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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


【夜姫ヶ池】
◆噂
とある公園にある池のお話。

都会の雑踏から逃れ、静かな時間を楽しみたい恋人たちが、一時の涼を求めて多く訪れるデーろスポットとして知られたその池は、昼間はボートが浮かび水面を賑わせていた。
そして夜は白い街灯と月の灯りに照らされて、幻想的なひと時を恋人たちに振舞っていたが、あるときそれを破るものが現れた。

最初に目撃したのは、池のほとりのベンチに座り語らいあっていた恋人同士だった。

キラキラと揺らめく水面に、静かに人が立っていた。
その物理的法則では一切考えられない場所にその人物は姿をあらわしたのだ。
そして恋人たちのほうをゆっくりと振り返り、その白い顔に笑みを浮かべた。

恋人たちは恐怖におののき、そのまま二人走ってその場から逃げ出したが、後日仲も睦まじかった二人は別れてしまった。

その日から噂が立ち始める。
「あの池に行くと恋人たちは必ず別れる。」
ひどくありがちな話だったが、幽霊らしき人影の目撃談と合わさり、微妙な信憑性を帯びて噂は広がっていった。

「これって・・・本当なのかしら?」
雫は自分の掲示板に書き込まれた「恋人たちが別れる池」の話に首をかしげる。
「ありがち過ぎるんだけど・・・でも幽霊が出るって言うのが気になるなぁ・・・」

夜姫ヶ池。
そんな名前で呼ばれる、静かな池の噂話。

◆無邪気な声・無慈悲な言葉
「守矢兄っ!」
閉店間際、店内を片付けている最中に飛び込んできたのは「守矢兄」と呼ばれた神坐生 守矢の妹分・矢塚 朱姫だった。
「守矢兄!ここに行こうっ!」
朱姫は興奮気味に手にもった紙を守矢の前に突き出してみせる。
その紙には『カップルで行くと別れる噂のある池』の話が書かれていた。BBSに投稿されていた記事をプリントアウトしたものらしい。
守矢は片付けの手を休めて、朱姫から渡されたプリントを眺める。
「嫌な噂のあるデートスポットですねぇ・・・」
デートスポット・・・
そう思わず口にしてから、現状の皮肉さに内心苦笑いする。
朱姫がデートスポットに誘ったからと言って、それはデートではないと言う現実。
「その嫌な噂をふっ飛ばしに行くんだ!」
朱姫は無邪気に笑いながら言う。
「私には霊視能力があるし、守矢兄には退魔能力があるじゃないか。こういう話にはうってつけだと思わないか?」
「まぁ・・・興味がないワケではないですけどね。」
「それに、守矢兄と私ならカップルでは無いし怖いもの無しだ。」
守矢の胸を朱姫の言葉が貫く。
無邪気さが痛みの鋭さを増す。
朱姫に他意があっての台詞ではないのはわかっている。
しかし・・・痛いものは痛い。
(本物の彼氏と言って万が一にも別れるようなことになっては悲しいですからね・・・)
守矢は自分の傷を抉るような自分の中に浮かんだ言葉に苦く笑った。
「ねぇ?行かない?だめ?」
気がつくと、黙り込んでプリントを見ていた守矢の顔を朱姫が覗き込むようにして見ていた。
守矢は顔が紅潮するのを隠すように、すっと目線を外した。
「構いませんよ。お店を片付けたら出かけましょうか。」
「ありがとう、守矢兄。じゃあ、私は店の外で待ってるね。」
にこっと微笑んで朱姫は店を出て行った。
その後姿が店のドアの向うに消えると、守矢は深いため息を吐いて片付けを再開した。

◆恋人たちの夕べ
すっかり日も落ち、夜の帳が空を覆い尽くした頃、守矢と朱姫の二人は噂の池がある公園へとやってきた。
空には大きな月が晧々と輝き、その光を受けて池の水面は滑らかに光っている。
都会の雑踏から切り離されたこの場所は、恋人たちの語らいにふさわしい場所だった。
しかし、デートスポットと謳われている割にはあたりにデートを楽しむカップルどころか人影一つ無く、公園内は閑散としていた。

「静かでいい所だね・・・」
朱姫は空の月を見上げながら言う。
夜風が髪を撫でてゆくのが心地よい。
「そうだね。」
守矢は嬉しそうに微笑んでいる朱姫をじっと見ている。
朱姫のいる場所であれば、守矢にとってそれ以上すばらしい場所は無い。
「確かにデートするには最高の場所だな・・・」
朱姫はそう言って噂の池のほうを眺める。
水面は穏やかで、怪異の予兆も無い。
腕を組み、肩を寄せ合って、恋人同士のように歩いていても、朱姫の心が自分を見ていないことを知っている守矢は、そんな朱姫の小さな言葉にも胸が疼く。
「ねぇ、幽霊が目撃されたのはあそこにあるベンチのことかな?」
そんな守矢の気持ちにも気づかず、朱姫は少し離れた場所にあるベンチを指差していった。
「確か噂ではベンチで語らってる恋人たちが幽霊を目撃してるんだ。行ってみよう。」
絡めた腕を強く引き、朱姫は守矢をベンチへと誘う。
「わ、わかったよ。そう慌てないで・・・」
守矢は笑顔を作り、朱姫にあわせ足を速める。
好きな女の子が目の前で微笑んでいるのに、どうして自分は素直に微笑むことが出来ないのだろうか・・・

「なんだか元気ないなぁ?大丈夫?」
月の灯りの加減か、顔色まで少し青く見える守矢に朱姫は心配の声をかけた。
(折角、守矢兄に甘えようと思ってたのにな・・・)
もちろん、幽霊と池の噂に興味もあったのだが、朱姫には守矢と出かけるという口実でもあった。
このところ守矢の様子が少し変だった。
なんだかギクシャクしているような気がする。
(具合い・・・悪いのかな?)
月明かりに微笑み返している守矢の少し固い笑顔を見て朱姫はそんな風に感じた。
「・・・の気配はどう?」
守矢の声にはっと我に返る。
「え?」
「幽霊の気配はどう?何か感じる?」
「あ・・・」
朱姫はちょっと恥ずかしくなる。
(そうだ、目的は幽霊探しじゃないか。)
朱姫は大きく深呼吸すると、池の周辺へと意識を張り巡らせる。
静かな公園・・・遠くに感じる雑踏・・・
幽霊らしき気配は何も感じない・・・
「何も感じない・・・幽霊、いないのかな・・・」
朱姫はがっかりした口調で言う。
「そうか・・・」
守矢も少し残念そうに呟いた。
「しかし、噂の効果と言うのは覿面なんだな。こんなにいい夜なのに誰もいないなんて・・・」
「そうだね。勿体無いよ。」
「・・・でも、これだけのシチュエーションを独り占めしてるって考えたら・・・ちょっと得なのかな?」
守矢はそう言って朱姫に微笑みかけた。
「あー、違うよ。」
しかし、朱姫は守矢の言葉に首を振った。
「え?」
「独り占めじゃない。二人占め。」
「?」
「守矢兄と私で半分ずつ・・・だろ?」
軽くウインクして言う朱姫に、守矢はやっと心から微笑を返すことが出来た。

◆幽霊の夜
そのままベンチで語らってひと時を過ごした二人は、あまり遅くならないうちに帰途につく事にした。
「残念だったね。」
ベンチから立ち上がると守矢は朱姫にそう言った。
「うん、まぁ・・・こういう事もあるよ。」
「そうだな。ネットのBBSの記事全てが本当だったら世の中はめちゃくちゃになる。」
「あはは・・・それもそうだ。」
機嫌が直ったらしい守矢の笑みに、朱姫も心から微笑み返す。
やっぱり二人の仲は変わらない。
縁切りの幽霊に試されても絶対大丈夫。
朱姫はそう思うと心から微笑むことが出来た。
「じゃあ、帰ろうか。」
「うん。」
歩き出す守矢の腕に、朱姫はもう一度腕を絡ませる。
守矢は一瞬びっくりした顔をしたが、にこっと笑って二人はそのまま歩き出した。

守矢は自分の腕に絡む暖かな存在を優しく感じていた。
気がついてしまった自分の気持ち。
だけど、それを告げることは出来ない。
朱姫を思う気持ちは重荷になりかけていた。
でも、そうではない。
この少女を思うという気持ちがどれだけ尊いものであることか。
自分の気持ちはこれからも自分に苦痛を与えつづけるかもしれない。
こうして思いつづけて行く事は何より至難なのかもしれない。

それでも・・・
自分は少女を思いつづけてゆくのだろう。
その苦痛より至難より、守矢の気持ちは強いものだから・・・

(自分と朱姫の縁は幽霊にも切れなかったようですしね・・・)
守矢はそっと朱姫に気づかれないように池を振り返った。
守矢にはそれが何なのか良くわからなかったが、朱姫が何も言わないと言うことは害が無いと言うことだろう。
噂は噂のまま終わる。
だが、守矢の心の中にはこれ以上ない真実が胸に刻まれているのであった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0564 / 神坐生・守矢 / 23 / 男 / 花屋
0550 / 矢塚・朱姫 / 17 / 女 / 高校生

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回は私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
噂は噂のまま・・・と言うちょっと不確かな終わり方になってしまいましたが如何でしたでしょうか?
今回の依頼は3パターンのお話で構成されています。ので、どうして悪い噂が立ったのか気になる時は他の方のお話を見ていただけると、ちょっと謎が解けるかもしれません。
守矢クンの葛藤が上手く出ていればいいのですが・・・少し意訳な部分もあるかと思いますが、気に入っていただけたら幸いです。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
しばし、お別れです。
お疲れ様でした。