コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【1】
●オープニング【0】
 その日、鏡綾女は『情報研究会』部室にて頭を抱えていた。
「うーん……どうしてこんなに噂が多いんだろ。ここ最近、急に増えてきた気がするよ〜」
 綾女の言うように、ここのところの冬美原では様々な噂を耳にするようになってきていた。中には解決した噂もあるが、意味不明なままで流れ続けている噂もある。
 綾女たち、情報研究会の部員も噂について調べてはいるようだが、手が回り切っていないのが現状であった。
「うーん……」
 綾女がちらりとこちらに視線を向けた。……何だか嫌な予感がする。
「……何だか暇そう、だよね?」
 くすっと笑みを浮かべる綾女。もうターゲット・ロックオンされてしまったようだ。
「よかったら、噂について調べてきてくれないかなあ? 調べる内容は、そっちに任せるから☆」
 綾女が笑顔で言い放った。部員たちの視線が集まってくる。どうやら断れそうにない雰囲気だ。
 まあ、内容を自由に選べるのが救いだけども……さて、何について調べてみようか?
 気になることは色々とあるのだから。

●かえるぴょこぴょこ【1A】
「大きなかえる……なんて居る訳ないよね……」
 志神みかねは鈴見川沿いの土手を歩きながらぽつりつぶやいた。直線の土手はとても見晴らしがよい。この所の晴天続きで鈴見川の水量はやや少なく、流れも穏やかなものであった。
「何かの見間違いだったんだろうね……きっと……バスケットボール位あったし……」
 みかねはきょろきょろと周囲を見回した。辺りには誰も居らず、また何も見当たらない。
 みかねがここに居るのには理由があった。先日ここ冬美原を訪れた際に、みかねはとある物を目撃していた。かえるだ。それもかなり大きなかえる。
 一瞬のことだったので見間違えかもしれないのだが、それでも事実を確かめるべくみかねは再び鈴見川へとやってきたのだった。
 やがて先日目撃した場所へと差しかかるみかね。けれどもそこには何も見当たらない。みかねはほっと胸を撫で下ろした。心の準備はしてきたつもりだが、それでも今いきなり会うとどうなるか分かったものではない。
「かえるは水の中に棲んでるから……今は居ないのかな」
 みかねは鈴見川の水面に視線を向けた。水量も少ないことだし、姿は見えないのはそうかもしれない。と、急にみかねがはっとした表情になった。何かを思い出してしまったらしい。
「あっ! でもこの川って、蛍と一緒に火の玉が飛んでる、っていう噂もあった……よね……」
 1人寒がるみかね。風もないのに、周囲の草がざわっと揺れた。
「うーん、どうしよう」
 思案顔のみかね。このままここで待っていても、かえるが必ずここに出てくるとも限らない。それよりは情報を集めて、出てきそうな場所を探した方がいいだろう。
 みかねはかえるを探すべく、付近への聞き込みを行うことにした。

●少女と麦わら帽子【3A】
 暑い最中に聞き込みを行っていたみかねだったが、なかなか有力な情報を得ることが出来なかった。
「暑い……」
 みかねが聞き込みを始めて2時間以上が経っていた。みかねはものの1時間でぐでっとなってしまっていた。
 そもそも夏場に歩き回るというのは、それだけでかなり体力を消耗してしまう作業だ。それに加えて、だ。
「うう……どうして聞き込み先で、ユタ州のミステリーサークルの話を延々と聞かされないといけないんだろう……」
 冬美原に関係のない訳の分からない話を聞かされることが、余計にみかねを疲労させる結果になっていた。まあ、キャトルミューティレーションの詳細な話を聞かずに済んだのが、不幸中の幸いといった所か。
 中には『かえるは知らないけど、近くで凄い速さで動く影を見たような気がする』という話もあった。これがかえると繋がるのかどうかは分からない。けれども、もし繋がるのだとすれば――。
(凄い速さで動く、大きなかえる……!?)
 みかねは激しく頭を振った。想像しただけでこれなのだから、実在していた日にはどんな反応を示すことか。
 聞き込みとは別に、かえるには結びつきそうもないが新たな発見があった。鈴見川沿いには、地蔵がいくつか見られたのだ。
 地蔵には色々と曰くがあって、水難事故で亡くなった者を慰めるための地蔵や、水子を慰めるための地蔵、また旅人を守るための地蔵等と様々であった。水子地蔵の前に、まだ真新しいかざぐるまが緩やかな風に吹かれて回っていたのが、みかねにとって何とも印象的な風景だった。
「はいはい、ごめんよ〜」
 自転車に乗った老人が、チリチリンとベルを鳴らしながらみかねのそばを通り過ぎた。その拍子に自転車の荷台に積んであった麦わら帽子が1つふわりと河原の方へ飛んでいってしまった。
「あっ……」
 みかねは慌ててその麦わら帽子を取りに向かった。そして麦わら帽子を拾って振り返った時、自転車に乗った老人の姿はどこにも見当たらなかった。土手は見晴らしがよいにも関わらずだ。
「あれ……?」
 みかねは麦わら帽子を握り締めながら、首を傾げた。だが、どこからともなく老人らしい声が聞こえてきた。
「そりゃあんたにあげるよ。暑いだろう?」

●ただいま参上【4B】
 夕方の鈴見川。みかねが麦わら帽子を被って調査を続けているうちに、もう日は暮れかかっていた。
「見付からないね……」
 みかねは夕陽で紅く染まった水面を見つめながらつぶやいた。麦わら帽子のおかげで少し楽になったが、疲労はピークに達していた。日暮れで切りがいいのでこの辺で帰るべきか、それとももう少し調べてみるべきか、ここが判断のしどころだった。
(そういえば、蛍と一緒に火の玉が飛んでるって噂もあったような……)
 みかねの脳裏に、物凄い速さで動く火の玉を従えた大きなかえるの姿が浮かんだ。見ようによっては間抜けだが、みかねにしてみればそれも怖い物に含まれていた。
「……日が落ちたら帰ろうかな」
 みかねはそう決めて、何気なく振り返った。すると――。
「ひっ……!」
 後ずさるみかね。何と目の前に、探し求めていた大きなかえるの姿があったのだ。心の準備が出来ていなかったのだから、みかねの驚きは大きく、周囲の草花がざわざわざわっと揺れた。
「拙者を探していたのはそなたでござるか?」
 かえるの口が動き、人間の言葉を喋った。
「しゃっ、喋ってるっ……!」
 みかねは信じられないといった様子で頭を振った。これで近付いてこられたら、間違いなく気絶していたことだろう。
「おお、これは失礼。驚かせてしまったようでござるな……はっ!」
 と、突然かえるが白い煙に包まれ、その煙が晴れた後には黒装束の男が立っていた。顔は下半分が隠れているのでよく分からないが、その男が何者かは分かる。一般的に、忍者と呼ばれている姿だ。
「……忍者……?」
 唖然とするみかね。当然のことながら、みかねは忍者を目の前で見たのは初めてのことだった。
「拙者、麗……いや、宗介と申す。忍びはこのようにあまり表に出ぬが、そなたが探していると知り、姿を見せた次第でござる」
「え? じゃあさっきのかえるは……?」
「はっはっは、拙者の術でござるよ! まさか噂になっておるとは迂闊でござった」
 宗介(そうすけ)は目を細めて言った。
「なら、凄い速さで動く影も……?」
「無論、拙者のことでござろうなあ。拙者、この辺りでよく修行をしておるゆえ」
「なぁんだぁ……」
 みかねの全身の力が一気に抜けた。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』とはまさにこのことである。
「いやはや、迷惑をかけたようでござるな。これも拙者がまだまだ未熟でござるからして、ますますもって修行に励まねばならぬでござるな。しからば、拙者はこれにてごめん!」
「あっ、待ってください! だったら、火の玉も?」
 去ろうとする宗介をみかねは呼び止めた。
「火の玉? それは知らぬでござるな。ではごめん!」
 宗介はそう言い残して、さっと姿を消した。みかねがきょとんとしていた。
「ち、違うんだ……あはは……」
 乾いた笑いのみかね。日が落ちる前にこの場を去ろうとしたその刹那――ぐらりと地面が揺れた。
「きゃあっ!」
 みかねは頭を抱えてうずくまった。揺れたのはほんの1、2秒だったが、それは強い揺れだった。幸い見える範囲では建物が崩れるということはなかった。
「怖かったぁ……」
 揺れが収まって少しして、みかねは大きく息を吐いた。

●アサギテレビニュース【5】
「今日夕方、午後6時47分頃に起きました地震についてのニュースです。冬美原では震度4を記録しましたが、周辺都市では揺れの観測はありませんでした。また今回の地震による被害ですが、コンビニ等の商品が床に落ちるといった被害はあったものの、人的被害および家屋の被害はなく、火災の報告もありませんでした。以上、アサギテレビニュース、唐沢敦がお伝えいたしました」

【噂を追って【1】 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 21? / 古木の精 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全20場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・お待たせしました、冬美原の噂を追いかけるお話をお届けします。範囲が広すぎてプレイングを書くのも大変だったと思いますが、いかがだったでしょうか? 冬美原ではこのような依頼をこれからも出してゆく予定です。
・さて、今回はほぼ皆さん個別の内容になっています。調査内容が分散するとこのようになる訳で、人によってはシリアスに、また別の人はコミカルにお話は進んでいます。
・調査結果ですが、プレイング内容によって浅く広くか深く狭くかに分かれていると思います。調べる際には1つのことに絞った方が、より深い結果を得られることになるかもしれませんね。
・地震については本文最後にあるような状況です。被害はほぼ0と言って差し支えないと思います。ただ、この影響で一部公共施設の閉館時間が繰り上がってたりするのですが。
・志神みかねさん、15度目のご参加ありがとうございます。気絶せずに済みましたね。正体はああでしたが、結果的に楽しかったのではないかと思いますよ。麦わら帽子はもらったものですので、交番に届ける必要はありませんからね。
・次のアイテムをお送りします。次回以降冬美原でプレイングをかけられる際、臨機応変にアイテムをご使用ください。
【09:麦わら帽子】
・効果時間:着用中永続
・外見説明:つばの大きな変哲のない麦わら帽子
・詳細説明:つばが大きいため日よけには十分。購入可能。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。