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黒髪
◆不確かな依頼人
「実はある人物のある物を入手して欲しいんですよ。」
依頼に来た青年はニコニコと作ったような笑顔のまま言った。
「妖怪探偵と言われる草間さんの事務所ならお引き受けくださるかなぁと思いまして。」
怪奇探偵と噂されることはあっても、妖怪探偵と面と向かって言われるのは初めてだ。
草間は接客用に作った笑顔を引きつらせた。
「内容にもよりますが･･･ある人物のある物とは何かお聞かせ願いますか？」
依頼者の青年は手に大きな封筒の中から数枚の写真を取り出した。
その写真にはここ最近メディアを騒がしている新興宗教の教祖だと言う人物が写っていた。
「この人の髪の毛なんですよ。」
「はぁ？髪の毛？」
草間は思わず声が裏返ってしまう。
なんと奇妙な依頼だろうか。
「僕が直接毟りに言っても良いんですけどねぇ･･･ちょっと忙しくて暇が無いんで。」
だから、人に頼む。
まるで忙しいお母さんが子供にお使いを頼むような感じだ。
しかし、子供のお駄賃と違って草間興信所の調査費も安いものではない。
それを支払ってもお願いしたいモノ･･･なのだろう。
「髪の毛をどうなさるんですか？」
「お客様のプライベートに必要以上に踏み込まないのも良い探偵さんですよね。」
青年はニコニコ顔を崩さないが、ぴしゃりと草間の質問を拒否した。
「あ、この人の資料はここにありますから使ってください。」
苦い顔で写真を見ている草間に、青年は封筒を差し出した。
封筒の中にはどうやって調べたのか、かなり詳細なこの人物の資料が入っていた。
キリスト教系新興宗教の教祖であること。
信者には多くの能力者が居り、警備は厳しいこと。
実は禿げでカツラを着用しているが後頭部は自毛である事。
･･･などなど、事細かなデータが多岐にわたって調べられている。
誰に調べさせたのかわからないが、これだけ調べる能力のある探偵を知っているならそっちに頼めよ･･･と少し心の中で毒づきながら、草間は営業用スマイルを立て直した。
「髪の毛だけでよろしいのですか？」
「ええ。本人にはあまり興味が無いので。」
我ながら変な質問だなと思ったが、返ってきた回答も奇妙だった。
「では、お願いしますね。」
青年は始終ニコニコしたまま草間に話し終わると、自分で話を片付けて帰っていった。
草間の机の上には写真と資料が一揃い。
「受けるって･･･ことになったんだろうな。」
草間はそう呟くと、苦い顔でタバコに火をつけた。
◆高まる予感
「マスター･･･」
水野 想司は涙を流して語り終えた喫茶店のマスターの手にそっと右手を重ねた。。
「マスターの気持ちは良くわかりました。僕でできることなら･･･」
「水野君･･･奴を･･･奴を倒してくれるかね？私の代わりに･･･道を誤ってしまった奴を倒してくれ･･･」
マスターはぐっと唇をかみ締める。
その脳裏に浮かぶ昔の盟友。
共に生き、共に戦い、共に語らった無二の友･･･
何があっても友の力になろう、マスターはかたく誓っていた。
それは友が道を誤ってしまった今でも。
「僕が必ず･･･」
想司はマスターをまっすぐ見つめた。
マスターの苦しみを痛いほどわかった。
この人の力になろう･･･そう決めた。
「必ず、新興宗教ふさふさの民・教祖からカツラを取り上げて見せます。」
「頼む！水野君っ！」
マスターは禿げあがった頭を光らせながら涙に伏す。
それを優しく慰める想司の左手には喫茶店飲み食い放題チケット１０回分が握り締められていた。
◆電波の声
新興宗教ふさふさの民は、本来自然な姿である禿げを否定しカツラに固執するややオカルティックな信仰集団だった。
中でも教祖は異常なまでにカツラに固執し、そのカツラを一瞬たりと離そうとはしない人物であった。
（どうしてカツラの人ってバレバレなのにカツラをかぶるのかなぁ？）
水野 想司はそんな暴言を思い浮かべながら、礼拝堂で一心に有名カツラメーカーの説明ビデオを見入る信者たちを見つめていた。
光学迷彩スーツに身を包んだ想司の姿はすっかりカモフラージュされていたが、もしこの場に普通にやってきても信者たちは気がつかないかもしれない･･･そのくらい信者たちは熱中して説明ビデオに見入っていた。
想司はその姿を見ていて、ふととある人物を思い出した。
（あいつもそろそろ必要そうだよな･･･）
魔王・海塚 要の姿を思い出し、くっくっと喉の奥で笑う。
（もしかしたら実はもうカツラで、走ると取れちゃったりして･･･）
高らかな笑い声と共に登場するつるっぱげの海塚を想像して楽しんでいると、周りの信者たちがざわめき始めた。
「ん？」
礼拝堂の前方を見ると、白いフードをすっぽりかぶった男が祭壇の前に立っていた。
（あれが、教祖か。）
白いフードの男･･･教祖はビデオの流れるモニターのスイッチを切ると、信者に向き直って白いフードを脱いだ。
「おおおぉぉぉぉおおおっ！」
信者は一斉にその場にひれ伏す。
想司は一瞬我が目を疑った。
（な、なんだありゃ･･･）
教祖の頭には光ファイバー入り七色に輝くミラクルゴージャスエレクトリカルパレードなカツラが文字通り輝いていた。
「むむぅ･･･負けられん･･･」
教祖の頭に輝くカツラを見て海塚 要は唸った。
「あやつは私と同じ探求者の匂いがする･･･」
海塚は萌えを追求する自分とカツラに盲執する教祖の姿をそっと重ねた。
「行くところまで行くのだぞ･･･がんばれ！」
天井に張り付いたスタイルのままで器用にガッツポーズでエールを送る。
そして再び目はこの下の信者の中にまぎれているであろう宿敵の姿を探し始めた。
雷鳴の波、略して電波の情報では今日この場所に想司が現れるということだったのだ。
デビルイヤーとデビルアイを魔王らしくフル活動させて礼拝堂内を探る。
しかし、信者たちのカツラ信仰の念が強く思うように感じ取ることが出来ない。
「うぬぅ･･･やるな、水野 想司･･･」
そう呟くと海塚はサカサカサカサカッとまるで黒くて平べったい虫のように天井伝いに移動し始めたのであった。
自分がそんな風に捜し求められているとはつゆ知らず、想司は説教を終えた教祖の後ろをこっそりとつけていた。
（このまま、教祖の部屋へでも入り込めたら、そこで一気にカツラを奪うか･･･）
想司は白いフードの下にカツラをモサモサさせている教祖を見ながら計画を練る。
その時。
教祖がいきなり立ち止まると、姿が見えないはずの想司の方を振り返った。
「！」
想司は思わず立ちすくむ。
（バレたか･･･？）
ゴクリ･･･と息を飲む。
そういえば、草間興信所で新興宗教がらみの依頼を見たが、もしかしてあれも此処だったのか？
依頼者の報告書には信仰宗教団体には能力者がいっぱいと書かれていたような･･･
想司はいざとなったら･･･と懐中電灯にとてもよく似た「ライト・せーばー☆（微妙に模造品）」を握り締めた。
「そこにいるのは誰です？」
教祖がまっすぐに想司を見つめて言う。
（む･･･）
想司は光学迷彩スーツのアタッチメントを調整して迷彩状態を解いた。
教祖は姿を現した想司をみると人の悪い笑みをにやりと浮かべる。
「貴方も入信希望者ですか？最近は若い人の薄毛も多いですからね。悩むことはありません。私たちと一緒に市場のカツラを探求しようではありませんか！」
「だっ、誰が入信希望者だっ！僕はまだまだ現役だよっ！」
ムッとして想司が言い返す。
「このふさふさを見てから言ってくれよなっ！このハゲチョビンっ！」
「教祖様に向かって何と言うことを！」
「ハゲとはなんだ！薄毛と言えっ！」
教祖の周りにいた側近たちが殺気立つ。
教祖も目にゾクリとしたものを宿らせ、妙に裏がえった甲高い声で側近に言った。
「お前たち！やぁっておしまいっ☆」
「アイアイサーーーッ！！」
掛け声もそろって応えると、側近たちは何処からか呪符を取り出し想司に向かって術を放った。
「甘いよっ☆」
想司はその術を軽く腕でなぎ払う。
呪符は腕に払われてヘロヘロと床に落ちたが･･･
「こ、これはっ！？」
想司は呪符を払った腕を見て驚愕する。
腕に生えていた産毛がスッキリさっぱり毛穴から脱毛されているではないか！
「見たか！我が教団の秘術！何処でもさっぱり永久脱毛「エステいらず」の術だ！」
恐ろしい･･･
別に足とか腕とか脇とかに当たる分には素敵な状態だろうが･･･これが右側の眉毛だけとか、こめかみの所とかに当たって得体の知れないハゲになったら何と恐ろしいことだろう。
「覚悟しろ！」
恐ろしさとバカらしさに想司が呆然としていると、側近たちは次々に呪符を取り出し撃ち放った！
◆死闘
「待てぇーーーいっ！」
術が想司を直撃しようとした瞬間！
何ものかが想司と側近の間に割って入った。
割って入った影はオーバーヘッドキックの要領でブルーのスカートとひらひらフリルのエプロンをひるがえしながら呪符を払い去った。
「うぉぉぉおおっ！なんと言うことだ！私のすね毛がスッキリさっぱり毛穴から脱毛されてしまったっ！」
割って入った影･･･それはこのままでは出番が危ういと姿を現した魔王・海塚だった。
何故か、ブルーのポフスリーブワンピースにエプロンドレス、髪にはワンピースとそろいのリボンと不思議の国のアリススタイルの海塚は、つるつるになってしまった足を見て叫んだ。
「これで私のコスプレはより完璧ぃっ！！」
ガッツポーズを決める怪しい海塚を呆然と見つめる一同。
一番最初に我に返ったのは想司だった。
「何でお前がここにいるんだーーーーーっ！」
「ふはははははっ！私はお前の現れるとこに必ず現れるのだっ！」
海塚はふんぞり返って笑う。
「ストーカーか！お前はっ！」
「何を失礼な！我が宿敵、水野 想司よっ！今日こそ目にモノ見せてくれるわっ！」
そう言うと海塚はエプロンのポケットからなにやらスケッチブックと懐中電灯を取り出した。
ちなみにエプロンのポケットには多重次元空間超越の術、略して４次元ポケットの術がかかっているので大きなスケッチブックもらくらく収納できるのだ。
「見よ！我が萌えの真髄をっ！」
ズバーンッ！とスケッチブックを広げると海塚は物凄いスピードでページをめくり始めた。
ちらちら見えるそこには素晴らしく上手な絵で可愛らしい少女･･･アリスのスクール水着姿やらあどけないパジャマ姿が描かれている。
「うおぉぉぉぉぉぉおおおおっ！きたきたきたきたきたーーーーっ！」
海塚は怪しげなオーラをもうもうと立ち上らせながら、想司に向かって懐中電灯を差し向けた。
「はっはっっは！この勇姿でアリスちゃんのパジャマ姿やスクール水着姿を吸収した私の力は、以前のものとは比較にもならぬぅっ！」
そう言って懐中電灯のスイッチを入れるとブゥンッという音と共に、ピンク色の怪しい光の剣が姿を現した。
「この不思議の国のアリスの剣を受けてみよっ！水野 想司！覚悟っ！」
「何おぅ？覚悟するのはそっちだっ！」
想司もそう言うと手に握っていた懐中電灯のスイッチを入れた。
ブゥンッ･･･音と共にミントブルーの刃が現れる。
「アリアリが共にあらんことをっ♪」
想司は萌えの女神に祈りをささげ、海塚に向かって剣を構えた。
「あのー･･･」
緊迫した二人に恐る恐る声をかけるものがあった。
すっかり忘れられた教祖とその側近たちであった。
「なんで貴方たちはうちの教団でそんな変態合戦を･･･ぐはぁっ！」
変態･･･その一言を口にした側近は海塚の魔王炸裂弾をくらって彼方に吹き飛んだ。
「ぬおぉぉぉぉおおおおおおっ！何たることよ！」
海塚の目がキュピーンッ！と赤く光り輝く！
変態。その一言はどうも海塚のタブーワードであったらしい。
「変態とは聞き捨てならぬ！我輩の崇高なる萌えを理解できぬものは灰になるが良いっ！」
海塚にとって禁断の一言は、海塚の魔王本能に火をつけた。
見た目は可愛らしいブルーのエプロンドレス姿のコスプレオヤジだが、中身はこれでも魔王なので繰り出す術の威力は恐ろしいものであった。
見る間に金にあかして作ったのであろう成金趣味な教団施設は崩壊をはじめた。
「なんなんだよまったく！」
想司は正気を失って攻撃を開始した海塚に巻き込まれぬようにその場を離れた。
手にはしっかり海塚が落としたスケッチブックを抱きかかえている。
これは海塚がＯＭＣで必死に依頼したらしいクリエイターさんの描いたアリスが満載されていた。
人気のない礼拝堂に逃げ込んだ想司はスケッチブックを開くと一枚一枚めくり始めた。
「また、人のことダシにして何かやってるわね。」
祭壇の後ろでスケッチブックを堪能していた想司は、不意に礼拝堂に響き渡った声に驚いて顔をあげた。
「アリアリっ☆」
「スリープウォーカーが変な気配が渦巻いてるよって言うから来てみれば、まったく。」
アリスはむっと想司を睨んだが、想司はそんなことはお構いなしだ。
「アリアリ〜☆僕の気持ちが通じたんだね。さ、早く向うへ行ってあの変態オヤジに僕とアリアリの素敵なタッグを見せてあげようよっ☆」
「はぁ？なんで私がそんなこと･･･」
「もう、照れ屋さんなんだか☆アリアリってば♪」
「照れてないわよ！人の話聞いてるの？」
「さぁ、アリアリ。今日の衣装はこれで決まりだよっ☆」
「きゃぁっ！いつの間にっ！」
気がつくとアリスはパールピンクの可愛い猫みみレオタードに着替えさせられている。
そして想司はがばっと光学迷彩スーツを脱ぎ捨てた。
「今日は猫みみユニットだよ♪」
光学迷彩スーツの下にはミントブルーのアリスと揃いの猫みみレオタードが姿を現した！
「あぁ･･･眩暈がするわ･･･」
アリスが天を仰いでぼやいた時、高らかな笑い声が礼拝堂に響き渡った。
「わはははははっ！ここに居たか！宿敵、水野 想司っ！」
髪を振り乱し、返り血を浴びた不思議の国のアリスルックの海塚が礼拝堂へと踏み入ってくる。
「今度こそ、決着をつけてくれようぞ！」
そう言って剣を構えた海塚の目に、見覚えのある姿が飛びこんできた。
「お、お前･･･いや、あなた様はっ！！！」
パールピンクの猫みみレオタードを着せられた少女に向かって海塚はガバッとひれ伏した。
「電子の妖精、萌えの女神アリスさまぁっ！」
「得体の知れないのが増えてる･･･」
アリスは足元にひれ伏した男を見て更なるめまいを覚えた。
想司は海塚がひれ伏したのをいいことに、その背中に足を乗せると決めポーズを取った。
「ふふふふっ☆僕らのユニット「らぶり〜☆ばーにんぐ」は無敵なのさっ♪」
こうして久しぶりの対決は、何だかワケがわからないうちに想司の勝利で幕を閉じた。
◆終焉、そして友情
「教祖･･･」
得体の知れない戦いが幕を下ろしたその一方で、いまや本格的に忘れ去られようとしている教祖とその側近たちは灰となって崩れ落ちた教団施設を眺めて涙を流していた。
「私の夢が･･･私のカツラが･･･」
教祖の小林幸子バリの特殊カツラコレクションは全て海塚に灰にされてしまった。
力なく肩を落とし、途方にくれる教祖。
カツラを海塚に吹き飛ばされてしまったその頭にはもはや産毛すら存在しない。
「イチからやり直せ･･･」
ふいにかけられた暖かい言葉に教祖は振り返る。
「お前は･･･」
そこにはかつての盟友･･･喫茶店のマスターが立っていた。
「お前のカツラと野望はこの教団と共に焼け去ったのだ･･･これからはナチュラルなハゲを布教し、世のため人のためハゲのために共に歩もうではないか･･･」
「マスター！！！」
ハゲ二人はガッシと抱き合い涙を流す。
そんな二人の友情のあつさに、側近たちも貰い涙が止まらなかった。
The End ?
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
0759 ／ 海塚・要 ／ 男 ／ ９９９ ／ 魔王
0424 ／ 水野・想司 ／ 男 ／ １４ ／ 吸血鬼ハンター
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■ ライター通信 ■
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今日は。今回も私の依頼をお引き受けくださり、ありがとうございました。
久しぶりにアリスと接触していましたが、如何でしたでしょうか？
なんだか、海塚氏と想司クンは微妙なバランスを保ちつつありますね。想司クンのほうが一枚上手ではあるようですが･･･今後の活躍と展開を期待しております。頑張ってください。
それではまた、どこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。
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