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<PCシナリオノベル(シングル)>


激闘! すいか大会!!
●参加者大募集!
 どこまでも続く青い空、どこまでも続く青い海、どこまでも続く白い砂浜、そしてどこまでも続くすいか。
 まあ、すいかがどこまでも続いてどうするんだという話もあるが、それはさておき――中ノ鳥島の砂浜では、今まさにこの無数のすいかを使ったイベントが開催されていた。
「すいか大会……いつの間にこんなイベントが企画されてたのかしらね」
 水着姿のシュライン・エマは、砂浜にいくつも立てられたのぼりをしげしげと見つめていた。のぼりには『すいか大会、参加者大募集!』と書かれている。のぼりはまだ真新しいので、このイベントは今年から始まったばかりなのだろう。
 シュラインは視線をすっとずらしてみた。砂浜ではすいか割りを楽しんでいる者が居る。そしてギャラリーが手を鳴らしたり声をかけたりして、すいか割りの参加者を誘導していた。
 さらに視線をずらすシュライン。すいか割りの会場に隣接した会場では、多くの者がすいかを食していた。しかしその食べ方には違いがあった。
 ある者はコントのようにささささっと食べ、またある者はすいか半玉をスプーンで食べている。どうやら、早食いと大食いの大会が同時に行われているようだった。
 食しているすいかは、すいか割りの会場から運ばれてきていた。割って食べる、まさに一石二鳥なアイデアであった。
「なるほどね……面白そうだわ」
 この大会に興味を持ったシュラインは、すたすたと受付へ向かった。もちろん参加するためにだ。
「日頃の鬱憤を晴らすいい機会よね……」
 ……えっ?

●ルール確認
 参加受付を済ませたシュラインは、目隠し用の布と木の棒を受け取ってすいか割りの会場へ向かった。会場にはいつの間にかホワイトボードが運ばれてきていた。誰が何個割ったのか、きちんと記録されている。
「数多く割ればいいわけね。えっと、今の最高は……」
 現在の記録を確認するシュライン。今から頑張れば追いつけないこともない数だった。
「次、割られますか?」
 シュラインはスタッフから不意に声をかけられた。
「え? あ、はい。ええっと、目隠しをして手の鳴る方へ、『力いっぱい』ぶっ叩けばいいのね?」
 スタッフにルールの確認をするシュライン。微妙に何かが違う気がするのだが……。
「そうですね、まあそんな感じで」
 スタッフはさらりと答えると、すいかのセッティングへ走っていってしまった。えー……本当にそれでいいのか?
 シュラインは目隠しをする前にギャラリーを見回した。その中には、見知った顔もちらほらとある。
(武彦さん、居ないのかしら)
 なおもきょろきょろと見回すシュライン。だがギャラリーの中には見当たらない。もしやと思い、シュラインは早食い・大食い大会の会場を振り返った。案の定、そこには見覚えのある後姿があった。
「…………」
 シュラインは呆れたように溜息を吐くと、さっさと目隠しをつけた。

●実践あるのみ
 目隠しをつけて木の棒を手に持つと、シュラインの身体はスタッフの手によってぐるぐると回された。
(あっ……これ、まずいかも)
 身体を回されている途中で、シュラインははたと気付いた。方向感覚が、見事に狂わされてしまったことに。
 正直、シュラインの聴音を以てすれば、目隠しをしていてもだいたいの方向は分かる。だがそれは、方向感覚が狂わされていないという前提での話。
 このようにぐるぐると身体を回されてしまっては、自分が今どちらを向いているかはほぼ分からない。ギャラリーが移動していなければ自ずと方向も分かってくるだろうが、ギャラリーは移動する可能性がある。ギャラリーの声で方向を断定するのは、今回の場合は危険かもしれない。
(けど、仕方ないわね。えー……とりあえず、手の鳴る方、手の鳴る方へ……)
 シュラインの身体が回され終わると、ギャラリーからは一斉に声がかかったり、手が鳴らされたりした。
「こっちこっち! すいかはこっちだよ!」
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ♪」
「シュラインくん、すいかは友だちじゃないか!」
「向こうの言葉は嘘だよ! こっちが本当なんだから、早く早く!」
「はいはい、いいよ、いいよー。じゃあそこでくるっと1回転してみようか。で、にこっと微笑んで。あー、いいねー」
「私は学会に復讐してやるんだぁぁぁっ!」
「ほら、まっすぐ進まなきゃ! まっすぐだってば!」
 中にはすいか割りと全く関係ない言葉が混ざっているが、そんなことを気にしてはいけない。混乱させるのもギャラリーの役割なのだから。
(うーん、どれにしようかしら……)
 シュラインは複数の手の鳴る音から、何とか1つを選び出しそちらへと歩いていった。手の鳴る音は次第に大きくなってゆく。
(よし、ここね!)
 音が十分大きくなった所で、シュラインは木の棒を目一杯振りかぶった。
「てやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 そして渾身の力を込めて、木の棒をまっすぐに振り降ろした。
「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 男性の悲鳴が聞こえたかと思うと、すぐにザシュッと砂を叩いた音が聞こえてきた。呪ラインに伝わる手応えも、明らかにすいかのそれではなかった。
「なっ、なっ、何するんだ! あんた、俺を殺す気かぁぁぁっ!!」
 シュラインに激しく抗議する男性。シュラインはさっと目隠しを外すと、すぐさま男性に謝った。
「あ、ごめん! 手の鳴る手前を叩かなきゃなら駄目なのよね〜……わざとじゃないわよ? だから許して、ね?」
 何度も謝った結果、どうにか男性の怒りも治まったようだった。シュラインはスタート地点へ戻ると、もう1度目隠しをしてぐるぐると身体を回された。さあ、リベンジだ。
 またギャラリーから一斉に声がかかったり、手が鳴らされたりする。
「右、右! 右へ45度傾いて!」
「左、左! そこでアッパー!」
「いいね、いいね、それでいいよ……。んじゃ、ここらで思い切って、肩紐を外してみようか」
「まっすぐ、まっすぐ……あ! ずれてる、ずれてる! 左へ少し修正して!」
「ドリブル、ドリブル! そのままゴールへシュートだ、シュラインくん!」
 繰り返しになるが、関係のない言葉が混じっていても絶対に気にしてはいけない。混乱させるのもギャラリーの役割なのだから。
 シュラインは複数の手の鳴る音から、1つを選び出しそちらへと歩いていった。手の鳴る音は次第に大きくなってゆく。
(よし、今度こそ!)
 音が十分大きくなった所で、シュラインは木の棒を目一杯振りかぶった。
「せやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 そして渾身の力を込めて、木の棒をまっすぐに振り降ろした。
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 男性の悲鳴が聞こえたかと思うと――すぐにボグッと鈍い音が聞こえてきた。周囲が途端に騒がしくなる。
「え、どうしたの?」
 シュラインはぱっと目隠しを外した。目の前に、先程の男性が転がっていた。頭に大きなたんこぶを作って……。

●戦い終わって……
 ギャラリーを叩いてしまうというトラブルはあったものの、その後もシュラインはすいか割りに挑戦し続けた。その甲斐あってか、次第にすいかを上手く割れるようになってきた。
 余談だが、すいか割り会場のそばに救護用テントが急遽立てられたり、ホワイトボードの記録にキルマークの欄が新設されたりしていた。閑話休題。
 いつしかギャラリーの数は、当初の半分以下までに減っていた。まあ、逃げ出したとか、殴られたとか、色々と理由はあるのだが……。
 やがて砂浜は夕陽に照らされる。それは大会終了の合図だった。スタッフにより、今回の大会の結果発表が行われる。
「すいか割り部門……優勝者はシュライン・エマさんです!」
 スタッフによりシュラインの名前が読み上げられ、ギャラリーからまばらな拍手が起こった。シュラインの表情には笑顔が浮かんでいた。
「なおシュラインさんは、急遽新設されましたキルマーク部門でも最高記録を叩き出されまして……」
 スタッフの言葉はまだ続いていたが、シュラインは聞こえない振りをした。
「さて、優勝者への賞品ですが……」
 突然鳴り響くドラムロール。もちろん生演奏ではなく、テープである。
(そういえば賞品って何なのかしら? 事務所で使える物だといいなあ……)
 シュラインはどきどきしながら、賞品の発表を待った。
「おめでとうございます、シュラインさんにはすいか1年分が贈られます!!」
「……は……?」
 シュラインは耳を疑った。すいか1年分……?
「ちょっと待って。すいか1年分って……どういうことかしら?」
「いえ、ですからすいか1年分ですよ。ちゃんと持って帰ってくださいね」
 困惑するシュラインに対し、スタッフはさらりと答えた。
「そんな! 1年分って、そんなの持って帰れる訳ないじゃない!」
「まあまあ、とにかく持って帰ってくださいね。皆さん、シュラインさんに拍手〜!」
 シュラインの抗議は無視され、ギャラリーからは優勝者発表の時以上に拍手が起こった。
「こんなの嫌よ〜っ!!」
 シュラインの叫び声は、虚しく砂浜に響いていた――。

【了】