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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


【夜姫ヶ池】
◆噂
とある公園にある池のお話。

都会の雑踏から逃れ、静かな時間を楽しみたい恋人たちが、一時の涼を求めて多く訪れるデーろスポットとして知られたその池は、昼間はボートが浮かび水面を賑わせていた。
そして夜は白い街灯と月の灯りに照らされて、幻想的なひと時を恋人たちに振舞っていたが、あるときそれを破るものが現れた。

最初に目撃したのは、池のほとりのベンチに座り語らいあっていた恋人同士だった。

キラキラと揺らめく水面に、静かに人が立っていた。
その物理的法則では一切考えられない場所にその人物は姿をあらわしたのだ。
そして恋人たちのほうをゆっくりと振り返り、その白い顔に笑みを浮かべた。

恋人たちは恐怖におののき、そのまま二人走ってその場から逃げ出したが、後日仲も睦まじかった二人は別れてしまった。

その日から噂が立ち始める。
「あの池に行くと恋人たちは必ず別れる。」
ひどくありがちな話だったが、幽霊らしき人影の目撃談と合わさり、微妙な信憑性を帯びて噂は広がっていった。

「これって・・・本当なのかしら?」
雫は自分の掲示板に書き込まれた「恋人たちが別れる池」の話に首をかしげる。
「ありがち過ぎるんだけど・・・でも幽霊が出るって言うのが気になるなぁ・・・」

夜姫ヶ池。
そんな名前で呼ばれる、静かな池の噂話。

◆静寂の夜
「こんな場所にこんな静かな公園がありましたなんて・・・」
天薙 撫子は心地よい夜風に目を細めながら、公園の中を探索していた。
目的は雫のBBSに書かれた噂の検証だった。
「これならばデートの時に立ち寄りたくなりますわ。」
空を仰げば月が美しく輝き、その輝きを受けて池の水面も柔らかく輝く。
公園を出ればすぐそこは都会の雑踏の真中なのだが、公園の周りを高く取り囲んだ木々の恩恵を受けたこの場所は静寂と言うにふさわしい静けさで満ちている。
しかし、その静寂にはもう一つ理由があった。
人が居ないのだ。
天薙はここはデートスポットと聞いていたのだが、それにしては人影がない。
「やはり噂の所為なのでしょうか・・・?」
この池に来た恋人同士は必ず別れる。
この美しい池にはそんな噂が付きまとっている。
雫のBBSでこの話を見た後に、天薙は自分でもこの池の噂をネットで調べた。
しかし、実際に分かれたと証言していつ本人は見つからず、みな、友達が・・・とか、知っている人が・・・といった不確かなものばかりだった。
そして、日本中に似たような「縁切りの噂」があるデートスポットの数の多いこと。
もう恋人同士は何処の公園にも行けないのではないだろうかと思うほど、その手の噂は何処にでもあるものだったのだ。
「何故、そんな無責任な噂が流れるのでしょう?」
天薙は噂が流れることによって得する人物なども考えてみたが、どうにも思い当たらない。
カップルが来て気分の悪い僻み根性丸出しの独り者・・・とも考えたが、あまりにもそこまでする理由がない。
なので、とりあえず、恋人たちが別れる現象は置いて置いて目撃された幽霊の方から調べることにしたのだ。
「噂では・・・池の水面に人影が現れるそうだけど・・・」
天薙は池の辺を歩いて回ることにした。
もし、何か気配があればわかるだろう。
慎重に、見逃さぬように、天薙は霊視の眼を輝かせながら池のほうへと足を向けた。

◆幽霊の夜
「あら、素敵。」
夕方遅く、ネットカフェ・ゴーストネットOFFの店内で、小嶋 夕子はモニターを見つめて微笑んだ。
「恋人がどうと言うお話はわたくしには興味はないけれど、幽霊の話は素敵。」
握っていたマウスから指を離すと、そっと自分の唇に触れる。
御霊食いである小嶋にとって幽霊はご馳走以外の何ものでもない。
「本物の幽霊なら、きっと良いお味だわ。」
くっと紅の唇が笑みの形に歪む。
うふふ・・・と思わずこぼれた笑い声が静かだった店内に響き、客が何事かと振り返る。
「楽しみだこと。」
そう一言呟くと、店の客が見つめる前で小嶋の体がすぅっと部屋の空気に解けるように消えた。
昨今は、幽霊もインターネットを利用して情報収集する時代となったようだ。

「ご馳走を誘き寄せるにはどうしたらいいかしら?」
池のある公園に到着した小嶋は重いため息をついていた。
BBSには、幽霊はカップルの前に現れるようなことが書かれていた。
それならば適当なカップルを見繕って憑依し、公園内をうろつこうと計画して公園にやってきたのだが・・・
噂の所為であろうか、カップルどころか人影もない。
「気の小さい生きものだこと。」
仕方ない。
小嶋はもう一度ため息をつくと、誰でもいいから人間を一人探すことにした。
とりあえず、誰でもいいので人間に憑依し、その体を使ってナンパでもして即席的にカップルを装うことにする。
憑依した体の持ち主がその後どうなるかなどは小嶋の知ったことではない。
「ちょうど良い鴨が来たようですわ。」
見回した先に人影が見えた。
小嶋は静かにほくそえむとその人物に憑依するために、人影の方へと気配を殺して近づいていった。

◆二人の夜
天薙はただならぬ予感がした。
確実な気配は感じない。しかし、嫌な予感がする。
「何事なのかしら・・・」
霊の気配ではない。だが、こうしてただ歩いているだけなのに、ゾクゾクと背中を逆撫でるような気持ちの悪さが高まってゆく。
「あのー・・・」
「!!!」
不意に後ろから声がかかり、天薙は悲鳴を飲み込んで慌てて振り返った。
「な、何か御用かしら?」
振り向くとそこには大学生ぐらいの男が立っている。
男は天薙を見るとにこっと微笑んだ。
「あの、僕と一緒に散歩でもどうですか?」
「は?」
天薙は男の顔をまじまじと眺めた。
(これって、ナンパ・・・なのでしょうか・・・?)
こざっぱりとした身形の青年は、ちょっとはにかむようにして微笑んでいる。
こうして面と向かえば悪い感じもしない。天薙に対する下心のようなものも感じない。
しかし、天薙はナンパに乗るような性格ではない。
が、断りを口にする前に天薙の頭に噂のことがはっと過ぎる。
(この方には申し訳ないけれど・・・少しお付き合い願おうかしら?)
カップルの前に現れる幽霊。
こうして一人で歩いているよりは、偽装でもカップルの方が良いかもしれない。
そう思い、天薙は愛想笑いを上品に作り直して青年に言った。
「お散歩だけでしたら・・・ご一緒させていただきますわ。」

にっこり。

そう微笑んだのは天薙だけではなかった。
天薙に声をかけた青年に憑依していた小嶋も同じくほくそえんでいた。
(これで餌はそろったわ・・・)
憑依したのが男だったのはちょっと計算外だったが、女も見繕えて餌はそろった。
あとは幽霊が出現すると言う池の辺でベンチにでも座って待てば良い。
この女はちょっと霊感も強いようだ。他の連中より目ざとく見つけるかもしれない・・・

天薙はちょっと緊張しながら男の隣りを歩いていた。
ちょうど良いと思ってOKしてしまったが、ちょっと迂闊な事をしてしまったかもしれない。
この男は悪い人ではなさそうだけど・・・でも、この男と居るとなんだかそわそわする・・・
「今日は風が気持ち良いですね。」
男がすこしぎこちなく声をかけてくる。
「あ、そ、そうですね。」
撫子もギクシャクと答える。
(なんで、私、こんなことをしているのかしら?)
ベンチに座ってもなんだか落ち着かない。

「ここは本当に静かですね。」
小嶋は恋人らしさを演出するために、女に何度も声をかけるがどうにもギクシャクした感じが抜けきらない。
「ええ・・・」
女はそう言って俯いてしまった。
さっきから、会話らしい会話は成り立たず、目当ての幽霊の気配も無く、そのうちに小嶋はなんだかイライラしてきた。
(この女の精気を食べてやろうかしら?)
あまりの進展の無さにイライラが募り、小嶋の気持ちが高ぶり始めた時・・・

「ゆ、幽霊っ!」

天薙はいきなり表面化した気配に思わず声をあげた。
隣りに座っていた男の体に半透明の女の姿が重なって見える。
憑依することで上手いこと気配をごまかしていたのだろうが、感情の高ぶりに正体をあらわしたらしい。
(まさか男に憑依してるなんて・・・)
天薙は男から安全な距離を取るためにさっと立ち上がり足を踏み出す。
(カップルが別れた原因はこれだったのね!)
カップルのどちらかに幽霊が取り付き脅す・・・
これならば相手に不信を抱いたり、恐怖を感じたりで別れてしまうこともあるだろう。
(なんて意地の悪い霊なのかしらっ!)
天薙はぎりりと男を睨みつけた。
「ゆ、幽霊!?何処っ!?」
男は立ち上がり周りをきょろきょろと見回している。
「とぼけても無駄ですっ!」
正体見破ったり!と天薙が男に怒鳴りつけると、男に取り付いた幽霊は「しまった!」と言う顔で天薙を見た。

(あぁ、失敗した。)
自分を睨みつけている天薙を見て小嶋は己の失敗を知った。
イライラするあまり憑依がとけかけてしまい、その気配を霊感のあるこの女に感づかれてしまったのだ。
しかも相手の女は何を勘違いしたのか、やる気満々で小島を睨みつけている。
(なんて厄介だこと・・・)
折角のご馳走は姿をあらわさず、霊感少女に除霊されんばかりの勢いで睨まれている。
小嶋は男の体からすぅっと抜け出し、上空へと魂魄を躍らせる。
(こういうときは退散するに限るわ。)
そして、そのまま夜の暗がりへと溶けるように消えていった。

◆幽霊の正体見たり枯れ尾花
「ま、待ちなさいっ!」
男に憑依していた幽霊は池のほうへふわりと抜け出しそのまま暗闇へと消えていった。
それを追いかけて懲らしめてやろうかと構える天薙の背後から、絹を引き裂くような悲鳴が聞こえた。
「幽霊だわっ!」
「ま、マジで出るんだここっ・・・!」
天薙の幽霊!と叫んだ声にやってきたカップルが、男の体から離れた霊体を目撃したのだろう。
カップルはまるで天薙まで幽霊を見るような顔で見ると、悲鳴をあげながらもと来た道を走って逃げていった。
呆気にとられて、その後姿を見送った天薙だったが、はっと我に返ると怒りに肩が震える思いだった。
こんなに静かで素敵な場所なのに、あの幽霊はなんであんなことをするのだろう。
「いつかきっとその心を入れ替えて天に還してあげるわっ!」
とりあえず、BBSにはこのことを書いて警告をしておかなくては・・・

こうして、天薙は事の顛末をBBSに報告した。

噂はこうやって増えてゆくのであった・・・。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0328 / 天薙・撫子 / 18 / 女 / 大学生
0382 / 小嶋・夕子 / 683 / 女 / 無職

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
今回はいつものように正体のあるものを相手にするのではなく、正体の無いものを相手にした依頼でしたがいかがだったでしょうか?
天薙さんにも噂の一端を担ってもらうことになってしまいました。ちょっと変な感じのオチかもしれませんが気に入ってもらえたら幸いです。今後の活躍を期待しております。
それではまた、どこかでお会いしましょう。
しばし、お別れです。
お疲れ様でした。