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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:館〜第六室〜
------<オープニング>--------------------------------------
 この地にそびえ立つ年季の入った館。
 その玄関先に、女は立っていた。
 年の頃、二十歳過ぎだろうか。
 生気を失ったその顔には、満面の笑い顔が浮かんでいる。
「ふふふ……」
 女は風に髪を振り乱しながら、中へと入っていく。
「六室目……金塊ね」
 そして女は館の中へと消えていった……。

「ふう、煙草も高くなったもんだぜ」
 草間は、なくなった煙草を買いに外に出て帰ってくるところだった。
 そんな時、頭上を恐ろしく大きなカラスが飛翔していくのを見た。
「で、デカイぜ。あんなカラスいたのか?!」
 そして興信所の前にあるベンチの背もたれに着地するカラス。
「これってもしかして、使い魔か?」
 それはくちばしに例のごとく招待状がくわえらえていたからだ。
「もらうぜ。今度は死なないでくれよ」
 するとカラスは、バサリと翼を羽ばたかせ、何処かへと去っていった。
 興信所に入り、招待状を見ると、
『第五の関門突破、おめでとうございます』の文字が加えられていた。
「それにしても、主は俺達を試して、なにをさせようってんだ?」
 疑問に思う草間だった。

◎美桜の策略
「いい? 色々な草花に、この館で何が起こっているのか、聞き込みをするのよ」
 白い水平服を着た神崎美桜(かんざき・みお)は皆より一足早く、いずれくるであろうこの館に来ていた。そしてアムタと式神白虎に、呪縛符と浄化符をそれぞれの背に貼り付けた。
「危ないことをさせてごめんなさい……。でも、危ないと思ったら無理せず帰ってきてね」
 こうして、美桜は皆が待っている草間興信所へと向かったのだった。

 興信所には、既に都築亮一(つづき・りょういち)が到着していた。
 シュライン・エマの淹れたコーヒーを飲んで、いつもながらに無口な都築である。
「あ、そうだ。美桜さんはどうしたんだ?」
 草間は大量の資料の影に居て、てっきり美桜も来ていると思っていたらしい。
「ええ、今に来ますよ。偵察と言って、先に館を巡り歩いているかと思います。アムタにも白虎にも、偵察の義務は与えてありますからね」
 呼び鈴が鳴る。恐らく美桜だろう。
 シュラインが出ると、案の定美桜だった。
「どう? 怪我とかしてない?」
「ええ、大丈夫ですよ、シュラインさん。でも、一番気がかりなのが、あの子達です」
 心配そうに外の方を見る美桜。
 そして都築が立ち上がった。
「草間さん。早く主を引きずり出した方がいいです! こんな子供じみた茶番、俺はもうウンザリです!」
 いつになく激しい口調になる都築。無理もない、彼も人間だ。
 あんな閉鎖された空間に、今まで五つも入れられ、主は密室でのゲームに明け暮れる。そしてそれだけで帰れればいいものの、一晩過ごせというのが彼にしてはもはや限界点なのだろう。
「亮一くん。言いたいのはよく分かるよ。俺も同じ意見だ。よし、今回は短期決戦だ。なんとしても館の秘密を暴く! 最後のゲームの後、邪魔する者は倒し、館をまんべんなく探して主の居場所を探る。いいか、みんな!」
 クスリと笑ってシュラインが言う。
「面白そうね。マタタビスプレー、万が一のために持っていきましょうか」
 美桜も真摯な表情になって、決意を述べる。
「私も、皆さんと一緒に行動を共にします!」
 すると草間は、すっくと立ち上がり、結界鞭を持ち出して早速戦闘態勢だ。
「よし、みんな、いくぜ!」
「行きましょう!」
「猫なんで踏んづけちゃうんだから」
「アムタ、白虎、無事でいて……」
 それぞれの思いを抱いて、四人は館へと赴いたのだった。

◎金の部屋
 館に着いたとき、アムタと白虎は無事だったが、符はズタボロにやぶけて使い物にならなくなっていた。それだけ、彼らを護った、という証でもある。
「ご苦労様……、ご苦労様……。ごめんね、こんなことして……」
 草間を初めとした三人は、やけに悲しむ美桜が不憫でならなかった。
「そろそろ、負担が来て居るんです、美桜に……」
 都築がポツリと言う。
 このところの激しい密室でのゲームに、美桜は疲れもピークにさしかかっていた。
 だが、今回が最後のゲーム。泣いても笑っても、これで終わりにすべきなのだ。
「亮一兄さん。二人とも、呪結界に跳ね返されて、身動きが出来なかったそうです……」
「分かった。おそらくこの呪結界は、主が死なない限り、生き続けるものなんだろうな……」
 そして草間がいつになく強い勢いで、ノッカーを叩く。
 すると中から、毎度の事ながら執事が出てきた。
「お揃いのようですね。では、お上がり下さい」
 都築と草間は、これだけ広いホールがありながら、二階がないことに気づいた。しかもだ、二階に行くためには、仕掛け階段を下ろす必要があることを知る。
「これは……、今回の最後のゲームに関係ありそうですね」
「ああ、あまりにもきな臭い階段だ。いいさ、時間はある。ゲームが終われば、情報収集して今日はおさらばするさ」
 執事は四人を促した。
「今回の部屋は、こちらでございます」
 草間が入った途端、そこにはあって困らないものがたくさん転がっていた。
 金塊である。
「では、これにて」
 執事の対応も、今回に関してはおかしかった。食事のことも言わなかったし、一晩過ごせとも言わず仕舞い。
 変だと思ったとき、主からの霊波での会話が始まった。
『ようこそ、最後のゲームへ』
 都築が怒ったように主へ返答を促す。
「どういうことだ、主! なぜ俺達をこんなゲームに突き落とすんだ!」
『ふふふ、知りたいですか? 少しだけお話しても宜しいですが、お仲間がもうゲームにはまりこんでしまっていますよ』
 そうなのである。草間は金に目がないのだ。
「わははは、純金純金! これだけあればいいかな、いや、もうすこし……」
「く、草間さん……」
 幻滅する都築。それを見越してか、シュラインが草間を引っ張る。
「ちょっと! あんた、それでも探偵か!」
「探偵。でも金の前では……」
「あんたねぇ! 少しは反省せんか〜!」
 シュラインは思いっきり頬を張ったつもりだったが、それも焼け石に水だったらしく。草間は相も変わらず金塊集めに夢中だ。
 三人は荒れ狂う草間を余所に、突然天井から降り出してきた金塊に頭を叩かれた。
 大きくなっていく天井の穴。丁度四畳ほどだろうか、かなり大きな穴から、ザラザラと金塊が際限なく降り注ぐ。
「都築ちゃん、変よ! これ、罠だわ!」
 シュラインが気づく。同様に都築も気づいていたようだ。
「これ、金メッキの鉄ですよ、純金なんかじゃない! 草間さん、どいて下さい!」
 美桜は機転を利かせて、草間にタックルする。そうすると、ようやく大きな罠の空間が出来た。
 直後。
 もの凄い地響きと共に、四畳はある金塊の塊が落下してきた。無論、鉄に金メッキが施された偽物である。
「は! 俺は何を……」
 草間は我を取り戻した。
「ようやく目覚めてくれましたか、草間さん。それにしても、相当危ない所だったんですよ……」
 美桜は半べそだった。もう一頃自分が草間に飛び込んで行かなかったら。それを思うと、恐ろしさが涙に変わってしまう。
「その金貨、全部偽物です、草間さん。お金は働いて得ましょう?」
 主の声が聞こえる。
『おみごと。おみごとですよ、みなさん。最後のゲームは、これをもって終了しました。どうぞおくつろぎ下さい』
 それでも納得いかないのは四人だった。草間はタンカを切る。
「おくつろぎ下さい、だと? ふざけるな! 俺達はこれからが本番だぜ」
『ほう、そうですか。ではご自由に館内をご見学下さい。私は水先案内人を務めさせて頂きましょう』
 だが納得いかないのは都築だった。
「水先案内人? あなた自身が案内すればいいことでしょう?!」
『私が話している位置は、あなた方から遠く離れています。ですから、こうして霊波で交信しているのですよ。ご理解願えますか?』
 どうやら今回も、主本体は見つけられないらしい。諦めた四人は、これからどうするかを決める。
 都築が推測するに、
「今の罠が引き金になって、仕掛け階段が落ちたかも知れません。一階はもはや全室閉じられていますし、あっても厨房だけでしょう。探すなら二階だと、俺は思います」
ということだった。
 美桜もその意見に同調して、一緒の行動に出るよう要請する。
「私も亮一兄さんに着きます。いいでしょう?」
「仕方ないな。だが、なにがあるか分からないしな。よし、美桜は俺と一緒に来い。シュラインさんと草間さんはどうしますか?」
 シュラインは口が減らない。
「そうね、武彦さんにこの部屋の掃除でもさせておくわ。玄関も調べなくちゃね。恐らくだけど開いてないと思うんだけどね……」
 草間は手に持ちきれないほどの偽金貨をかなぐり捨てて、シュラインと一緒に行動することを申し出る。
「そ、そりゃあ、俺が悪かったさ。反省もしてる。だけどよ、ここにあるものが悪いんだぜ。誰でも飛びつきたくなるのは分かってるだろうが!」
「それだけ意志が弱いってことじゃないの。武彦さん、私そういうところが幻滅しちゃうのよね」
 草間は出る言葉がなかった。
 とりあえず、四人はこの部屋から出ることを先決とした。まさかまた猫が待ちかまえているのではないかと、シュラインはマタタビスプレーを用意する。
 ところが。扉を開けても、猫の姿は見あたらない。どこにも居ないのだ。
「よし、これで館の探索が出来る! 皆さん、行きましょう!」
 都築が戦闘立って、他の三人を導く。遅れを取ったのは草間であった。
 憶測通り、仕掛け階段は落ちていた。これで二階への通路ができていることになる。
 美桜に足下に気を付けるよう促しながら、ゆるやかなカーブを描いた階段を上りきる。
 右に不気味な部屋が一室、左にも平凡な部屋があった。
「草間さん、シュラインさん!」
「どうしたの?」
「玄関の扉、開いてましたか?」
「ああ、開いているぜ。これでいつでも帰られる。心配するな、ここは俺が受け持つ。シュライン、二人に付いていってやってくれ」
 そう言われて、ハイそうですかというシュラインではない。一人残して、何かの危険な目に遭う可能性もあるのだから。
「うーん、大丈夫よ、武彦さん。もし閉じちゃったら、都築くんに壊して貰えばいいんだから、ね、いきましょう。二人だけじゃ大変だわ」
 草間はシュラインに言われて、ようやく探索する気になった。
 階段を上り、都築と美桜に合流する二人。まずはどちらから探索すべきか、ということだが。
 美桜は階段を手探りして、特殊能力を引き出す。
「分かったわ」
「ん? どうだった、美桜」
 都築が問う。
「右は死体、左は書籍の部屋よ」
 その時、主の声が聞こえた。
『右の部屋は、是非見ておいて下さい』
「何故だ?」
『あなた方も下手をしていればこういうことになっていた、という証です。良い教訓になるでしょう』
「教訓も何も! あんたが殺したのも同じだろう?!」
『ミイラ取りがミイラになる、その言葉通りですよ。さあ、まずは右の部屋へ』
 四人は簡単に開いた部屋をのぞき見る。
 全部で十体くらいだろうか。顔を傷つけられたり、恐怖の形相で息絶えて居る者もある。
 このまま放置しておくのも不憫だと思い、都築は式神朱雀を一体だして、遺体全てを焼き尽くし、無に返した。
「これで、浮かばれることでしょう。南無阿弥陀仏……」
 他の三人も、合掌し、そしてこの部屋を離れる。
『ふふふ、さすがは陰陽師ですね。死者を冒涜せず浄化するとは』
「俺は陰陽師ではありませんよ、退魔師です」
『ほう、そうでしたか。それでは、左の部屋にご案内しますが、ある程度の書簡はこちらに預からせて貰いました』
 草間が割って入る。
「なんでそんなめんどうなことを?」
『ヒントを与えないためです。いえ、あなた方と会う日も近いですから、そういう配慮は要らなかったかも知れませんがね……』
 部屋にはどういう書簡が置いてあるのか。
 四人は左の部屋へと入った。
 見るからにそこは書庫と呼べるくらいの、大きな間取りを持った部屋だった。
 しかし、大方の書籍は紛失したか主が謎を隠すために、何らかの仕掛けがあるか、だ。
 あるのは、ドラキュラにまつわる本ばかり。これが何の意味をもつか、後でわかってくるのだが、四人にしてみれば単なる伝奇本でしかなかった。
「ドラキュラですか。それにしても解せませんね、あなたとドラキュラ、何の関係があるんです?」
 その疑問に、主はゆっくりと話した。
『ドラキュラ、それは人々が作った仮のものなり。真のドラキュラは、我が心根にあり……』
 四人は意味がよく分からなかった。
『さあ、これで大方の謎のヒントを出したつもりです。そしてあなた達は、次回出す私の召還に応じざるを得なくなります』
「ふん、上手い方法だぜ。策略家でも、こうは上手くいかないな」
「まったく同意見ですよ。俺達を使ってどうしようっていうんです? 主よ」
「まどろっこしい真似はやめて、さっさと姿を現したらどうなのよ!」
「そうです、こんな面倒なことをやらされる身にもなってください!」
 四人は口々に主への不平不満を爆発させた。
 それでも主の返答はない。おそらくほくそ笑んでいることだろう。
 こうして四人は書籍の部屋を出て、玄関への道へと階段を下り始めた。
『お帰りですか?』
「ああ、今回は泊まらずにな。もうここのベッドも飽きがきたんでね」
『分かりました。時期にそちらへ最後の招待状を持ちながら参りますので』
 四人は鍵の掛かっていない玄関を、無事に出ることに成功した。

「しかし、変ですね。最後のゲームはさほどでもなかった。そして館を探索した者の末路とドラキュラの書籍をみせてくれた……。これは主の心境の変化なんでしょうか?」
 都築が謎について語る。
「亮一兄さん、私、学校の図書室でみたことがあるわ。ドラキュラっていうのは人が作り出した名称だけど、本当はブラド・ツェペシュというそうよ」
 美桜の発言を境に、草間もシュラインも、そのことを思い出していた。
「そうか、ブラド……」
「なにか、その辺あたりに主の謎がありそうね」
 外は夏とはいえ、すこしばかり冷え込んできた。四人は暗闇の中を、興信所に向けて歩き始める。
「よし、なにか手がかりがないか、ピザでも食べながら調べてみよう。賛成の人は?」
 草間が言うと、皆が手を挙げる。
「決まりだな。よし、まずは帰ろうぜ」
 こうして、四人の最後のゲームは終わりを告げ、謎の核心に突き進むのだった。

                 FIN

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086 シュライン・エマ(しゅらいん・えま) 女 26歳
         翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0413 神崎・美桜(かんざき・みお) 女 17歳 高校生
0622 都築・亮一(つづき・りょういち) 男 24歳 退魔師
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■         ライター通信          ■
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○都築さん、神崎さん、9回目の御登場ありがとうございます。
○シュライン・エマさん、8回目の御登場ありがとうございます。
○最後のゲームが終わりました。簡素なものでしたが、これによって
謎が少しずつハッキリしたのではないかと。え? まだ足りない?
○しかし。最終章である次回では、この謎もハッキリします。
主が何を思っているのかも、です。そしてこのゲームをさせた
理由は、別の意味で綴られる予定です。
○次回最終回の発注は、今週木曜日の午後10:00までに
お願い致します。次回、都合の悪い方のために、水曜午後から
窓口を開けますので、「早く最終章書いて!」という方にも
応じるつもりでいます。でも全員が揃わないと書けませんので。
○とりあえず、今週木曜日の午後10:00までに発注お頼み
申し上げます。
○次回、猫との戦闘があります。そして主との戦闘もあるかも
知れません。まだ、この辺は決めてませんので。
○いずれにしても、謎解きメインでいきますので。宜しくどうぞ。
○それでは、近いうちにまたお会いしましょう。
                   夢 羅 武 市 より