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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


おまじない
◆おまじない
最初の書き込みは女の子らしい恋の悩みだった。

「大好きな先輩に振り向いてもらえるおまじないを教えてください。」

その書き込みにいくつかレスがついていた。
自分の知っているおまじないを教えてあげるものや、そんなまじないに頼らず自力で頑張れと励ますものまで・・・みんなその書き込みに応援の書き込みをしていた。

次に書き込まれたときはちょっと嬉しい報告だった。

「先輩とお話できるようになりました。ありがとうございます。」

みんなが口を揃えてよかったねとレスを入れる中に、一つ気になる書き込みがあった。

「彼を本当に貴女だけのものにする方法を教えます。メールください。」

雫は、なんだろう?新手のナンパだったら厄介だな・・・と思いながらBBSのその書き込みを見ていた。
メールアドレスは有名なフリーメールのアドレスだった。

数日後、女の子の書き込みが再度あった。

「彼を完全に私のものにします。私だけ、私一人だけの先輩。もう誰にも渡しません。」

その嬉しそうな文面とは裏腹になにか気の重くなるようなものを感じる。
完全に自分だけのものって・・・?
雫は何だかとても嫌な予感がした。

悪いことになってしまう前に何とかしなくては・・・

◆ひそむ影
「嫌な予感がするわ・・・」
BBSの書き込みを見て天薙 撫子は呟いた。
「ねぇ?なんだか気になるでしょう?おかしいよね・・・」
同じモニターを覗き込みながら雫も言う。
「途中からおかしくなってるんだよ。」
「そうですね・・・」
最後の書き込みは途中までの健気さが失われ、やや狂気じみた物すら感じる。
そしてその狂気には、この「貴女だけのものにする方法を教えます」という書き込みの主が関係している・・・天薙はそう感じていた。
そして、天薙にはこの人物に心当たりがあった。
嫌な予感がする・・・
「とりあえず、この「貴女だけのものにする方法を教えます」って言う人に接触してみるしかなさそうですね。」
「思い切ったことするなぁ。あんた。」
天薙と雫の会話を聞いていたのか、いきなり反対側に座っていた人物が声をかけてきた。
「あ、すまん。ちょっと話が聞こえちまったモンで。」
天薙と雫が驚いた顔をしてみていると、男・・・羽島 英は悪びれずに言った。
「俺も、この話は気になっててさ・・・書き込みをみてたら、あんたたちの話が聞こえちまったってワケ。」
「貴方もおかしいと思います?」
「まぁな。こういうストーカーじみた女って結構居るけど、ここまで思い切っちゃってるのは気になるな。」
羽島はインディーズバンドのボーカルをやっている関係で、ちょっと熱狂的過ぎる女の子というモノを良く知っている。
「確実に手に入れる方法を知っちまったのか・・・」
「やはり、鍵はそこにありそうですね。」
天薙はモニターに目を戻して言葉を続けた。
「私がメールを出して接触してみますわ。相手も女のほうが油断するでしょう・・・」
本当のところ女だから油断してくれるかどうかはわからなかったが、天薙はそう言うと簡単に恋の悩みをでっち上げ、私にもその方法を教えて欲しいとメールを出した。
「これで、あっちがどう出るかだが・・・メールじゃそう簡単に反応はないだろうな。」
羽島はコーラの入ったグラスをもって席を移動してきた。
「そうでもない・・・みたい・・・」
天薙がメール送信のアイコンをクリックした瞬間からそれは始まった。
「何・・・これ・・・」
今まで開いていたウインドウが全て閉じ、モニターにノイズがはしる。
「だめだ、入力受け付けなくなっちゃってる!」
雫がキーボードを叩いて確認するが、どうにも反応がない。
やがて、ノイズが消え、一つのウインドウがフルオープンで現れた。
暗い画面の向うに天薙には見覚えのある男が微笑んでいた。
男は何か話すように口をパクパクさせている。
「音声かな?ヘッドセットつけてみて!」
雫がマシンの上に置かれたヘッドホンとマイクが一体になったものを指差す。
天薙はヘッドセットを装着した。
それと同時に羽島や自分にも声が聞こえるようにと、雫は小型のスピーカーを接続した。

『今日は。また会いましたねぇ。』
モニターの男、スリープウォーカーはニコニコしながら抑揚のない声で言った。
「やっぱり・・・貴方でしたのね・・・」
狂気と死の匂いがするところに必ず絡んでいると思われる男。
『酷い言われようだなぁ。僕は悩んでる人を助けただけだよ。』
スリープウォーカーはクックッと喉の奥で笑う。
笑顔を絶やさない男だが、こういうときだけが本当に楽しそうに見える。
『それに、僕が彼女に教えたのは人を殺す方法じゃなくて、人を生かす方法さ。』
「生かす・・・方法?」
命を奪うことにしか興味がない男の言葉とは思えない。
「それはどういうことだ?」
羽島が横から割って入る。
「生かす方法とはなんだ?」
『文字通りだよ。キミたちも行って見るといいよ。面白いものが見れるよ。』
「面白いもの・・・?」
この男の面白いものとはなんだろう?
人を生かす術・・・もしや。
仕事柄、呪詛というものに精通した天薙と羽島は同じモノに思い当たった。
「反魂術・・・」
全ての流れに逆らいし禁断の術。
「なんてことを・・・」
『ねぇ?面白そうだろう?』
青ざめる二人の前でスリープウォーカーは心底愉快そうに笑っていた。

◆暴走する思い
スリープウォーカーが告げた場所に到着した天薙 撫子と羽島 英はあたりに漂う嫌な空気に顔をしかめた。
「もう術が始まってんのか?」
羽島は敏感にその気配を感じ取る。彼は呪詛を解呪することを生業とするものでもあるからだ。
「完成はしていないけど・・・始まってしまっている・・・」
天薙はあたりのざわめきを感じている。
それは現実世界のざわめきではなく、死したる者のこの世ならざるざわめき・・・
「いそがねぇと!」
「えぇ。」
天薙と羽島が術の気配があるほうへと足を向けた瞬間、目の前に乱暴な運転の車が飛び込んできた。

「あぶねぇなっ!こらっ!」
羽島が車から降りてくる人影に怒鳴りつける。
「すまん、急いでたんだ・・・」
車から降りた大塚 忍は途端に感じる嫌な気配に背筋をゾクリさせるものを感じた。
「術は始まってるのか・・・!」
「大塚さん・・・あ!」
助手席から降りてきた宝生 ミナミが大塚の居るほうへと回り込み、そこに居る二人の男女を見て驚きを露にした。。
「なに?知り合い?」
「ええ、ちょっと。」
天薙の方も以前別件で顔を合わせた宝生を思い出したようだ。
「貴方も同じものを追いかけていらっしゃったのですね。」
「じゃぁ、天薙さんも反魂術の関係?」
「ええ。」
「ちょっと、ちょっと!知り合いと懐かしがってる場合じゃねぇぞ!いそがねぇと・・・」
羽島が再会を喜ぶ二人に割ってはいる。
「そうだ、反魂術!」
大塚も嫌な気配がする方を振り返る。
そこにはまばらな植え込みと高い塀の向うに卒塔婆が覗いている墓地であった。

「では・・・あの少女が独占したいといっていた先輩はもう鬼籍の人物でしたの?」
その先輩の霊から事情を聞いている大塚はざっと事情を説明した。
「独占するってのは殺すってことかと思ってたが、チョット違ったな。」
「でもっ・・・生き返らせるのも間違ってる・・・」
宝生は言葉をつまらせたがそう言った。
「そうだ間違ってる。どんなに思ってても、これはしちゃいけない。このままじゃ先輩は天国へいけないからな。」
大塚は宝生の肩をポンとたたいた。
「その通りですわ。いずれにしろ呪詛は摂理を汚すだけのものですもの・・・」
天薙もまっすぐに呪詛の気配を見据えて言った。
(それに・・・あの男の思い通りにさせてはいけない。)
天薙はモニターの向うで笑う男を思い出す。
あの男のゲームに惑わされてはいけない。

「あそこだ!」
最初に少女を見つけたのは羽島だった。
入り組んだ墓石の迷路を抜けると真新しい墓石の前に一人の少女が座り込んでいる。
「墓を漁ったのか・・・」
墓石に納められた遺骨を取り出したのか、泥ですす汚れた少女は小さな白い壺を抱きしめていた。
「貴方たちは・・・誰?」
少女はうつろな瞳で4人の方を振り返る。
「私に何か・・・用?」
4人は何と答えたらよいのか戸惑う。
刺激するのは絶対にマズイ。
何とか刺激せずに少女を説得できないだろうか・・・?
そう思案をめぐらしていると、少女の後ろにすっと男が現れた。
「スリープウォーカー!」
彼の顔を見知るものたちはその姿に凍りつく。
面倒な場面に現れてくれた・・・
スリープウォーカーは4人を見てにやりと笑うと呆然としている少女に囁いた。
「貴女の恋人を奪いに来たんですよ。」
まるで悪しき心が悪行をそそのかすように。
「なんですって・・・」
少女はその言葉を聞いてワナワナと震えだす。
「あなたたちも・・・あなたたちも私から先輩を奪うの・・・」
「そうじゃない・・・貴方がしてることはいけないことなんだ・・・」
宝生が何とか気をなだめようと少女に語りかけるが、その言葉は少女の耳には届かない。
「やめてっ!私から彼を奪わないでっ!彼は私と一緒に暮らすの・・・彼は死んでいい人じゃないのっ!!」
少女の気持ちが高まる。
少女は抱えていた骨壷を高く空に掲げると、その場に投げ下ろした。
骨壷は小さい破片を散らして割れた。
「生き返って!ここへ来て!先輩!」
割れた骨壷からモウモウと瘴気が立ち上る。
「うわ・・・」
「術はほとんど完成してたのかっ!」
その瘴気に4人は怯む。
「完成はしてねぇ・・・いや、術は失敗だ!見ろ!」
羽島が瘴気を立ち上らせる地面を指差した。
そこはまるで湯が煮え立つようにボコボコとあわだって、地中から次々と白い骨を剥き出しにした手が現れる。
「あらら、失敗しちゃったね。この手は亡者の手だ。」
スリープウォーカーはニコニコしてその様を見ている。
「中途半端に生気を与えられた亡者たちが、もっと生気を求めて現れてきてしまったねぇ。」
それは、まるで何か教育番組のお兄さんが生徒にモノを教えるような暢気ないいっぷりだった。
そして、生気を求めて現れた亡者の手は身近な生気・・・そこに立つ少女に向けてのばされた。
「あの女の子が引きずり込まれるっ!」
宝生が駆け出そうとするのを大塚がとどめた。
「ダメだ、行ったらキミも巻き込まれる!」
「でもっ・・・」
「彼女だけじゃないよ。放って置けばこの手は貪欲に生気を求めてこの場所から広がってゆくよ。」
スリープウォーカーが楽しそうに笑いながら言う。
「それに、この亡者たちは別に罪科があるわけじゃない、たまたまこの地に居ただけの罪もない眠れるものたちだ。彼らをお払いしちゃうわけにも行かないよねぇ?」
悪霊でもない彼らを法術でなんとかすることは、墓を暴くに等しい行為だった。
下手に彼らに法術を使って破魔を強行すれば、彼ら自身を悪霊にしてしまいかねない。
「どうしたら・・・」
天薙は目の前に広がる光景に手も出せずに唇をかんだ。
「出番みたいだな。」
その時、じっと状況を見ていた羽島が一歩前に歩み出た。
「歌を歌うのは俺の仕事だし、御霊鎮めも俺の仕事だ。」
そう言うと羽島はいまや少女を引きずり込まんとしている亡者たちに向けて、自慢の声を震わせはじめた。

◆鎮魂歌
羽島の歌う美しい旋律は澱みを吹き抜ける風のようにあたりに響き渡った。
その旋律にあわせ少女を襲うざわめきも落ち着きを取り返し始める・・・
「なんだ、呪歌士がいたのか・・・」
その声を持って呪を操り、鎮魂も呪詛も行う。
スリープウォーカーは収まり始めた怪異を見つめてつまらなそうに呟く。
「これではあまりにもつまらないな。少し力を貸してやろう。」
そう言って、取り出した一枚の符を亡者たちの上にふわりと落とした。
その呪符が亡者たちに触れるや否や、亡者たちは再び勢いを取り戻してしまった。
「なんてこと!」
これで、均衡は崩れ、羽島の声に眠り始めた亡者たちが再び蘇えろうとしている・・・
(ち、俺一人じゃヤバイか・・・)
必死に歌いながらそう思った時、羽島の声に新たな旋律が加わった。
「!」
歌いながら振り返ると、羽島の旋律を追いかけ歌っている宝生の姿があった。
宝生の高い声は低く歌う羽島の声と見事に共鳴し、羽島の鎮魂歌の効力を高めた。
天薙と大塚も思わず聞き入ってしまう。
光と風が世界を清めるような歌声が墓地の荒くれた気配をなだめ落ち着かせる。
宗派も何も関係ない、真の祝福と安寧がその歌によってもたらされた。

やがて、泡立っていた地面は元の平面を取り戻し、全ての亡者は眠りの地へと戻った。
そこにはもうスリープウォーカーの姿はなかったが、泥に汚れた少女が無事座り込んでいた。
「私・・・」
少女は駆け寄った4人の姿を見ると緊張の糸が切れたのか、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。
「私・・・先輩とずっと一緒に居たかっただけなのに・・・先輩と・・・」
「わがままを言ったらいけないわ。」
天薙は泣き崩れる少女の肩を抱いて言った。
「あなたがそんなだから、先輩は行くべき場所へ行くことも出来ないで、ここで迷っているのよ・・・」
「・・・」
「ほら、ご覧なさい。私が触れていれば見えるでしょう?」
そう言うと天薙は大塚の頭上をしめした。
そこにはおぼろげな姿をした先輩の姿があった。
波長の合った大塚についてくることでこの場に姿が現せたのだ。
「先輩・・・」
先輩の霊は今の鎮魂歌で半分以上姿を失おうとしている。声も言葉ももう通じない。
しかし、それでも彼女が心配でこの地に残っている・・・
「先輩・・・いかないで・・・私を一人にしないで・・・」
「このままじゃ、先輩はこの地に囚われて自縛霊になる・・・そうなったら生まれ変わることもかなわず、この地に縛り付けられ苦しむことになるんだ・・・」
大塚も言葉を添える。
大塚にももう先輩の言葉は聞こえない。そのくらい遠いところに以降としている存在なのだ。
「でも・・・」
「甘えてはダメです。人間は誰もが誰かと別れなくてはならない時が来る。それを拒むことは誰にも出来ないんです。」
「でも・・・」
「あなたももうお行きなさい。行くべき道はさっきの歌によって開かれたはずです。」
天薙はおぼろげな姿でこちらを見ている先輩の霊に言った。
「あなたがそこに居ることで彼女は思い切ることが出来なくなっている・・・もう心配は要りません。お行きなさい・・・」
そして、天薙は拍手を一つ打った。
パァンという澄んだ音と共に先輩の霊はかき消すように姿を消した。
「先輩ーーーーっ!」
少女は号泣し地面に伏せて叫びをあげた。

◆そして・・・
「綺麗に上がったね。」
先輩の霊をすっかり感じなくなった大塚が言う。
「お見事。」
「いいえ、それほどのことでも・・・」
天薙は頬に軽く手を当ててうつむく。
先輩の霊を上にあげたときの凛々しい人物とは思えないほど、今はおっとりと微笑んでいる。
夏らしい柄の一重が、夕方の風になびいて彼女のしとやかさを際立たせているようだ。
「後は彼女の目が覚めてくれればいいのだけど・・・」
大塚の言葉に天薙もうなずく。
「ええ、呪詛などという手段に頼らず自分の手で活路を開いて欲しいですわね。」
何かに頼るのではなく、自分の手で足で何とかしようという気もち。
それが一番大切なのにと思う。
彼女はそれに気がつくことができるのだろうか?
墓地で泣きくれる少女を思い出すと胸の奥が重くなる。
彼女が目を覚まさない限り、またそこにつけ込む輩も現れる・・・
「あの男はなんだったんだ?凄まじい邪気だったな・・・」
大塚も同じことを思い出したのだろう。
「あの男は・・・呪詛師です。人の命を奪うことだけを楽しみにしていると・・・言っていました。」
「呪詛師・・・」
得体の知れない男を思い出す。
最後まで笑顔のままその状況を楽しんでいるとしかいいようのない様子だった。
「あの男を逃したのが残念でなりません・・・」
天薙はくっとコブシを握り締めた。
「あの男を許しては・・・」
大塚もその様子を見て思う。
光があればまた陰もあるものなのだが・・・あの影は濃すぎて・・・
「この世の中にはあんなのが居るんだな・・・」
そう呟いてゾクリとする。
人間の弱い部分に付け入るような男。
いつ誰が闇に付け入られるのかはわからない・・・

二人はいつまでもそのことを思うと、今回の事件を終わった出来事だと思うことが出来ないのだった。

The End ?
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0795 / 大塚・忍 / 女 / 25 / 怪奇雑誌のルポライター
0800 / 宝生・ミナミ / 女 / 23 / ミュージシャン
0871 / 羽島・英 / 男 / 23 / インディーズバンド・ボーカリスト&呪歌士
0328 / 天薙・撫子 / 女 / 18 / 大学生(巫女)

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■         ライター通信          ■
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今日は、今回も私の依頼を引き受けくださり、ありがとうございます。
何となく歯切れの悪いラストとなってしまいましたが如何でしたでしょうか?
天薙さんの読みは鋭かったですね。呪詛を教え込んだのは案の定彼でした。
彼との対決にはなりませんでしたが、天薙さんの今後の活躍を期待しております。
それでは、またどこかでお会いしましょう。
お疲れ様でした。