な表情になりながら、草間は招待状を開けた。
『第四の関門突破、おめでとうございます』
 この文が付け加えられた。
 そして問題の達筆文字だが、これに別段の変化はなかった。
 敢えて変化があるとすれば、文途中のiという文字が変形して二文字ほど露わになったくらいだろうか。
 後の文字には、一切変化はなかった。
「主ときたら、今度は一体何をやらせようってんだ……」
 草間の肩の荷は、まだ下りそうもなかった。

◎招待状の謎?
 草間が事務所に入ってすぐ、玄関から入ってきたのはシュライン・エマだった。
「あれ? シュライン。おまえ、どこに行ってたんだ?」
 シュラインの片手にはボトルドリンクがあった。
「これ買いに。あ、ごっめーん、鍵掛けていくの忘れちゃってたわ」
 シュラインは午前中から来ていて、仕事の助手としてテキパキとこなしていてくれた。
 招待状は、シュラインが居ない間に届けられたモノらしかった。
「ああ、そうそう、それ。ポストに挟まってたから中に入れておいたわ。例の如く、主からの招待状ってやつでしょ」
「そうだな。えーと、『第四の関門突破、おめでとうございます』か。まったくこれだけしか付け足してこないところが舐めてるよな」
「あ、それと。その訳の分からない字の解読率って、一体どの程度なの?」
 今回はiという文字の変形が二文字、明らかになっている。それでもこれがはたしてiなどと読めるかどうかも疑問だ。
「そうだな、BとTとS、それにiと言う文字二つ……、全体の1割か2割もいかないだろうな」
「え〜?! そんなものなの? でも……、何かの意味になっていそうな気がしないでもないわね」
「考えすぎじゃねーか? 最初の頃はハッキリした文字なんて見られなかったんだからな。それに深い考えは、頭が混乱するから止めた方がいいぜ」
 シュラインは草間の言うことを聞いて、そこまでにするが、どうしても解せない顔になった。
 そんな時、呼び鈴が鳴った。
「こんにちは〜」
 元気の良い声が聞こえてくる。神崎美桜(かんざき・みお)だ。今回は珍しく、チャイナ服を身につけてその上に都築のぶかぶかのコートを羽織っている。その後に続いたのは、陰陽師が着る狩衣装に身を包んだ都築亮一(つづき・りょういち)である。
「……こんにちは、皆さん」
 照れくさそうな都築。逆に美桜はチャイナ服のスリットで目のやり場に困る草間だった。
 因みに美桜の頭に乗っているアムタは、都築と同じ狩衣装だった。
「あらら、これは珍しい装束で来たものね、二人とも。都築ちゃんは凛々しいし、美桜ちゃんはセクシーだし。ね、草間ちゃん」
と、シュラインは草間の背中をパシンと叩いた。
「あ、ああ。二人とも似合っているぜ」
「ありがとうございます、草間さん。亮一兄さんにこういう格好をさせたのも私なんですよ」
 都築は出る言葉がなかった。
 草間はコホンと咳払いをしながら、館の主からの招待状を都築と美桜に見せた。
「iというもじが二文字、出ていますね。しかし、もうこれ以上は、主はヒントをくれないでしょうね……」
 草間は疑問に思った。
「どうしてだ?」
「もうこれだけで、一つの単語になっているような気がするんです。いえ、どうかわかりませんが、俺にはそう思えます」
「一つの単語か。それも主に聞く必要があるってことか。いずれにしろ、ゲームをクリアして、サッサと主に出てきて貰うしかないな」
 するとシュラインが、何かのスプレーを取り出してきた。
「シュライン、何だ、それ?」
 草間が問いかける。中に何が入っているのか、疑問で仕方がない。
「マタタビよ、マタタビ。この間聞いたじゃない? まあ着地点は悪かったけど。でもこれを少しずつ館の各所にふりかけておけば……」
 美桜はその意見に同意した。
「ああ、いいですよね、それ。私にもやらせてください!」
「ええ、いいわよ。女性陣は女性陣で策を巡らせましょうねぇ」
 なんだか仲間はずれにされた男性陣は、それでも勇気を奮って館への突撃を目指すことにしたのだった。

◎白の部屋
 都築は館に到着してから、五鈷杵を館の周囲に設置した。
 これで少しではあるが、主の呪結界を緩和し、こちらの術を大いに高めることができるという。
「さすがは都築くんだな。準備も怠りなし、か」
「いえ、これは単なる準備でしかありませんよ。それに、今回のゲームは何が待ちかまえているか、分かったものではありませんからね……」
 全員緊張する。その中で草間はノッカーを叩いた。
「これはこれは、皆様方。どうぞお入り下さいませ」
 この執事も相変わらず。
 中に入ってすぐ、シュラインと美桜は、今まで攻略してきた開かずの間となったドアなどの周囲に、マタタビスプレーをかける。
「今回はこちらでございます」
 案内された部屋は、真っ白な純白の部屋だった。その間にも部屋の前にスプレーを掛けるシュラインと美桜。女性陣は頑張っていた。
「ここで一晩お過ごし下さい。食事は出ますので。では失礼いたします」
 扉が閉められる。それからすぐ、主の霊波が感じられた。
『ようこそ、わが館へ。今日も来てくれましたね』
 草間が応対する。
「ああ、あんたを一刻も早く引きずり出すためにな」
『ほお、勇ましいことです。いずれにしても、今回の趣向は面白いと思いますよ。では、早速ゲームスタートです』
 すると、床の中から、一体、二体とゴーストが出てきたのだ。
「む、凄い霊気だ……」
 ゴーストの数は増えるばかり、攻撃してきても当たりはしないが、とにかく不気味であることにかわりはない。
「亮一兄さん、あのハリセンを!」
「よし!」
 都築は阿弥陀如来心経の書かれたハリセンを、美桜とシュライン、そしてちんまりとした短さのアムタ用をそれぞれに渡した。
「これで凌げるのか?」
 草間が心配そうに都築の背後から様子を伺う。そして草間も打って出た。
 結界鞭が奮われる。触ったり縛られた者のゴーストは、どんどんと昇華していった。
 女性陣も黙っては居ない。必死になって、ハリセンを奮う。だが、ゴーストは減るどころではなく、ただ体力を消耗するばかりだった。
 都築もツクヨミと九字で攻撃一方で頑張ってきたが、そろそろ限界に近い。
「よし、美桜、来てくれ。お前の力を借りる」
「え? あれをやるの? 亮一兄さん?!」
「止む終えない。それにこの無駄極まりない闘いを止めるためにもな」
 美桜は早速、相手の精神に呼びかけるアンテナの役目を努め始めた。これにより、部屋だけでなく館全体に都築の精神が同調して術が行き渡るようにする。
 都築がこの館に入る前に五鈷杵を館の周りに埋めたのも、その下準備だった。
 そして都築は、高野山につたわる「声楽」を歌い始めた。
 寺では、いつも歌わされていた声楽。
と、ゴーストは活発な活動を停止し、一体ずつだが、昇華していく。
「主旋律は分かったわ。私も参加させてもらうわね」
 割って入るシュライン。ボイスコントロールが都築の声楽を真似ていく。威力は二倍だ。
 やがて、ゴーストは、一体も居なくなった。声楽を止めても、出てくる様子もない。この部屋のゴースト達は、まんべんなく成仏したようだ。
「やったな、三人とも! 俺が出る幕なかったぜ」
 草間は嬉しそうにシュライン、都築、美桜を褒め称えるのだった。
 食事はいつもながらに美味しいが、その後に控えるイベントがある。
 帰られるかどうかの瀬戸際、部屋の扉を開けて出られるかということだ。
「ようし、今日もいくぜ!」
 扉を開ける草間。
 そして皆は呆気にとられた。
 何と猫は後ろを向いて、背中でこちらを封鎖しているのだ。これではまったく隙がない。
「あ、ああ! このバカ猫が〜!」
「ゴロニャーゴ」
 しかもシュラインと美桜達が吹き付けたマタタビスプレーの効果に夢中のようである。
「ああ、今日もダメだ! こんちくしょー!」
 草間は猫の背に一発蹴りを入れ、扉を閉めた。
「はあ、今夜も泊まるしかないか」
 都築やシュラインもがっかりした様子だったが、美桜だけは違った。
 この前、十二神将の白虎を早速取りだしてアムタと一緒に、もう眠る準備をしている。
「美桜、この白虎、気に入ったか?」
「うん。とってもふわふわさん。大好きだよ」
 都築は嫉妬にかられて、白虎を一発ぶん殴って、その場を去る。
 男性陣は、荒れていた。

 翌朝、四人はほぼ同時に目が覚めた。
 今回は気持ちの良い朝だった。ベッドの配慮が良かったのだろう、今までギクシャクしたものに寝かせられていただけに、これは雲泥の差だった。
 扉を開けると誰も居ない。猫さえも。その違和感が、館内の朝のひんやりした空気だということに皆は気づいていた。
『お帰りですか?』
 主の声だ。お決まりの口調にも、そろそろ飽きが来ていた。
「ああ、もうそろそろウンザリしてきたところだ。もう招待状が来ても来ないぜ」
『あの文章の謎、解きたくはないのですか?』
 すると都築は意外な言葉を発した。
「主よ、あの露わになっている文字、何かの単語を意味していますね」
『ふふふ、それで答えは?』
「いえ……、答えまでは分かりません。ですが、単語であるはずです」
『いいでしょう、単語という点では合っています。ですが意味が分からない。これは致命的ですね』
 シュラインも都築と同じ意見だったが、その大部分が謎なのだ。助言の余地もない。
『次が最後のゲームになりますよ。どうぞお楽しみに』
 四人は館を出た。そして都築は五杵鈷を回収し、立派に役に立ったことをこの道具に感謝した。
「ふう、夏とはいえ、まだ朝は冷えるわね」
「でも凄く気持ちいいです。夏の朝って、私は好きですよ、シュラインさん」
 シュラインと美桜は、すっかり意気投合している。女性陣の今回の奮闘ぶりは、かなりのものだった。それは認めざるを得ない。
「ははは」
「どうしたんですか? 草間さん」
「いや、ちょっとな。最初はシュラインとぎこちなかった君たちが、ここまで意気投合するとは思わなかったものでね。心強く思ったまでだよ」
 都築も草間も、最初に会った頃はこんなにまで親しくも話が出来なかったし、行動もほぼバラバラだった。喧嘩に至るまでになったことはなかったが、それでも内向的な男だと思っていたことは確かだ。
 いまでは男性陣、女性陣共に良いチームワークだ。
「最後のゲームか……。ふん、どんなゲームが来ても、俺達は大丈夫だぜ」
 草間が勇んで言う。
「そうですよ。あと問題なのがあの猫なんですけどね……」
 都築も疑問ながら、草間の答えに続いた。
「まあ、それは追々考えよう。都築くん、シュライン、美桜さん。ファーストフードで朝食していかないか?」
「OKよ、行きましょう」
「わあ、ファーストフードですかぁ。私、そういうところ滅多にいかないからちょっと緊張しちゃいます」
「俺もいいですよ。行きましょう、草間さん」
 こうして四人は、一路ファーストフードの店へと足を向けるのだった。

                   FIN

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086 シュライン・エマ(しゅらいん・えま) 女 26歳
         翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0413 神崎・美桜(かんざき・みお) 女 17歳 高校生
0622 都築・亮一(つづき・りょういち) 男 24歳 退魔師
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■         ライター通信          ■
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○都築さん、神崎さん、8回目の御登場ありがとうございます。
○シュライン・エマさん、7回目の御登場ありがとうございます。
○今回男性陣は、細かい所で荒れた場面を映しだしてみました。
都築さんも人間、嫉妬で白虎をぶん殴ってみました。
○次回、ゲームは最終段階です。欲に駆られた人間の裏模様を
表現してみたいと思います(こう書くと、わかっちゃうかな)。
○受注ですが、次回月曜日はその日の定刻(午後10:00)
までにお願い致します。都合の悪い方のために火曜日も窓口を
開けておきますが、是非とも月曜日の定刻までにプレイングを
宜しくお願い致します。
○それでは、また近いうちにお会いしましょう。
                   夢 羅 武 市 より