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<PCシナリオノベル(シングル)>


朝まで生合コン!?
 それは、突如舞い込んだ一通のメールから始まった‥‥。
「合コンですかー。何だかドキドキしますねー」
 出会いを求める男女の参加を募るそのメールは、あからさまに怪しい。そもそも、何故コンな離島にメールが届くのか、疑問ではあったが、ファルナ・新宮は特に気にせずに、会場となるキャンプ場へと向っていた。
 護衛のメイドゴーレムであるファルファの心配をよそに、合コンは始まってしまう。朗らかな雰囲気を漂わせ、こまやかな気遣いを見せるファルナの周囲にも、やはり何人かの男性が、集まって来ていた。
「お人形さんみたいだね。後ろの無口な女の人は、お姉さん?」
「と言うか、メイドさんなんですけど‥‥」
 その中の一人の質問に、側を離れぬファルファの事を、そう紹介するファルナ。ウソは言っていない。ファルファの名目は、『強襲護衛メイド・ファルファ』である。だが、勘違いした男性陣は、以前にも増して興味をそそられたようだ。
「大人社会の裏側なんて、皆さんが思っていらっしゃる程、きらびやかなものでもないんですよ」
 うらやましそうにそう言う彼らに、さらりと答えるファルナ。やはりウソは言っていない。富豪の上にバイリンガルと言う人生勝ったも同然な身の上だが、大人社会の裏側は、彼らが憧れるほど甘い生活でもない事を、ずっと見続けて来たから。
「いーなー。俺もこんなメイドさんにお世話されてみてェ」
「え、えと‥‥。でも、ファルファさんを扱うのは難しいですよ?」
 それもまた真実である。血肉を分けたゴーレムの精製は一般人に真似出来るものではない。
「大丈夫、大丈夫。そんなの俺の愛で解いてあ・げ・る♪」
 だが、男性の方は、その言葉を、ファルファがファルナにしか心を許さぬ、気難しい女性だと認識してしまったようだ。
 と、その時、彼女達に間に割って入った男性がいた。
「まったく、無粋な事を言う輩だね。お二人とも困っているじゃないか」
 物腰柔らかで、それなりに見れる容姿を誇っている『彼』は、そう言って他の男性人を遠ざけにかかる。
「ちぇー。良い子ぶりやがって。お前だって、ファルナちゃん狙いなんだろ?」
「そのとおりです。だから、こうして御機嫌をとっているんじゃないですか」
 歯に衣着せぬ言葉っぷりに、ファルナはくすりと面白いものを見付けましたと言った表情で、こう言ってみせる。
「あら、随分はっきりと仰るんですねー」
「富豪のお嬢様には、隠しだてするよりは、この方が好感が持てると思いましたのでね」
 どうやら、凡百の男達よりは、かけひきと言うものを知っているらしい。
「それで、どうですか? ここらで一つ、私どものゲームに参加してみては」
 興味を示したファルナに、彼はこう提案して見せる。
「ゲーム、ですか?」
「はい」
 にっこりと笑う。その笑顔に惹かれた彼女は、ゲームに参加する事にする。
「そうですか。じゃあ、挑戦して見ましょう」
 特に疑う事もなく、そう言う彼女。ところが、そのゲームとは、何と王様ゲームだった。
「私が王様のようですね」
 ファルファと共に、数人でくじを引いた結果、『王様』に決定したのは、その『彼』である。
「じゃあ、そうですねー‥‥。ファルナさんがお酒を一気のみしてください」
 その言葉と共に、グラスに、並々と酒が注がれる。ただし、かなりアルコール度数の強い酒だ。
「あの‥‥。私達まだ未成年ですし‥‥」
 さすがにまずいと思ったファルナは、こう反論する。
「固い事言わない。大丈夫だよ。言わなきゃバレないし」
 そう言われれば、周囲を見回すと、彼女と同年代の子も、しっかりグラスを空にしていた。
「はぁ‥‥。では、頂きます」
 シャンパンくらいは飲んだ経験のあるファルナである。そのままくいっと一気に喉に流し込む彼女。
「良い飲みっぷりですね。じゃあ次は、ファルファさんも」
 マスターの行動にならい、ファルファもグラスに注がれたそれを、身体の中に納めていた。
「へェ、結構お強いんですねー」
「ありがとうございます。えへ、お酒って結構美味しいですぅ」
 ところが。
「あれ?」
「おや、どうしました? ファルナさん」
 心配そうにそう聞いて来る『彼』。
「なんか、眩暈が‥‥」
 当たり前である。未成年でなおかつすきっ腹。そこにアルコール度数の高い酒を注ぎ込めば、悪酔いもしようと言うものである。
「うわーっ、ファルナちゃーん」
 きゅう‥‥とテーブルに突っ伏してしまった彼女に駆け寄る男性陣。でまぁ、よからぬ事を考える輩が、その彼女を運ぶ運ばないで揉め始める訳で。
「いやまて、ここはこの俺様が!」
「お前じゃだめだ。俺が運ぶ!」
 そう言いながら、その中の一人が、彼女に手を書けた瞬間だった。マスターの危機だと悟ったファルファが、男性陣との中に割って入って来る。
「や、やだなぁ。別に変な事しよーとしてる訳じゃないよ」
「そんな風に睨まないでくれよ。あ、あはははは」
 護衛機能が発動し、ロケットパンチを仕込んだ腕を前につきだす彼女。何かをされると悟った男性陣が、慌てて両手を離すが、時既に遅し。
「「うわぁぁぁっ」」
 直後、海に叩き落とされて、悲鳴と盛大な水音が上がっていた。
「あーあ。やっちゃったよ」
 やれやれと言った表情の、他の面々。ところが、ふりかえって見ると、先程まですぐ後ろに居た筈の、ファルナの姿がない。
「ファルナさんだったら、さっき相手にしてた奴が、今の二人をぶっ飛ばしている間に、連れてっちゃったけど?」
 慌ててその姿を探すファルファに、親切な他の参加者が、そう教えてくれる。
「頑張ってねー」
 そのまま無言でファルナのいなくなった方へと向う彼女に、後ろからそんな声が聞こえていた。

 さて、一方その頃ファルナは‥‥。
「う、うーん」
 窓から吹きぬけてくる海風に、目を覚ます。
「ああ、気が付かれたようですね。大丈夫ですか?」
「はい。でも何か、まだ頭がクラクラするんですけど‥‥」
 そう言うと、先ほどの『彼』が、にこにこと笑いながら、彼女を助け起こしてくれた。
「全く、他の方にも困ったものですね。無理やりお酒勧めて」
「1番勧めてたのは、あなただった様な気がするんですけど‥‥」
 ファルナの鋭いツッコミに、『彼』は「そうですか?」と、気にする風でもなく答えている。と、その時になって始めて、彼女は自分が、キャンプ場でもトラックでもない‥‥和風な場所に寝かされている事に気付く。
「あのー。所でここはどこでしょう?」
「弁天堂ですよ。キャンプ場から近い岬にあるんです」
 ファルナの問いに、そう答える『彼』。確かに目の前には、弁財天を祭った像が鎮座していた。
「どうしてこんな所に‥‥」
「あそこじゃ、のんびり休めもしないでしょう?」
 どんちゃん騒ぎの音は、ここまで聞こえて来ている。父親の言い付けで、パーティに参加していた時も、酔いを覚ましにベランダへ出ている他の客がいた事を思い出し、ファルナはこう言った。
「それもそうですね。そう言えば、ファルファさんは?」
「今ごろは、別の方と語りあっている頃だと思いますが‥‥」
 『彼』の言葉に、怪訝そうな表情を浮かべる彼女。
「ファルファさんに限ってそんな事は‥‥」
「わかりませんよ。彼女とて女性。惹かれる存在があれば、心を奪われる事もおありでしょうし」
 表情は、先程と変わらない。だが、その言葉に、ファルナは『何かがおかしい』と直感する。
「いいえ。そんな事はありません。彼女は忠実な私の‥‥」
 メイドゴーレムだ。幾ら成功に出来ているとは言え、人の子に恋をするなどあり得ない。いや、恋に落ちる可能性がないとは言いきれないが、その時には何らかの兆候がある筈だ。
「もうお喋りはこのくらいにしましょう」
 そう思った彼女に、『彼』は今までとは違い、低く落とした声で、そう言った。
「え?」
 雰囲気が変わった事に、首をかしげるファルナ。
「私達も、彼らに負けないよう、仲良くなりませんか?」
「ええまぁ、構いませんけれど」
 コネクションとコミュニケーションを広げる事は、悪い手段ではない。純粋に、ただ『お友達になる』と言う感覚で、そう答えた彼女。だが、『彼』の方はそうは受け取らなかった様だ。
「それは嬉しい事を。では、遠慮なく」
 とん‥‥と、軽く付き飛ばされる。
「な‥‥。何を‥‥?」
 勢い、床の上に転がる形となった彼女が、目を丸くする。
「仲良くなるって、そう言う事ですよ。ほら、外をごらんなさい」
「あら‥‥」
 その状態のまま、外に目を凝らすと、闇の中、濃密なラブシーンを演じているカップルの姿がある。その中には、先程まで合コンに参加していた面々もいた。
「この辺りは、恋人岬、弁天岬とも呼ばれていましてね。異性と仲良くなるには絶好の場所なんですよ‥‥」
「そんな場所があったんですか。この場所は不思議ですねぇ」
 それでもなお、よくわかっていない状態のファルナ。
「それにここは、合コン会場。そう言う方向性に発展しても、おかしくはないでしょう?」
「それはそうですけど‥‥」
 いや、わかっていない訳では無い。ただ、頭が冷静すぎて、どうしようもない事が判っているから、何も出来ないだけだ。
「わかっているなら、良いじゃありませんか」
「それとこれとは話が違います。私、まだ16ですし」
 そんな歳で、しかもこんな所で。初対面の彼と、行きずりの行為に及ぶなど、『彼』の脳裏には、倫理と言う単語はないのだろうか。
「私が最初にお付き合いした方も、16歳のお嬢さんでしたよ」
「そ、そう言う問題ではないと思いますが‥‥」
 続いた言葉に、ファルナはそんなものが存在していない事を悟る。
「ダメですか? 私、屋外は得意分野ですし、恥ずかしくないようにこの場所を選んだんですが」
「いやそのー‥‥」
 あくまでも紳士的に、物腰は柔らかく、そしてにこやかに。
「ああ‥‥。良い匂いですね‥‥。そう‥‥。例えるなら、陽光の下で育った、マーガレットの様だ‥‥」
 動けないファルナのうなじを、ぺろりとなめあげながら、そう囁く『彼』。笑顔の下に、鋭利なナイフを隠しながら。
(どうしようかしら‥‥)
 それは、彼女の屋敷へ‥‥父親のもとを訪れた、幾百の『客人』と同じものだ。
「あるいは‥‥。太陽を追いかける向日葵のような‥‥」
(きゃー。ちょっとドコ触ってンのよーーー!!)
 服の上から、身体のラインをふれられ、さすがのファルナの背筋にも、悪寒が走る。
「私のもその日の光、お裾分け頂けませんか?」
(ファルファさんっ!!)
  指先にキスをされ、その指先が、ドレスの襟にかかった刹那、彼女は自らの護衛を、心のそこから呼んだ。
 直後、ちゅぃんと音がして、『彼』のすぐ脇に、丸く黒い焼け焦げた跡が出来る。
「危ない危ない」
 ファルナから身を離しながら、そう笑う彼。
「遅いですよぉ。もう少しで食べられちゃう所だったじゃないですか」
 ぷーぷーと文句を言いながら、ファルナははねおきて、ファルファの影へと避難する。
「おやおや。妙に無口なお嬢さんだと思ったら、本当は機械人形だったんですね」
「ファルファさんは私の大切な護衛のメイドです。そんな風に仰らないでください」
 不敵とも言える表情に、彼女はそう反論していた。その言葉に同意するように、ファルファは腕を真っ直ぐ、『彼』へと向ける
「おやおや、そんなものを向けて。私をどうするおつもりですか?」
「あなたこそ、私達をどうなさるおつもりです?」
 この後に及んでも、彼はまだ余裕があった。
「ふふふ。実を言うと、そちらのファルファさんにも、少々興味がありましてねぇ」
「え?」
 かまわずつかつかと歩み寄り、そして‥‥ファルファを抱き寄せる。
「上質の傀儡は。自らの血肉を与える事で、より人に近くなると聞きおよびます。どうですか? 一つ、試されてみては」
「お断りします!」
 彼女の即答するファルナ。
「そうですか。では、いたしかたありませんね」
「何を‥‥」
 ふふっと笑いながら、『彼』は、その続きを紡ぎ出す。
「あなたに、他の連中の手垢がつくのが、たまらなく嫌なのですよ。陽光のマーガレットと、それを守る人形を摘み取るのは、私でなければならないのでね」
 だから、二人とも手に入れたいと。
「わかりました」
 あっさりと答えたファルナ。そして、覚悟を決めたかのように目を閉じる。
「おや、物分りの良い」
 『彼』の方は、満足げにそう言って彼女を招き寄せようとする。
 と、その時だった。
「最初は紳士的な方だと思いましたが。そーゆー思考回路の持ち主なら、遠慮は入りませんわ! ファルファさん、戦闘モード! やっちゃって下さい!」
 刹那、彼の腕に抱えられていたファルファが、『彼』をその怪力で付きとばし、ロケットパンチを発射する。彼の倫理の欠片もない一言で、ファルナの頭からは、初対面で抱いた好感など、あとかたもなく吹き飛んでいた。その為、攻撃には全く容赦がない。
「い、今までのシリアスぶりは何だったんだーーーー!!!」
 天高く放りなげられたその『彼』が、ファルナに言い寄っていた他の男性と同じ運命を辿ったのは、その直後の事だった。
「全くもう。これだから殿方と言うのは、油断がなりませんね」
 ぱんぱんっと、ワンピースについた誇りを払いながら、ぷんすかした表情でそう言うファルナ。だが、その足は、再びキャンプ場へと向いている。ファルファが、慌てたように彼女を止めた。
「え? またもどるのか? ですって? 当然です。だって、まだ合コンの半分も楽しんでいませんからねぇ」
 くすすっと悪戯っぽく笑いながら、その制止を振りきり、合コン会場へと戻るファルナ。
「あれ? ファルナちゃんにファルファさん? 確か、あいつと一緒じゃあ‥‥」
「知りませんわ。あんな方」
 目を丸くする他の面々に、ぴしゃりとそう言うファルナ。
「あいつに狙われて、無事で帰って来るなんて‥‥」
「つか、あいつを蹴散らして来たのか‥‥? すごいコだ‥‥」
 ざわざわと驚く合コンの参加者。どうやらさっきの『彼』は、女性に対しては、かなりの猛者だった様である。
「何かおっしゃいまして?」
「い、いや‥‥。なんでもないよ。じゃあ、二人の生還を祝って、乾杯だ!」
 ファルナの言葉に、ぶんぶんぶんと激しく首を横に振って、そうとり繕っている。他の面々が、口裏を合わせるかの様に「おー!」と答えている中、彼女はふと感じた疑問をぶつけてみた。
「でも何故、生きて帰ってこれないんですの?」
「いや、そのー‥‥死んでる訳じゃないんだが‥‥。ま、まぁ。そ、そんな事どうでもいーじゃねぇか。なぁ?」
 どうやら、聞かれたくない事だったらしい。答えた一人の言葉に、周囲の面々も、こくこくと頷いていた。
「そうですわね。私もファルファさんも、こうして無事だったのですし」
 何も無かったのだから、結果オーライと言うやつである。
「大丈夫ですわ。今の皆様は、私に一目おいている様ですし」
 それに、悪名高かったらしい『彼』に狙われて、無事だったと言う事が、なにやら彼女をすっかり『姐御』扱いである。その事に気付いた彼女は、そう言って朝まで宴会を楽しむ事に決めたのだった。

 翌朝。
「あ、あら。皆さん、どこへいかれたのでしょうか‥‥?」
 目を覚ますと、昨日までは確かにあった筈の合コンスペースもカラオケセットも盛り上げグッズも、他の面々も跡形も消えていた。
「これは‥‥」
 代わりに、そこにあったのは、稲荷を祭った社が一つ。怪訝に思ったその時、ファルナの携帯が、メールの着信を告げた。
(こんな時に、言ったいどなたかしら‥‥)
 そう思い、彼女は恐る恐るそのメールの内容を確認する。と、そこには、こう書かれていた。
『昨夜は楽しかったヨ! また合コンしよーぜ! by 狐堂若衆連』
 どうやら昨日の面々は、この稲荷に祭られた若い狐達だった様である。神の使いとは言え、やはり若い女性との出会いを求めるものなのだろう。
「まぁ、たまにはこう言うのも良いですわね。ファルファさん」
 まぁ、中には悪い狐もいる様だが、それでも楽しかったのは事実だ。だが、ファルファファは、『2度とせまられるのは御免だ』と言った様子で、首を横に振る。
「ふふ。その時はまた撃退してあげればいいんですわよ♪」
 その態度に、そう答えるファルナ。
 すっかり味をしめた彼女が、あちこちの合コンに顔を出すようになったのは、言うまでもない‥‥。