コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


怪談
◆こわいはなし
雫のBBSにオフ会のお知らせが掲載された。

++百物語OFF++
夏の終わりに百物語で思い出を作りませんか?
怖い話大好きな人。とっておきの怖い話がある人。
怖い話がしたい人、聞くだけの人も大歓迎です。
参加希望者は下記アドレスまでメールしてください。

日時 9月最初の金曜日 夜10時開始
場所 ××町の蓮華寺 本堂


「蓮華寺って・・・この間火事で焼けて無人になったお寺じゃなかったっけ?」
書き込みを読んでいて、あなたはふと思い出す。
「そんなところで百物語って・・・大丈夫なのかな・・・?」
不安と好奇心が入りまじる。火事で焼け残ったお堂での怪談話は怖いけど、興味があるのも確かだ。
「どうしようかな・・・話がなくても参加可能って書いてあるし・・・」
少し迷ったが、意を決してあなたはメールのボタンをクリックした。
どんな話が飛び出すかわからないが、好奇心が勝ったのだ。

そして参加希望とだけ書いてあなたはメールを送信した

◆まねかれたもの
「あんた達も来たのか。」
葛葉に連れられて部屋に入ると羽島が声をかけてきた。
「こんばんは。」
「よう、羽島くん。」
面識のある天薙と大塚が挨拶する。
「こんばんわーーっ!デビュー間近のアイドルユニット「ラブリー☆ばーにんぐ」の水野 想司でっす!」
想司も決めポーズもばっちりで挨拶する。
思わず部屋の中がどよめいた。

そして、それを見ていたのは部屋の中に居る者だけではなかった。

「・・・これで百物語が成立するのかしら・・・」
破れた屋根の上から下を見下ろしていた小嶋 夕子が苦い顔で呟いた。
「まぁ・・・いい獲物が来ない時にはあの坊やの生気でも頂こうかしらね・・・」
ふふ・・・と微笑むと、小嶋はそうっと下に降りて部屋の片隅に座った。
そして十代半ばくらいの姿で実体化する。
「さて、楽しませていただきましょうか・・・」

先に部屋の暗がりに姿を消して沈んでいた司 幽屍も焼けはがれた壁のところに腰掛けて一同を見ていた。
幽霊が百物語を観に行くのも一興かとやってきたのだ。
「面白い人たちが集まっていますね・・・」
「うむ。そうであるな。」
独り言のつもりで漏らした呟きに相槌を打たれ、驚いて振り返ると司の腰掛けている壁にしがみつく男の姿があった。
しかもその男は夜目にも鮮やかな白いふりふりエプロンのメイド服姿で、足元には何故か背中に剣を背負ったカエルを沢山引き連れている。
司は思わず壁からずり落ちそうになったが、ぐっと堪えて男・・・海塚 要に声をかけた。
「あなたも参加者ですか?」
「うむ。百物語をやると言うのに、魔王のこの私が来なくてどうするのだ!」
「・・・魔王なんですか。」
「うむ。我輩は魔王である。」
メイド服の海塚は真剣な顔で司を見て答えた。
「・・・本当に面白い人たちが集まってますね。」
海塚に聞こえないくらい小声で呟くと、司は再び部屋の中へと視線を戻した。

「ひゃくものがたり〜♪」
寒河江 駒子はとててててっと本堂から続く廊下を走り回っていた。
そして、時々みんなが集まっている部屋の中を覗きこむとクスクス笑う。
「うわぁっ☆いっぱいいるーっ♪」
姿を消して部屋の中へ入ってゆくと、話はまだ始まらないのか想司が持ってきたお菓子などを広げながら雑談している。
「百物語にはポテチとコーラでしょっ☆」
そう言うと想司はバックの中から色んな種類のポテトチップスを取り出す。
「なんで、百物語にポテチなんだ?」
大塚がコーラの入ったコップを回しながらたずねる。
「え〜っ!だってお家で1人で百物語する時はポテチ食べたりコーラ飲んだりしない?」
「・・・その前に、家で1人で百物語はしない。」
そんな会話を聞きながら、駒子の目はポテチとコーラに釘付けだ。
(おかしとじゅーすなの〜・・・)
ちょとだけ姿を現してみようかと思う。
(くわわってしたら、おかしもらえるかなぁ〜?)
そんなことを考えていたら、後ろからひょいと抱え上げられた。
(わわわわ〜っ!)
(こんな所で何をやっているの?)
再び姿を消している小嶋は人間たちには聞こえないように駒子に声を掛けた。
(あ〜、ゆ〜ちゃんだ〜!)
駒子はそう言ってから、はっと思い出したように慌てる。
(こ、こまこはたべないでね〜っ!おいしくないから〜っ!)
小嶋はじたばたする駒子を再び下におろすと、にやっと笑っていった。
(食べるのはもう少し大きくなったらよ。)
(えええ〜っ!ゆ〜ちゃ〜んっ!!)
泣きそうな顔で小嶋を見上げている駒子を見て、もう一度笑う。
駒子はそれなりに美味しそうなのだが、小嶋の好みには妄執が足りない。
(もう少し熟成を待ちましょう・・・)
そして、小嶋は元といた場所へ戻っていった。

◆ものがたり
「朝起きて車のドアを開けると、車の灰皿がひっくり返り、飲み残したコーヒーがぶちまけられてて車内は酷い有様だった・・・」
参加者の1人が静かに話し始めて百物語は始まった。
「それが何日も続いたある日、今度は嫌なにおいが車の中でするようになった・・・何かが腐ったような嫌なにおい・・・」
参加者は声を潜めるようにして、辺りを見回す。
「そして、男は気がついた。駐車場に泊まってる自分の車が、不自然に揺れていることもあるのを・・・これは誰かが悪戯してるのかもしれないって思って、男は持っていたデジタルビデオを設置して悪戯の犯人を見つけてやろうってことになったのね。」
しんと静まった部屋の中に、時折誰かが怖さを紛らわそうとする咳払いが聞こえる。
「今度こそ犯人がわかると思って、男は荒らされた車内からビデオを持ち帰り早速再生した・・そこに映っていたのは・・・」
ごくりと喉が鳴る・・・
「くわわわわ〜〜っ!!」
いきなり話をしていた参加者の前に駒子が大声を上げて姿を現した!!
「ぎゃーーーーーーっ!」
「うわーーっ!」
「きゃーーーーーっ!!!!」
部屋の中はいきなりのことにパニックになり、駒子はぱっとお菓子の包みを掴むと部屋の外へと掛けて行った。
「な、なんだよ今のはっ!」
あまりにもいきなりのことで羽島も動揺が隠せない。
駒子に邪気がまったくなかったために、他の霊能力があるメンバーも油断していた。
「心臓が・・・とまるかと思った・・・」
大塚も胸を押さえて青い顔をしている。
壁に腰掛けてみていた司がふと後ろを振り返ると、さっきまで壁にしがみついていた海塚が地面にひっくり返っている。
どうやら驚いて気絶したようだ。
「古いお寺ですからこんなこともありますわ・・・」
主催の葛葉だけが冷静にそう言うと、ともされていた蝋燭をふうっと吹き消した。
「では、次のお話をお願い致します・・・」

百物語は淡々と続いた。
時折、想司の森里しのぶ嬢の枕元で1人八極拳の練習をしてハリセンをもって終われた話だとか、ある日家に帰ると郵便物がすべて開封され、部屋の中には見知らぬ女が待ち受けていた羽島のストーカー体験談だの、ある意味洒落にならないほど怖い話を取り混ぜながら残りはあと数話・・・となっていた。
小嶋が話し始めたのはその時だった。
「もう、随分昔のお話。時は鎌倉の時代に遡り・・・」
二十半ばぐらいにしか見えない小嶋なのだが、まるで見てきたようにリアルに語る。
「私の胸を野武士の刀が横薙ぎに・・・そして、倒れた先に見えたのは夫と可愛い娘の死に顔・・・」
小嶋は顔にかかった髪を少しかきあげると、恨めしそうに目を細めた。
「そして私は悪霊となりの武士の血筋を三代祟って滅ぼしたわ・・・」
そして、ふうっと蝋燭を吹き消す。
体験談だけに背中に張り付くような冷気だけが残った・・・

「では、私の番ですわね。」
葛葉が静かに話し始める。
「この国の・・・とある所に一匹の狐が居りました。その狐はお稲荷様にお仕えし、その見返りに妖力を頂きました。」
ざわり・・・
葛葉の言葉と同時に、辺りの空気がざわめく。
背中を逆さに撫でられるような嫌な感じがする。
「しかし、狐はその妖力を手に入れたことで、お稲荷様を裏切り、自分勝手に生きるようになってしまったのです。・・・そして、幾らも立たないうちに狐は人の気の味を覚えたのです。」
「!」
最初に異変に気がついたのは天薙だった。
気がつくと部屋の中の空気はすっかり冷え切っていた。
肌寒くて着物の衿を合わせる。この真夏の夜に信じられないようなことだ。
そして、その冷気の中に暗いものが混ざっている・・・
そんなことには構わず、葛葉は話を続けた。
「狐は人の集まる祭りの夜に、人を攫うために人の中に紛れ込んだ・・・狐火を灯した提灯を持って・・・」
そう言って葛葉がすっと手をかざすと、そこにぽぅっと灯がともる。
一つ・・・二つ・・・青白い炎が空に浮かぶ。
「なんだ・・・」
羽島も異常に気がつく。
葛葉が灯したのは狐火ではないのか?
「一寸した演出ですわ・・・羽島様。」
葛葉はそう言って薄く微笑む。
「狐火を灯した提灯を持って、祭りに紛れ込み・・・子供を見つけては魂を抜くんです。子供の首に手を当てて・・・すぅっと・・・」
隣りに座っていた参加者に、葛葉が手をかざした途端、がくんっと床に倒れこむ。
「わわっ!話の途中で寝ちゃダメだよっ☆」
想司が床に倒れた参加者を揺するが、ぐったり横たわったままピクリとも動かない。
「熟睡っ!?」
想司の言葉に、大塚がスパーンッ!と頭をはたいた。
「もう、そんなに叩いたら頭良くなっちゃうだろっ!!」
「・・・悪くなるんだよ。」
大塚に抗議する想司の声をさりげなく流し、大塚は横たわった参加者の首筋に触る。
「・・・脈がない!!」
大塚は皆を振り返ると驚きを隠せない表情で言った。
「熟睡っ!?」
今度は、想司の頭を羽島がスパーンッ!と叩くと、自分も参加者の首筋に触れる。
確かに脈はなく・・・死んでいる。
「おいっ!あんたっ!」
その様子をニコニコと見ている葛葉に、羽島は掴みかからん勢いで立ち上がったが・・・中途半端な姿勢のまま動けなくなってしまった。
「金縛り・・・っ!?」
天薙、大塚、想司の三人も同様に動けなくなっている。
葛葉はクスクス笑いながら立ち上がった。
葛葉だけではない・・・4人を取り囲んでいたほかの参加者たちもクスクス笑いながら立ち上がったのだ。

◆きつねのおひめさま
クスクスと笑いながら自分たちを取り囲む参加者と葛葉たちを見ても、4人はまったく動くことができない。
どうするか・・・と息を詰めたとき、不意に参加者たちの背後で悲鳴が上がった。
「何事ですっ!?」
葛葉が慌てて振り返ると、ぐったりした参加者を片手に抱えた小嶋 夕子が立ち上がった。
「人間たちは動けないようだけれど、幽霊の私に小細工はきかないわ。」
そう言って抱えていた参加者を床に投げ出すとにやりと笑う。
「妄執の深い魂は大好きだけど、獣はあまり好きじゃないわ。狐臭くてたまらない。」
小嶋の言葉に4人もはっとする。
百物語ということもあって、邪気と死者の気配には重々注意していたが、狐のような生きものの気配は見逃してしまっていた。
「・・・でもね、食べないというわけではないわ。」
小嶋がすっと腕を振るうと、その爪先が鋭く伸びる。
「こんなに沢山、食べ甲斐がありそう・・・」
そして音もなく葛葉にと襲い掛かった。
「姫様っ!」
「葛葉様!」
参加者たちが口々に葛葉のことを呼びながら、小嶋の前に立ちふさがる。

その騒ぎの隙に司は金縛りにあっている4人のもとへ近づき、気を入れて金縛りをとく。
「チクショウ、油断したな・・・」
中途半端な格好で固まっていた羽島が腰をさすりながら毒づく。
「小嶋さんは狐と言ってましたけど・・・あの人は本当に・・・?」
参加者たちとにらみ合っている小嶋を見ながら天薙が疑問を口にした。
「どうもその様ですね。私も幾度か狐には会いましたが、今はその気配を感じます。」
狐というのは他の動物霊に比べて厄介だ。
さっき、葛葉が口にしていた稲荷のお使い狐であったら、その力は相当なものだと思われる。
「でも、あの狐、全然やる気ないよね。」
想司がポテチを頬張りながら、小嶋と対峙している葛葉たちを見て言う。
「やる気がないというよりは邪気がないんだ。まるで・・・俺たちをからかって遊んでいるような・・・」
大塚も葛葉を見て言う。
彼らが狐だという葛葉を見逃してしまったのは、葛葉にまったく邪気がないのもあったのだ。
「あのね〜、あのきつねさんはあそびにきたの〜。」
不意に姿をあらわした駒子は想司のお菓子に手をのばしながら言う。
しかし、想司は駒子の手が届く前に袋をさっと上に持ち上げてしまった。
「う〜!おかし〜っ!」
駒子はぴょんぴょんと飛び跳ねてお菓子を取ろうとするが、どうにも袋に手が届かない。
「こらっ!意地悪するな。」
大塚が想司からお菓子を取り上げて、駒子に渡す。
「遊びにきたってどういうこと?」
「きつねさんは、たのしいの〜。」
ニコニコ顔でお菓子を頬張りながら言う。
「きつねさんはこわくないの。わるいきつねじゃないの。」
「悪いきつねじゃない・・・?」
羽島がもう一度葛葉の方たちを振り返ると、そこにはすっかり狐の姿になった葛葉が笑っていた。

「ほほほ、面白いわ、人の子よ。長くを生きたようだが、妾に比べればまだまだ子供よ。」
さっきまで葛葉が着ていた着物を羽織ったまま、6尾の尾っぽをしならせて高笑いする。
「妾は都は伏見の宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)様にお使えするお使い狐ぞ!人の子なんぞに対峙できるものかえ?」
声を響かせて笑う葛葉を、今一歩近寄れぬ小嶋が悔しそうに睨みつける。
ところが、その間に割って入ったものの存在が状況をひっくり返した!
「伏見の狐が何だというのだーーーーーっ!」
大声で怒鳴りながら割り込んできたのは、さっきまで壁の向こうで気絶していた海塚であった。
海塚の乱入に小嶋も葛葉も凍りつく。
そりゃあ、いきなり白いふりふりエプロンにミニスカートメイド服姿の筋骨隆々なオヤジが乱入してきたら固まりもするというものだ。
「我輩は萌えの女神・アリアリ様にお仕えする大魔王・海塚 要様だーーーっ!!!」
見ていた5人も頭を抱える。
ただ1人、駒子だけはケラケラ笑いながらお菓子を食べていた。

「くだらないわ・・・まったく興冷め。」
そう言うと小嶋は、ふいっと横を向きそのまま姿を消してしまった。
「なんと!逃げるとは卑怯なり!我輩の力の恐ろしさ思い知ったかっ!」
海塚は気を良くしたのか、高笑いをするが・・・
「甘いなっ☆魔王なんてまだまだだねっ!!」
海塚の高笑いを遮るように、想司が飛び出した。
もちろん衣装は海塚に負けず劣らずフリフリ派手派手だ。
「・・・なんなんだありゃぁ・・・」
羽島は妖しいオヤジと少年のバトルを眺めてぽかんと呆気にとられた。
「・・・気にするな。理解することは不可能だ。」
大塚が同情を込めて羽島の肩にぽんと叩く。
「それより狐ですわ!」
はっと思い出したように、天薙が葛葉の姿を捜し求める。
いつの間にか葛葉は姿を消していた。
「逃げた・・・?」
気がつけば、参加者たちの姿もない。
「きつねさんはあっちにいるよ〜」
駒子が境内の方を指差して言う。
姿を消していても同じ霊の駒子にはわかるのかもしれない。
「あっちだな!」
そして、羽島、大塚、天薙は立ち上がって、境内へと駆け出した。

◆ひゃくものがたり
「葛葉っ!」
寺の中から駆け出すと、そこには葛葉と他の参加者たちが立ってこちらを見ていた。
「あれ、今年の人の子は勘の良いのが揃って居るの。」
葛葉は再び人の姿をとり、飛びたしてきた面々を見てクスクスと笑う。
「ほんに、今宵はたのしゅうございました。姫さま。」
葛葉の隣りに控えていた一人もそう言って笑い、笑いはそこにいるものたちの間に広がった。
「なんなんだよ一体っ!」
クスクス笑うだけの葛葉たちに、羽島が怒りをあらわにする。
しかし、葛葉たちは何も答えず、ただクスクスと笑っている。
「馬鹿にするのもいい加減にしろよっ・・・!」
羽島が今度こそ掴みかかろうと構えた時に、葛葉たちの中から悲鳴が上がる。
「!」
いつの間にか後ろへと回り込んだ司が、1人の女を捕まえている。
「狐落しも私の仕事のうちですからね。私は加減いたしませんよ。」
狐封じの印だろうか、司が何事か呟くと、司に捕まれた女は悲鳴を上げた。
その姿を見て葛葉は顔色を変える。
「ああ!そのように無体をしないでおくれ、妾たちは夏の夜を涼みに参っただけなのじゃ。」
「はぁ?なんだって?」
葛葉は流石に神妙な顔になり、笑顔も消える。
「妾たちは毎年こうやって人の子に怖い話をしては驚かせて、その様子を見て楽しんでおったのじゃ・・・」
葛葉の言葉に合わせるように、他の参加者たちも狐の姿へと戻ってゆく・・・
結局、羽島、大塚、天薙、司などネットの書き込みを見てやってきた者たち以外はみんな狐だったのだ。
「まぁ、サクラの方ばかりでしたのね。」
その様子を見て天薙が呆れたように言う。
司も手の中でもとの姿にもどった子狐をそっと地面に下ろす。
「いつもならば、人の子を驚かせて終わりなのだが、今宵は良くわからぬ者たちが多くての・・・なにやら面妖な騒ぎになって参ったのでこのまま姿を消してしまおうかと思ったのじゃ。」
しょんぼりとそんな話をする葛葉がなんだか可哀想になってくる。
驚かしに来ていただけで、たいした悪さはしていない。
「まぁ・・・別に悪いことしてるって訳じゃねぇしな・・・」
羽島もすっかり怒気を抜かれている。
「すみませぬ・・・私たちも悪気があってのことではないので許してください・・・」
葛葉の回りに控えたみんなも口々に謝罪を述べる。
流石にここまで言われると、誰もそれを責められるものは居ない。
「これに懲りてあまり人を驚かすようなことはなさらないことですわ・・・」
天薙がそう言うと、葛葉たちは目に涙を浮かべて喜んだ。
「許してもらった御礼に、狐の術をそなたらに授けて進ぜましょう。」
葛葉は目元の涙をぬぐうと、みんなの前に歩み出た。
「これは狐が人を化かす時の術、変化の術です。狐には秘術中の秘術なのです。」
葛葉の声に一同が息を詰める。
狐の秘術?
術者や霊能者である一同には酷く魅力的なものだった。
人ならざるものの術を得ることなど、通常ありうることではないのだから。
「よろしいですか皆様。まず目を閉じて、右手をお腹に当てます、次に左手を頭上にかざし・・・」
葛葉はゆっくりと術の手法を説明する。
皆は言われるままに目を閉じ、指示に従った。
何かおかしな事をすればすぐに対処できるように警戒を怠ることだけは忘れなかったが・・・
「最後に左足の足首を、右足の膝に軽く当て・・・そうです、鶴のように足を折って・・・そのまま強く念じてください・・・静かに・・・深く・・・己が変わる姿を念じながら・・・強く・・・」
みんなはじっと目を閉じ、深くそれを念じた。

「・・・何やってるの?」
どの位たっただろうか。
不意に声をかけられて、羽島、大塚、天薙の三人ははっと我にかえった。
目を開くと、目の前に眉をしかめた小嶋が立って?いる。
「人の趣味はとやかく言うつもりはないけれど・・・無人寺の境内で変なポーズで大人3人が突っ立てるのは異様よ?」
そう言われて、葛葉に言われたままのポーズで固まっていた3人が互いの姿を見つめあう・・・
「なっ、なっ・・・なんだこれはっ・・・!」
羽島が怒りと羞恥に震えた声で言う。
「たばかられた・・・」
大塚は辺りを見回して、狐たちがすっかり姿を消しているのを見ると拳を握り締めた。
「・・・」
天薙は恥ずかしさに言葉も出ない。
小嶋は皆の背後にある寺のお堂の屋根に座っている司に声を掛けた。
「あなたはそこで見ていたの?」
司は少し苦笑いすると言った。
「・・・狐は化かすものだと相場は決まっているのでね。」
その言葉に変なポーズで思いっきり化かされた3人は絶叫した。
「馬鹿狐ーーーっ!」
「こんなの記事にならないじゃないかーーーーーっ!」
「お、お嫁にいけなくなってしまいますっ!!」

そんな様子を空では大きな月が見下ろし、狐たちがまるで笑っているかのように、風の音だけが辺りに聞こえているのであった。

The End ?
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0291 / 寒河江・駒子 / 女 / 218 / 座敷童子
0382 / 小嶋・夕子 / 女 / 683 / 無職
0759 / 海塚・要 / 男 / 999 / 魔王
0424 / 水野・想司 / 男 / 14 / 吸血鬼ハンター
0790 / 司・幽屍 / 男 / 50 / 幽霊
0328 / 天薙・撫子 / 女 / 18 / 大学生(巫女)
0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌のルポライター
0871 / 羽島・英 / 男 / 23 / インディーズバンド・ボーカリスト/呪歌士

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

今日は、今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
お話の方はこんな展開となりましたが、如何でしたでしょうか?
実は狐たちの悪戯・・・と言うことで小嶋さんはまたもやたいした食事にはありつけなかったようです。本当の百物語というよりは、狐にたばかられたドタバタ騒動になってしまいました。いつか・・・小嶋さんが思いっきり食事にありつけることをお祈り?しております。これからも頑張ってください。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。