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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【1】
●オープニング【0】
 その日、鏡綾女は『情報研究会』部室にて頭を抱えていた。
「うーん……どうしてこんなに噂が多いんだろ。ここ最近、急に増えてきた気がするよ〜」
 綾女の言うように、ここのところの冬美原では様々な噂を耳にするようになってきていた。中には解決した噂もあるが、意味不明なままで流れ続けている噂もある。
 綾女たち、情報研究会の部員も噂について調べてはいるようだが、手が回り切っていないのが現状であった。
「うーん……」
 綾女がちらりとこちらに視線を向けた。……何だか嫌な予感がする。
「……何だか暇そう、だよね?」
 くすっと笑みを浮かべる綾女。もうターゲット・ロックオンされてしまったようだ。
「よかったら、噂について調べてきてくれないかなあ? 調べる内容は、そっちに任せるから☆」
 綾女が笑顔で言い放った。部員たちの視線が集まってくる。どうやら断れそうにない雰囲気だ。
 まあ、内容を自由に選べるのが救いだけども……さて、何について調べてみようか?
 気になることは色々とあるのだから。

●水しぶきと乙女たち【1B】
「よーし、クロール5本! それが終わったら休憩だ!」
 エミリア学院の屋外プールに、コーチらしき男性の声が響き渡った。同時にプールには激しい水しぶきが起こる。非常勤講師として入っていた宮小路皇騎は、その様子を金網越しに見ていた。夏休み最初の月曜、午後の風景だった。
(さて……)
 皇騎はプールで泳ぐ少女たちの姿を真剣な眼差しで見つめていた。各コースで競泳用水着に身を包んだ少女たちが一生懸命泳いでいる。そのスピードには当然ながら個人差があるが、全体的に速い方ではないかと思える。が、その中で一際速い少女の姿があった。他の少女たちより、身体1つ分抜きん出ているだろうか。
「微妙だな」
 ぼそっとつぶやく皇騎。泳ぎの速い少女が居たことは事実のようだが、この段階ではまだ噂になっている少女と同一かは分からない。見た感じでは異常とも見えないが、これは以前の記録を知れば自ずと分かることだ。
 噂は少し前から耳にしていた。『水泳部の方で、最近記録が急激に伸びてきた人が居る』と。何かのきっかけで記録が伸びるようになるのは別に珍しいことではない。けれども皇騎は何か引っかかる物を感じていた。『急激に伸びた』ことが気になったのかもしれない。
 そこで皇騎は授業の合間や昼休み等に、それとなく噂について生徒たちに尋ねていた。帰ってくる答えはほぼ同じ、『6月の終わり頃に、水泳部の娘がそう言っていたのを聞いた』というものだった。この段階での収穫は、記録が伸びた少女が高等部の生徒であることが分かったことくらいか。
 皇騎はしばらく金網越しに練習風景を見ていたが、そのうちにプールの入口へと向かった。

●見学中【2D】
 休憩中のプールサイド。そこには皇騎の姿もあった。ちなみに衣服は着たままである。
「先生、水泳に興味あるんですねー?」
「今度一緒に泳ぎに行きましょうよ〜」
「あたし、先生の泳ぐとこ見てみたいなぁ」
 肩からバスタオルを羽織った少女たちが口々に皇騎に言った。それをコーチが咳払いで諌める。途端に少女たちが口をつぐむので、皇騎は思わず苦笑してしまった。普段の練習風景もだいたい予想がつくというものだ。
 皇騎は正攻法でこの場に入り込んでいた。すなわち『興味があるので練習を見学させてほしい』と丁重に申し出たのだ。秘密の特訓をしているのなら別だが、そう申し出をされて断る者もまず居ない。コーチは快く受け入れ、皇騎は間近で練習を見ることが出来るようになった。休憩中に上手く入り込めたのも、幸運であった。
「そういえば、水泳部に速い娘が居ると……」
 少女たちをきょろきょろと見回しながら、さりげなく本題に触れる皇騎。すると少女たちの間から、納得にも似た笑い声が起こった。
「先生、それならこの娘ですよー」
「そ、2年の葵和恵ちゃん」
 1人の少女を指差す他の少女たち。指差された葵和恵(あおい・かずえ)は照れたように顔を伏せた。朴訥とした雰囲気のある少女だったが、肩幅は広く立派で、長く水泳をしているのだということが感じられた。
「和恵ちゃん凄いんですよ〜。1ヶ月前から、ぐんぐん記録が伸びてきたんです。ねー?」
「う、うん……」
 他の少女に話を振られ、和恵は恥ずかしそうに頷いた。左手の甲を掻きながら。
「そんなに凄いんですか?」
 皇騎はコーチに尋ねた。
「そりゃもう。この1ヶ月で10秒以上タイムが縮んだんですから」
 自慢げに言うコーチ。まるで速くなったのは自分の手柄だと言いたげな。
(10秒以上?)
 表情には出さなかったが、皇騎はその記録の伸び方に違和感を感じた。半年や1年といった長いスパンでそれならば不思議でもないのだろうが、1ヶ月でそれは少し妙ではないだろうか。
「このペースなら来月の大会までには、もう1、2秒は確実に縮むでしょう、きっと」
 コーチが自信たっぷりに言った。ちらりと和恵を見る皇騎。和恵はさっと視線を逸らした。
「すみませんが、もしよろしければ記録を見せてもらえませんか? どのように記録が伸びていったのか、私も目で追ってみたいものですから」
 皇騎は微笑みを浮かべコーチに申し出た。上機嫌になっていたコーチが、それを断るはずがなかった。

●分析中【4C】
 水泳部の練習を見学した後、皇騎はすぐにコンピュータルーム準備室へと籠っていた。入手した情報を元にして、噂の検証を行うためにだ。
 籠ってから一心不乱にキーボードを叩いていた皇騎だったが、夕方になってようやく一息つくことにした。
「1ヶ月、か」
 準備室の冷蔵庫から珈琲缶を取り出して、ぽつりつぶやく皇騎。1ヶ月というのは、和恵の記録が伸び始めてからの期間だ。
(一気にタイムが3秒縮んで、それからも縮み続けている。種目に関わらずか……)
 コーチから見せてもらった和恵の記録は、1ヶ月前までは水泳部全体で見て下の方だった。それが今ではトップクラス、『急激に伸びた』という言葉は嘘ではない。
 1ヶ月前といえば、ここエミリア学院では第3音楽室でのあの騒動があった時期だ。もっとも直接の関係はないように思われる。転落した少女も、去年亡くなった少女も和恵とは学年が違い、ましてや水泳部でもなかったからだ。
 皇騎はプールについても見学中に調査を行っていた。プールサイドを歩きながら歩幅でプールの距離を計っていたり、プールに手を入れて水の感触を確かめてみたりと。その結果分かったのは、プールには異常はなさそうだということであった。
 ならばと思い、皇騎は範囲を冬美原の出来事にも広げて調べてみた。それで分かったのは、同時期くらいから天川高校の陸上部でも記録が伸びている者が居ることと、近頃凶悪な犯罪が目につくようになってきたことくらいか。もっとも他の街に比べれば、ぐっと少ないのだが。
「……噂を体系的に分析する必要があるな……」
 よく冷えた珈琲をごくりと飲む皇騎。先程までずっと一心不乱にキーボードを叩いていたのは、調査の他にデータベースを作るための下準備をも並行して行っていたからだ。
 データベースの中身は冬美原で流れる噂だ。今のうちに独自に構築しておけば、後々に役に立ちそうな気がしたからだった。といっても一朝一夕に出来るはずもなく、皇騎の能力をもってしても完成にはもうしらばくかかりそうであった。
 とその時、準備室の窓をコンコンと叩く音が聞こえた。ちらりと窓を見る皇騎。そこにはくすっと微笑んだ二谷音子の姿があった。
 皇騎は缶を置いて立ち上がったが、音子の姿はすぐに消えていた。再び座ろうとする皇騎。けれども、皇騎はあることに気が付いた。
(ん? ここは確か……!)
 窓へと駆け寄る皇騎。コンピュータルームと準備室は校舎の5階にあるのだ。普通の人間が、窓の外に居られるはずがなかった。
 皇騎が窓のそばへやってくると、窓越しには音子の帰ってゆく後姿が見えていた。
「何者なんだ……」
 訝る皇騎。その刹那――ぐらりと地面が揺れた。
「むっ!」
 咄嗟に窓を開けて離れる皇騎。揺れたのはほんの1、2秒だったが、それは強い揺れだった。幸い棚やモニタが床に倒れるということはなかった。
「ともあれ……念のために、データや機材の点検をすべきだな」
 この後皇騎は、遅くまでデータや機材の点検に追われることになったのだった。

●アサギテレビニュース【5】
「今日夕方、午後6時47分頃に起きました地震についてのニュースです。冬美原では震度4を記録しましたが、周辺都市では揺れの観測はありませんでした。また今回の地震による被害ですが、コンビニ等の商品が床に落ちるといった被害はあったものの、人的被害および家屋の被害はなく、火災の報告もありませんでした。以上、アサギテレビニュース、唐沢敦がお伝えいたしました」

【噂を追って【1】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0035 / 倉実・鈴波(くらざね・りりな)
                 / 男 / 18 / 大学浪人生 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0516 / 卯月・智哉(うづき・ともや)
                 / 男 / 21? / 古木の精 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 0670 / 倉実・一樹(くらざね・かずき)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全20場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・お待たせしました、冬美原の噂を追いかけるお話をお届けします。範囲が広すぎてプレイングを書くのも大変だったと思いますが、いかがだったでしょうか? 冬美原ではこのような依頼をこれからも出してゆく予定です。
・さて、今回はほぼ皆さん個別の内容になっています。調査内容が分散するとこのようになる訳で、人によってはシリアスに、また別の人はコミカルにお話は進んでいます。
・調査結果ですが、プレイング内容によって浅く広くか深く狭くかに分かれていると思います。調べる際には1つのことに絞った方が、より深い結果を得られることになるかもしれませんね。
・地震については本文最後にあるような状況です。被害はほぼ0と言って差し支えないと思います。ただ、この影響で一部公共施設の閉館時間が繰り上がってたりするのですが。
・宮小路皇騎さん、8度目のご参加ありがとうございます。データベースのことですが、今後の流れ次第で構築完了にするかと思います。その際にはアイテムをお送りすることでしょう。で、記録の件ですが、まだ見えてはいませんが何らかの要因が存在している模様です。いい所を突いていると思いますよ。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。