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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


絶対空間

 **

それは良く晴れた土曜の昼下がりだった。
心地よい風が頬を撫でる穏やかで爽やかな日だった。
街中を歩いているとふと誰かに呼ばれたような気がして振り向いた。
しかし振り向いた先には誰もいない。気のせいかと思い直して再び
歩き出すが、今度は袖を引張られているような感覚を受けもう一度
振り向くがやはり誰もいない。
それどころか周囲には誰も居なかった。
よくよく気がつけば、街中のざわめきも国道を走る車の音さえも聞
こえない。全てが静寂の中にあった。
いきなりな出来事に呆然と立ち尽くしていると、今度は洋服のすそ
を引張られた。今度はハッキリとした『何か』の存在を感じとり、
ぎこちなく視線を落としそれが何であるのか確認しようとした。

視線を向けた先には小さな男の子がいた。
やけに古めかしい衣装を着けたその童子はニッコリと笑い掛けてき
た。

『キミ、どうしてココにいるの?』

その声が聞こえたと思った瞬間、周囲の風景がガラリと変わった。
風景だけではなく風の匂いまでもが違っている様に感じられる。
そしてどこか懐かしい気持ちにさせる、そんな風景だった。

「ここは・・・」


 **

守崎啓斗は目前に広がる風景に目を奪われていた。
彼の目の前には、ハラハラと風に散る満開の桜の樹があった。
それはとても遠い、遠くて懐かしい、はるか昔の風景・・・
弟と一緒に見ていた懐かしい風景・・・
「…どう言う事…だ…?」
幻覚の類でもない、何かに束縛されている風でもない。意識も何も
かもハッキリとしていた。
では何故自分はこんな場所にいるのだろう・・・?
「でも…凄いな…桜が満開だ…」
そう呟いてから、ふと疑問符が浮かぶ。
満開?何故?今は夏なのに?
大きな桜の樹を見上げ、ジッとその『姿』を観察する。
見れば見るほどに、その『姿』は懐かしいあの『場所』を思い出さ
せる。
恐る恐る目の前の桜の幹へ手を伸ばそうとしたその時、一陣の風が
桜の花弁を舞い上がらせながら通り抜けていった。
視界を覆っていた花弁が消えると、何時の間に現れたのだろうか、
先程声を掛けてきた童子がじっとこちらを見つめて立っていた。
「……あ」
『桜が好きなの?』
そう言って自分よりもはるかに大きな桜の樹を見上げてニッコリと
笑った。しかし直ぐに不思議そうに啓斗へ向き直った。
『でも…どうして人間がココにいるの?』
不思議そうに小首を傾げ見上げる童子を困惑した顔で見下ろした。
どういって良いものか言葉に詰まっていると、童子はポンと手を叩
いた。
『あ!もしかして迷子?』
<迷子>という単語に抵抗が無いわけではないが、しかしこの状況
下ではその表現が一番妥当な気がする。
「まぁ…似たようなもの、かな…」
苦笑いを浮かべながらそう答えると童子は『やっぱり!』と言って
クスクスと笑った。
「あのさ、聞いていいかな?」
『いいよ。』
「君は一体何者なんだ?」
『私?』
「俺は守崎啓斗だ。君の名前は?」
『私の名前?それは教えられないよ。』
童子は人指し指を唇に当てニッコリと笑っているだけで、本当に教
える気はないようだ。啓斗は溜息を吐いて話題を変えることにした。
「じゃぁ質問を変えるけど、ここは【何処】なんだ?」
『ここは『絶対空間』だよ。』
童子はそう言うと、そんな事も知らないんだ、とまた笑った。
それに対して、今度は啓斗が不思議そうな顔をした。
「絶対空間?」
『そう。無限の空間。確立された空間。不変の空間。』
童子の説明はイマイチ理解不能な内容であった。
「…よく、解らないんだけど。」
『うん。皆、そう言うよ。』
「皆?」
『時々、キミみたいに迷子になる人間がいるんだ。ヒトって方向音
痴なのかな?』
童子に同意を求められ、啓斗は答えに迷い「そうかもな」と曖昧に
笑って答えた。そんな事よりも、今はこの状況を理解する事が先決
だった。空間と空間の狭間に迷い込んでしまったのだと言う事は、
何となくわかる…
まさかこのままこの場所から出られない訳でもないだろうとは思う
のだが、確信はもてない。
「俺はただ街を歩いていただけなんだ。どうしてこんな場所へ来て
しまったのか皆目見当がつかない…。だけど、ここは俺が知ってる
場所なんだ。だから余計に解らない。どうしてココへ来てしまった
のか…」
ため息を付きながら桜の樹に背中を預けそのまま座り込んだ。
偶然に踏み込んだ空間であるので、当然帰るにはどうしたらいいの
かも解らない。
『でも道案内は出来ないよ?この空間自体は私の管理下にあるけど、
ココはキミ自身が作り出した空間だからね。』
「俺が作り出した…?」
童子の言葉に啓斗は顔を上げた。
『そう。キミが作り出したんだよ?それに、帰り道は自分で捜さな
いと<意味>が無いんだよ?』
ニッコリと笑顔を見せ童子は啓斗を指差した。
『キミはどうしたいのか迷ってる?』
「俺は……」
啓斗が言葉に詰まっている間に、童子は何かを思い出したようだっ
た。
『あ!私は『鬼ごっこ』の途中だったんだ。じゃぁまたね。』
そう言うが速いか、啓斗の横を走り抜けて行く。
呼び止めようとすると、強い風が桜の花弁を舞い上げ童子の姿を掻
き消してしまった。
桜の樹の下に取り残されてしまい途方にくれている啓斗の元へ、童
子が言った最後の言葉が聞こえてきた。

『帰り道はキミの中だよ。』

 **

童子も行ってしまい、一人きりになった啓斗はボンヤリと桜を仰ぎ
見た。
大きな桜の樹は満開だった。
あの時もこんな感じだった。
でもあの時は二人だった。
「俺は何の為に転生したんだろう…」
桜を見ていると何かが去来し、そして去っていく。何かが胸の奥に
アルのだが…それが明確に見えてこない。
「俺は前世の主人を捜す為に転生したんだと思ってた…でも…」
不意に誰かの気配を感じ取った。周囲を見渡すが誰も居ない。
『…』
今度は誰かに名前を呼ばれた気がする。立ち上がり、声が聞こえた
方向を見やった啓斗は一瞬反応が遅れた。
そこに立っていたのは、他の誰でもない、彼の弟だった。
「北辰…?」
『…』
「これは…?」
『…』
何処かで見た光景だった。
弟である北斗は前世の姿・北辰の姿で目の前にいる。そしてハッキ
リとは聞こえないけれど、これは遠い昔に交わした言葉だと啓斗は
確信した。そう思い当った瞬間に記憶が鮮明に甦って来る。
過去の約束を現在(いま)再び交わしている。
忘れてはいない。
だけど、それは前世の主を探し出す、という名目の中に埋もれてし
まっていた約束だった。
こうやって改めて同じ約束を誓い交わす事によって再認識される事
もあるのだと、啓斗は知った。
もしかするとコレが自分がココへきた理由かもしれない。
「俺たちはどんな事があっても二人離れずに生きていこう。」
あの時と同じ様に、同じ想いで、同じ言葉を啓斗は告げた。
風が吹き、桜の花弁が舞い上がる。
そしてふと現在(いま)の弟の顔が思い浮び啓斗は柔らかく笑った。
「多分…俺はもう一度お前と、ただ平穏に過ごしたかっただけなの
かも知れない…」
その言葉は小さな呟きだった。
不意に北辰が笑顔を向けた。
だが次の瞬間には、その顔は現在の北斗の顔へと移り変わり、そし
て桜吹雪の中に霞んで消えていった。
桜の花弁は啓斗をも包み込んで、そしてその思考までをも包み込ん
でしまった。


 **

ふと気がつくと、そこは先程まで自分が居た街なかだった。
周囲のざわめきも、車の行き交う音も、全てが元通りに流れていた。
「まさか白昼夢…って事もないよな…」
ふと、服の端に何かが引っ掛っているのが目に入った。それを何気
なく取って見ると…
「桜の…」
何時までも立ち止まっている自分を行き交う人々は怪訝な顔で見て
いく。しかしそれすら気にならない位に手の中のモノを暫らくの間
凝視していた。
だがそれも一瞬。
手の中にあったソレは、突然吹いた一陣の風によって自分の手の中
から離れてしまった。
「もう一度、あの場所へ行けるかな?」
そう呟いて被りを振るう。
「もう二度と行けないだろうな。」
手のひらをぎゅっと握り締め、再び啓斗は歩き出した。
ふいに誰かに呼ばれた様な気がして振り向くと、少しはなれた場所
から手を振り駆け寄ってくる弟を見つけ啓斗は嬉しそうに笑った。

自分の存在意味を分ち合える唯一は目の前にいる。
『帰り道』はきっとココへ繋がっている。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  0554 / 守崎・啓斗 / 男 / 17 / 高校生


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■         ライター通信          ■
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こんにちわ、おかべたかゆきです。
前回に引き続きのご参加、ありがとうございます☆
今回はちょっとだけシリアスちっくな出来になってしまい
ましたが、如何だったでしょうか?
少々消化不良気味な部分もあるのですが、くどくなり過ぎ
てもどうかと思い、こんな感じになりました…(^^;ゞ

イメージ壊してませんか?…それが一番の心配です(汗)