コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


【願い事の叶う指輪】
◆願いの叶う指輪
『恋愛・金運・仕事で大成功!これであなたも幸せになれる!
 天使の力が貴方に。エンジェル・リング。』

それはよくある通販の広告で、天使のイラストに小さな金色の指輪の写真とどこまで信じてよいかわからないキャッチコピーの載った広告だった。
「うちの雑誌もやっぱり広告が命綱だからねぇ・・・」
碇が絵の前に広げられたゲラ刷りを眺めながら言う。
「まぁ、広告なしなんて今時ありえませんから。」
広告代理店の担当者が苦笑いで言った。
胡散臭いとわかっていても、それを扱うのは仕事のうちだ。
「でも、こんな指輪で願い事が叶うなら一個くらい買っても良いかもしれないですねぇ。」
「私はイヤよ。こんな金だか何だかもわかんない指輪に3万円も出さないわ。」
写真の指輪は極めてシンプルなデザインで、金のリングに赤い宝石?と天使のモチーフがついている。可愛いと言えば可愛いデザインだが、少々荒っぽい造形のようだ。
「こんなのもありますよぅ。『絶対結婚!パワーストーンで運命の恋人をGETしよう!純金お蛇様の魔法のブレスレット』なんていかがですぅ?」
担当者の広げた広告にはギラギラ金色の蛇のブレスレットの写真が載っている。
蛇が腕に巻きつきその口に水晶球を咥えているという・・・なんとも素敵な趣味のデザインだ。
「カンベンしてよ。何と結婚させられるかわかりゃしないじゃない。」
碇は更に悪趣味な広告に目を細めた。
「まだ、さっきの指輪の方がマシ。」
「あははは・・・でも、こういうのって効果あるんですかねぇ?」
「さぁ?眉唾だとは思うけど・・・」
「でも、試した人っているのかしらぁ?」
「うーん、興味がある人は多いと思うけど・・・」
担当者とそんな会話をしているところに、まるでそんな指輪を購入するために生まれたような人物が現れた。
「お、三下クーン。ちょっとお出で。」
碇はにやりと笑って、三下を呼び止める。
「あ、はい。何ですか?編集長・・・」
三下は何かヘマでもやらかしたかと、ビクビクしながら編集長の前に立つ。
「キミに素敵なお仕事だよ。これっ、取材してくれない?」
「はぁ?」
広告を突き出されて、三下は首をかしげる。
「これって・・・」
「体験取材だよ、三下クン。何人かでその指輪、試してみて記事書いてみてね。」
にっこり。
「これでキミも大成功だよ。」
碇の微笑みに、三下は今日も得体の知れない仕事を押し付けられたのであった。

◆胸に秘めし思い
「何お前、こんなの本気で買うの?」
真剣な顔で申し込み用紙に名前を書き込んでいる湖影 龍之介をみながら神薙 春日は言った。
どう見ても胡散臭いキャッチと写真が躍る広告を眺める。
(マジか?・・・趣味悪い・・・)
乙女チックと言うか何と言うか・・・金色の天使のモチーフの指輪はとてもじゃないが男子高校生の趣味に合うものではなかった。
しかし・・・
「恋愛で大成功だって・・・ふふふふふ・・・」
にやにやとよからぬ妄想に萌える湖影にそんなことは関係ないようだ。
(また、三下さん・・・か?)
神薙は内心苦い顔で湖影を見つめる。

そして、神薙はふと思った。

『恋愛・金運・仕事で大成功!これであなたも幸せになれる!
 天使の力が貴方に。エンジェル・リング。』

(この指輪の効果が本物だったら・・・?)
もしかしたら湖影の気持ちを自分に向けられるかもしれない。
神薙の喉がごくりとなる。
胸に秘めた思いが大きく膨らむ・・・。

「おい、俺も申し込むことにした。」
湖影は神薙の声にはっと我に返る。
「え?」
神薙は湖影の手元から申し込み用紙を引っ手繰ると、個数の数字を2に書き直す。
「これ、FAXでいいんだよな?」
「う、うん。」
神薙は湖影が思う相手のことを思うと、どうしてもムッとせずにはいられない。
湖影は神薙の態度に違和感を感じたようだ。
「神薙・・・どうした?」
「何でもねぇよ。」
何が何だかわからないまま、指輪は二つ申し込まれた。

◆三下の幸せ
指輪の効果を実証?するため集められた被験者は4人。
全員が指輪を手にして、今日は中間報告の為にアトラス編集部の会議室に集まっていた。
「三下さんの幸せってなんなんすか?」
話の途中でふと切り出したのは湖影 龍之介だった。
もちろん筆頭被験者である三下の指にも金色の天使の指輪が光っている。
「あー、まぁ、色々と・・・」
何故か三下は頬を赤らめてうつむく。
「み、三下サン!」
そして何故かその様子をみて湖影が興奮気味に三下の手を握り締める。
「わっわっ、何?なに?」
「やめれ。龍。」
今にも噛り付かんばかりに鼻息も荒く三下に迫る湖影を引き離したのは神薙 春日。
神薙は苦虫を噛み潰したような顔をしているが、湖影を抱きしめる腕は嬉しそうだ。
(・・・男の三角関係ですか?)
目の前で繰り広げられる一風変わった光景を見て勘の良い松浦 絵里佳が眉をひそめる。
一体、どういう願い事がこの人たちの間で渦巻いているのかを考えると頭痛がするようだ。
「何だかすごいね・・・」
松浦の隣りに座った加賀 美由姫が小声で松浦に言う。
彼女も何となく感づいているのだろう。
「この指輪が本物で全員の願い事が叶っちゃったらどうなるんだろう・・・?」
「そんな怖いこと考えないほうがいいかもしれないわね・・・」
二人はこっそり顔を見合わせて頷きあった。

「えーと、今回は「願い事の叶う指輪」の体験レポートなんだけど・・・どう?効果があった気がする?」
混沌とした寸劇を終え、気を取り直して三下が仕切りなおした。
「まだありません。」
加賀がちょっとしょんぼりした声で言う。
「加賀さんの願い事ってなんなの?」
三下と湖影の間にしっかり割り込んで座った神薙がたずねる。
「私、行方不明の従兄弟を見つけたいんです。」
「行方不明?」
「ええ・・・」
加賀は行方不明の従兄弟の事と次第をみなに話した。
一緒に暮らしている従姉妹の兄。
自分にとっても兄同然の人・・・
「よし!これから皆で探しに行こう!」
加賀の話を聞き終えると、湖影が元気よく提案した。
「これで従兄弟が見つかったら指輪の効果はバッチリって事じゃん!」
湖影の心の中には探している最中に三下と二人きり・・・というひそかな計画が立てられていたのだが、周りの面子はそんなことは知らない。
「あ、それいいかもね。」
魔の手が迫っているとも知らずに三下も同意を示す。
「ありがとうございます!」
加賀は明るい笑顔でそう言うと、一同に向けてぺこりと頭を下げた。

◆青い鳥は何処に
しかし、湖影の野望はあっけなく砕かれてしまった。
編集部を出ようとしたとき、三下は碇にとっつかまってしまい編集部へと引き戻されてしまったのだ。
「探すといっても、何処から探したらいいのか・・・」
ぶすったれている湖影とは裏腹に先程とはうって変わって上機嫌の神薙が言った。
確かにどんなに願い事が叶う指輪を持っていても何だか途方もない話だ。
「私の占いでは・・・南の方角に幸あり・・・と出ています。」
松浦が一枚のタロットカードを示しながら言った。
「南の人の集まる場所に幸ありと。」
「南・・・南の人が集まる場所・・・」
加賀がポケットマップを取り出しごそごそとチェックを始める。
「南なら、遊園地があるよ。あそこなら人が集まるんじゃん?」
湖影が地図も見ずに言う。
三下との来る日の為に全てのデートスポットはチェック済みの湖影なのだった。
「へぇ、よく知ってるなお前。」
神薙が感心する。
「今日は休日だし・・・混んでるから丁度いいかもな。」

一行は休日の遊園地へと到着した。
チケットを買い場内に入る。
流石に子供が多く、その付き添いであろう大人の姿がごった返している。
中にはカップルらしい二人組みの姿も見える。
アトラス一行も傍から見るには、微笑ましい学生カップルのグループデートに見える。
しかし、組み合わせが微妙だ。
「絵里佳ちゃん、何か感じる?」
加賀は霊感の強い松浦に尋ねる。
「こう人が多いと・・・よくわからないわ。」
松浦はあたりを見回すがこれといって感じるものは無い。
「流石に人が多すぎるか?」
相変わらずふてくされたままの湖影の腕をしっかりと握り締めた神薙が言う。
「昼間っから遊園地なんか来てんじゃねぇよ、家族連れドモ。」
「人が多いのは丁度いいって言ったのはお前じゃーん。」
「んだと?コラァ・・・」
「け、喧嘩しないで!」
怪しげな雰囲気が高まる二人の間に加賀が割って入る。
「喧嘩はダメだよ!」
「あ、平気平気。これ俺とコイツのスキンシップだから。な。」
神薙はニコニコ顔を取り繕い、湖影の頭をぐりぐりとする。
「声・・・」
じゃれ合う男子高校生カップルを生暖かい目で見守って?いた松浦が不意に「声」を感じた。
「誰かが呼ぶ声がするわ・・・助けを求めてる・・・」
「なんだって!?」
助けを求める声と聞いて男子高校生カップルも真顔に戻る。
「行かなくちゃ!どこ?」
「ここから少し先・・・あの観覧車の方よ。」
松浦は建物の向うに姿を覗かせている観覧車を指差した。

「あ、あそこっ!」
観覧車へと駆けつけた四人は声の主をを見つけた。
観覧車の側にあるベンチで子供が泣いている。
「迷子の声だったのか。」
湖影がそっと子供を抱き上げる。
「なんだ、お前迷子になっちゃったのか?」
「おかぁさん・・・いないの・・・」
えぐえぐとしゃくりあげながら子供はボロボロ涙をこぼす。
「大丈夫、お姉ちゃんたちがお母さん探してあげるよ。」
湖影の腕の中で泣きぐずる子供の頭を撫でながら加賀が言った。
「係りの人のところへ行かなくちゃ。」
「あ、それは俺に任せて。」
そう言うと神薙は湖影の腕から子供を抱きうける。
神薙はそっと子供の額に自分の額をあわせ目を閉じる。
電気がスパークするようなショックと共におぼろげな画像が浮かび上がる。
それはこの子供の未来の姿だった。接触することで神薙は未来を読み取ることができるのだ。
「回る馬車・・・馬・・・光・・・メリーゴーランド。」
具体的なビジョンではないが、細かい情報が断片的に現れ未来を告げた。
「坊主の母さん、メリーゴーランドのところだ。」

4人が子供を連れてメリーゴーランドのところまで来ると、子供がすばやく母親の姿を見つけた。
「おかぁさん!」
泣きながら母親に駆け寄る。
母親は「なにやってたの!」と軽く子供を叱ったが、泣きじゃくる我が子を抱きかかえて安心したようだ。
そして4人の方を振り返ると「ありがとうございました。」と頭を下げる。
「天使のお兄ちゃんたちが連れてきてくれたの!」
子供は母親の胸の中で元気を取り戻し大きな声で言った。
「天使のお兄ちゃん?」
「ほら、みんな天使の指輪してるんだよ!」
子供の言葉にはっと手を見る。
確かに全員そろいの指輪だ。
「お兄ちゃんたち正義の味方でしょ!すごいよね!その指輪で変身するの?」
どうやら子供は戦隊モノのアイテムと勘違いしているようだ。
「ありがとう!天使のお兄ちゃん!」
苦笑いした4人に、母親は何度も繰り返し礼を述べると子供を抱いて帰っていった。

◆あなたの隣りに
「願い事、叶わなかったス。」
そう言ってにやっと笑った神薙をみて三下は青くなった。
「えぇ〜、じゃぁ体験レポートは・・・」
「ま、最初っから胡散臭いものあてにしちゃダメっすね。」
「でも、いい事あったし・・・ちょっと幸せになる指輪・・・くらいならOKなんじゃないかな?」
「そ、そうかなぁ・・・」
加賀のフォローに三下は少し顔色を取り戻す。
「そーっすよ、三下サン!それに三下サンと俺の幸せはまだ終わったわけじゃないっス!」
「え?え?え?」
「ほら、二人の指に光るこの指輪・・・まるで二人の未来を暗示するようじゃないっすか♪」
すかさず湖影がガシッと三下の肩を抱き、うっとりと両手を合わせる。
「この金色の天使のように二人の未来は輝いているっすよ・・・」
「んなわけあるか!コラ!」
二人の世界に突入しようとする湖影と三下の間に神薙が割り込む。
そして、そんな男子高校生と三下の泥沼三角形を女性陣は生温く見守る。
「・・・男の三角関係に天使は祝福を与えるのかしら・・・?」
「どうだろう?でもみんな悪い人じゃないから、きっといい事あるよ。」
加賀はそう言って松浦に微笑みかける。
「そうですね。」
松浦も柔らかく微笑んだ。
自分の中に閉じこもっていたこともあったけど、この世界も捨てたものじゃないのだわ。
松浦はそんな世界へ連れ出してくれる親友の加賀に感謝し、そう温かく思える自分がまた嬉しかった。

◆指輪の効能
「没!」
碇の完結かつ冷酷な一言で三下の原稿はシュレッダーに放り込まれた。
「あぁ〜そんな〜・・・」
「あのね、うちはほのぼのご近所雑誌じゃないの。こんな「ほのぼの良かったね記事」書いてどうするのよ!ばかもの!」
「うぅ〜・・・」
三下は大粒の涙を浮かべて自分のデスクへと戻っていった。
「本当に効果なかったんですかねぇ・・・」
碇の隣りで様子を見ていた広告代理店の社員が言う。
「さぁ?どうかしらね?」
碇はにやりと笑って右手を見せる。
「より願う力が強い者の願いが叶うのかもしれないわね。」
「あらぁ。」
社員もふふふと笑った。
「三下クンの受難はまだ終わらないって事は確かみたいですねぇ。」
彼女の手にもきらりと光る天使の指輪。

彼女たちの願いが何であったのか、本当に指輪の効力があったのかは・・・定かではない。

The End ?
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0867 / 神薙・春日 / 男 / 17 / 高校生
0218 / 湖影・龍之介 / 男 / 17 / 高校生
0046 / 松浦・絵里佳 / 女 / 15 / 学生
0515 / 加賀・美由姫 / 女 / 17 / 高校生

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

今日は。今回は私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
指輪の効力は・・・あったりなかったりでしたが如何でしたでしょうか?
湖影君との恋愛の発展も・・・微妙な感じですが、今後の発展と活躍を期待しております。
これからも頑張ってください。
また、どこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。