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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


【インターネットの幽霊】
◆おともだち
大好きだったお友達の奈美ちゃん。
病気で死んでしまった奈美ちゃん。
6月の寒い雨の降る日にお葬式にも行った。
奈美ちゃんは綺麗にお化粧してお棺にはいってた。
奈美ちゃんはもう居ない。
奈美ちゃんはこの世にもう居ない。
私は悲しくて沢山泣いた。
ずっとずっと泣いてた。

でも、奈美ちゃんはインターネットの中で生きてた。
奈美ちゃんのHPでは奈美ちゃんが今も生きてる。
毎日、奈美ちゃんの日記を読むのが楽しみ。
学校ではあえないけど、インターネットには奈美ちゃんが居る。
奈美ちゃんはインターネットの幽霊になったんです。


雫はBBSに書き込みを見て奇妙な気持ちになった。
子供が書いたのであろう文章のたどたどしさとか、幽霊になったお友達の話と言うのがなんとも奇妙な感じだった。
気持ちが悪いと言っては言葉が悪いが、漠然とした居心地の悪さのようなものを感じる。
悪戯かもしれない。最近は無責任な書き込みをする連中もいるから、そいつらの悪戯かもしれない。
「悪戯だったら許せないなっ!」
でも・・・
なんだか気味が悪い。
死んでしまったはずの幼い少女がPCの前でぼんやりとキーを打つ様を思い浮かべて、背筋がゾッとするのを感じた。
「悪戯なのか・・・な・・・?」
真実は調べてみないとわからない。

◆そこに居る・・・
「なんだか・・・自分のことみたい・・・」
放課後立ち寄ったゴーストネットOFFで、大矢野 さやかは雫のBBSの書き込みを見て、去年の六月に亡くなった恋人だった先輩を思い出した。
泣き暮らしていたあの頃の自分が、この書き込みの主と重なる。
(もし、先輩がHPを持っていて、いなくなった後も更新されつづけてたら・・・)
大矢野も同じようにそのHPを毎日見に行っただろう。
失ってしまった温もりを少しでも取り返したくて。
そこに先輩がいるのだと信じたくて。
「これ・・・悪戯だったら許せないな・・・」
それは、奈美ちゃんを大事に思う人たちへの裏切り行為に等しい。
人を大事に思う気持ちを弄んじゃいけない・・・
「その書き込みが気になるの?」
「え?」
不意に声をかけられて慌てて振り返ると、そこにたっていた人物は大矢野を顔をみて一瞬驚く。
「あ・・・変な時声かけちゃった?ゴメン。おどかすつもりは無かったんだ。」
そう言って声をかけた人物・・・大塚 忍は大矢野にハンカチを差し出した。
大矢野は、一瞬、大塚がハンカチを差し出したのかわからなかったが、はっと自分が涙をこぼしていたらしいことに気がつく。
泣く・・・というほどではなかったが、まだ傷癒えて日も浅い所為か、少し感情的になったのかもしれない。
「あ、あ、すみませんっ!大丈夫です。」
大矢野は自分のバッグからハンカチを取り出すと涙をぬぐった。
「ごめんなさい、私のほうこそ・・・」
「あ、いや、気にしないで。」
大塚は慌てた様子を飲み込み、大矢野の隣りの席に座った。
「俺も・・・この書き込みに興味があってね。ちょっと調べようかと思ってたんだ。」
「そうなんですか・・・」
「うん、それでこれから調べてみようかなと思ったら、キミが同じ書き込みを見てるのを見かけて声をかけたんだ。」
そう言って大塚は大矢野に微笑む。
さっぱりとしたその笑顔に大矢野は一瞬見とれた。
バサッと流した髪を見てもあまり格好に頓着が無いように思えたが、眼鏡の向うのその涼しげな瞳は十分魅力的だった。
一瞬、新手のナンパなのかと警戒もした大矢野だったが、その笑顔にそんな疑念は打ち消される。
「私も調べようと思ってたんです・・・ご一緒させてください。」
自分でも思い切ったことを言ったなと思ったが、一人で調べるには限界があるし・・・と自分の中で納得させた。
大塚は一瞬考えたが、何か危険が付きまとうようなこともあるまいと判断する。
「ああ、こちらこそよろしく。」
大塚はそう言って自分の名刺を大矢野に手渡した。

◆デジタルライン
宮小路 皇騎はBBSの書きこみを見てから、一心不乱にキーを叩きつづけていた。
それはひどく興味を引く書き込みだった。
デジタルで構成されたこのネットワークの世界に、アナログな存在である幽霊は存在しうるものなのだろうか?
宮小路は雫のBBSに書き込まれたデータから、書き込んだ主を検索する。
オーソドックスな手法だったが、ネットワーク上に残されたものは全て足跡のようなものだ。
その足跡を見るためには技術と知識が必要だが、残された足跡は必ず主の元へと続く。
とりあえず、書き込みの主の契約するプロバイダーを特定して侵入し、そこからその持ち主の履歴を洗い出だす。
もちろん、侵入は違法であるので慎重に行う。
宮小路の実家のコネを使えば閲覧もできるだろうが、それよりは己の技術を使うことを選んだ。
持ち主の足取りは至ってシンプルだった。
毎日毎日、しかも日に何十回も同じ場所へのアクセスだけをしている。
「ここか・・・」
示されたアドレスにアクセスする。
そこは良くある広告掲示型の無料レンタル日記サイトの一つだった。
これならば難しい知識を必要とせず、子供であっても簡単に借りられる。
もしかしたら親が借りてあげたのかもしれない。

『奈美のDIARY』

可愛らしいオレンジのフォントでつけられたタイトルの下に最終更新日が表示されている。
それは今日の日付だった。
日記の内容は他愛も無いものだった。
今日はいい天気だとか、何処とかの公園は花がいっぱい咲いているとかそんな感じだ。
その中に一人だけ人物の名前が出てくる。
「山野 美和ちゃん」
この日記を書いている人物はこの美和ちゃんと言う人物をひどく心配していた。

美和ちゃん大丈夫?
学校へ行ってね。
ご飯もちゃんと食べてね。
奈美は平気だから、美和ちゃんも頑張って・・・

宮小路は慌てて先程までアクセスしていたプロバイダーのデータバンクの中を検索する。
山野という契約者が数人HITする。そこから先程たどって来たIPと同一のデータを検索すると・・・
「いた。」
山野 雄一と言う男の名前が該当者としてあがる。
多分、奈美と言う少女の家族であろう。
データバンクの中には住所や電話番号も記載されている。
これでBBSに書き込みをした主は特定した。
しかし、肝心の奈美ちゃんの存在は確認できない。
レンタル掲示板ではアクセス数が膨大すぎて絞り込めないのだ。
「奥の手か・・・」
宮小路はそう呟くと、キーボードから手を離しリラックスする姿勢をとる。
腰掛けていた椅子の背もたれに体を預け、静かに眼を閉じた。

ネットワークダイブ

宮小路の奥の手だった。
彼の精神はそこにあるデジタルなネットワークに侵入する。
視覚できない情報を光彩と不可思議な図形に感じながら、デジタルの海へと深く潜り込んでゆく。
なんだか霊視をしているときに似ているなと宮小路は思う。
人間が調べきれないデジタル信号の波を感じ取るその作業は、目に見えぬ気配を追い求めるのに似ている。
『これか・・・?』
宮小路は膨大な情報が物凄いスピードで流れる流れの中で、小さなきっかけを見つける。
それは大河の川底から小石を拾うようなものだったが、宮小路の勘がHITを告げる。
この感覚こそが宮小路のネットダイブの真価なのかもしれない。
宮小路は見つけた情報を手繰る。
細々としたそれを辿ってゆくと・・・
『?』
たどり着いたその先は、山野 美和と同じその場所だった。

◆影の向う
「Thank you、助かったよ。」
大塚はそう言うと携帯電話を切った。
電話の相手は何度か取材で一緒になったことがある宮小路だった。
ネットワークに詳しい彼ならば・・・と思い電話してみたのだが、彼も同じことに興味を持っていたらしく細かい情報を教えてくれた。
「奈美ちゃんと美和ちゃんの居場所がわかったよ。」
大塚は隣りにいる大矢野に言う。
「美和ちゃん?」
「あの雫のBBSに書き込んだ本人さ。」
「すごい、そんなことまでわかっちゃうんですか?」
「まぁ、彼は特別かもね。」
大矢野も色々調べようと頑張ったのだが、あまり上手く行かなかった。
「奈美ちゃんというのは本当にもう亡くなっているみたいだね。あの書き込みにもあった通り今年の6月に亡くなってるらしい。」
大塚は電話をしながら取ったメモを見ながら細かく確認している。
「住所はここのすぐ側だ・・・行って見るか。」
「はい。」
大矢野は目を輝かせてそう答えると、店の清算に向かう大塚に続いて立ち上がった。

「住所だとこの辺だな・・・」
住宅街の真中で立ち止まる。
似たような家が立ち並んでいる。どうやら建売で一気に造成された地区らしい。
ネットで簡単な地図だけは調べてきたのだが、こう似たような家が立ち並んでいると迷う。
「ちょっと待っててください。私探します。」
大矢野は地図を見ながら悩む大塚にそう言うと、カバンの中から小さな鈴を取り出した。
綺麗な紐の先に結ばれたその鈴は大矢野の手の先でチリン・・・と涼しげな音を立てる。
(お願い、私に女の子の居場所を教えて・・・)
大矢野は強く願う。
結界を張る応用だ。広い範囲に結界を広げてその中のものを探る。
女の子・・・美和・・・
小さな情報を少しずつ重ねてゆく・・・

チリン・・・

鈴が一度だけ澄んだ音を響かせる。
「見つけました。この先です。」
大矢野はそう言うと大塚の手を引いて走り出した。
少女らしき気配は見つけた。
しかし、その少女と一緒に黒い影も見つけてしまった。
「急がないと・・・」
嫌な感じの黒い影は少女の気配にぴったりと張り付いていた。

「ここです。」
大矢野は一軒の家の前で立ち止まる。
「うわ・・・」
その家の前に立つと大塚にもそれは感じられた。
黒い影・・・
それは呪詛に感じるような束縛する強い思念。
「まずいな・・・」
大塚が思わずそう呟くほどに、その影は色濃くこの家を取り囲んでいた。
「行きましょう。」
「え?あ、キミ・・・」
大矢野は思い切った行動に出る。
この家の中に少女しかいないのは、先程、鈴の音で探った時にわかっていた。
迷わずドアノブに手をかけるとそれを回す。
鍵はかかっていなかった。躊躇わずにそのドアを開くと家の中へと踏み込む。
「2階ですね。」
そう言うと大矢野は二階へと上がっていった。
「待って。」
大矢野の大胆な行動に驚いたが、この気配の濃さがただ事ではないのを感じていた大塚も家の中へと踏み込んだ。

◆あなたの隣りに
二回の突き当たりにある部屋のドアを開けると、中には一人の少女が机に向かって座っていた。
机の上にはノートPCが広げられている。
「美和・・・ちゃん?」
大塚が大矢野を自分の後ろに下がらせながら問う。
(この少女を取り囲むこの黒いモノは・・・呪詛?)
大塚の声にうつろな目を向ける。
「助けて・・・」
少女の口からこぼれるのは微かな哀願の声・・・
「!」
その声に二人は反応する。
咄嗟にその黒いものを祓おうと身構えた時・・・
「待って下さいっ!」
二人を引き止めるように青年が部屋に駆け込んでくる。
宮小路だった。
「その影を祓ってはマズイです。」
「どうして?」
大矢野はいきなり現れた青年に、疑問の目を向ける。
この影はどう見ても呪詛だ。そして、目の前の人間は助けを求めている。
宮小路は少女と黒い影に目を据えたまま言った。
「この影こそが山野 美和なんですよ。」
「え?」
「そして、そこにいる少女の中に封じ込められているのが、亡くなられた奈美さんです。」
「なんだって?」
大塚が思わず目を丸くする。
少女を取り巻くこの黒い影こそ、奈美という少女の亡霊だと思っていたのだが・・・
「奈美さんが亡くなられたのを諦められなかったこの少女は、彼女がこの世にとどまることを強く望んだ。その思いの強さが、奈美さんの霊を自分の中に閉じ込める呪詛となったんです。」
呪詛というのははっきりした形や儀式が必要ではないことがある。
強く思い願うこと。これこそが呪詛の真髄だ。
「この影を祓うことは、まだ生きているこの少女の命を奪うことになる・・・」
生霊・・・厄介な相手だった。
「私がやります。」
大塚と宮小路がどうしたものかと思案していると大矢野が申し出た。
「彼女の気持ちが浄化されればいいんですよね。」
そう言うと、黒い影に向けて大矢野は鈴を掲げる。
(お願い・・・私の声を聞いて・・・)
大矢野は涼しげな音色に祈りを込めた。
しかし、呪詛になるほどの強い思いを込めた影にその音色は届かず、逆に耳障りな邪魔を排除せんと大矢野に襲い掛かってきた。
「!」
「あぶないっ!」
大塚が大矢野を抱きかかえるようにして庇いながら、大矢野の前に印を切り突き出す。
「俺がおさえてるから、その間に。」
「は、はいっ」
大矢野は大塚に抱きしめられるような格好になっていることに戸惑い頬を赤らめたが、すぐに前を向き直るともう一度鈴の音に祈りを込める。

チリン・・・

鈴の音は部屋の中に静かに響き渡った。

◆さようなら
黒い影はゆっくりとその姿を変えてゆく。
涙にくれる幼い少女へと。
『奈美ちゃん・・・嫌だよ・・・』
友達の死を認められず、一人ぼっちに耐えられず、泣きじゃくる美和。
『ゴメンね。美和ちゃん。』
その隣りに立つ奈美は困った顔で友達を見つめる。
『でも、私もう行かなくちゃいけないの・・・』
『奈美ちゃん・・・』
『でも、すぐに戻ってくるよ。今度は何に生まれ変わるかわからないけど・・・きっとまた奈美ちゃんのところに戻って来れるように神様にお願いするよ。』
泣きじゃくる美和の肩をそっと抱くようにして言う。
『だからもう泣かないで・・・美和ちゃんが泣いてると心配だよ。』
「行かせてあげて・・・美和ちゃん。」
大矢野が美和に声をかける。
「美和ちゃんは早く天国に行かないと、生まれ変わることも出来ずに消えちゃうのよ・・・」
泣いていた美和が大きく目を見開く。
『そうなの?奈美ちゃん・・・』
美和は小さくコクンと頷いた。
「だから、笑っていってらっしゃいって言ってあげよう。ね?美和ちゃん・・・」
大矢野は胸の中で先輩を思い出す。
(私も先輩を笑顔で送り出さなくちゃいけない。)
この少女と同じで泣き暮らしていた自分・・・
『わかったよ、お姉ちゃん・・・』
美和は涙をぬぐって微笑んだ。
『バイバイ・・・またね・・・奈美ちゃん。』
『うん、またね。美和ちゃん・・・』
奈美は優しい笑顔を残し、空へと溶けるようにその姿を消していった・・・。

◆真実
「お疲れ様。」
大塚は大矢野の肩を叩くとそう言った。
美和の家を後にした一向は、雫に報告しておこうとゴーストネットOFFに戻ってきた。
生憎、雫は店にきていなかったがBBSに書き込みを残す。
「今回の立役者はキミだったよ。」
大塚の声に大矢野はポッと頬を赤らめる。
「そ、そんな・・・私はただあの少女の気持ちがわかっただけで・・・」
「それでも、彼女の気持ちをとかしたのは大矢野さんです。お手柄ですよ。」
宮小路がそう言って微笑む。
「あ、でも、宮小路さんもすごいです。宮小路さんがいらっしゃらなかったら、きっとあの影が美和ちゃんだってわからなかったです。」
「まぁ・・・蛇の道は蛇・・・ですね。」
そう言って再び微笑む。
美和の家を探り当てた後、宮小路はもう一度ネットにダイブした。
そこで美和に日記をつけさせられていた奈美に遭遇したのだ。
美和の体に取り込まれ、美和の為に日記を書きつづけていた少女。
「大塚さんにも助けてもらっちゃって・・・その・・・」
大矢野はもじもじと言葉を詰まらせる。
不意に美和を浄化するときに抱きかかえられていたのを思い出したのだ。
そのモジモジに大塚も思い当たる。
「ん?ああ、あの場合はね。まぁ女同士だし・・・」
気にするな・・・と言おうとした瞬間、凍りついた大矢野が目に入った。
「どうした?」
「お、女の方だったんですかっ!?」
大矢野の呟きに、後ろで宮小路が笑いを堪えて肩を震わせていた。
ギロッと宮小路ににらみを送ると、呆然としている大矢野になんと声をかけていいものかと思案する大塚なのであった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0846 / 大矢野・さやか / 女 / 17 / 高校生
0461 / 宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生
0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌のルポライター

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■         ライター通信          ■
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今日は。今回は私の依頼をお引き受けいただき、ありがとうございました。
こんな感じの結末になりましたが、如何でしたでしょうか?
大矢野さんは情報収集はあまりうまく行きませんでしたが、浄霊?では大活躍でした。
今後の活躍も期待しています。
では、またどこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。